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学情レポート【COMPASS】2019.07

学情レポート【COMPASS】 2019.07

平成30年度 人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ
受賞校インタビュー

今回で12回目を迎える「社会人基礎力育成グランプリ」。その全国決勝大会が2月19日に東京で開催された。「社会人基礎力育成グランプリ」は、ゼミ・研究・授業等における社会人基礎力の「育成・成長の事例」と「その成果」を指導担当教員+学生によるチームが発表するもので、社会人基礎力の礎となる3つの能力(「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」)がどれだけ成長したか、大学で学ぶ一般教養や専門知識をどれだけ深めることができたかという点で審査が行われる。今回は約50のチームから地区予選を勝ち抜いた8チームが決勝大会に進んだ。地元の商店街や団体とともに地域活性化を目指した取り組み、学生の視点での新商品開発に挑んだ取り組み、クラウドファンディングにより事業支援を行った取り組みなど、大学教育の枠を超えて様々なことにチャレンジした学生たちによる熱を帯びたプレゼンテーションが行われた。また今大会は決勝に進出した8チームのうち2チームが短期大学であることも特徴的であった。

今号ではその中から大賞(経済産業大臣賞)を受賞した創価女子短期大学、準大賞を受賞した帝塚山大学および松山大学の取り組みと学生の成長の軌跡を、インタビューにより紹介する。

開催概要

開催日:2019年2月19日(火)
会 場:拓殖大学 文京キャンパス
主 催:一般社団法人 社会人基礎力協議会
共 催:経済産業省

決勝大会 結果

社会人基礎力大賞
(経済産業大臣賞)

  • 創価女子短期大学
    (関東地区代表)

準大賞

  • 帝塚山大学
    (近畿地区代表)
  • 松山大学
    (中国・四国地区代表)

〈決勝大会出場大学一覧〉

【北海道・東北地区代表】
 福島学院大学短期大学部 情報ビジネス学科
  「阿武隈急行線30周年記念事業の支援を目的とした
  『はちみつビール』クラウドファンディングの企画運営」

【関東地区代表】
 ①創価女子短期大学 現代ビジネス学科
   「文通による不登校支援 ~Let'sアナログマジック~」

   ②千葉商科大学 人間社会学部 人間社会学科
   「真間あんどん祭り」

【中部地区代表】
  名古屋経済大学 法学部 法学科
   「創作料理沖縄居酒屋ちゃんぷる
 ~沖縄料理で地域活性化を目指して~」

【近畿地区代表】
 ①近畿大学 経営学部
 「サントリー×古殿ゼミ・産学連携プロジェクト
 -若者の自販機離れをくいとめろ!-」

   ②帝塚山大学 現代生活学部 食物栄養学科
  「地域振興支援に挑戦するTEZUcafe(学生レストラン)4期生
 ~最終章 歴史からの挑戦~」

【中国・四国地区代表】
 松山大学 経済学部 経済学科
 「地域ファンドによる資産形成と
 地域活性化を結び付けるプロジェクト」

【九州・沖縄地区代表】
 福岡大学 経済学部 産業経済学科
 「就職活動」


<社会人基礎力の3つの能力(12の能力要素)>

前に踏み出す力(アクション)

~一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力~

主体性
 

物事に進んで取り組む力

働きかけ力
 

他人に働きかけ巻き込む力

実行力

目的を設定し確実に行動する力

考え抜く力(シンキング)

~疑問を持ち、考え抜く力~

課題発見力

現状を分析し目的や課題を明らかにする力

計画力

課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力

創造力

新しい価値を生み出す力

チームで働く力(チームワーク)

~多様な人々とともに、目標に向けて協力する力~

発信力
 

自分の意見をわかりやすく伝える力

傾聴力

相手の意見を丁寧に聴く力

柔軟性
 

意見の違いや立場の違いを理解する力

情況把握力

自分と周囲の人々や物事との関係性を理解する力

規律性

社会のルールや人との約束を守る力

ストレスコン 
トロール力

ストレスの発生源に対応する力

大賞(経済産業大臣賞)

創価女子短期大学 現代ビジネス学科

「文通による不登校支援 ~Let’s アナログマジック~」

指導教員:現代ビジネス学科 教授 水元 昇 氏   

※水元教授は2019年4月より同短期大学・学長に就任されました。また2018年4月より学科改組のため現代ビジネス学科は国際ビジネス学科に変更となっています。上記は受賞時の経歴、ならびに学生の所属学科です。

取り組み内容について

▲「文通による不登校支援」に挑んだチームメンバー

まず当ゼミでは実践的な力を身につけてもらうため、ビジネスプランを自分たちで考えチームで取り組む活動を行っています。女性の感性を活かし「食とビジネス」、「ファッションとビジネス」などそれぞれが興味のある分野を追求していくのが主流ですが、もう少し視野を広げ、社会的な課題解決に挑むソーシャルビジネスの取り組みも可としています。

今回、大賞を受賞したチームの学生たちが選んだテーマは、そのソーシャルビジネスの一つと言える、「不登校で悩む子どもたちの支援」でした。ですが私は「やめた方がいいのでは」とこのテーマに難色を示しました。人の痛みや苦しみに立ち入ることになり、ましてや不登校になった子どもの保護者も関わる大変複雑で難しいテーマだからです。学生たちには「何をどうしたいの?何ができるの?」と何度も問いました。学生も引きません。私が強く言う度に一度持ち帰り、議論を交わし、何とかこの取り組みを前進させるための材料を練ってくるわけです。特に不登校が多い中学生と短大生はそれほど年齢差がなく、だからこそできることがきっとあるはず。具体性は乏しくても、その思いの強さは確固たるものでした。ただ、だからと言って何をどう実行すべきか、本当に実行して良いものかは見えていませんでした。

学生たちは外に目を向け、本学が所在する八王子市にある、不登校の生徒が通う塾に相談に訪れ、話を聞いたり、不登校の子の様子を見たりしながら、具体的な取り組み案を考えていきました。そうした経験を繰り返し、学生たちが考えたアイディアは「イベントなどを通して、皆で楽しんだらどうか」というものです。しかしある時、保護者の方から「運動会などのイベント事で嫌な思いをし、人と会うことが怖くなる子どもが多い」という話を聞かされ、自分たちの考えの甘さを痛感したようです。数か月かけて練ってきたイベントの計画は行き詰ってしまいました。ただ学生たちはこれにめげませんでした。議論を進める中で出てきたのは「文通」というアイディアです。不登校になった子どもが人前に出なくても、その声に耳を傾けることができる。SNSが主流の時代だからこそ、手書きの文字を通して人の温かさが伝わる「文通」というアナログなツールで支援したい、そのような発想でした。

学生たちは文通についてもっと調べようと、千葉県にある文通事業を営む会社や、不登校に関する新聞を発行しているNPO法人などを自ら探し出し、アポイントを取り付け訪問しました。自分たちが持つ問題意識をぶつけながら専門家の話に耳を傾け、時に厳しい意見を言われたこともあったようですが、そうした意見も真摯に受け止め、考えを深めていきました。様々な人と出会い、考えを深化させていく。このサイクルを繰り返す中で、「文通による不登校支援のシステム構築」が学生たちの目指すところとなりました。ただし肉付けが甘い部分が多く、私からもこんな疑問をぶつけました。「誰が主体となって手紙を書くの?」。学生たちは自分たちで行うつもりだったようですが、学生という立場を除けば特に専門性を持ち合わせているわけではありません。悩んだ末に学生たちが出した答えは「教師を目指している教育学部の学生に協力してもらうのはどうか。教育について専門的に学んでおり、教育学部生からしても良い経験になるはず。ついては教育学部の先生を紹介してほしい」という依頼でした。これを聞き、「またアイディアを深化させたな」とつくづく感心しました。このように課題に出くわす度に学生たちは知恵を絞り解決策を考えていきました。そしてようやくこの取り組みの具体的なビジョンが見えてきました。

活動を始めてから8か月が経過した12月、社会人基礎力育成グランプリの地区予選が開催されました。その前に挑んだ別のコンテストでは結果が振るわなかったため、地区予選で最優秀賞を獲得し、決勝大会への切符を手にできるとは思っておらず、予想外の結果でした。そこから2月の決勝大会までの2か月間、卒業論文の制作等で学生たちは多忙を極める時期。学生たちには「決勝も地区予選と同じ内容でいこう」と伝えましたが、「このままじゃいけない。まだまだ進化させる必要がある」と学生たちは動きを止めませんでした。そのような中、八王子市の教育委員会を通じて、市内の不登校の生徒が通う専門的な学校へ訪問する機会を得ました。そこで担当者から聞いた話が、学生たちの考えを大きく動かすこととなりました。学生が自分たちの思いの丈をぶつけたところ、「一生懸命考えてくれているのはよくわかりました。ただ、私たちも様々な対応を行っているが、生徒により事態の深刻さは一様ではなく、不登校という問題の難しさをいつも思い知らされています。それで、いま一番力を入れているのが『予防』に向けた取り組みです。生徒たちが不登校にならないためにはどうすればいいのか、それを考え実行するのが一番なのではないでしょうか」。それまでいかに「支援」するかを考えてきたわけですが、そうではなく「予防」する。この考えに出会ったとき、「道が開ける思いだった」そうです。社会人基礎力育成グランプリ決勝大会まで、あるいは卒業までの限られた時間の中で、文通を用いた「不登校予防」のシステム構築にまではたどりつけませんでしたが、まずは学生が自分の妹と文通し、検証をスタートさせるところまで活動を進めることができました。

諦めずにやり続けることがアイディアの深化につながる

▲決勝大会の表彰式で表彰状を掲げる学生たち

「賞をいただけたことも嬉しいです。ですが、ここまで頑張ってくることができたことが何よりの喜びです」

社会人基礎力育成グランプリの表彰式で、リーダーの学生が述べたこの言葉が、1年間の頑張りをそのまま表していると思います。不登校支援に関する専門家や教育関係者を含め、様々な分野の方々とお会いし、自分たちの考えをぶつけ、意見をもらい、それに対して考えを巡らせ、議論をし、アイディアを深化させていく。それを何度も何度も諦めずにやり続けてきました。それはもう見事としか言いようがありません。短大は2年間しかありません。いかに時間を有効活用するかも求められました。実はこの学生たちは八王子ショウガを使った商品開発という別のプロジェクトにも関わっており、学生生活はまさに多忙を極めていましたが、「2年間しかない」ことを逆手に取り、時間のやり繰りも実にうまく行っていたと思います。皆で授業の空きコマを見つけて集まる時間を設けるだけでなく、バス通学中もLINEでやり取りをしたり、Skypeで遠隔通話したりと、使える限りのツールを駆使しながら、限られた時間をフル活用してきました。

なぜ学生たちがここまで頑張れたのか。その一つは「不登校の子どもの支援」という課題設定にあると思います。チームメンバーの中で、実際に友人が不登校になった学生がおり、苦しんだり悩んだりしている顔を見てきた経験から、自分にも何かできないかという当事者意識が強かったのだと思います。「目の前の悩んでいる人に寄り添っていきたい」。どんなに課題が行き詰っても、その思いこそ学生が立ち返る原点であり、そこがぶれなかったからこそ、ここまでやり続けてこられたのではないでしょうか。それはまさにソーシャルビジネスの原点でもあり、取り組みを通じて、社会問題に挑むとはどういうことか、何が大事なのかを身をもって感じてくれたのではと思います。彼女たちを含むゼミ生の、この一年の人間的成長は素晴らしく、開学以来の「2年間で4年制大学以上の実力を」との挑戦目標が一つ花開き、短大でもここまでやれるということを、自信を持って社会にお届けすることができました。「創価の女性教育・人間教育」を標榜する本学にとっても、この受賞は大変嬉しいこととなりました。

準大賞

帝塚山大学 現代生活学部 食物栄養学科

「地域振興支援に挑戦するTEZUcafe(学生レストラン)4期生
~最終章 歴史からの挑戦~」

指導教員:現代生活学部 食物栄養学科 教授 河合 洋見 氏
※河合教授は2019年3月に定年退職を迎えられました。上記は受賞時の経歴です。

取り組み内容について

▲五條市等の特産品と吉村寅太郎の肖像画を掲載した「てんちゅうグミ」のパッケージ

本学は奈良県五條市と地域包括連携協定を結び、その中で当ゼミでは2015年4月から3年半にわたり、五條市の道の駅「吉野路大塔」で学生レストラン「TEZUcafe」を運営してきました。「TEZUcafe」はメニュー開発に始まり、調理、接客、会計などの業務全般を学生のみで行います。適切な人材配置と調理工程の検討、衛生上の安全管理と食材費等の原価管理など、経営そのものであるトータルマネジメントを実践で学びます。さらに道の駅までは大学から片道2時間かかります。雪が積もる冬期を除いたほぼ全ての休日にレストランを開いてきましたので、非常にタフな活動でした。

「TEZUcafe」の狙いは社会で活躍できる人材の育成です。学生たちが所属する食物栄養学科は、管理栄養士の国家試験対策に力が入れられる反面、社会と接する機会が多いわけではありません。例えば病院給食は様々な面で世間から批判されていますが、いくら試験の成績が良くてもその状況を変えられる豊かな発想力を持つことは難しい。ですので、社会に揉まれる環境を用意することで発想力や創造力を養ってほしい。そうした思いから「TEZUcafe」をスタートさせました。

「TEZUcafe」の1期生はレストラン運営のみでしたが、2期生、3期生は五條市名産の柿を使ったメニューの開発や、道の駅No.1グルメを決める「道-1グランプリ」出場など、活動の幅を広げていきました。そして、社会人基礎力育成グランプリで準大賞を得た4期生が挑んだのは地域の特産物を活かしたお土産作りです。私の定年退職に伴い、「TEZUcafe」は2018年10月に閉店が決まっていましたが、お土産品があれば自分たちの活動が半永久的に残る、そうした狙いがありました。過疎化が進む奈良県南部の地域振興も活動の大命題。そこで上がった意見は五條市の特産物である柿を使ったお土産品の開発ですが、柿を使った和菓子メーカー等は既に存在しており、そこと競合してはいけない。五條市だけに留まらず、より広がりのあるものができないか、そのような話し合いの中で浮かび上がったキーワードが「歴史」でした。

道の駅「吉野路大塔」がある五條市大塔町の町名は後醍醐天皇の皇子である「大塔宮護良(だいとうのみやもりよし)親王」が由来であり、「TEZUcafe」の名物である大塔カレーもここから来ています。大塔宮護良親王は鎌倉幕府を倒した人物であり、鎌倉宮に御祭神として祀られています。それならば鎌倉でこのカレーを並べようと勢い勇んで鎌倉市と交渉。しかし返ってきたのは「鎌倉宮は宮内庁直轄なので関知できません」という回答でした。近隣の商店街も訪れましたが、「常時商品を供給できますか」との指摘を受けました。野生の鹿肉等を用いる大塔カレーは食材の安定調達が難しく、鎌倉での展開は行き詰ってしまいました。

それでも学生たちは諦めず、次の手を模索。その中で、幕末に尊王攘夷を掲げ、五條に本陣を置いた天誅組(てんちゅうぐみ)に目が留まりました。天誅組の総裁の一人、吉村寅太郎は土佐の脱藩浪士で、土佐四天王の一人と言われています。私も高知に縁があった関係から、高知の名産を取り入れたコラボ商品作りを目指すことにしました。ただ、高知のゆずを使った饅頭等は既に商品化され、インパクトに欠ける。議論を重ねる中、ふと学生がもらした「天誅組…グミが良いんじゃない?」という言葉に、ほかの学生も「それだ!」と賛同。グミで進めることが決定し、そのまま「てんちゅうグミ」と名付けられました。歴史がテーマのため現地を知る必要があると、グミの試作品を手に吉村寅太郎の生家がある高知県津野町を訪問。その際、副町長から「私たちも応援します。ただ、津野町名産のほうじ茶も使ってほしい」というお話をいただきました。そうして、原材料は五條市の柿、高知の生姜、そして津野町のほうじ茶に決定。いずれも体内環境を整える食材であり、グミを特徴づけるものとなりました。その後、高知県庁への協力依頼や、製造工業探し、パッケージデザインの考案などを行い、現在はグミの製造を行っている段階です。

商品パッケージには津野町の協力のもと、吉村寅太郎の肖像画やプロフィールを掲載しています。土佐四天王といえば坂本龍馬があまりにも有名。それと比べ吉村寅太郎の知名度は低いですが、その人物にスポットライトを当てることで五條市の歴史に興味を持つきっかけを提供できること、さらに五條市・高知県・津野町の特産品の使用により地域振興の一助となること。そうした期待が込められたこの「てんちゅうグミ」が多くの人に愛されることを学生たちも祈っています。

社会人と接する機会が学生を成長させる

▲活動をやり遂げた学生たちによる、五條市への最後の活動報告会

活動を通して学生たちは多くのことを学びますが、成長のきっかけの一つは社会人相手の対応です。例えば、グミ作りの件で高知県に協力要請をする際、学生たちはどのようにアポイントを取ればいいのか分からない。「『私たちはこういうもので、こういったグミを作ろうとしている、どこに問い合わせればいいですか』とありのままに伝えたらいいんだ」とアドバイス。そして紹介いただいた地産地消・外商課からも「趣意書を提出してほしい」というお題を出され、これも書き方が分からずに悪戦苦闘。どうにか書き上げ、アポイントを取り付けることができました。社会に出たらごく当たり前のことでも、学生からすると難しいということはよくあります。こうした経験の一つひとつが、学生の成長につながったと思います。

「TEZUcafe」の1期あたりの活動期間は、3年生の後期から4年生の9月末まで。学生たちは活動を終えてからようやく国家試験に向けた勉強を本格スタートさせます。当然その時点ではずっと勉強を続けていた学生との差は大きいですが、面白いことにそこからスイッチが切り替わり、一気にトップレベルの成績を取れるようになります。活動をやり終えた達成感。追い込まれることによる集中力。それらが学生を後押しする力になっているようです。

社会に出る学生に対して私が伝えているのは「創造力をフルに発揮しろ」ということ。例えば病院の栄養士になる学生には、「自分たちの給料は患者さんからもらっているのだから、患者さんの満足のために何ができるかを考えなさい」と伝えています。それ以外の仕事も同様で、与えられ仕事をこなすのではなく、その仕事を発展させるために常に創意工夫してほしいと伝えています。「TEZUcafe」の活動がきっとその下地になっていると思いますし、創造力を発揮しながら社会で活躍していってほしいと願っています。

準大賞

松山大学 経済学部 経済学科

「地域ファンドによる資産形成と地域活性化を結び付けるプロジェクト」

指導教員:経済学部 教授 松本 直樹 氏

取り組み内容について

▲愛媛県庁を訪問し、提案を行う学生たち

本学では社会人基礎力の基礎を身につけることを目的に、学年・学部横断の取り組みである「iProject!」を実施しています。これは、伊予市役所や地元企業などと連携して、地域の特産品を使った商品開発を行い、社会人基礎力を高めながら、地域を身近に感じてもらう実践的な活動です。今回、社会人基礎力育成グランプリで準大賞を受賞した学生たちの取り組みは、「iProject!」メンバーのうち、当ゼミに所属する6名の学生による派生型プロジェクトです。

当ゼミのテーマは「地域活性化とポートフォリオ理論」です。ポートフォリオ理論とは、株式などの投資において、単独の銘柄に投資するのではなく、分散投資をすることで投資リスクを軽減させる理論で、学生たちはExcelの機能を用いながら複数の銘柄をどのような比率で組み合わせるべきか等を専門的に学んできました。時を同じくして、2017年~2018年には、老後にむけた個人型年金制度の一つである「iDeCo」の加入対象者拡大や、非課税の小額投資で将来的な資産形成を行う「つみたてNISA」開始といったニュースが注目されました。その一方で、2018年の7月頃、「投資信託を購入した顧客の半数近くが損失を抱えていた」という金融庁の調査結果が報道され、学生たちもこれを目にすることとなります。ポートフォリオ理論を学ぶ傍ら、学生たちの関心は自然と「自分たちの貯蓄や年金が将来的にどうなるのか」というところへ向かっていきました。学生たちが目をつけたのはゼミのテーマのうち、もう一方の「地域活性化」です。前述の「iDeCo」や「つみたてNISA」には「個人型」「継続的」という特徴があります。一方、「iProject!」の活動を通して学生たちは、地域活性化に必要なのは、国や外部に頼った一過性の取り組みではなく、「自律的」で「持続的」な取り組みだと実感していました。そこに共通点を見出し、それならば「投資で地域活性化ができるのではないか」という考えに行きつき、6名のメンバーによる新たなプロジェクトが始動しました。

四国の投資ファンドを調べる中、学生たちは「四国の未来」を見つけました。これは四国の地方銀行4行が締結した、四国創生に向けた包括提携の一環で作られたファンド「四国アライアンス 地域創生ファンド」の愛称で、身近な地元企業への投資により、四国の経済や資産運用の活性化を目指しています。若いうちから資産運用ができる「iDeCo」や「つみたてNISA」。そして地域活性化につながる「四国の未来」。学生たちはこれらの知識を深める中で、プロジェクトの目標を定めました。それは「『iDeCo』や『つみたてNISA』に『四国の未来』を組み入れる」というものです。学生たちはポートフォリオ理論を実践に移しました。すなわち、手作りの地域ファンド作成に乗り出したのです。地域特化型のファンドとして「ご当地ファンド」がありますが、銘柄数の少なさや地域固有という観点でリスクの高さがネックです。そこで学生たちはポートフォリオ理論の考え方を踏まえ、より多くの銘柄を集めてリスクの低減を図ろうと、苦労しながらも四国関連企業を101社選定しました。

ここまでの活動結果を踏まえ、愛媛県庁を訪問しました。ただし、学生たちの知識はまだまだ不十分。事前準備も不足し、ほとんど発言できずに終わりました。学生たちはこれに対し非常に悔しい思いをしたようです。それまでは個人作業が中心でしたが、県庁訪問が一つのきっかけとなり、行動にも徐々に変化が生まれ、チームで動くことを意識するようになります。ただ、県庁訪問では思いもよらない発見もありました。それは、県の職員も「四国の未来」を知らなかったという事実です。大学生に対し事前に行った認知度調査では、「つみたてNISA」を知らない学生は79%、「iDeCo」に至っては96%が知らないという結果でした。若いうちに資産形成できるこの2制度がこの結果であれば、「四国の未来」の認知度は言うまでもありません。これはまずいだろうと議論を重ね、「認知度向上に向け、自分たちが若者に対しPRしよう」という結論に至りました。

それから、「四国の未来」運営企業のグループ会社である大和証券株式会社を訪問。プロジェクトの目標であった「四国の未来」の「iDeCo」と「つみたてNISA」への組み入れを提案しました。しかし返答は、「つみたてNISA」は配当金の問題から導入できないというもの。そこで学生たちは「『iDeCo』への組み入れ」へと軌道修正しました。次に、愛媛県の地方銀行であり、「四国の未来」を取り扱っている伊予銀行を訪問しました。そこで学生たちは色好い返事をもらうことになります。伊予銀行のみで、四国に特化した年金向け投資プランの設立が可能だということです。「これを発展させれば、『四国の未来』を『iDeCo』に組み入れられるのでは」。学生たちは確かな手応えを感じたようです。ただし壁にもぶつかります。伊予銀行の担当者から「学生有志での金融商品のPR活動は金融商品取引法に反する」と告げられたのです。自分たちでPR活動ができない、ではどうすべきか。再び議論を重ねます。そこでたどり着いたのは、学生を対象に伊予銀行の担当者から「投資の大切さや資産運用の必要性」について講義いただくというもの。直接のPRはできなくても、専門家による講義で「四国の未来」に興味を持ってもらえれば間接的にPRできる。そんな狙いがありました。交渉の末、実際にこの講義は実現に至りました。その後も学生たちは、四国特化の年金向け投資プラン設立に向けての活動を続けています。

失敗から「チームワーク」の重要性に気づく

この取り組みを通して、何が成長したか。プロジェクトメンバー6名に問うと、異口同音に返ってきた答えは「チームワーク」でした。当プロジェクト以外に、部活動やアルバイト、就職活動といった活動も並行していたため、なかなか予定が合わず、メンバー全員が揃うことは稀でした。そのため作業量にも不均衡が生じ、不満を抱くメンバーもいました。学生の気持ちに変化が生じたきっかけの一つが、県庁訪問で露呈した準備不足でした。自分たちの取り組みを自分たちの言葉できちんと説明できなかった。そのことに強い焦りを感じ、そこから各人に責任感が生まれました。スケジュール管理の徹底、議事録の作成、作業が受け身にならないよう一人ひとりに課題を課す、1時間だけでも直接会う時間を設ける…。学生たちはチームであることを意識したプロジェクト進行に切り替えました。それが活動を前進させる確かな推進力となり、こちらからも成長する様子が見て取れました。

今回から「社会人基礎力」は「人生100年時代の社会人基礎力」へと発展しました。学生たちには活動の中で身につけた力を、他の活動、特に勉学において生かすよう伝えています。実際に授業では積極的に発言する姿が見られるようになり、またそれが他の学生にも波及しています。一人ひとりが責任を持つことでチームの結束が強まり、それが周囲への刺激になる。そんな良い連鎖を社会に出てからも生み出していってほしいと思います。

「人生100年時代の社会人基礎力」について(一般社団法人 社会人基礎力協議会より)

「人生100年時代の社会人基礎力」とは

「社会人基礎力」は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、2006年に経済産業省により提唱されました。下図にあるとおり、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、12の能力要素として定義されています。2018年には「人生100年時代の社会人基礎力」として、大学生のみならず、個人が企業・組職・社会と関わるライフステージの各段階で活躍し続けるために必要な概念として、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」「どう活躍するか」の3つの視点が加わりました。

出典:経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力パンフレット」

いま、なぜ「社会人基礎力」なのか

一般社団法人 社会人基礎力協議会 代表理事 多摩大学 教授 村山貞幸 氏

「社会人基礎力」は社会人のOS(オペレーティングシステム)

社会人基礎力という言葉は、学生が新たに社会で働くために最初に必要な力を誤解されることが多いですが、どの年齢においても重要かつ汎用性のある力です。専門知識やスキル、英語技能などをアプリととらえるならば、社会人基礎力は社会人のOSとして位置付けられます。

日本経済団体連合会が毎年行っている「2017年度新卒採用に関するアンケート調査結果」においても、新卒採用で重視した点は「コミュニケーション能力」「主体性」「チャレンジ精神」「協調性」「誠実性」が上位5つとなっており、550社以上の企業が仕事に必要な力と認識するものは社会人基礎力と重なることがわかります。他方で、OS上で走るアプリにあたる「留学経験」「履修履歴・学業成績」「語学力」は下位3つを占めていました。採用後の働く現場では、学業成績や語学力よりも学生時代の実体験に基づく社会人基礎力が成功につながると企業が感じていることを示した結果です。

人生100年時代を生き抜くために!

人生100年時代の社会人基礎力が担うべき役割は、2つあります。一つ目は、社内外での教育プログラムの基盤になることです。若手、中堅、管理職のいずれのキャリア段階においても、継続的かつ包括的に社会人基礎力が向上するトレーニングや機会を社内外で提供することによって、人材の能力向上が進み、流動化もスムーズに進むでしょう。実際、社会人基礎力を養うためには従来の座学形式のトレーニングやビジネススクール形式のケーススタディでは限界があり、すでに多くの大学でアクティブラーニングやPBL(問題解決型学習)形式の講義が取り入れられているように、社会人にも職務範囲に限らずプロジェクト等を通じて包括的な基礎力を身につける機会が重要となっています。教育機関だけではなく、社内留学制度や企業間のインターンシップの実施など、企業側の受け入れ体制の整備も必要と考えています。

二つ目は、個人の能力を測る指標としての活用です。定期的に自身の価値を振り返るうえで、社会人基礎力が役立ちます。次のキャリアステップに進むときや、学び直しをした際などに、どの程度社会人基礎力を高めたかという判断基準になります。一般的な採用時の適性検査や情報処理能力試験は個人の性格やスキルを測るものが中心で、重要としながらも経験に基づく社会人基礎力を客観的に測ることはできていません。履歴書や面接を通じて推測することとなるため、雇用のミスマッチが起こりやすく、特に情報量に限りのある中小企業においての課題でもあり、指標としての社会人基礎力の存在意義は大きいでしょう。

このように、まさに、人生100年時代を生き抜く人材の育成における重要な軸が社会人基礎力なのです。

2019年度 社会人基礎力育成グランプリ 開催予定

グランプリ委員会では、本年度も大学生向けの社会人基礎力育成グランプリを開催する計画です。開催時期は例年どおり、参加受付の締め切り2019年10月末、予選大会12月、グランプリ大会2020年2月下旬(東京)を予定しています。

詳細は一般社団法人社会人基礎力協議会ホームページ(下記URL)にてご案内いたします。
https://www.mda.ne.jp/kisoryoku/

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