多くの企業にとって採用工数の削減が課題となっています。採用活動は応募者だけでなく企業にとってもコストや手間などの負担が大きく、できる限り効率的に進めることが求められるためです。
しかし、そもそも採用工数の定義はなにか、またどのように効率化をすれば良いのか悩む人事担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では採用工数の概要から採用工数の削減が必要な背景、削減のポイントや手法などをわかりやすく解説します。採用を効率的に行いたい人事担当者はぜひご一読ください。
採用工数とは
「採用工数」とは、企業が人材の採用を計画し、採用を終えるまでにかかる全体の作業の数や時間、仕事量などを指します。
人材の採用と聞くと、まず面接などの選どを思い浮かべる人が多いと思います。ただ、実際には求める人物像の設定や説明会、人材募集の広告作成や出稿、応募者への選考の案内送付、あるいは内定後のフォローなど、採用完了までの過程で必要な作業は多岐にわたります。採用工数はこれらの作業をすべて含めて考えるのが特徴です。
また、採用に必要な作業のすべてには、人件費や広告費などのコストが発生することも忘れてはいけません。
不要な採用工数がかかっているケースも多い
企業にとって、採用工数の効率化は重要な課題です。企業の採用工数を精査すると、実際には不要な採用工数がかかっているケースも多く見られます。採用工数が増えれば、採用担当者や採用に関わる現場の社員に不要な負担をかけたり、余分な人件費が生まれることにより予算が圧迫されたりするなど、マイナスな影響が想定されます。
採用工数が増えるおもな要因には、採用フローが整理・最適化されていない、適切な施策選定ができておらず採用効率が悪い、人材要件が定まっておらず面接の質にばらつきがある、などがあげられます。
特に近年は採用職種の多様化や需給バランスが崩れて人材確保が難しくなっていることから、上記要因が生まれやすくなっています。
加えて、新卒採用の長期化や、中途採用も転職潜在層にリーチする考え方も主流になっており、より採用工数がかかりやすいトレンドになってきています。
そのため、採用工数を最適化させていかないと、労働資源を圧迫していき、結果として組織の生産性が下がることにもなりかねません。
採用工数の見直し・削減がもたらす効果
採用工数を見直して効率化すると、具体的に次のような効果が得られます。
採用コストの削減
採用工数の見直しにより不要な業務の削減ができれば、採用計画から入社までにかかるコストをおさえられます。
採用コストには、大きく分けて内部コストと外部コストがあり、両者を足したのが採用の総コストです。見直しに当たってどちらに無駄な要素が多いのかを確認し、効率化を検討しましょう。内部コストと外部コストの特徴を次に解説します。
内部コスト
内部コストとは、採用過程のうち社内で発生する費用のことで、ほとんどは人件費です。たとえば広告、面接、採用のそれぞれの過程での担当者の人件費や、求人広告会社や人材紹介会社と打ち合わせを行う際の自社社員に対する人件費が該当します。また、内定後フォローの一つとして内定者と既存社員の懇親会を行う場合、その費用も内部コストに含まれます。
さらに、遠方からの応募者に対する面接の交通費や、内定式の交通費も内部コストです。このように、内部コストは採用に関して計画時から入社までに社内でかかるあらゆる費用を計上します。
外部コスト
内部コストが社内の費用を指すのに対し、外部コストは外部に支払う費用を指します。採用に限らず、一般的に外注するのは自社での作業より費用がかかります。そのため、外部コストは内部コストに比べると一つひとつが高額になりがちです。
おもな外部コストには、求人広告の掲載費や、人材紹介会社の紹介料、採用サイトやパンフレットの制作費などがあげられます。また、説明会や面接を社外の会場を借りて行うなら会場費も必要です。合同で会社説明会やオンライン説明会を行う場合は、その参加費も外部コストと言えます。
内定者に対して内定後に外部で研修を行う費用も、外部コストに含まれます。
採用力のアップ
採用工数の見直しにより、募集や選考、内定などの対応スピードがアップし、他社へ人材が流れてしまうのを防ぐ効果があります。近年、多くの企業が人手不足の状態にあるため、他社との競争に打ち勝つにはスピーディーな採用が必須です。
帝国データバンクの全国27,768社を対象に行った調査によれば、正社員が人手不足の状態になっている会社の割合は51.4%(2023年7月時点)と半数を超えています。少子化により労働人口が減りつつある今、今後も人材不足が続くのを覚悟しなければならないでしょう。
売り手市場では応募者がより良い条件を提示する企業へ流れやすいです。もし採用工数を見直して効率化できれば、優秀な人材をすばやく確保し、企業の生産性や創造力をアップできます。
※出典元:「人手不足に対する企業の動向調査(2023年7月)」(帝国データバンク)(https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230804.pdf)
採用の通年化・長期化への対応
採用活動が通年化もしくは長期化した場合の負担をおさえられるのも、採用工数削減の効果の一つです。深刻な人材不足が続くなか、各企業は優秀な人材を確保するために採用活動を長引かせる傾向があります。
従来、新卒採用は一般的に3月頃に広報活動、6月頃に面接などの選考活動を行うようなスケジュールでした。しかし、売り手市場が続くなか、少しでも早く優秀な学生と接触し、採用目標人数を達成するために、予定より早く採用を開始するケースがあります。
また、中途採用においても求める人物像と合致する人材がなかなか見つからず、やむを得ず長期的な募集をするケースがあります。
このような通年化や長期化が続けば、採用担当者の負担や採用にかかるコストが増えてしまいます。そこで採用工数の削減をすれば、採用担当者の業務量をおさえられ、採用自体が長引いても企業の競争力を落としにくくなります。
基本的な採用工程
続いて、採用工数の見直しを図るために、採用工程の全体像を把握していきましょう。基本的な採用工程は次のとおりです。
1.採用計画
まず、採用をどのように進めていくのか方針や骨子を決定します。採用計画を練るときは、企業がどのような人材を求めているのか具体的な理想像を設定しましょう。続いて、雇用形態や採用する人数、募集や選考の方法や流れ、採用スケジュールについても計画を立てていきます。
社員の離職や求職などで急に人材を募ることになった場合でも、この採用計画は綿密かつ慎重に練らなければなりません。理想の人材像がはっきりしていなければ、せっかく採用してもミスマッチが起きて早期に離職されてしまうリスクもあります。また、見切り発車の求人ではスケジュールが狂ってほかの業務に支障を来す可能性も考慮すべきです。採用全体の土台に当たる計画は、じっくり時間をかけ、具体的に検討することをおすすめします。
2.募集活動
採用ターゲットや全体の流れが決まったら、募集活動を開始します。募集活動で重要なのは、母集団の形成をすることです。母集団とは自社に興味を持ち、働きたいと希望する応募者の集団を指します。
募集の前提として、自社の採用情報が求職者の目に広く止まらなければ、求める人材とは出会えません。また、単に人を集めただけでは、そのなかに求める人材がいるとは限らないでしょう。そのため、応募者の質や人数を確保した母集団を形成をし、そのなかで効率的に採用活動をしていく必要があります。
質や人数を兼ね備えた母集団の形成には、求人サイトで求人広告を掲載する方法や、合同企業セミナーもしくはオンライン説明会へ積極的に出展する方法などがあります。このようなイベントには求人を探している就職・転職顕在層が集まるため、応募者数を確保しやすくなるでしょう。そのなかで質を高めるためには、採用ターゲットにマッチしたアピール方法が重要です。
ほかに、自社の採用サイトでの採用情報公開や、SNS、Webメディアなどによる広報活動、会社説明会の開催も併せて行います。
これらの方法を活用することで、効果的な母集団の形成ができ、迅速な人材採用が可能になります。
3.選考活動
求人の応募者に対し、選考活動を行います。おもな選考方法には、書類選考に筆記試験、面接試験があります。
筆記試験は一般常識のテストのほか、能力や性格などを確認する適性検査を実施するのが基本です。一般常識テストは自社でも作成できますが、適性検査は設問の設定や分析に専門性が必要なため外注します。
面接は個人面接と集団面接があります。新卒の場合はグループディスカッションが行われることも多いです。面接は書類選考や筆記試験に比べると選考結果に深く影響するため、どの方法が良いか慎重に検討しましょう。
結果を踏まえて採用者を決定するには、採用計画で設定した明確な人物像に合致しているかを基準にします。どれほど筆記試験の結果や面接での印象が良くても、求める人材に合っていなければ意味がありません。判断の軸がぶれないようにして採用者を決めるのが大切です。
4.内定・入社フォロー
最後に、採用決定した人材への内定通知や、入社フォローなどを行います。面談や懇親会、研修あるいは職場見学などを実施し、内定者と自社の交流機会を多く設けましょう。積極的な交流により、内定者にありがちな入社前の不安や悩み、疑問を素早く解消するようにします。また、自社の業務への理解を深めてもらうことで、内定者は入社後の業務にスムーズに慣れることができます。
内定や入社に対するフォローの段階で重要なのは、内定者とのつながりをできるだけ密接に保つことです。内定者はほかの企業からも内定を得ている、もしくはこれから得る可能性があります。より好待遇の企業が現れたとき、他社へ人材を奪われないようあらかじめ内定者との接点を増やし、入社意欲を保てるようにフォローが必要です。
採用工数の削減方法
続いて、具体的な採用工数の削減方法を紹介します。自社の採用工数と照らし合わせ、改善のヒントにしてください。
採用活動のオンライン化
おもな採用活動をインターネット上で行えば、採用工数の大幅削減ができる可能性があります。
オンライン化できる業務の内容はさまざまあります。
オンライン化する業務の例 |
メリット |
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(専用ポータルサイトを作成し、応募者に履歴書や職務経歴などの情報を登録してもらう) |
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オンライン化は企業だけでなく、応募者にとっても時間や費用の節約などさまざまなメリットがあります。とくに企業説明会や選考をオンライン化することで遠方からの応募も期待できるでしょう。
採用代行サービスの利用
採用に特化した会社に採用活動を代行してもらうのも、自社での工数削減に効果的な方法です。採用専門会社であれば効果的な採用を行うノウハウがあり、自社よりも効率的に優秀な人材を確保できます。最新の市場情報を持ち、多数の求職者へのネットワークを持つのも強みです。
採用専門会社に依頼できる項目は説明会や応募受付、書類選考や各種試験、面接の日程調整などさまざまです。求人媒体の運用や管理も任せられます。部分的な依頼も可能なので、想定より工数がかかってすぐに改善できない工程に絞って依頼する使い方もできます。
また、採用活動を採用専門会社に依頼すれば、浮いたリソースで求人に対する反応の検証や改善に注力できます。
HRテックサービスの導入
HRテックサービスにより、これまでマンパワーを必要としていた工程を自動化するのも有効な手法です。HRテックサービスとは、AI技術やビッグデータ、クラウドサービスなどの最新技術をもとにして採用工程を効率化したり、人事の課題を解決したりできるサービスです。
たとえば、応募者への問い合わせ対応をAIで自動化すれば膨大なメール返信の作業を一瞬で終了できます。また、対応の過程で集めたデータを分析して採用時の判断材料にするのも可能です。あるいは、自社の社員データをもとに、主観を挟まない的確な合否判定や適切な人材配置を行うこともできます。ツールによっては、採用だけでなく入社後の勤怠管理や給与計算などまで任せられます。
このようにHRテックサービスは採用を含む人事や組織のマネジメントに欠かせないツールです。HRテックサービスを活用して機械的な作業をすべて自動化すれば、応募者との面接のように本来比重を置くべき部分にリソースを割きやすくなるでしょう。
採用チャネルの的確な選択
自社サイトや求人サイト、あるいはSNSや紙媒体など、候補者にアプローチする方法を見直し、効率の良い手段を選択するのも工数削減に有効です。候補者にアプローチする方法を採用チャネルと呼びます。
適切な採用チャネルを選択するには、求める人材の属性を詳しく想像、設定するのが必要不可欠です。たとえばSNSはサービスによって年齢層がまったく異なるため、若い人材を採用したいなら若者向けのSNSを選択する必要があります。
採用チャネルには公募型・人材紹介・ダイレクトリクルーティングなどさまざまな種類があり、求める人材に合わせて選択します。おもな種類を次に解説するので、参考にしてください。
公募型
公募型は、不特定多数に対し求人情報を公開して応募者を募るオーソドックスな手法です。たとえば求人サイトや新聞、雑誌への求人広告の掲載や、企業サイトでの求人募集などがあげられます。
公募型はほかの方法と比べて母集団の数が非常に多いため、多くの人材にアプローチできるのが特徴です。ただし、募集を目にするターゲット層と求める人物像が乖離していると、仮に応募があってもなかなかマッチしない可能性があります。どの媒体に求人を掲載するか、ターゲット層をよく確認して判断するのが大切です。
また、母集団が多くても即効性があるとは限りません。転職サイトを例にあげると、登録者数が多かったとしても実際にそのなかで転職意欲が高い層は限られます。急いでいるときは人材紹介などの別の採用チャネルを選んだり、ダイレクトリクルーティングなど潜在層にもアピールできる別の手法と組み合わせたりすることをおすすめします。
人材紹介
公募型に比べて即効性を得やすいのが人材紹介です。人材紹介会社や転職エージェントなどが当てはまります。企業の知名度が低くなかなか自社サイトでは候補者が集まらない場合などに、自社の求める人物像にマッチする人材をエージェントから求職者に直接紹介してもらえるのがメリットです。特に専門職やハイクラス人材層のように、ターゲットの条件が厳しい場合は人材紹介を利用すれば効率の良い採用ができるでしょう。
株式会社学情でも、20代に特化した採用をサポートするサービス「Re就活エージェント」を提供しています。第二新卒・既卒・ヤングキャリア層といった20代の若手に限定して採用したい際に効果的です。200万人の会員のうち、92.5%が20代のため効率的な若手採用を実現できます。
このように人材紹介サービスを利用すれば、特定の層や専門スキルを持った人材に対して迅速なアプローチができます。
ダイレクトリクルーティング
企業が理想の人材を見つけたとき、直接アプローチするのがダイレクトリクルーティングです。おもにスカウト型サービスを利用するか、既存社員の人脈を活かしリファラル採用を行う方法、SNS採用などがあります。
応募者を待つのではなく自社から積極的にアプローチするため、採用スピードを上げやすいのが特徴です。また、転職市場に出ておらず求人広告からではアプローチできない潜在層に接触できるのもダイレクトリクルーティングならではのメリットと言えます。
株式会社学情の20代向け転職サイト「Re就活」でも求職者に直接アプローチができます。保有するスキルや希望する勤務地など、求める人材の属性や志向性などの条件をあらかじめ設定しておけば、簡単にマッチする人材を絞り込めます。スカウトメールの自動配信により、採用工数の効率化を進めることも可能です。
このようにダイレクトリクルーティングでは条件に当てはまる人材に絞ってアプローチでき、転職市場に出ていない潜在的な人材の採用ができます。
採用工数の削減を図る際のポイント
最後に、社内で採用工数を見直すに当たり、あらかじめ知っておくべき注意点を解説します。
採用フローを可視化する
まずは自社の採用工程を可視化し、正確に把握することが必要です。新しい人材を雇用するまでにどのような業務が発生し、実際にどのように対応をしているのかを把握しておきましょう。
採用フローを明確にすることで、どの部分を改善すれば良いのかが見えてきます。その上で採用工数の削減を検討すれば、より的確な対策を講じることができます。
母集団形成は志望度の高さを注視する
求人のターゲットとなる母集団の形成は、求職意欲の高さに着目して行うのが大切です。志望度が高くない人材で母集団を形成してしまうと、応募者がなかなか集まらずかえって採用工数の増加や、採用後の内定辞退などの可能性を高めます。結果的に採用コストの負担が増えてしまうリスクもあるため、母集団の属性は慎重に検討しましょう。
ミスマッチを防ぐためにも、始めから求める人物像を明確にし、その人物像に当てはまる層が多数含まれる母集団を形成しましょう。
関係部署の協力を得る
採用そのものは採用担当者が行うのが一般的ですが、採用後は社内の関係部署の協力を取りつけましょう。内定辞退を防ぐためにも、配属予定の部署の先輩社員や、メンター社員と連携してこまめな内定者フォローが必要です。
関係部署との連携により内定者をしっかりと確保できれば、内定辞退を防げます。また、内定者フォローによって入社後の人間関係や業務に早期のうちに慣れておけば、採用工数だけでなく入社後の人事担当者の工数も削減しやすくなるでしょう。
このように、関係部署の協力も間接的に採用工数を削減する大きなポイントです。社内で連携して採用を成功させましょう。
採用工数の削減で企業の競争力を強化しよう
採用工数とは採用計画の検討から入社までにかかる一連の作業や、必要な過程の数を指します。意識して取り組まないと不要な採用工数がかかっているケースも多く、人的、金銭的なコストの増加につながりかねません。特に、採用の通年化や長期化が進む現代では採用工数の削減は急務です。
採用工数は企業の規模を問わず、工夫次第で削減できます。オンライン化や採用代行サービスの利用などを通じて、採用工数の削減に努め、人事担当者や採用担当者の負担を軽減しましょう。
採用工数を削減できれば、企業の負担が少なくなり、人材のスピーディーな確保につながります。他社との競争力強化や生産性アップにもつながるため、これまで採用工数を意識して削減してこなかった企業はぜひ、これから採用工数を見直してみましょう。
学情の「Re就活」は、会員数200万人を有する20代専門の転職サイトです。20代が転職活動の際に意識するポイントを踏まえて、求人内容や選考フローの設計を徹底的にサポートします。
採用活動のオンライン化やダイレクトリクルーティングサービスの活用で採用工数の削減を目指しましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。