HR用語の基礎知識

インクルージョン

人事の図書館 編集長 大西直樹
「インクルージョン(inclusion)」とは、直訳すると包括・包含という意味で、包括は全体をまとめること、包含は包み込む・中に含むことを指しています。ビジネスで使用される場合は、従業員がそれぞれの年齢、性別、国籍や勤務形態等の違いを認めて受け入れ、同じ組織で働く仲間として一体感を持つことを指します。インクルージョンが実現した職場では、少数派が排斥されたり、差別されたりすることはありません。誰もが対等に仕事に参加し、その能力を最大限に発揮することができます。

「受け入れた人材をどう活かすか」がインクルージョンの目的。

ビジネス、人材活用の現場では、「ダイバーシティ(diversity)」という言葉もよく耳にします。企業が「多様な個性、背景を持つ人材を積極的に採用し、組織にさまざまな人材が存在している」という状態をダイバーシティと呼びます。つまりダイバーシティは多様性を認めることで、インクルージョンはそうした多様性を認めて受け入れ、組織として一体となることを意味しており、インクルージョンはダイバーシティを土台にしてさらに発展させた、多様な人材が活躍できる社会の実現に繋がる、新たな人材開発の形として広く知られるようになってきています。

インクルージョンの目的は、女性活躍推進や一億総活躍社会などに代表される、多様な人材が活躍できる社会の実現です。一億総活躍社会を目指すに当たって、年齢や性別、国籍などの多様性を認めようというダイバーシティが導入されました。しかしダイバーシティだけでは、多様な人材を受け入れた後に人材をどう活用するかについて不明瞭なため、受け入れた人材をどう活かすかまでしっかり考えようというのがインクルージョンの目的です。

従来の日本企業は、すべての人に均質化を求める「画一的な組織」を目指しており、多様性の重要性に気づかず、また、気づいていても多様性(異質な人)に対して否定的な状態でした。しかしその組織がダイバーシティ&インクルージョンにより「多様性を受容する組織」に変化すると、さまざまな属性・価値観を持つ人材が組織内に存在するようになり、時代の変化に対応するための競争力や問題解決力が強化されるようになり、新たなイノベーションを生み出すことも期待できます。

インクルージョン推進のメリットとは?

インクルージョンの推進には、以下のようなメリットがあります。

◆生産性の向上
属性に関わらず誰もがその能力を最大限に発揮できるため、自分が企業にとって大事にされているという認識を与えることができるため、仕事に対する意欲が向上します。仕事の意欲が向上すると、効率を良くする方法を自ら考えたり、職場内でのコミュニケーションが円滑になります。前向きな人が増えると、それに触発されて芋づる式に前向きな従業員が増え、組織の活性化が期待できます。

◆離職率の低下
多様な人材の個性を認め、活かすことで、社員の人々は「自分は会社から大切にされている」という自己肯定感や、「自分は会社の役に立っている」という自己有用感を持つことができます。そのような心理的メリットは、離職率を下げ、定着率をアップするというデータがあります。

◆企業のイメージアップ
会社として「インクルージョンに取り組んでいる」というのは、健全な企業の証でもあります。環境問題への取り組みをPRする等に代表される、CSR(企業の社会的責任)の一環にもなります。ホワイト企業、ブラック企業という言葉もありますが、「インクルージョンに積極的に取り組んでいる」という姿勢は企業のイメージアップに大きく貢献します。

またインクルージョンを推進する際の課題として、以下のようなことが考えられます。

◆効果が表れるのに時間がかかる
インクルージョンが浸透しているという状態は、社員一人一人が「自分は会社から受け入れられている」と安心感を得て、仕事へ集中でき、創造性も発揮できるということ。社員の心理面へ働きかけ、意識の改革を行うというのは、コツコツと積み重ね、時間がかかる作業と心得ておく必要があります。

◆無意識の偏見
偏見とは、特定の人・集団・対象などに対して、行動だけで判断せず、性別、年齢、人種等で、無意識に偏見を持って他人を評価してしまう行為を指します。例えばお茶出しは女性がやるもの、男性は育児休暇を取るべきでない、年上の従業員の方が若い従業員よりリーダー役にふさわしい、といった思い込みです。根拠なく不利に扱われる従業員がいる状態では、誰もが対等に活躍することは不可能です。

年齢、性別、国籍に関係なく意見の言いやすい環境を作ることが重要。

◆インクルージョンについての誤解
インクルージョンは多様性を認め合い、活かすことです。しかしそれは決して少数派を優遇することではありません。「働き方改革」において女性活躍や外国人の受け入れが推進されており、誤解されることも多いようですが、あくまでも全従業員が対等に関わり合うことが大切です。

インクルージョンを社内に浸透させるには、丁寧に社員教育を行っていく必要があります。例えばダイバーシティの場合、「高齢者や女性などの人材別で採用比率や管理職の比率を出す」「採用数、離職数などの指標を設ける」といったことで推進度合いが測れます。しかしインクルージョンは心理的に作用する側面を持つため、まずは社員の現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。例えば、管理職向けのアンケート項目としては、「部下を男女差なく評価しているか」「男性社員が育児休暇を申請してきた場合、どのように対応するか」といった個別のアンケートやヒアリングを実施するのが効果的です。

そしてもうひとつ大事なポイントが、立場の違いや年齢、性別、国籍に関係なく意見の言いやすい環境を作ることです。年次の若い社員は周りを気にして遠慮することが多いので、特にそうした社員に気を配ることが大切で、率直な意見を聞くために、アンケートを匿名にしても良いでしょう。また、外国人社員の意見にもしっかりと耳を傾けていくことが大切です。多様なバックグラウンドを持つ社員をも対象とすることで、会社の課題が見えてくるはずです。

インクルージョンを取り入れることは、社員だけでなく組織にとっても大きなメリットがあります。個人の多様性を機能させることは、社員自身が無意識的に持っている偏見に気づかせ、立場で人を判断しないフラットな社風を構築することにもつながるでしょう。企業の宝はやはり「人」です。ダイバーシティは様々な企業で導入が進んでいますが、受け入れた人材の活かし方まで整備できている企業はまだまだ少ないのが現状です。多様な人材をただ受け入れるだけでなく、多様性を活かして自社の武器とするために、インクルージョンに取り組んでみてはいかがでしょうか。

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