スキルや人手が足りない際、スポット的に人材を雇う雇用形態をタスク型雇用といいます。メンバーシップ型雇用やジョブ型雇用と異なり、雇用契約は結ばれないのが一般的です。具体例を踏まえてわかりやすくご説明します。
タスク型雇用とは
タスク型雇用とは、特定のタスクやプロジェクトごとに、スポット的に専門的な人材を雇う方法です。
日本で一般的なメンバーシップ型雇用やジョブ型雇用は会社や職務に基づいていますが、タスク型雇用はタスクやプロジェクトごとに独立した契約を結びます。そのため、非正規雇用で対応したり、フリーランスや個人事業主と業務委託契約などを結んだりするのが一般的です。
タスク型で雇用した人材は、契約にある内容以外の業務を行ないません。契約期間も短期が多く、一日で終了する場合もあります。報酬はタスクの内容やスキルによって変動します。
タスク型雇用は、一時的に専門性の高い人材が必要な場合や、社内の人手が不足する際に有効な雇用方法です。
メンバーシップ型雇用との違い
メンバーシップ型雇用とは、職務内容や勤務地、雇用期間などを限定せずに人材を採用する方法です。人材のポテンシャルを重視し、新卒一括採用で総合職として雇用するケースが多いです。雇用される側は企業から指示された業務に従事します。
タスク型雇用とのちがいは、職務内容や期間があらかじめ決まっているか否かです。タスク型で雇われた人材は基本的に雇用側の企業に所属しないため、長期的なキャリア開発や昇進などの対象にはならないのが一般的です。
ジョブ型雇用との違い
ジョブ型雇用とは、必要な職務内容に対して適したスキルや経験を持つ人材を採用する方法です。職務内容は「ジョブディスクリプション」と呼ばれる職務記述書によって明確に提示され、これに基づいて雇用契約を行うのがジョブ型雇用の特徴です。
タスク型雇用と同様に、部署の異動や転勤、昇格・降格なども基本的には発生しません。
タスクやプロジェクトの完了とともに契約も終了するタスク型雇用と異なり、ジョブ型雇用は職務に基づいているために比較的長期で契約が続きます。
タスク型雇用が生まれた背景
IT技術の発達で、これまで人間が手作業でおこなっていたルーチン業務や定型的なタスクが自動化されました。一方で、人間はより創造性やコミュニケーションが必要な業務に集中できるようになったといえます。これに伴い、人間が担う職務の一部が細分化し、専門性が高まる傾向がみられます。
これにより、近年、プロジェクトやタスク単位で一時的に高度な技術を必要とする需要が発生しています。
ほかにも、インターネットの高速化とデジタルコミュニケーションツールの普及で、メンバーが異なる場所にいてもリモートでの共同作業が可能になりました。これにより、仕事の一部を遠隔地の専門家や外部の組織にアウトソーシングできるようになったことも、タスク型雇用が生まれた理由のひとつです。
タスク型雇用の例
タスク型雇用の例には、「出前・宅配ビジネス」やフリーランスへの業務委託などがあります。
出前・宅配ビジネス
コロナ禍での巣ごもり需要によって急成長している「出前・宅配ビジネス」は、タスク型雇用の代表的な例といえます。この場合のタスクは、一回ないしは数時間単位での配達業務です。
以前から出前のシステムは各飲食店にありましたが、出前・宅配ビジネスでは、配達パートナーを特定のお店とはかかわりのない個人事業主として雇用します。
いつ、どのぐらい働くのかは配達パートナーが自由に決められるので、まさにスポット的な雇用といえるでしょう。
フリーランスへの業務委託
フリーランスは、企業に属さず、タスクやプロジェクトごとに業務委託などで契約する働き方です。タスク型「雇用」とはいっても企業と個人の間で雇用契約は結ばれないケースが多くあります。
システム開発やサイト制作、WEB記事の執筆、動画編集など、専門性の高い仕事で多く見られるタスク型雇用の例です。
たとえばシステム開発では、現場によって必要な言語や技術が異なることから、プロジェクトごとに人材を雇用する企業が増えています。長期雇用よりコストがおさえられ、かつ、優秀な人材のスキルを取り入れられるからです。
タスク型雇用のメリット
タスク型雇用のメリットには大きく分けて3つあります。
採用コストの削減
通常、専門的なスキルの高さと採用コストは比例して高くなる傾向にあります。
たとえば、データサイエンティストやAIエンジニアなどがその例です。高いスキルをもった人材をアサインする際にも、正社員として雇用する場合と比べてコストをおさえられます。なぜならばタスク型雇用は特定の案件が終わるまでの短期での契約だからです。
柔軟な人員補充ができる
企業が新たに挑戦したいプロジェクトがある際、社内のリソースで必要なスキルや人手を用意できなければ、タスク型雇用が役立ちます。クラウドソーシング型のマッチングサービスなどを利用してスキルで人材を絞り込み、ニーズに合った適材をプロジェクト単位で柔軟に雇用できます。
効率的なチーム編成と適切なスキル導入で、自社リソースのみでは難しかった計画も達成できる可能性が高まり、事業のさらなる発展にもつながるでしょう。
新しいスキルや第三者視点での意見が取り入れられる
タスク型雇用の対象になる人材は基本的に社外の人間であり、忖度のないフラットな意見を聞けるメリットもあります。プロジェクトが行き詰まった際に、組織文化に左右されないアイデアや解決策を提供してもらえるでしょう。
社内に知見のなかった新しい技術やスキルをもたらしてくれる可能性もあります。外部の高いスキルをもった人材といっしょに働けば、自社の社員もノウハウを吸収し、成長できるでしょう。
タスク型雇用のデメリット
デメリットとしては、業務範囲の限定や人材を探す回数が増える手間といった、タスク型雇用に独自のものがあるほか、短期の契約であるために発生する、チームワークを高めることの難しさがあります。
特定の業務にしか適応できない
タスク型雇用では、ジョブ型と同様に職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成が必要です。
基本的にポテンシャル採用であるメンバーシップ型雇用とは異なり、タスク型で雇用した人材に対しては、職務記述書に記載のある内容以外の業務を依頼することはできません。よって、求めるスキルが明確化できない業務にタスク型雇用は不向きといえるでしょう。
人を募集する際にも、応募者を混乱させないように雇用条件の明示が必須です。
オールマイティーな能力を求められる仕事や強固なチームワークが必要なプロジェクトなど、そもそもタスク型雇用が向いていない種類の業務もあります。
チームワークを高めにくい
タスク型雇用は基本的に短期の契約であり、プロジェクト外でも社員間の関係性を保てるメンバーシップ型雇用やジョブ型雇用と比べると、チームワークを高めるのは難しいでしょう。
もしタスク型雇用で契約している人材とのあいだでチームワークを高めたいのなら、同じ人に継続してなんども仕事を依頼したり、もしくは自社の従業員としてジョブ型雇用に切り替えたり、といった工夫が必要です。
タスクやプロジェクトごとに人材を探す必要がある
タスクが終われば契約も終了するので、そのたびに適切な人材を探し直す手間があります。
あるいは、ひとりの人に今後も仕事を頼み続けたいと考えても、タスクごとに契約を結び直さなければならないケースがほとんどです。
とくにスキルの高い人材はほかの企業とも契約を結んでいる可能性が高く、スケジュールによっては依頼できない場合もあります。
タスク型雇用に向いている企業・向いていない企業
タスク型雇用には特性上、適しているケースとそうでない場合があります。
タスク型雇用が向いている企業
タスク型雇用は、専門的な知識や技術を社内リソースでまかなえない際やスポットで人材が欲しい場合に活躍します。「いつからいつまでの期間で、こういうことをやってほしい」と具体的に職務内容を提示できる業務に適しているでしょう。
ギグワークや副業のためのプラットフォームを使いこなす力や、短期契約の人材を活用できる環境がある企業に向いています。
タスク型雇用が向いていない企業
社員に多様な業務経験を通じて幅広くスキルを学ばせたい場合や、ジョブローテーションを通じて幅広い視点を持つ管理職候補を育成したい企業には、メンバーシップ型雇用が適しています。従業員全員に同程度のスキルで同じ業務をさせたい企業には、タスク型雇用は向いていないでしょう。
職務内容を重視する点ではジョブ型雇用もタスク型雇用と似た雇用形態ですが、契約の期間が異なります。スキル重視で専門性の高い業務を任せられる人材を探しているがチームワークも必要な企業には、タスク型雇用よりもジョブ型雇用が適しているといえます。
まとめ|スポットで能力を求める職務に向いているタスク型雇用
タスク型雇用は、よくメンバーシップ型雇用やジョブ型雇用と並べて語られますが、厳密にいうと「雇用契約」ではなく「業務委託契約」を結ぶケースが多いでしょう。長期の契約を結ぶことなく、必要なときにスポットで人材を雇う形態です。スキルを重視し、柔軟な人員補充によって効率のよいチーム編成ができるのがメリットといえます。
タスク型雇用が向いているケースとそうでない場合を見極めて、ほかの雇用形態とも組み合わせた活用がおすすめです。
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