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学情レポート【COMPASS】2019.09

これからどうなる!? 新卒採用。多様な新卒採用形態は定着していくのか?

この1年間で、新卒採用の在り方を見直す議論が一気に加速した。発端は2018年10月の経団連が発表した新卒採用に関するルールの廃止だ。

10月9日の定例記者会見において経団連の中西会長は「採用広報は3年生の3月1日以降、選考は4年生の6月1日以降に開始する」などと定めていた「採用選考に関する指針」を、2021年以降卒の学生に対しては策定しないことを決めた、と発表した(なお経団連の担当者はこの背景について、後述の関係省庁連絡会議において、「採用活動に関する何らかのルールは必要ではあるが、そもそもの『指針』が経団連会員企業を対象としており、遵守する企業としない企業の混在が就職活動を混乱させている面がある。経団連という一つの経済団体ではなく、国全体の問題として政府が大学・経済界などを交えながら決定すべきでは」と発言している)。

これを受け、政府は関係省庁、大学関係者、経団連らによる「就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議」を10月15日、29日に実施。一定のルールが学修時間の確保に貢献していることや急激なルール変更は学生の混乱を招くことなどを踏まえ、経団連が定めていた指針を引き取る形で、政府として「2021年卒についても3月説明会解禁、6月面接解禁」を維持すると結論付けた(なお、2022年卒学生の就活日程については、来年度以降に改めて検討、とされた)。

その後、経団連は12月に、大学教育改革や新卒採用に関する双方の要望や考え方を率直に意見交換するため、大学と経済界が直接、継続的に対話する枠組みの設置を提案。これが「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」として結実し、その1回目が2019年1月31日に、2回目が4月22日に開催された。この2回目の会議同日、経団連はこれまでの議論をとりまとめた「中間とりまとめと共同提言」を公表した。この提言では以下のように、一括採用に偏重していた新卒採用に、より多様な採用形態を取り入れるべきでは、と述べられている。

今後は、日本の長期にわたる雇用慣行となってきた新卒一括採用(メンバーシップ型採用)※1に加え、ジョブ型雇用を念頭に置いた採用※2(以下、ジョブ型採用)も含め、学生個人の意志に応じた、複線的で多様な採用形態に、秩序をもって移行すべきである。

※1…新規卒業者を対象とし、採用日程・入社時期を統一し、学生のポテンシャルを重視した採用。なお、現在でも卒業後3年以内は新卒扱いとするとの厚労省通達が存在するものの実質的に機能していないとの指摘がある。

※2…新卒、既卒を問わず、専門スキルを重視した通年での採用、また、留学生や海外留学経験者の採用

なお、この3日前、日経新聞の一面に『経団連、通年採用に移行〜新卒一括を見直し大学と合意日本型雇用、転機に〜』という記事が掲載された(2019年4月19日付『日本経済新聞』朝刊より)。ただ、経団連会長は「報道にあるような、大学と経団連が通年採用に移行することで合意したという事実はない」とコメントしている。採用形態多様化への移行について大学と共通認識を確認したのであり、新卒一括採用を通年採用に切り替えることが本意ではない、としているのは留意する必要があるだろう。いずれにしても、こうした一連の議論や報道が、新卒採用の在り方を見直す契機となっていることは間違いない。

それでは、新卒採用の現状とこれからについて、実際に現場で採用活動に携わる企業人事担当者はどのように捉えているのではあろうか。学情は今年7月、企業の採用担当者に対し「新卒採用の在り方」についてアンケート調査を実施した。ここではその調査結果を紹介するとともに、新卒採用の今後の在り方を探る。

調査概要

■「新卒採用の在り方」に関するアンケート調査
・調査対象:全国の企業採用担当者
・調査期間:2019年7月8日~7月22日
・有効回答数:1,351件
・調査方法:Web上でのアンケート

※ レポート内の各項目は小数点第一位を有効桁数と表記しているため、択一式の回答の合計が100.0%にならない場合があります。

2021年卒採用では「3年生の3月広報解禁、4年生の6月選考解禁」を守る?

前述の通り、2021年卒採用においては政府が「3年生の3月広報解禁、4年生の6月選考解禁」を呼びかけることとなった。ではこのルールに対し、各社はどのように対応していく考えなのであろうか。今回のアンケートによると、「いずれも守る」が19.1%、「3月広報解禁は守るが、選考は5月以前から実施する」が46.6%、「いずれも守らない」が21.5%、「その他」が12.8%となった。「いずれも守る」「3月広報解禁は守るが・・・」を合わせると、およそ3分の2の企業は3月広報解禁を守る意向であり、早期化が加速するような状況にはならなそうである。参考に弊社が企業に対し調査した2020年卒の「企業セミナー開始時期」および「面接などの選考開始時期」を掲載するが、セミナー開始時期は「3月以降」が54.9%と過半数を占める。

一方、選考開始時期は「5月以前」が90.6%と大多数であった。2020年卒で見られた「3月広報解禁は守るが、6月選考解禁は守らない」という傾向は、2021年卒でも大きくは変わらないようだ。むしろ、2021年卒では「いずれも守る」が19.1%と、選考も6月解禁を守る企業は増加傾向にある。政府が呼びかけたことで、経団連非加盟企業も採用ルールを意識せざるを得なかったのかもしれない。なお、12.8%を占める「その他」の内訳は、ほとんどが「検討中」や「未定」という回答であった。

【参考】

出所:学情「2020年卒採用動向調査アンケート」(2019年1月調査)

通年採用の実施状況は?

今回話題に上がったのが「新卒採用における通年採用」である。ただその前に、第二新卒やキャリア層が中心となるが、一年を通して募集・採用を行う「一般的な通年採用」はどの程度実施されているのであろうか。アンケートによると34.6%の企業が「実施している」と回答。事業発展に伴う人材の継続的な募集や、離職率の高い業界における欠員補充など理由は様々であろうが、期間を限定しない採用を実施する企業が3分の1を超えている。「実施を検討している」も37.0%に及び、転職市場の今後ますますの活性化が予見される。

それでは「新卒採用における通年採用」についてはどうだろうか。「導入済み」は12.1%であり、「いずれは導入予定」(20.9%)、「検討中」(48.0%)など、導入に対して肯定的ではあるものの、現状は導入していない企業が大勢を占めた。「導入済み」の企業に対して「新卒採用における通年採用」の募集回数を聞いたところ、「常に応募を受け付け、随時選考している」が91.4%と大多数を占めている。
なお、「導入済み」企業の導入理由としては、「採用予定数に満たず、結果的に通年採用になっている」という声が大半であり、計画的に通年採用を実施しているわけではなく、結果的に通年採用になってしまっている企業がほとんどのようだ。また「導入済み」の企業に対して募集時期を聞くと、ほとんどは3年生の夏以降の募集であり、優秀な学生であれば学年を問わず接点を持ちたいと考える「1~2年生でも応募可」の企業は9.7%とまだまだ少数である。

一方、「新卒採用における通年採用」未導入企業に対し、導入していない理由を聞くと、主に3つの理由が挙げられた。1つ目はマンパワー不足。「年間を通して採用試験を行うには人的余裕がないため」といった声が多い。
2つ目は「通年で募集しなくても、春~夏の期間で採用予定数が充足する」といった、定期採用が上手くいき、通年採用の必要性がないからという理由。
3つ目は「検討してはいるがノウハウや社内体制の整備が十分でなく、現行の新卒一括採用のまま」というものであった。特に多く挙げられた理由は1つ目のマンパワー不足であり、特に人事担当者が採用以外の業務も兼務するケースが多い中小企業において、新たな採用手法を取り入れるには人事部門だけでは解決しがたい課題があると言える。

「新卒一括採用」はなくすべき?各社の考えは?

日本特有とも言われる「新卒一括採用」。卒業と同時にまとまった人数の新入社員を受け入れ、研修を行い、ゼロベースから社員を育て上げるこの採用形態は、終身雇用を前提とした企業文化の中では多大な役割を果たしてきた。しかし、終身雇用は限界点を迎え、またグローバル競争を生き抜く中で、新卒一括採用は時代にそぐわなくなったと言われて久しい。他方で、新卒一括採用によって就職活動に注力する時期がある程度固定されるため、学生からしてもメリットがあり、高い水準の就職率維持に貢献してきた面も否めない。

それでは新卒一括採用について、各社はどのように考えているのか。アンケートによると「新卒一括採用を軸とした採用が望ましい」は42.3%、「新卒一括採用、通年採用の併用が望ましい」が47.8%で、「新卒一括採用はなくすべき」は5.8%に留まった。新卒一括採用を肯定的に捉える企業が多いようだ。

「新卒一括採用を軸とした採用が望ましい」と回答した企業にその理由を聞くと、主に3つの理由が挙げられた。1つ目は「企業と学生が同タイミングで採用活動・就職活動を行えるため、お互いにとって都合が良い」から。2つ目は「新入社員研修をまとめて実施でき、効率的」だから。3つ目は「いずれは通年採用に移行したいが、情報やノウハウが不足しており、現行の新卒一括採用以上のメリットが見出せていない」ため、というものだ。「通年採用の実施状況は?」のパートで述べた内容と関連しているが、特に1つ目と2つ目はマンパワー不足に起因しており、人手やコストを掛けずに効率的に新卒採用~研修を行う上で、新卒一括採用がベストだと捉える企業が多いことがうかがえる。

「新卒一括採用、通年採用の併用が望ましい」とする企業の理由は、「一括採用が基本だが、海外留学をしている学生など、就職活動のメインの時期に動けない学生との接点を持つためには併用が望ましい」といった、様々な状況の学生に合わせるために通年も必要だが、基本軸は新卒一括採用とする企業が多かった。中には、「現状多くの学生にとって卒業タイミングが春であるため、春入社に向け一括採用を行うのが自然の流れであるが、もし卒業式が大学や学生個々でばらばらであるならば採用も必然的に通年になるだろう」といった意見や、「早い時期に就職先を決めたい学生がいたら早期に採用し、授業と並行して週1回などの短期労働をしてもらうのはどうか」といった意見も挙げられた。

「新卒一括採用はなくすべき」の理由としては、「時流に合っていない」「一括採用だと、学生が採用試験に受かるために作った自分を見せがち。もっと自由な採用スタイルで学生の本質を見極めていきたい」といった声が挙げられた。

ジョブ型採用の導入状況は?

前述の通り、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」が公表した「中間とりまとめと共同提言」では、新卒採用に関して「『ジョブ型採用』も含めた複線的な採用形態に移行すべき」と提言されている。ここではジョブ型採用について「新卒、既卒を問わず、専門スキルを重視した通年での採用、また、留学生や海外留学経験者の採用」と注記があるが、やや広義的である。

欧米諸国を中心とする海外の企業では「ジョブ型」の雇用形態が一般的である。営業、システムエンジニア、研究・開発、経理、貿易事務など特定の職務(ジョブ)について、「業務範囲はここからここまでです」、「この業務に携わる人にはこれだけの権限があります」といったことが明確に決められており、企業内における労働者が「その職務に携わる人」として存在しているのが「ジョブ型」である。採用の仕方についても、その職務に対する就業経験や技能がある人材を即戦力として採用することが一般的であり、日本のように就業経験のない新卒学生をそのまま採用するケースは稀だ。また採用方法だけでなく働き方も異なる。ジョブ型は労働契約を結んだその職務からの配置換えは原則なく、また「あの人は能力が高いから」といった理由で、自分の職務以外の仕事を任されることもない。一方、日本では「総合職」に代表されるように職務が固定化されず、ジョブローテーションという形で様々な部署を渡り歩きながら経験を積ませるケースや、退職者発生によりその穴埋めとしての人事異動など、会社都合の配置換えや転勤等が行われる。上記は一例であるが、ジョブ型の雇用慣行と、日本型の雇用慣行とでは大きな違いがあり、日本ではまだ馴染みが薄いであろうジョブ型採用は個人や企業によって捉え方に差があるとみられる。

その前提にはなるが、各社のジョブ型採用の導入状況を聞いた。それによると「ジョブ型採用を導入している」企業は7.7%に留まり、「ジョブ型採用を導入したい、導入する予定」も15.5%。一方で「導入予定はない」が67.9%と3分の2に達し、現状はジョブ型採用の導入に対して消極的な風潮である。

「ジョブ型採用を導入している」と回答した企業を業界別で見ると、最多はITであり、導入企業の3分の1を占める。続いて多いのがメーカーであった。ジョブ型採用を導入している理由も「そもそもエンジニアやSEなど、技術系の職種しか採用していない」といった声が多く挙げられた。それ以外には「求職者の働き方の多様性に応じた採用活動が必要になると想定して」「地元志向の方が増えたため」など、求職者のニーズに合わせてジョブ型採用を導入する企業も見られた。

「ジョブ型採用を導入したい、導入する予定」の企業の理由は、「ジョブ型採用を好む学生もいるので、総合職とジョブ型で分けた採用を検討」「専門知識を有する学生とのマッチングを図りたい」など、時流や学生の志向性の変化に合わせて対応したいという声が目立った。ただ、「就業経験のない学生が自分の『専門職』を選び出せるかは難しく、慎重に考えたい」という意見も見られた。

「導入の予定はない」企業の理由としては、「会社の方針として、専門スキルを身につけさせるのではなく、ゼネラリスト型の人材育成を掲げているため」「ジョブローテーションによりあらゆる部署の業務を経験させながら、会社の将来を担う人材を育成することを指針としているため」など、現状の企業の体制に合わない、といった声が目立った。他には「専門知識は入社後の教育で習得すればよいので、新卒者にはそこまで求めていない」「営業職募集が多く、入社時に専門スキルがなくても優秀な成績を上げる社員は多数いるので、ジョブ型としてこだわる必要はない」「中途採用では導入の余地があるが勤務経験のない新卒学生には適さないのではないか。導入したとしても学生の成長を止めてしまう恐れがある」など、新卒の学生には専門スキルは求めず、職務の固定がかえって新卒者の成長を妨げる懸念があるといった意見も多く寄せられた。

ここまでの企業アンケートの結果を見ていくと、日本特有の「無地の状態の学生を自社の色に染めていく」という強い新卒採用観が根づいていることが読み取れる。新卒採用の多様化は、行く行くはその方向へ進むにしても、すぐさまその在り方が変わるということはなさそうだ。

【補足】日本型雇用形態「メンバーシップ型」について

欧米諸国で一般的なジョブ型雇用に対し、日本の雇用形態は「メンバーシップ型」と言われる。これを名付けたのが、独立行政法人労働政策研究・研修機構で労働政策研究所長を務める濱口桂一郎氏である。濱口氏はその著書において、メンバーシップ型雇用形態における採用や労働の在り方を、「新規採用から定年退職までの数十年間同じ会社のメンバーとして過ごす『仲間』を選抜すること」「職務が限定されておらず、原則としてどんな仕事でも命じられれば従事する義務がある」としている(濱口桂一郎『若者と労働 ~「入社」の仕組みから解きほぐす~』(中公新書ラクレ、2013年8月))。まさに会社と社員は一蓮托生であり、「ジョブ型」雇用とは真逆の関係にある。
ただし、転職市場の活性化、男女共働きでの子育てや親の介護と仕事の両立など家庭環境の変化、プライベートを重視する若者の増加など、一世代前とは時代が変わり、それが当然とされてきた「メンバーシップ型」の雇用形態だけでは立ち行かなくなる時がくるだろう。

濱口氏は同書において、雇用保障の縮小(当該職務の縮小や撤退により労使協議に基づいた解雇がありうる)はあるものの、職務、労働時間、就業場所を限定し、また雇用期間に定めを設けない「ジョブ型正社員」を提案している。不本意な形で非正規労働者となった人や自分の職務や時間、住む場所を大事にしたいと考える正社員が、この「ジョブ型正社員」へ移行できるルートの確立が必要とし、その実現のために、大学現場における職業教育の必要性を述べている。
冒頭で紹介した経団連と大学関係者による「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」は、今回取り上げた新卒採用の在り方だけを協議する場ではなく、もう一つの柱に「大学教育改革」を据えている。それぞれが主張する「大学教育改革」には温度差があるが、企業も大学も生き残り、また発展していくために、変革が求められているのは間違いないだろう。

出所:学情「2021年卒学生就職活動開始前意識調査」(2019年8月調査)