HR関連法令・制度のご紹介

改正労災保険法(複数の会社で働く方への給付)

人事の図書館 編集担当者

9月1日、労災保険を手厚くする改正法が施行。

副業やパラレルキャリアといった言葉はこれまで多くのニュース・メディアでも話題になってきましたが、2018年に企業が就業規則を定める際に参考にするため厚生労働省が発表しているモデル就業規則に、「労働者は勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる」という規定が新設されました。これまでは、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という遵守事項があったことからも、今回の改訂で国が明確に副業を推進している方針が示されたともいえ、2018年は「副業元年」とも言われています。

新卒で入社した企業で定年まで勤めあげるといった、かつて理想とされてきたキャリアイメージは時代とともに変化しており、学情の調査でも20代の転職希望者の72.4%ができることなら副業したいと考えるといった結果が出ました。(出典:Re就活登録会員対象 20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(副業について) 2020年8月版)一言に副業といっても、本業の業務のないあいた時間に収入アップを目的として実施するケースだけでなく、スキルアップ・成長のために実施するケースや、「兼業・副業」とも呼ばれる複数の仕事に並行して取り組むケース等があります。

9月1日より、労働者災害補償保険法(以下、労災保険法)が改正されます。今回の改正の目的は、そんな副業人材に対する労働者災害補償保険(以下、労災保険)の適用を手厚くすることです。先述したように、副業を実施する方の目的は様々ですが、多様な働き方が叫ばれるなか、今後ますます注目され、副業に取り組みたい従業員や制度を導入する企業が増えることは言うまでもありません。既に副業を許可されている企業も、これから規定整備を進める企業も、その改正の要旨を理解しておきましょう。

改正法施行でどう変わる?

労災保険とは、事業所で勤める労働者が、業務や通勤が原因でけがや病気等になったときや死亡したときに、治療費や休業補償等、その収入の減少を補償すべく必要な保険給付を行う制度です。保険者は政府で、傷病により療養する際に給付される療養(補償)給付、同様の事情により労働することができず賃金を受けられない際にそれを補償する休業(補償)給付、傷病により障害が残ったときに支給される障害(補償)年金・一時金等様々な給付があります。

保険料は労働者の賃金額に応じて、労働者と企業が半分ずつ負担することになっていて、給付額もその賃金額に応じて算定されることになっています。しかし、改正前の労災保険は1つの企業で働くことを前提とした制度でしたので、業務中の災害が発生した場合、その災害が発生した勤務先での収入のみを基に保険給付額が算定されていました。今回の改正により、複数事業者から賃金を得ている方はすべての賃金額を合算した額を基礎として給付額を決定することになりますので、より個人の負担に応じた公正な給付が実現することになります。
また、賃金だけでなく労災認定の基準となる労働時間やストレス等といった個人にかかる負荷についても、それぞれの勤務先ごとで判断できない場合は、すべての勤務先の負荷を総合的に評価して労災認定できるかを判断することになりました。副業をされる方は1社での労働時間が短いことも多いため、個社ごとの判断だと労災認定の基準に満たなくなる可能性もあり、そういったケースへの備えを拡充することで、さらなる副業・兼業の推進の後押しとする狙いがあります。
◆厚生労働省(労働者災害補償保険法の改正について~複数の会社等で働かれている方への保険給付が変わります~)より抜粋

企業が気をつけなければならないこととは。

平成30年の関東経済局の「副業・兼業人材受け入れニーズ調査」では、副業・兼業に取り組んでいる、あるいは今後取り組む予定とした中小企業は全体の2割に満たないとの結果が出ており、現段階ではまだ多くの企業で取り組まれているとは言えない状況です。しかし、好むと好まざるに関わらず、国が副業・兼業を積極的に推し進めている以上、今後副業を導入する企業は間違いなく増えていくことでしょう。その際に企業として問題となりうるのは、他の勤務先での就業状況の把握です。

労災法の改正に合わせて2020年9月に更新された【副業・兼業の促進に関するガイドライン】では、「使用者は、副業・兼業に伴う労務管理を適切に行うため、届出制など副業・兼業の有無・内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましい。」とされており、他の勤務先における労働時間をも通算して管理する必要があるとされています。現時点では、義務化された規定はありませんが、副業・兼業をされている方の労災の認定に他の勤務先での就業状況が加味される以上、今後他の勤務先において労災が発生した際であっても、労働契約法で定められた従業員の安全配慮義務が問われる可能性もあります。

また、就業規則で副業・兼業を禁止していても、会社が従業員の副業・兼業を黙認するような状況があれば、万が一の際に事業主としての責任が問われることは間違いありません。とはいえ、全ての従業員の他社での勤怠状況を把握することは容易ではありません。例えば、月単位での副業・兼業の上限時間を設定し、超過しそうになった場合は自己申告をさせる等、これを機に、今一度副業・兼業に関する会社の方針を周知し、過度な時間外労働を抑制するために会社としての体制を整えることが求められます。

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