HR用語の基礎知識

ABW

人事の図書館 編集長 大西直樹
「ABW(Activity Based Working)」とは、従業員がその時々の仕事の内容に応じて、最も効率的に行うにはどの場所が最適なのかを決定して仕事を進めるワークスタイルです。例えば、集中が必要な作業とそうではない作業に分け、集中が必要なときには周囲から邪魔が入らないオフィス内の静かな場所や自宅で行い、逆に適度な雑談をはさみながら作業を進めたいときは同僚が集まっている空間に行くこと等が挙げられます。どこで働くのかを所属や役割によって決めるのではなく、業務内容(アクティビティ)によって個々人の判断で決定し、アクティビティに最も適したスペースを選ぶことで生産性の向上を図る点が特徴です。

実はコロナ以前からクリエイティビティを求める組織や、優秀な人材確保の競争が激しい企業・業界を中心にABW導入が進んできましたが、コロナ禍を経てテレワークが急速に進んだことで、自宅と会社以外にも働く場所をよりハイブリッドに選択するワークスタイルが急速に浸透しつつあります。

「ABW」と「フリーアドレス」との違い。

ABWを最初に始めたのは、オランダの企業「Veldhoen + Company」と言われており、「個人が最善の仕事をするための時間とパートナーを自由に選ぶ権利がある」との考えにもとづいています。その後、オーストラリアでの成功事例をもって認知度が高まり、日本国内でも働き方改革の手法のひとつとして注目度が高まっています。

ABWには、「物理的な環境」「テクノロジー(IT環境等)」「社員の行動」という3つの軸があります。ABWと似たような取り組みに「フリーアドレス」がありますが、フリーアドレスはオフィスの中でどのデスクを選ぶかという点、つまり3つのうち「物理的な環境」の側面しか見られず、仕事を効率的に行うためにフレキシブルに場所を変えるわけではありません。一方でABWは様々なテクノロジーを駆使して社員の行動を変えることを目的としており、「この活動に適している空間はどこか」という判断軸で最適な場所を選ぶことで、オフィス内外問わず、そして勤務時間にも縛られない働き方ができるようになります。

ABWのメリット・デメリットとは。

ABWを導入することで企業が得られるメリットは以下の4つです。

◆コストの削減
ABWを導入することでオフィス面積を縮小できるため、事業所にかかる費用を大きく削減することが可能です。また後述する「従業員の定着率アップ」にもつながり、採用にかかるコストも抑えられます。

◆社員の定着率アップ
従業員が退職する理由には様々ありますが、「育児のため」「介護のため」「家族の転勤のため」といった、家庭の事情で辞めていく事例が少なくありません。しかしABWであれば、家庭の事情を考慮したうえで働けるようになります。

◆優秀な人材の獲得
大半の採用希望者は、その会社で長く働けることを望んでいます。ABWの導入によって、既存の従業員の満足度を上げることで、魅力的な職場に惹かれて優秀な人材が集まりやすくなる可能性があります。

◆社員のワークライフバランスの向上
テレワークや在宅勤務との併用によって、オフィス以外の場所も選択肢に入れれば、通勤時間の短縮等、社員のワークライフバランスが向上します。

一方でABWにはデメリットもあります。

◆社員同士のコミュニケーションの機会の減少
従来の働き方であれば、社員同士が必ず顔を合わせるため、必然的にコミュニケーションが生まれます。しかしオフィス外で働く社員も出てくると、結果、コミュニケーションミスや気軽な相談がしにくいといったマイナス面も生まれてしまいます。

◆生産性の低下
ABWは社員が自由に働ける一方で、一人一人が自分で仕事を管理しないといけません。そのため自己管理が苦手な社員だと、仕事が進まず、生産性が低下してしまうことがあります。そのためABW導入後にどう部下をマネジメントするか、事前に十分に検討しておく必要があります。

◆セキュリティの面でのリスク
オフィス外で働けるようになることで、社内情報を外へ持ち出すケースが増えてきます。それに伴い、情報漏洩のリスクも生じてしまいます。セキュリティ対策として、個人情報や重要機密情報を取り扱った業務はオフィス内でのみ行う等、ルールを決めるようにしましょう。

ABWを導入する際に気をつけたいポイント。

ABWを導入する際に気をつけたいポイントは、次の3点です。

◆会社への帰属意識の低下を防ぐ
チーム単位の活動時間や職場への滞在時間が短くなることで予想されるのは、チームや会社への帰属意識低下の可能性です。対策として週のうち何日かはチームメンバー全員で同じスペースで働くことで帰属意識の向上を図っている企業や、ABWを導入しても自席は設けているという企業もあります。

◆社員同士の信頼関係の構築
勤務管理や人事評価が難しくなることもABWのデメリットの一つで、社員同士、特に管理職と部下の間に信頼関係が築かれていない場合は、ABWの導入は難しいといえます。まずはABWを導入する目的・メリットを社員に理解してもらうこと、そしてABWに関する説明会の実施や必要なシステム・ツールを用意することで、ABWに対する不安を払拭し、導入後も以前と変わりなく円滑なコミュニケーション・信頼関係御構築ができる環境を整えることが必要です。

◆導入後のPDCAサイクルの構築
ABWを導入したらそれで完了ではありません。定期的にアンケートを実施したり、1on1ミーティングや定期面談等を通じて社員の声を聴き取ることで、継続的に改善していくPDCAサイクルを効率的に回していくことも必要です。

オフィス内外問わず、場所と時間を自由に選べる働き方であるABW。ABWを導入する場合は、入念な計画と準備が欠かせません。しかし導入すれば多様な働き方を実現でき、コスト削減や従業員の定着率アップに繋がる可能性があります。働き方改革やコロナ禍に合わせた働き方として、ABWの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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