「年々、自社への応募者が少なくなってきている」「優秀な人材を獲得しづらい状況が続いている」など、採用活動に関する課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。採用活動に関する課題を解決するには、採用戦略の立案や見直しが効果的です。
この記事では、採用戦略の意味や企業が採用戦略を立てるメリットなどを解説します。また、採用戦略を立てる際に有用なフレームワークや専門サービスの内容も併せて解説するので、ぜひ自社で採用戦略を立てる際に役立ててください。
採用戦略とは
採用戦略とは、自社の条件に合う優秀な人材を獲得するために立てる戦略のことです。たとえば人事部と各部署で連携して自社が求める人物像を設定する、具体的な採用人数や採用時期を決定する、適切な採用手法を決定するなどです。
企業が事業を安定して成長させ続けるためには、質の高い人材を確保する必要があります。しかし、近年は多くの業界が人手不足に陥っているのが現状です。厚生労働省の「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」によると、調査産業の全体で34%が人手不足に陥っていることがわかっています。
産業 |
人手不足に陥っている企業の割合 |
調査産業計 |
34% |
建設業 |
50% |
製造業 |
35% |
情報通信業 |
35% |
運輸業・郵便業 |
42% |
卸売業・小売業 |
18% |
金融業・保険業 |
10% |
不動産業・物品賃貸業 |
33% |
学術研究・専門・技術サービス業 |
34% |
宿泊業・飲食サービス業 |
16% |
生活関連サービス業・娯楽業 |
33% |
医療・福祉 |
45% |
サービス業(ほかに分類されないもの) |
31% |
上位は、「建設業」「医療・福祉」「運輸業・郵便業」です。なかでも「建設業」は、すでに50%の企業が人手不足に陥っており、特に深刻な状況といえます。
※出典元:「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2108/dl/8roudoukeizaidouko.pdf)
多くの業界で人手不足が深刻化している背景には、少子化や人材獲得競争の激化などにより、従来の方法では人材の獲得が難しくなっていることが関係しています。このような状況下で人材を獲得するには、自社の採用の方向性や軸をもとに、時代に合う採用戦略を立てる必要があると言えるでしょう。
採用戦略を立てるメリット
企業が採用戦略を立てると、採用ミスマッチを防止できる、採用コストを削減できるなどのメリットがあります。「採用ミスマッチによる早期離職者が多い」「採用コストが増大している」などの課題を抱えている企業は、採用戦略を立てることで解消できる可能性があります。
求人に対する応募数の増加が期待できる
採用戦略を立てることで、市場の動向に合わせた適切な採用手法を選択できるようになります。効率的かつ効果的な採用手法の実施により、求人に対する応募数の増加が期待できるでしょう。
応募者は、もともと社名を知っている有名企業や大手企業に集まりやすい傾向があります。このような状況のなかで応募者を集めるには、採用方法の工夫が必要です。
市場や求職者のニーズを分析すると、自社の魅力をどのようにアピールすべきか把握できるようになります。自社の魅力が効果的に伝われば応募者が集まりやすくなり、質の高い母集団の形成につながるでしょう。
採用ミスマッチを防止できる
採用戦略を立てる際に自社の条件に合う人材を明確化すると、採用ミスマッチを防止できます。求める人物像が明確になれば、求人広告に記載する応募条件やスカウト対象の精度が高まり、質の高い母集団の形成につながります。
内定を出しても、すべての内定者が入社するとは限りません。とくに新卒採用の場合、内定後も就職活動を継続する学生も多く、内定辞退のリスクはゼロではありません。また、入社後にミスマッチが生じれば早期離職につながる恐れもあるため、企業としては何らかの対策が必要です。
あさがくナビが2024年卒学生に対して行った就職意識調アンケートでは、採用ミスマッチに不安がある求職者が約8割程度いたことがわかっています。
また、ミスマッチを防止するために重視したい項目は、「仕事内容・配属先」「会社の雰囲気・カルチャー」が多いこともわかっています。
ミスマッチを防ぐために重視したい項目(複数回答可) |
割合 |
仕事内容・配属先 |
73.1% |
会社の雰囲気・カルチャー |
61.1% |
働き方(休日休暇・労働時間) |
60.9% |
勤務地・転勤の有無 |
40.9% |
福利厚生 |
40.0% |
キャリア形成に関する制度(異動・昇進など) |
26.9% |
そのほか |
1.4% |
以上の結果を見ても、採用ミスマッチを防止するには、求職者のニーズを踏まえた採用戦略を立てることが大切だと言えるでしょう。
採用コストを削減できる
採用戦略を立てれば自社に適した採用手法を選択できるため、費用対効果が高まり、無駄なコストをかけずに済みます。
採用戦略を立てずに採用活動を進めた場合、費用対効果が低い手法を選択していたとしても、それに気付けない可能性があります。結果的に、効率的に人材を獲得できず、コストを大幅にかけてしまうケースも考えられるでしょう。
たとえば「Aの方法が合わない場合、BやCの方法を試そう」と色々なパターンを検証して、自社に合う採用手法を見つけるのも一つの手です。ただし、計画性なくさまざまな採用手法を試す場合、採用コストが予算以上にかかってしまうことは否めません。
ポイントは、あらかじめ自社に最適な採用手法を見極めて、導入することです。そうすることで、効率よくコストをおさえながら採用活動を進められるでしょう。
組織力の強化につながる
企業全体で採用戦略を共有すると、組織力の強化につながります。従業員にも、求める人材像や採用によって解決したい課題は何かを周知することで、育成に関わる従業員の意識を高められます。
求める人物像や解決したい課題は、実際に働く従業員にも大きく影響するため、現場のニーズも反映させるようにしましょう。採用戦略によって自社が求める人材を獲得し適切な部署に配置できれば、生産性の向上にもつながるでしょう。
採用戦略を立てる手順
採用戦略を立てる基本的な手順は、次のとおりです。
- 採用戦略を立てるためのチームを編成する
- 採用に関する現状把握・課題の洗い出し
- 自社が求める人物像の設定
- 採用計画を立てる
- 採用手法を決定する
それでは、各手順を詳しく解説します。
1.採用戦略を立てるためのチームを編成する
まずは、採用戦略を立てるためのチームを編成します。採用戦略は企業全体に関わるため、チームメンバーには採用担当者だけでなく、経営陣や現場の状況を把握している各部署の責任者も含めるようにしましょう。
部署を横断したチームを組むことで、より自社が求める人物像をイメージしやすくなります。
2.採用に関する現状把握・課題の洗い出し
採用戦略を立てる際は、まず採用に関する現状把握と課題の洗い出しが大切です。3C分析や4C分析などのフレームワークを用いると、現状の調査や分析がしやすくなります。なお、代表的なフレームワークは、「採用戦略を立てる際に役立つフレームワーク」で詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。
人材の採用は企業の将来的な成長に影響するため、採用戦略を立てる際には自社の経営計画も考慮する必要があります。また、少子化によって今後も人材獲得競争が続くと考えられるため、他社との違いも分析し、採用戦略に活かすようにしましょう。
3.自社が求める人物像の設定
採用戦略を立てる上で重要な要素となるのは、自社が求める人物像の設定です。人物像は経歴やスキル、価値観などをもとに設定しましょう。たとえば業界経験が〇年以上、将来のキャリアプランが明確な30代などです。
ターゲットが明確になれば、選考段階での評価が主観的になるのを避けられ、採用ミスマッチの防止につながるでしょう。
人物像を設定する重要性や設定方法は、こちらの記事で紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
4.採用計画を立てる
現状分析の結果に基づき、採用計画を立てていきます。自社の事業計画や経営方針に沿って、次のような項目を設定しましょう。
- 選考フロー
- 会社説明会の日程・内容
- 面接担当者
- 内定者のフォロー体制 など
選考プロセスごとに募集人数や採用予定人数などを設定し、いつまでに何をすべきかを具体化します。効果的な採用活動を実現するには、採用プロセスや必要な要素を具体化することが大切です。
5.採用手法を決定する
適切な採用手法はターゲットによって異なるため、効率的に採用活動を進めるためにはその手法選びが重要となります。市場や他社の動向を把握しつつ、自社が求める人材に適した採用手法を選びましょう。
おもな採用手法は、次のとおりです。
- 求人広告
- 転職サイト
- ダイレクトリクルーティング
- リファラル採用
- ソーシャルリクルーティング など
それぞれメリットとデメリットがあるため、複数の採用手法を組み合わせて活用することも検討してみましょう。採用手法の決定後は、事前に計画した採用スケジュールに沿って採用活動をします。
採用戦略を立てる際に役立つフレームワーク
採用戦略を立てる際には、フレームワークの活用が有用です。フレームワークを活用する方法は採用マーケティングとも呼ばれており、効率的に採用戦略を立てられるなどのメリットがあります。
3C分析
3C分析はマーケティングで用いられる手法で、「Customer(市場・顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」といった3項目で分析するフレームワークです。採用戦略を立てる際には、「顧客」を「求職者」や「採用市場」に置き換えて用います。
3C分析は、自社の強みを明らかにしやすい特徴があります。求職者のニーズや市場の動向などを調査した上で「3C」を分析すると、自社のアピールポイントを把握でき、適切な採用手法を選択しやすくなるでしょう。
4C分析
4C分析は3C分析と同様に、もともとはマーケティングで用いられていたフレームワークです。「4C」は、「Customer Value(顧客価値)」「Cost(価格)」「Convenience(利便性)」「Communication(意思疎通)」の頭文字をとって名づけられたものです。
採用戦略を立てる際には、4Cを次の項目に読み替えて活用します。
- 顧客価値=ターゲットが自社で働くことで得られる体験や経験の価値
- 価格=ターゲットが入社後に被るかもしれないリスク
- 利便性=自社への応募のしやすさ
- 意思疎通=応募前後のターゲットとのコミュニケーション
たとえば「ターゲットが入社後に被るかもしれないリスク」の場合、長時間労働や転勤の有無など、求職者の不安要素となっていると考えられる項目をピックアップします。会社説明会や選考プロセスなどで不安が解消できれば、応募につながる可能性が高まるでしょう。
SWOT分析
SWOT分析もマーケティングで用いられているフレームワークです。「SWOT」は、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」の頭文字をとって名づけられたものです。
4つの視点で自社を深く分析することで、具体的な強みや採用課題を把握しやすくなります。たとえば「弱み」と「機会」を分析し、自社の弱みを克服し、機会を得るための戦略を立てることが可能になります。
採用戦略を実行する際のポイント
採用戦略を立てたからと言って、すべてがうまくいくとは限りません。求める効果を得るために、採用戦略を実行する際のポイントをおさえておきましょう。
社内全体で共有する
採用戦略は一部の部署や従業員だけでなく、社内全体で共有するようにしましょう。前述した通り、人事部をはじめとする特定の部署だけで採用戦略を立てても採用活動が成功するとは限りません。
また、求める人物像は職種や部署によって異なります。他部署とも連携し、入社後の受け入れ態勢を整備してもらっておくことも大切です。万全な体制で人材を受け入れれば、入職者にとって働きやすい環境になり、早期離職の防止にもつながるでしょう。
面接官の育成やスキル向上を図る
採用戦略を成功させるためには、応募者を公正かつ公平に評価できるよう、面接官の育成やスキル向上も必要です。
面接官には応募者の本音を引き出し、自社が求める条件の人材かを見極める役割があります。しかし、採用戦略を立てても面接官の主観が入ってしまうと、条件とは異なる人材を採用してしまいかねません。たとえば定期的に研修を実施し、応募者を総合的に評価できるような質問スキルを身に付けるなど対策を立てておくことが大切です。
PDCAサイクルを確実に実行する
採用戦略を実行する際にはPDCAサイクルを確実に回し、状況に応じて改善していくようにしましょう。採用戦略を立てても想定どおりに進まず、思うような効果が見られないこともあります。
たとえば応募者数が目標を下回った、内定辞退者が想像以上に多かったなどです。課題の発生時は、戦略を見直すきっかけになります。次に同じ課題が発生したときは適切な対応をとれるよう、PDCAサイクルを回し続けることを意識しつつ、計画どおりに進んでいるかを定期的に確認するようにしましょう。
内定後のフォロー体制を整備する
どの企業でも内定辞退者が出る可能性はゼロではありません。内定辞退を防止するには、内定後も求職者をフォローする体制を整備しておく必要があります。
あさがくナビが実施したアンケートでは、内定または内々定を獲得したあとも、就職活動を継続している求職者が40%近くいたことがわかっています。
内定を獲得したあとも就職活動を継続する理由では、「就活活動で後悔したくないから」が53.3%でした。
内定(内々定)獲得後も就職活動を継続した理由(複数回答可) |
割合 |
就職活動で後悔したくないから |
53.3% |
志望している企業の選考予定が入っていたから |
51.1% |
内定(内々定)を得た企業に決めていいかわからなかったから |
37.2% |
内定(内々定)先に納得していなかったから |
26.3% |
採用再開や採用を増やす企業があり、チャレンジしたかったから |
11.7% |
コロナ禍の業績不振などで、内定取り消しが不安だったから |
5.8% |
Webのみの選考で決めていいかわからなかったから |
3.6% |
なかには、「内定(内々定)を得た企業に決めていいかわからなかったから」や「内定(内々定)先に納得していなかったから」と回答した学生も少なくありませんでした。
採用戦略を立てる際には、内定辞退を防止するために、内定者研修や懇談会などのフォロー施策を検討しましょう。実際に内定辞退が出てしまった際にも、あらかじめキャッチアップの計画を準備しておくと安心です。
入社後のフォロー体制も整備しておく
内定者へのフォローだけでなく、入社後のフォロー体制を整備しておくことも重要です。内定辞退を回避できても、採用ミスマッチが起きれば早期離職につながる恐れがあります。
入社後も安心して働ける環境が整備されていれば早期離職を低減し、定着率の向上につながるでしょう。
たとえばフォローアップ面談を実施する、福利厚生を充実させるなどの方法があります。フォローアップ面談とは、入社後に定期的に実施する面談やカウンセリングのことです。新人が仕事上で悩みを抱えていないか把握し、必要に応じてサポートすることが目的です。
採用戦略の立案をサポートする専門サービス
人材獲得までのハードルが上がっている現在、自社だけで効率的な採用戦略を立てられる企業は少数でしょう。自社に適した戦略を客観的に知るためには、採用戦略コンサルティングサービスを活用するのも選択肢の一つです。
採用戦略コンサルティングとは
採用戦略コンサルティングとは、自社が抱える採用に関する課題を発見し、解決策を提案してくれるサービスです。おもなサービス内容は、次のとおりです。
- 採用に関する情報提供
- 採用に関する課題の発見
- 課題の解決策を提案
- 人材育成計画の立案 など
採用戦略コンサルティングを利用すると、客観的な視点で自社の採用を評価してくれるため、自社では気づかなかった課題を発見できます。採用に関する課題が把握できれば、どのように採用戦略を立てるべきかが見えやすくなるでしょう。
優秀な人材の獲得には採用戦略が重要
近年は少子高齢化による生産年齢人口の減少と人材獲得競争の激化により、従来よりも人材が獲得しづらい状況です。このような状況のなかで優秀な人材を獲得するには、採用戦略が重要になります。
採用戦略に基づいて採用活動を進めれば、応募数の増加や採用ミスマッチの防止など、さまざまなメリットが期待できます。
自社で戦略を立てる際は、人事部だけでなく経営陣や各部署の責任者など部署を横断したチームを編成することが大切です。自社が必要としている人材を明確にするためにも、全社的に取り組んでいきましょう。また、採用コンサルティングなど外部のサポートを受ける方法もあります。
自社に適した採用戦略を立てて、採用活動を成功させましょう。
採用戦略を見直す際は「学情」にご相談を
自社の採用戦略を見直す際は、株式会社学情にご相談ください。弊社では新卒採用事業と中途採用事業として、企業と求職者をつなげるサポートを行っています。なかでも、20代の求職者と若手人材を求める企業をマッチングさせる「20代通年採用」を展開しています。40年以上におよぶ経験と実績に基づく「採用ビッグデータ」を駆使して、貴社の課題解決ならびに効率的な採用活動の実現に貢献いたします。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。