企業の採用担当者であれば、「応募者がなかなか集まらない」「内定を出しても辞退されてしまう」といった状況に頭を悩ませている方は少なくないのではないでしょうか。
人材不足が叫ばれる現代において、即戦力となりうる人材を採用する手法として「ポテンシャル採用」があります。スキルや経験を重視する即戦力採用と異なり、数年後の活躍やカルチャーフィットに重きを置いた採用手法です。
この記事では、「ポテンシャル採用」を成功させたい人事担当の方に向けて、社会環境をふまえた採用の意義や考慮すべきポイント、具体的な成功のための手法やコツを伝授します。記事の後半では、ポテンシャル採用を実施するうえでよくある疑問を解説しているので、ぜひ参考にしてください。
ポテンシャル採用とは
スキルや経験よりも、社風との相性や素養といった将来性などを重視する手法、つまり潜在能力を意味する「ポテンシャル」に期待し、評価基準とする採用方法を指します。
中途採用のように現在持っているスキルや能力、経験などを重視し、即戦力として採用するのではなく、数年後の活躍やカルチャーフィットに焦点を当て、将来性に重きをおいた採用活動を行うことが特徴で、新卒や第二新卒がメインターゲットとなります。
ポテンシャル採用の対象年齢にとくに制限はありません。導入企業では、30歳以下とするところが多いようです。
ポテンシャル採用が注目されている背景
現在、少子高齢化の進行や出生率の低下、労働人口の減少などに伴い求人倍率が上昇し、採用市場は激化の一途をたどっています。
中途採用のなかでも、自社が求めるスキルセットがあらかじめ揃っている「即戦力人材」の採用は難易度が高く、売り手市場であることも相まって、企業が求人を出しても思うように応募が集まらない状態です。
採用の幅を広げる必要があるなか、経験や専門知識の有無に関わらずポテンシャルのある若手人材を採用して、入社後に能力を開発し、中長期的に活躍してもらおうとする動きがあります。
また、ポテンシャル採用は、新卒だけではなく、入社して数年の求職者を指す「第二新卒」や、3~7年の社会人経験を有する「ヤングキャリア」、海外大卒者、博士号取得者、海外留学・ワーキングホリデー経験者など、多様なキャリアを持った人材を採用するための方法としても注目されています。
ポテンシャル採用の具体的な参考事例
実際にポテンシャル採用を実施している企業の例をご紹介します。
ひとくちに「ポテンシャル採用」といっても各社で定義はさまざまです。
自社で実践する際の参考にしてみてください。
新卒採用とは別にポテンシャル採用の枠を設けている事例。
第二新卒や中途採用向けに、業界・職種未経験者にも
広く門戸を開いている。
さらに、チャレンジ精神を重視しており、
たとえ募集要件を満たしていなくても応募が可能。
新卒一括採用を廃止し、
スキルを求める「キャリア採用」との2枠で
通年で選考を行っている。
対象は応募時30歳以下、入社時18歳以上の
新卒・既卒・就業者。
新卒採用の一環としてポテンシャル採用を行っている事例。
通年で選考を行っている。新卒・既卒は問わず、
入社時30歳未満の新卒/既卒/就業者が対象。
ポテンシャル採用をする4つのメリット
ここでは、ポテンシャル採用を行う4つのメリットをお伝えします。
将来性のある人材を採用しやすい
経験やスキルではなく、ポテンシャルを重視した採用を実施することで、これまで採用できる機会が少なかった優秀な人材や、これまで見落としていた活躍する可能性のある人材が見つかる可能性が高まります。
スキルマッチの経験者採用では、希望条件に合わず採用できなかった人材も、ポテンシャル採用なら採用できるかもしれません。
また、現在「働き方の多様化」が進むにつれ、特に若手層のキャリアに対する価値観も変化しています。たとえば、従来型の年収アップや役職を目指すような固定的なキャリアではなく、「自分の適性を理解したうえでキャリアを構築していきたい」というニーズが高まっているのが特徴です。
そのため、「今後、自分が望むキャリアを突き詰めていきたい」「より自分を活かせる企業に転職をしたい」と考える、成長意欲を持った、主体性ある人材に出会える可能性もあります。
企業の世代交代を進められる
ポテンシャル採用で若手社員を採用することで、企業の存続に必要な世代交代を進めることができます。
たとえば、年長者が在籍している間に若い世代にリーダーを務めさせることで、年長者からノウハウを継承でき、結果として企業がリーダーシップ人材を失わずにビジネスを存続させることが可能です。
さらに、製造業や農業、水産業などの特定の業界では、熟練したメンバーから若手に技術を継承することで、企業のノウハウ喪失を防ぐことにもつながります。自社で蓄積しているノウハウは会社の財産ですから、それらを引き継いでもらえることで、よりビジネスを前進させられるでしょう。
多種多様な人材を採用できる
ポテンシャル採用は、多種多様な人材を採用できるというメリットもあります。学歴やスキルではなく、求職者一人ひとりが持つ潜在能力を重要視するため、さまざまな経験や能力を持つ人材を広く集められます。
また、第二新卒やヤングキャリアなどの若い世代や異なる業界・職種の経験者にリーチできるため、チームや会社全体に活気と新しい風を吹き込んでくれるような、やる気に満ち溢れた人材にも出会えることでしょう。
ビジネスマナーの研修コストを削減できる
ポテンシャル採用は、若手の社会人を中途採用する場合も対象になります。短期間でも社会人経験を有していれば、基礎的なビジネススキルを身につけているため、社会人としての言葉遣いやマナーに関する研修を行う必要がなく、研修コストを削減できるでしょう。
ポテンシャル採用をする3つのデメリット
ここでは、「ポテンシャル採用」をするうえでのデメリットを解説します。
専門知識の教育コストはかかる
ポテンシャル採用は、その名のとおり「潜在能力」を採用の根拠としているため、未経験業種への応募でも採用にいたることがあります。
ポテンシャル採用では、採用の際に業務に必要なスキルや経験を重視していないため、即戦力は期待できません。そのため、入社後に業務を遂行できるよう、教育コストをかけ、専門分野に関する教育を行う必要があります。
前職の仕事とのギャップは必ずある
未経験の職種へ転職した求職者は、必ずしも新しい職場に順応してスムーズに業務ができるようになるとは限りません。求職者の中には、事前に新しい業務内容をしっかり把握できておらず、前職の経験や習慣からなかなか抜け出せないケースも考えられます。
そのため、採用活動では求職者の具体的なキャリアプランを把握しながら、自社の価値観や業務内容とマッチするのかを綿密にチェックしておくことが大切です。また、入社後は適時面談を行ったり、懇親会を開催したりするなど、定期的なアフターフォローも行うようにしましょう。
適性を見極めるのは容易ではない
潜在能力そのものは目に見えないため、見極めが難しく、面接官が採用する人材を見誤ってしまう可能性があります。
そこで求職者の適性を見極めるために、どのようなポテンシャル人材を自社が必要とするのか、採用要件を具体的にしておくことをおすすめします。また複数の面接官による厳格なチェックを重ねて、自社の企業風土や文化にマッチする人材かどうかをしっかりと吟味することも大切です。
ポテンシャル採用をする際のポイント
ここでは、実際にポテンシャル採用を実施するうえでのポイントを5点紹介します。
募集方法の再検討
これまでの採用方法で人材を確保できていないのであれば、募集方法を再度検討する必要があります。ポテンシャル採用では、ターゲットが若年層になることから、若年求職者にとって馴染みやすい採用手法を選択する必要があるでしょう。
ポテンシャル採用においては、次のような選択肢が考えられます。
- ハローワーク
- 求人媒体(媒体ごとに取り扱う求人情報の業種・職種・地域・雇用形態などが異なる。若年層はWeb媒体が望ましい)
- 人材紹介(若年層向けの人材紹介が望ましい)
- 自社採用サイト、採用ホームページ
- 企業や従業員のSNS活用(Facebook、X ※旧Twitter、Instagram、LINEなど)
- リファラル採用
- 転職イベント・合同説明会(第二新卒向けなどが望ましい)
たとえば、知人や親族、社員に人材を紹介してもらう「リファラル採用」や、WebやSNSを使ったアプローチです。
とくに、若年層はWebを駆使した情報収集や情報発見が多いことから、Web上の情報を充実させることや、SNSなどのツールを活用することの重要性が増しています。
上記のような多岐にわたる募集方法のなかから、自社に合うものを選択する必要があります。
Re就活なら20代の求職者に特化した、効果的なアプローチが可能です。基本属性や経験、志向性などから、自社にマッチした求職者を検索できます。希望条件からスカウトメールの自動配信もでき、より効率的な採用活動を実現できます。
自社の給与体系の見直し
ポテンシャル採用は、即戦力採用ではないため、求職者も大幅な年収アップはあまり期待していない可能性が高いでしょう。
しかし、即戦力にならないからといって年収の最低ラインを下げすぎてしまうと、売り手市場の昨今においては、人材を集めるのが難しくなります。
求人情報では、募集する地域で生活に困らない年収を最低限提示するだけではなく、将来の伸びしろや年齢ごとの年収目安、キャリアプランなどを示せば、選考に臨む求職者の安心感にもつながります。
採用基準を明確化
ポテンシャル採用では、評価する「ポテンシャル」を定義しないで曖昧なままにしておくと、評価の平準化ができず、属人的な判断になってしまう危険性があります。
求職者の可能性を正しく見極めるためには、人物像や考え方など、採用において重要視する項目を明確にする必要があります。また、客観的に評価できるよう指標を作ることも必要です。
採用基準には次のような項目が考えられます。
- 目的意識を持っているか
- 柔軟性があるか
- 成長意欲があるか
- 最新情報のキャッチアップをしているか
- 社風とマッチするか
目的意識を持っているか
ポテンシャル採用では前職の退職理由だけでなく、将来のキャリアプランや、転職の目的意識を持っているかを確認しておきましょう。
柔軟性があるか
実務経験がない分、手段に固執することなく課題を客観的に捉え、解決に向けて柔軟に考える力を持っていることが期待されます。わからない点については素直に仲間や目上の方に質問するなど、人に頼る素直さもときに必要になるでしょう。ひたむきに取り組む姿勢と素直さ・柔軟性があるかを、質問のなかで探る必要があります。
成長意欲があるか
知識と経験を問わないポテンシャル採用においては、現在のスキルではなく、「今後スキルを身に着け、成長していきたい」という高いモチベーションを有していることが重要です。具体的には「そのスキルを身に着けるためにどんなことをすればよいのか」「企業やその業界、職種に対する理解を深める努力を具体的にしているか」などを確認しましょう。
最新情報のキャッチアップをしているか
ポテンシャル採用では、スキルを問うことはありませんが、「仕事内容に興味を持っているか」は問う必要があります。新しい情報にキャッチアップしているのか、ビジネスに対するアンテナを張っているのか、新しい領域に関する関心を持ち学習を行っているのか、は見極めの一つの要素になるでしょう。
社風とマッチするか
せっかく活躍できる人材になってもらっても、社風が合わなければ早期離職に繋がります。企業にとっては損失となるため、カルチャーフィットも重要です。自社のカルチャーや大切にしたい価値観に合うか、確認が必要です。
求職者に企業側のビジョンを提示
ポテンシャル採用においては、入社後のミスマッチをいかに防げるかが重要です。そのため、企業側が求職者に期待している将来のビジョン、たとえば期待するスキルや、仕事上で期待する役割などを提示する必要があります。
また、求職者がどんなキャリアパスやスキル獲得を希望しているのかを確認することも大切です。相互のビジョンのすり合わせが肝になります。
採用後の研修体制を充実
ポテンシャル採用においては、スキル面での教育・研修や、業務のサポート体制の構築が必要になります。社内だけで研修体制の構築が難しい場合は、外部委託を検討するのも一手です。
また、研修体制を充実させるだけでなく、メンターをつけるなど、早期離職を防ぐため、会社に馴染めるような土壌の構築も必要になるでしょう。
ポテンシャル採用する際のよくある疑問
ここでは、ポテンシャル採用に関するよくある疑問にまとめて回答しています。
新卒・中途採用・ポテンシャル採用の違いは?
新卒採用と中途採用、ポテンシャル採用の特徴は次のとおりです。
採用区分 | 特徴 |
新卒採用 |
|
中途採用 |
|
ポテンシャル採用 |
|
このように、採用のタイミングや対象者、見極めるポイントがそれぞれ異なります。
ポテンシャル採用は何歳までが対象?
対象の年齢は厳密には決まっていません。
ポテンシャル採用は第二新卒~20代に限らず、企業が希望するニーズにマッチすれば30代前半も採用の対象になります。
ポテンシャル採用を活用して自社の成長を促そう
労働人口が減少の一途をたどるなか、将来性のある人材を確保する難易度はますます上がっています。
今回ご紹介したポテンシャル採用を活用することで、企業の新陳代謝を促し、アイデア創出など新しい風を取り入れていきましょう。
Re就活は登録者の92.5%が20代のため、若手採用に効果的です。スカウトメール機能を使って、希望条件にマッチしたターゲットに直接アプローチすることもできます。採用の課題に悩む方は、ぜひ学情にご相談ください。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。