HR用語の基礎知識

限定正社員

人事の図書館 編集長 大西直樹

勤務地や労働時間、業務内容等を限定して働く正社員。

「限定正社員」とは、勤務地や労働時間、業務内容等を限定して働く正社員のことを指します。安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の一つで、「ジョブ型正社員」「多様な正社員」とも呼ばれています。

契約社員やパート等の非正規雇用者が増え続けており、その対策として2013年4月の労働契約改正法で「5年以上勤務する労働者は、本人の申し出によって無期契約に切り替える」ことが認められました。しかし、希望者全員を正社員として雇うことは会社にとって大きな負担になるため、限定正社員という制度を作り、勤務地や労働時間、業務内容等が限定されていながらも、より安定した待遇で働けるようにしたのです。

限定正社員には以下のようなパターンがあります。

■勤務地限定正社員
勤務地に関する限定正社員は、居住地から通勤をすること等が可能な部署に限定して働く社員のことで、家庭の事情等で単身赴任や転勤が難しい社員に適しています。転勤が難しい労働者の雇用の離職防止や、地域のニーズに合わせたサービスの提供や顧客の確保を目的に行われることが多く、保険業や医療、福祉の業界で多く採用されています。

■職種・職務限定正社員
職種の変更なく働く社員のことで、専門的な業務や資格が必要な場合や、他職務と明確に区別できる職務に採用されており、医療、福祉業界や教育、学習支援業界等、元々職務や資格で業務を分けやすい業界に多い傾向にあります。

■勤務時間限定正社員
勤務時間限定正社員は時短勤務のように1日の所定労働時間を6時間に定める等、「勤務時間を限定」するケースと、シフト制で遅番だけに勤務する等の「勤務時間帯を限定」するケースがあります。いずれも、介護や育児等で長時間労働が難しい人や資格取得等の勉強時間を確保したい人に活用される働き方です。

「限定正社員」導入の目的・メリットとは?

■正社員や契約社員との違いは?
限定正社員は、勤務地や労働時間、業務内容等の限定される範囲以外は、正社員と同じ待遇を受けることになります。例えば、契約社員やパート・アルバイトの場合、雇用契約の期間を1年とし、毎年契約の更新をするケースが多いですが、限定正社員の場合は通常の正社員と同じく無期で契約することになります。

また、労働時間数によって雇用保険や社会保険に加入させる必要があり、福利厚生等も正社員同様に利用する権利を持つことになります。

■「限定正社員」導入の目的・メリット
厚生労働省が発行した「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」の企業アンケート調査結果によると、限定正社員導入の目的として、「優秀な人材を確保するため」「従業員の定着を図るため」といった人材確保・定着の必要性と、 「仕事と育児や介護の両立(ワーク・ライフ・バランス)支援のため」といった主として正社員の働き方の見直しの必要性が多く挙げられています。

◆「多様な正社員」導入の目的(複数回答/単位:%)
また、導入により得られた効果をみると、「人材の確保(40.0%)」が最も多く、 その他2割を超える回答として「多様な人材の活用(26.7%)」「人材の定着(24.7%)」「業務の効率化(22.4%)」が挙げられています。

◆「多様な正社員」区分を設けるメリット(複数回答/単位:%)

非正規雇用社員の正社員登用の受け皿としても期待。

また限定正社員は、非正規雇用社員の正社員登用の際や、勤続5年を超えた従業員の無期転換後の受け皿とすることで、企業の発展を支える人材の育成、技能の蓄積・継承を可能にすることが期待されています。同じく厚生労働省が発行した「『多様な形態による正社員』に関する研究会報告書」の企業アンケート調査結果によると、非正社員から多様な正社員への登用について、「制度もしくは慣行がある」と回答した企業は全体の4割程度となっています。

◆非正社員から多様な正社員への登用制度・慣行・実績(単位:%)
厚生労働省「多様な人材活用で輝く企業応援サイト」では、非正規雇用の従業員の正社員への転換、処遇の改善等を行っている企業の事例を紹介しています。
限定正社員は、「ワーク・ライフ・バランスの実現」「雇用の安定・処遇の改善によるモチベーションアップ」や「中長期のキャリア形成を見据えたスキルアップ」といった、従業員側にもメリットの多い制度です。

また、法制度の変化や労働者の意識の変化、社会の風潮の変化から、これまで日本の企業の主流であった、まず人を雇ってからどんな仕事を任せるかを考えるメンバーシップ型雇用から、今後は、まず詳細に仕事を定義付けてその仕事に対して必要な人が割り付けられるというジョブ型雇用にシフトしていくことが予想されています。限定正社員の活用は、そうした時代に即した人事戦略としても期待されていますので、ぜひ皆様の職場でも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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