「ガクチカ」最前線!

文理の壁を越え、「はやぶさ2」をテーマに
JAXAとの共同研究を実現。

Hayabusa2 Radio Wave Reflection Project 同志社大学 文学部国文学科 3年 中山尚さん
Hayabusa2 Radio Wave Reflection Project
2019年に小惑星「リュウグウ」の地表と地下の両方から、サンプルの採取に成功した小惑星探査機「はやぶさ2」。コロナ禍にあえぐ人類にエールを贈るかのような快挙に、興奮と感動を覚えた方も多かったのではないでしょうか。サンプルを搭載したカプセルは2020年12月にはやぶさ2本体から地球に再突入を行い、オーストラリア南部の砂漠に着地、無事に回収されましたが、このカプセル再突入をまた違った角度から期待と興奮を持って見つめていたのが、今日ご紹介する中山尚さん(同志社大学文学部国文学科3年)です。
中山さんはじめ4名の大学生によるプロジェクトチームは、はやぶさ2を運用しているJAXA(宇宙航空研究開発機構)が実施した「HAYABUSA2 サンプルリターンカプセル観測研究テーマ 提案募集」に参加し、見事に採用された結果、JAXAとの共同研究という得難い経験を積むことができました。今回は研究テーマの詳細やコロナ禍による様々な苦労話、そして文学部で学ぶ中山さんがなぜ宇宙研究に取り組んでいるか等について、お話をお聞きしてきました。
※記事の内容は取材当時のものです。

「流星バースト通信」の研究で、JAXAの提案募集に挑戦。

――まずは「HAYABUSA2 サンプルリターンカプセル観測研究テーマ 提案募集」の詳細についてお聞かせください。
はやぶさ2のサンプルリターンカプセルの帰還は、材料・形状・質量・速度が既知で、発生時刻・座標も予想できる「人工流星」を観測できる貴重な機会であり、将来の大気突入システムの開発や宇宙デブリ低減にむけた研究に大いに貢献すると期待されています。そこでJAXAではこの機会を利用し、宇宙科学や大気突入工学の発展促進につなげようとする研究テーマを募集し、優れた提案を行った観測チームに対して、はやぶさ2カプセル回収班の一員として参加し、研究実証できる場を提供することとし、「HAYABUSA2 サンプルリターンカプセル観測研究テーマ 提案募集」を2019年12月より開始しました。
――では中山さんはじめ、4名の大学生がこのテーマに挑むことになったのは、どのようなきっかけからでしょうか?
もともとはこのプロジェクトの代表である川地皐平さん(中部大学工学部3年)がこの公募を見つけて、「何か面白いことはできないか」と考え始めたことがきっかけです。私と川地、そしてメンバーの一員である田中康暉さん(東京大学理科I類3年)は中学時代の同級生で、ロボットコンテストに挑むほどの親友でした。また他にもその時に3人で熱中したのがアマチュア無線で、それと今回のテーマである「流星」がつながったのが「流星バースト通信」だったのです。

「流星バースト」とは、流星等が大気圏に突入する際に生じる柱上の電離気体のことで、この流星バーストによる電波の反射を利用した通信のことを「流星バースト通信」と呼んでいます。これまでの流星バースト通信の研究は宇宙塵による流星を対象に行われており、人工物の再突入における観測・研究はあまり行われておりません。ですが今回のはやぶさ2の事例をはじめ、開発が進む再利用ロケットといった人工物が大気圏に再突入する場合でも、流星バーストと同じ現象が生じるのではないか、またそうした際に地上の無線通信にどのような影響を及ぼすのかを観測・研究するには、まさに絶好のチャンスだと考え、高校時代の友人である河村朋治さん(愛知工業大学工学部3年)を加えた4名で「はやぶさ2からのメッセージを受け取れ!~大気圏再突入物体による電離柱発生現象の観測研究~」というテーマで、提案募集に挑戦することになりました。

一番の課題である資金面を、クラウドファンディングで克服。

――いよいよ歩み始めた「Hayabusa2 Radio Wave Reflection Project」ですが、メンバーは大学はおろか、住んでいる地域もバラバラで、意思疎通を図るのは大変だったのではないでしょうか?
コロナ禍もあり、コミュニケーションはほぼオンラインのみで、実際にメンバー全員で会えたのは2020年2月、書類選考に通過してJAXA相模原キャンパスで行った最終プレゼンの場が初めてでした。その日はもちろん緊張していたのですが、それ以上に仲間に合えた喜び、そしてJAXAという憧れの場所で、初代はやぶさに関わってこられた方をはじめとする有名な先生方の前でプレゼンができる興奮のほうが大きくて、2時間程度しか滞在することができなかったのですが、いまでも一番の思い出ですし、これまでの人生で最高の1日になりましたね。
――熱意のこもったプレゼンの結果、見事に研究テーマは採択され、JAXAとの共同研究が本格的にスタートすることになりましたが、ご苦労されたことも多かったのでは?
一番の課題は資金面で、今回の提案募集には資金を自らで準備することが条件となっており、渡航費や滞在費、また電波を観測する機器の購入費用等を集めなければなりませんでした。そこで私たちはクラウドファンディングを立ち上げ、このプロジェクトに興味を持っていただけた方や、応援しようと思って下さる方から援助を募集したところ、おかげさまで多くの方にご賛同いただき、300万円を超える支援金を集めることができました。
――そうして様々な課題を乗り越えていったプロジェクトチームの皆さんですが、コロナ禍の影響でオーストラリアでの観測・研究活動はできなかったそうですね。
中学・高校時代の友人と「面白いことやってみよう」くらいのノリで始めたプロジェクトが、まさかJAXAの方々との共同研究にまでつながるなんて、本当に夢のような出来事ですし、資金面だけでなく本当に多くに皆さんに支えていただいてたどり着いた場所だったので、現地に行くことができなかったのは本当に残念でしたね。カプセル再突入で生じた流星バーストに反射した電波の受信・観測はJAXAに観測機材をお渡しして代理計測を依頼し、そのデータに基づいて報告書を作成することになりました。

自分の夢が100%叶わなかったとしても、そこで諦めないことが大事。

――2021年3月には52ページにも及ぶ報告書が完成し、クラウドファンディングで支援いただいた方への発送、その後のオンライン報告会を終えて、一連のプロジェクトが終了したわけですが、現在はどのような活動をなさっているのでしょうか?
今回の結果をさらに深めるために、国内外の宇宙航空関連企業と連携し、引き続き研究が進められるような環境が作れないか、模索しています。またこれまでは我々が与えてもらう立場だったので、それを後輩に還元したいと考え、中学生を対象とした宇宙航空講座を、私たちの出身地である岐阜県と協力して実施しています。
――もともとは歴史ある京都で国文学を研究したいと考え、同志社大学文学部に進んだ中山さんですが、全く分野の違う宇宙工学に挑んでいる、その源泉はどこにあるのでしょうか?
私は文理の区分という発想はまったくなく、自分がやりたいと思うことであれば分野に関係なく積極的に挑戦してきました。自分がやりたいことに熱中するのはやはり楽しいですし、それが一番のモチベーションですね。3年生になり、徐々に就職を意識するようになりましたが、もし自分の夢が100%叶わなかったとしても、そこで諦めるのではなく少しでもいいのでそれに関われる仕事ができれば、きっと楽しく働けるでしょうし、いずれは夢に近づくことができるのではないでしょうか。
――では最後に、このプロジェクトを通じて中山さんが一番学んだことをお教えください。
好きなことをやることは楽しいことですが、やはり一人でできることには限界があります。私は今回のプロジェクトを通じて、人と人とのつながりの大切さを改めて強く感じることができました。課題にぶつかったときにはメンバー同士で助け合い、またJAXAの皆さん、指導教員となってくださった大学の先生のご指導があったからこそ貴重な研究の機会を活かすことができ、クラウドファンディングを通じて支援してくださった方々がいてくださったからこそ、何とか最後までたどり着くことができました。新型コロナウイルスの影響で人と人との距離を深めることが難しい今こそ、ここで得た縁を大切にし、これからも好きだと思えることに精一杯挑んでいきたいと思います。

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