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学情リサーチ【COMPASS】2020.05

学情リサーチ【COMPASS】 2020.05

2019年度 人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ受賞校の取り組みとは

今回で13回目を迎える「社会人基礎力育成グランプリ」。その決勝大会が2月18日に東京で開催された。「社会人基礎力育成グランプリ」は、ゼミ・研究・授業等における社会人基礎力の「育成・成長の事例」と「その成果」を指導担当教員+学生によるチームが発表するもので、社会人基礎力の礎となる3つの能力(「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」)がどれだけ成長したか、大学で学ぶ一般教養や専門知識をどれだけ深められたかという点で審査が行われる。今回は35のチームから地区予選を勝ち抜いた6チームが決勝大会に進んだ。高齢者の健康維持を通して地域活性化を目指す取り組み、学生視点での新商品開発に挑んだ取り組み、大学で学ぶ情報技術を発展させ地域イベントの防災に挑んだ取り組みなど、大学教育の枠を超えて様々なことにチャレンジした学生たちによる熱を帯びたプレゼンテーションが行われた。

今号ではその中から、大賞を受賞した創価大学、準大賞を受賞した大阪工業大学、拓殖大学の取り組みと学生の成長の軌跡を、指導教員の声をもとに紹介する。

開催概要

開催日:2020年2月18日( 火)
会場:拓殖大学 文京キャンパス
主催:一般社団法人 社会人基礎力協議会
後援:日本商工会議所、公益財団法人経済同友会
オブザーバー:経済産業省

決勝大会 結果

社会人基礎力大賞
創価大学(関東地区代表)

準大賞
大阪工業大学(近畿地区代表)
拓殖大学(関東地区代表)

※ 経済産業省は、「社会人基礎力」の重要性は増しつつも、「人生100年時代」ならではの切り口・視点の必要性を踏まえ、2018年に「社会人基礎力」を「人生100年時代の社会人基礎力」へと改訂した。グランプリ名も「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ」に変更されたが、本文上は便宜的に「人生100年時代の」は省略して表記する。

決勝大会出場大学一覧

【関東地区】
①創価大学 経済学部 経済学科
「在宅介護者が精神的に健康で介護できる社会の実現を目指して」

②拓殖大学 国際学部 国際学科
「地域に根ざした協力のあり方を模索する  ~マレーシア国コタキナバル市での活動を通じて~」

【中部地区代表】
中京大学 総合政策学部(ビジネスコース)
「人生100年時代のハイウエイ走行に必要なマネジメント力とは」

【近畿地区代表】
大阪工業大学 情報科学部 情報知能学科
「AIシミュレーションによる危機管理対策を目指した地域コミュニティとの共創」

【中国・四国地区代表】
岡山商科大学 経済学部 経済学科
「初めての政策提言」

【九州・沖縄地区代表】
九州共立大学 経済学部 経済・経営学科
「北九州の高齢者を元気にするマニュアル作成への挑戦」

社会人基礎力の3つの能力(12の能力要素)

前に踏み出す力(アクション)

~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~

主体性
 

物事に進んで取り組む力

働きかけ力
 

他人に働きかけ巻き込む力

実行力

目的を設定し確実に行動する力

考え抜く力(シンキング)

~疑問を持ち、考え抜く力~

課題発見力

現状を分析し目的や課題を明らかにする力

計画力

課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力

創造力

新しい価値を生み出す力

チームで働く力

~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~

発信力

自分の意見をわかりやすく伝える力

傾聴力

相手の意見を丁寧に聴く力

柔軟性

意見の違いや立場の違いを理解する力

情況把握力

自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力

規律性

社会のルールや人との約束を守る力

ストレス
コントロール力

ストレスの発生源に対応する力

大賞

創価大学 経済学部 経済学科

「在宅介護者が精神的に健康で介護できる社会の実現を目指して」
指導教員:教務部長、経済学部教授 西浦 昭雄 氏

取り組み内容について

課題解決に向けアイデアを練る学生たち

当ゼミでは通常の専門ゼミのほか、授業外で社会貢献活動に携わるサブゼミを実施しています。国内外の数ある社会問題の中から、学生が自分たちでテーマを決め、アプローチ方法を考え、その問題に実際に取り組む、というものです。その中で、今回ゼミの学生たちが選んだテーマは「在宅介護における、介護する側のストレス過多の問題」です。自身の母親が義母の介護で苦闘する姿を目の当たりにしてきた学生がおり、この問題を取り上げたいと声を上げました。他のメンバーも家族や親戚等から介護について見聞きした経験をもっていたことから、「身近な人を救う力になりたい」とこのテーマに決めました。

経済学部の学生ということもあり、介護に関する知識はありません。介護に関する記事を読み漁るほか、厚生労働省やNPO法人等へのヒアリング調査、さらに実際に在宅介護者へのアンケート調査など、あの手この手で情報収集していきました。そこで分かったのは、在宅介護者は自分の時間の確保が難しく、介護者が集う会などはあっても利用者が少ない、ということです。ほかにも他人に家庭の事情を話すことに抵抗があり、ストレスの吐き出し口がないことも分かりました。時間をかけずにストレスを軽減できる取り組みができないものか。学生たちが思案する中で見つけたのが「感情を書き出すことがストレス軽減につながる」という研究論文です。これにヒントを得て、学生たちはWebサービス「カクノミ」を開発しました。その名が示すとおり、素直な感情をただひたすら書くというのがこのサイトの役割で、人目を気にせず書きだすことでストレス軽減が期待できます。

開発当初、介護者に対し行ったアンケートでは「利用したい」との声が半数を超えており、出だしは好調。ただし厳しい意見もありました。中でも「こんなもので介護者が救われると思わないでください」という意見に学生たちは大きなショックを受けていました。けれどもそれが学生たちのバネになったようです。介護者の元に足を運んでは思索を重ね、書き込みの公開有無を選択可能にしたり、介護経験者からの助言を受けられるようにするなど、サイトの改善を重ねていきました。


また、介護用品メーカーに介護用品の無料提供を依頼し、最終的に12社に協力いただけることになりました。介護者に継続して書き込んでもらえるよう、書き続けることへの特典としてこの介護用品を活用する仕組みです。「カクノミ」はどうにか試験運用にこぎつけ、利用者からは「気持ちが軽くなった」などの声が寄せられています。

想定外のテーマ変更。大きな悩みも活動の原動力に

実は学生たちが当初予定していたテーマは「外国人技能実習生問題」でした。実習生の失踪や過酷な労働環境などが度々報道されており、この問題に一石を投じられないかという思いでテーマとして選定しました。様々な調査を行う中で、やはり現地で生きた情報を収集すべきではないかと、学生たちはベトナムに向かいました。ベトナムは日本における実習生受け入れ最多の国です。日本での実習を終え帰国したベトナム人に調査をしたところ、想定外の結果が学生たちを待っていました。「日本での技能実習に満足している」という声が大半を占めたのです。果たしてこのままこのテーマで進めるべきなのか、あるいはテーマを変更すべきか。学生たちは大いに悩みました。話し合いの末、テーマ変更を決断。「在宅介護者のストレス過多の問題」へと舵を切りました。テーマを再設定したことで、例年の先輩たちと比べ数ヵ月遅れのスタートとなり、活動期間も限られます。ですが、この時間が無駄だったわけではありません。苦悩する中で「考え抜く力」が付いたと思いますし、この苦悩がその後の活動の原動力になったようです。

また今回の取り組みで、学生たちは様々な立場の人から手厳しい意見をもらうことがありました。ただ、そうした意見を真摯に受け止め、自分なりに消化し、言われたこと以上の成果として返す「フィードバック応用力」も磨くことができました。こうした力は、今後の学生生活でも、そして社会に出てからも発揮できると思います。3年前に卒業した元ゼミ生の話ですが、この方もサブゼミで介護に関するプロジェクトに取り組みました。就職したのは電気機器メーカーで介護とは別の事業に携わっていますが、介護問題のことが心の中で引っ掛かっていたそうです。そこで社内の新規事業プロジェクトに応募。そのリーダーとして嚥下障害(筋肉の衰えなどにより飲食物がうまく飲み込めなくなる症状)に対応したケア家電「とろみ飲料自動調理器」の開発を成し遂げました。これも広い意味でのフィードバック応用力だと思います。今回「在宅介護者のストレス軽減」に挑んだ学生たちも、取り組みの中で感じた気持ちを自分なりに消化し、社会に還元してもらえればと思っています。

準大賞

大阪工業大学 情報科学部 情報知能学科

「AIシミュレーションによる危機管理対策を目指した地域コミュニティとの共創」
指導教員:情報科学部 情報知能学科 知能応用システム研究室 教授 尾崎 敦夫 氏

取り組み内容について

アイデアソンでプレゼンする学生たち

大阪工業大学・情報科学部は大阪府枚方(ひらかた)市にキャンパスがあります。本学部では、地元の市役所や商工会議所とともに、情報技術を用いて企業や行政が抱える課題の解決に挑む「ひらかたアイデアソン・ハッカソンプロジェクト」(通称:Hirathon(ヒラソン))を実施しています。本学部初の学外組織と連携した大型プロジェクトであり、チームワークやリーダーシップなどを試す絶好の機会になることから、当研究室の学生に勧め、プロジェクトへの参加が決まりました。Hirathonは課題解決の仕組みを考えるアイデアソンと、そのアイデアの実用化に向けた開発を行うハッカソンで構成されます。

枚方市では毎月第2日曜日に「枚方宿くらわんか五六市(ごろくいち)」という地域イベントを実施しています。手作りのマルシェで、約200の店舗が並び、1日平均8,000人が訪れるなど当日は賑わいを見せるのですが、その分、災害時の安全確保が求められていました。一方で当研究室は「有事の際の意思決定支援×AI技術」をテーマに掲げており、五六市の課題と合致しています。そこで学生たちは、大学での学びを活かせ、さらに社会貢献に繋がるということで「五六市理事会との連携・共創による災害時での危機管理方式およびシステムの実現」を目標としてHirathonに取り組みました。

来場者の安全を確保するためには何ができるのか。学生たちは考えを巡らせた末、「人数分布を把握し、避難誘導を効率よく行う方法」を五六市理事会に提案しました。具体的な手法は、顔認識システムで来場人数を把握するというものです。ですが、個人情報やコストなど様々な面で課題があるとの指摘を理事会より頂き、アイデアの練り直しが求められました。その中で挙がった案が「多くの人が持つスマートフォンの台数を計測できれば、来場者数も推定できるのでは」というもの。さらに議論を深め、ついに「Wi-Fiを使って、来場者が所持するスマートフォンの台数を計測し、どのエリアにどの程度の人数がいるかを把握する」という方法を導き出しました。五六市理事会の懸念点も払拭でき、アイデアソンの成果発表会では最優秀賞を受賞することができました。

次はアイデアの実現に向けた開発です。ただこのタイミングで技術キーマンとなる学生が学会発表のため手伝えなくなるなど、前途多難のスタートでした。手探りで専門書を探し、1ヵ月間かけて基礎技術を身につけ、プログラムを組んでもエラーの連続・・・。昼夜を問わず試行錯誤を繰り返し、どうにか試作機が完成しました。五六市の会場マップ上に、来場者数に応じた円を表示させる形式です。これを五六市理事会に報告しましたが、「どのエリアが混んでいるのか分かりにくい」という意見のほか、専門的な話が相手に伝わらず、共通理解が得られませんでした。ハッカソンの発表日まではあとわずかです。その中で学生たちは五六市が開催される会場へ足繁く通い、現地の消防団や水道局からも意見を聞きながら改良を重ねていきました。そうして出来上がったのが、混雑具合を円の大きさや色といったビジュアルで表現し、さらに人数も数値で表示させるようにした分布図です。また専門技術を知らなくても操作できるように仕様改善していきました。理事会からも太鼓判が押され、ハッカソンの成果発表会でも見事最優秀賞を受賞しました。

学生たちはこれを応用させ、この取り組みの目標である「避難誘導シミュレーション」の開発に挑みました。避難者を最寄りの避難所に誘導する仕組みでは、道が混雑し避難所への到達に時間を要します。この課題解決に向け試行錯誤を繰り返した結果、誘導員同士で混雑状況を共有し合うことで、別の道へ迂回させる方式の考案に至りました。そして遂に、避難時間を短縮させながら、安全に避難誘導できるシミュレーションが完成しました。今後は、試作したシミュレーション・システムの五六市会場への実装・運用を目指していく予定です。

相手に伝わるプレゼンが成功のカギに

五六市の理事会でも、Hirathonの発表会でも、プレゼンの機会が多くありました。どんなに素晴らしいアイデアを生み出したとしても、専門外の人が理解できなければ意味がありません。今回の取り組みでも自分たちのアイデアやシステムの説明で苦労することが多かったようです。学生たちを指導するに当たり最も注力したことがプレゼンについてで、結果的にHirathonでは最優秀賞、社会人基礎力育成グランプリでも準大賞を受賞することができました。培ってきたプレゼン能力を、今後の学会や修論発表、就職活動、さらには社会に出てからの社内外へのプレゼンなど、あらゆる場面で活かしていって欲しいと思います。

準大賞

拓殖大学 国際学部 国際学科

「地域に根ざした協力のあり方を模索する ~マレーシア国コタキナバル市での活動を通じて~」
指導教員:国際学部 准教授 藍澤 淑雄 氏

取り組み内容について

ロクウライ村の子供たちとごみ拾いをする学生たち

当ゼミでは様々な社会問題の事例研究を行っています。その中でゼミの学生たちが特に関心を示したのが、マレーシア国コタキナバル市にある、人口4,000人程のロクウライ村が抱えている「ごみ問題」です。水上集落であるこの村では、日常的に海にごみが捨てられ、水辺がごみで埋め尽くされています。他にも問題はありますが、より深刻なのは「ごみ問題」ではないかと学生たちは見当を付けました。学生たちの希望は現地でこの問題に取り組むこと。そしてこの取り組みが社会人基礎力育成グランプリでの準大賞受賞に繋がりました。

ごみ問題の原因を探るため、学生たちが試そうとしたのは現地での社会調査です。まずはその準備として、調査項目の設定に取り掛かりました。「ロクウライ村におけるごみ問題の原因は、住民の意識が低いからである」といった仮説を立て、それを実証するための質問票を作成していきます。現地では日本語が通じませんので、質問票はまず英語で作成し、さらにマレーシア人の学生の力を借りてマレー語に翻訳しました。ほかにも、様々な場面を想定しながら現地住民との距離を縮めるためのアイデアを練っていきました。そして2019年9月、ロクウライ村を訪れる日が来ました。

現地では社会調査実施の許可を得るための村長訪問や、マレー語とは別にバジャウ語という現地語が存在するといった難題に出くわしましたが、どうにか調査を実施することができました。そこから導き出されたのは学生たちの想定とは逆の結果です。ごみが溢れているのは、ごみ問題に対する住民の意識が低いからと考えていたのですが、実際には想定よりも意識が高かったのです。そこで学生たちは現地住民と一緒にごみ問題について考えるワークショップを企画しました。突然ワークショップを開いても住民たちが来てくれる保証はありませんので、住民との距離を縮めるべく、まずは現地の子供たちとスポーツを通して交流を図りました。100人以上の子供が集まり、大盛り上がりです。これに手応えを得た学生たちは徹夜でワークショップの準備をしました。しかし期待とは裏腹に、ワークショップには誰一人集まりませんでした。学生たちも大きなショックを受けたようです。ただいつまでもくよくよせず、「自分たちに何ができるのか」とその場で議論を始めました。そこで出た結論は「子供たちとのネットワークはできている。子供たちに呼びかけて一緒にごみ拾いをしよう」というもの。嬉しいことに、ごみ拾いにも子供が100人以上集まってくれました。そして予期せぬことが起こりました。様子を見ていた親たちがその活動に加わり始めたのです。学生たちはそこに可能性を見出しました。

帰国後、活動を振り返りましたが、学生たちが一番引っかかったのは、やはり「なぜワークショップに誰も集まらなかったのか」という点です。学生たちが立てた仮説は「ごみを拾うインセンティブが村の人にないからではないか」というもの。ごみを拾うことで何らかの利益が得られる、その仕組み作りが必要ではないか、と議論を深めていきました。

そして2020年1月、ロクウライ村への2回目の訪問です。このときに開催したワークショップには住民が集まってくれました。その際、学生は2つの家庭にあるお願いをしました。それは、一定期間ペットボトルを集めてもらうというもの。集めたペットボトルをリサイクル業者が買い取ってくれれば、住民がごみを拾うメリットが生まれる、という発想です。リサイクル業者との交渉も学生たちが行い、実際にごみを買い取ってもらえる段階にまで達することができました。

想定外の出来事が起きたときこそ、議論をし、乗り越える

普段の学生生活とはまるで異なる社会での活動ということもあり、学生たちは想定外の出来事に何度も遭遇しました。ですが、そうした状況のときこそ議論を重ね、次に取るべき一手を考えてきました。その繰り返しによって、「前に踏み出す力」を大きく成長させられたのではないでしょうか。

この活動は現在も進行中です。当初はゼミの2年生5名でスタートし、現在は9名までメンバーが増えました。今の課題は、学生たちのやりたいことが先行し、村としての活動になっていない点です。住民が自主的に考え行動し、学生たちがそれをサポートする。それが理想形ですが、まだその段階には至っていません。ペットボトル回収の取り組みが成功事例となれば良いのですが、どの程度の利益に繋がるのか、他にも実践してくれる家庭が出てくるかなど、いくつもの不確定要素があります。学生たちは今後も想定外の場面に出くわすでしょう。それでも、これまで行ってきたように議論を重ね、試行錯誤を繰り返しながら、そうした事態を乗り越える力を磨いていってほしいと思います。

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