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社会保険の適用対象の拡大

人事の図書館 編集長 大西直樹
2022年10月より、健康保険・厚生年金保険が適用される短時間労働者の範囲が拡大されます。今回の改正により、これまで社会保険制度が適用されなかった短時間労働者でも被保険者資格を得られる可能性があります。この記事では、改正のポイントや、企業がとるべき対応についてご紹介します。

2022年10月から「企業の規模要件」と「短時間労働者の勤務期間要件」が変更に。

少子化の進行や、高齢者や女性を中心とする働く層の多様化といった社会の変化を適切に年金制度に反映することを目的として、2020年(令和2年)5月、年金制度改正法※が成立しました。年金の受け取り開始時期に関する選択肢の拡大(60歳〜70歳の間から60〜75歳の間へ)や、在職中の年金の受け取り方の見直し等の項目と並んで行われたのが「社会保険の適用対象の拡大」です。
そもそも、従業員(正確には、社会保険の被保険者)が一定数を超える規模の企業は、社会保険の加入要件を満たす労働者に加えて、「短時間労働者」についても社会保険に加入させなければなりません。それが今回の法改正によって、下記のようになりました。

◆企業の規模要件が、現行の500人超から100人超(2022年10月以降)、最終的には50人超(2024年10月以降)と段階的に拡大
◆「短時間労働者」の要件のひとつである勤務期間要件が、「1年以上」から「2ヶ月超」に

企業規模要件の判断における「従業員数」は、前述の社会保険の加入要件を満たす労働者(フルタイム労働者+所定労働時間がフルタイムの4分の3以上である労働者)を指します。短時間労働者は、企業規模要件をみる際にはカウントしないことに注意が必要です。

例えば、労働者が110人、うち社会保険の加入対象(所定労働時間が週30時間以上である労働者)が50人、週30時間未満のパートタイマーが60人、という人員構成の企業があったとします。この企業は、企業規模要件を見る際には「常時50人」であり、特定適用事業所にはあたりません。また人数は月毎にカウントし、直近12ヶ月のうち6ヶ月で基準を上回ると適用対象となります。

社会保険の適用拡大が企業に与える影響とは。

ここで社会保険の適用拡大が企業に与える影響について、具体的に見ていきましょう。

◆社会保険料の企業負担の増加
適用拡大が企業に与える影響のひとつが、社会保険料の企業負担額の増加です。加入している従業員の社会保険料は、従業員と会社が折半で負担することになりますので、加入する従業員が増えれば当然、会社が負担する社会保険料も増加します。

厚生労働省の資料によれば、2022年10月の企業規模要件の変更(従業員数500人超から100人超へ)により、新たに45万人が社会保険の適用対象となり、企業の社会保険料負担は1,130億円増加するようです。さらに2024年10月に企業規模要件が「従業員数100人超」から「従業員数50人超」へと見直されることによって、新たに適用対象となるのは65万人、企業の社会保険料負担は1,590億円増加と推定されており、この改正が企業に与える影響が大きいことが分かります。

まず大切なのが、新たに対象となる従業員の数を把握し、あらかじめどれくらいの保険料になるのか試算しておくことです。厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」では、「社会保険料かんたんシミュレーター」で、会社が負担する社会保険料の試算ができます。対象人数や給与額などを入力することで保険料の目安がわかるので、参考にして準備を進めましょう。

◆雇用への影響
社会保険は適用要件を満たせば、本人の意思とは関係なく社会保険に加入しなければなりません。ですので、「扶養の範囲内で働きたいから社会保険に加入したくない」と思っている従業員の方は、適用要件に該当しないよう、例えば「週の所定労働時間を20時間未満に変更する」等、労働条件の変更を申し出てくる可能性もあります。

ですがそうなると会社の労働力は減少してしまいますし、不足した労働力を補うために新たに採用活動を行う場合には採用コストも発生する可能性も出てきます。そうならないためにも、新たに加入対象となる従業員には、法律改正の内容、対象となった理由だけでなく、加入で得られる保障やメリットについても、しっかりと説明して従業員本人とよく話し合うことが大切です。

改正を迎えるに際して、必要な対応とは。

2022年10月以降に強制適用事業所となる企業、つまり、被保険者数が101人〜500人である企業にとって、必要な対応をまとめてみました。

◆社内周知を実施する
まずは、今回の改正で加入対象となる短時間労働者に対して、周知を徹底しましょう。社会保険を対象者に加入させることは、企業にとっては義務であり、労働者にとっては手取り額の変動が起こる重大な手続きです。口頭で軽く伝える等ではなく、説明資料を準備したうえで、しっかりと説明の時間をつくる必要があるでしょう。また、短時間労働者として働いてきた従業員は、社会保険についてあまり知識がない可能性があります。家庭の事情や将来の考え方等により、必ずしも対象者全員が被保険者資格を歓迎しない場合も考えられます。そのような場合、どのような方法をとるべきか説明できるよう、説明する担当者側も社会保険に関する知識を得ておくことが大切です。あらかじめ「Q&Aシート」を作成しておく等、従業員が理解しやすいように準備しましょう。

◆書類を提出する
今回の改正の対象になる企業に対しては、2022年8月までに日本年金機構から通知書類が到着する予定です。案内に従って対象者の社会保険加入の準備を進めましょう。必要書類の提出期限は2022年10月5日までです。「被保険者資格取得届」はオンラインで作成・提出が可能なので、余裕を持って申請業務を進めましょう。判断に迷った際には電子申請相談チャットも用意されているので、疑問点を解消しながら進められます。

◆副業をおこなうパート雇用時の注意点
働き方改革以降、副業兼業者の割合も増えています。副業先が社会保険の適用外の業務委託契約等の場合、問題は生じませんが、実務上は、いずれか一つの企業を選択する「選択届」を届出します。今後起こり得る問題はいずれの企業でも「短時間労働者」として、本業先・副業先双方で社会保険の適用対象となった場合、注意が必要です。保険料の支払いは双方の報酬を合算後に案分することとなりますが、副業先(または本業先)で社会保険に加入中のまま雇用する場合、資格取得後に訂正が生じる場合もあるため、慎重な確認が求められます。

◆助成金や補助金を利用できることも
国では社内体制整備のために、様々な支援策を打ち出しています。助成金や補助金制度等を活用すれば、金銭面でのサポートを受けられます。例えば「キャリアアップ助成金」の場合、短時間勤務者の労働時間を長時間へ変更したり、社会保険の適用を任意で行ったりした場合に、一定額を受け取ることが可能です。また、ものづくり補助金やIT導入補助金、持続化補助金制度を打ち出している「中小企業生産性革命推進事業」では、あらたに社会保険適用を任意で実施する事業者を積極的に支援し、補助金助成の審査において加点の対象とすることを表明しています。

この改正により、今まで特定適用事業所に該当しなかった企業や、短時間労働者の要件を満たしていなかった従業員に大きな影響が出ることは間違いありません。企業は変更点や必要な手続きをしっかりと理解し、要件を満たす従業員を適切に社会保険へ加入させる必要があります。

また、企業側のみが制度を理解するのではなく、従業員にも何が変わるのかを知ってもらうことも大切です。変更点や従業員に与える影響をしっかりと周知し、質問があったときに答えられるよう準備しておきましょう。

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