HR用語の基礎知識

VUCA

人事の図書館 編集長 大西直樹
「VUCA(ブーカ)」とは「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字をとった言葉で、社会やビジネスシーン等のあらゆるものにおいて「変化が激しく、予測不可能なことが連続して起こる状態」を意味します。VUCAという言葉の初出は、1987年のアメリカ陸軍戦略大学のカリキュラム開発資料といわれています。その後、1990年代のアメリカで冷戦終結後の複雑化した国際情勢を意味する軍事用語として使われ始め、2010年代にはビジネスシーンでも経営やマネジメントの文脈において、取り上げられるようになりました。日本では経済産業省が2019年に発表した企業競争力強化に関する提言で、「経営トップが率先して、VUCA時代におけるミッション・ビジョンの実現を目指し、組織や企業文化の変革を進めること」を掲げたことが、関心を集めるきっかけになりました。

※経済産業省「人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~」

VUCAとは「Volatility」「Uncertainty」「Complexity」「Ambiguity」の頭文字。

まずVUCAを構成する4つの言葉についてご説明します。

◆Volatility:変動性
変動性とは、これからどのような変化が起こっていくのかを予測することが難しい状態を指します。新しいテクノロジーや、SNSサービス等の出現などに伴い、経営にも大きな影響が生じる可能性があります。変動性に対応するためにも、消費者のニーズをいち早く察知する力や、常に社会の変化に関する情報収集が必要です。

◆Uncertainty:不確実性
不確実性な状態では、現時点で確定していないことが多く、経営にリスクが生じるものです。例えば東日本大震災や、集中豪雨といった自然災害は予測が難しい一方で、経営に大きなダメージを与えることとなります。さらに今後のスタンダードな働き方、環境の変化等も不確実性に該当し、過去の事例を参考することが大切です。

◆Complexity:複雑性
複雑性は、様々な要因が複雑に絡み合っている状態で、解決策を見出すのが困難な状況を指します。各国の経済格差や、政治的なリスク等の国際的な問題に加え、日本国内の法律・制度も当てはまります。特に世界的に幅広いエリアでサービスを展開している企業では、その地域の商習慣、顧客のニーズを理解しなければなりません。

◆Ambiguity:曖昧性
曖昧性とは、ある物事に対して、絶対的な解決策が発見できない状態です。具体的には消費者の多様化に伴い、どのようなマーケティング施策が適切であるかを導けないことが挙げられます。従来のマーケティング施策が通用しなくなった現代では、いち早く消費者の価値観を把握し、どのような方法を活用するかが問われます。

VUCA時代において必要な人材とは?

先ほどご紹介した経済産業省の提言の冒頭に、VUCA時代に求められているのは「日本型人材マネジメントのアップデート」であり、「競争力の源泉は人材であり人材戦略を経営戦略の中心に位置づける」ことだと記載されています。つまりVUCA時代において人材マネジメント、人事・採用業務はさらに重要性を増すことになります。

ここでVUCA時代において必要となる人材の特徴について、ご紹介します。

◆テクノロジーに理解がある
社会やビジネス環境の変化は、テクノロジーが発端となるケースが多く、テクノロジーへの理解は企業や自身への影響を読み取るヒントになります。既存のテクノロジーへの理解を深めることはもちろん、新しい情報に常にアンテナを張り、日々情報収集する姿勢も必要です。

◆自発的に考えられる
既存の考え方や事例をなぞるだけでは、社会の変化に対応できなくなるおそれがあります。AIやロボットが普及すると、将来的に取って代わられる可能性もあるでしょう。VUCA時代では情報や事例等を参考に、自発的に考えられる人材が求められます。日頃から違う視点から物事を考えたり、自分の考えを発言したりする等、思考のトレーニングに取り組むことが大切です。

◆ポータブルスキルを持っている
ポータブルスキルとは、持ち運びできるスキルと訳され、様々なシーンで活用できるスキルのことを言います。思考力やコミュニケーション能力、問題解決能力等、どこにいっても活用できるスキルを身につけることが求められています。

◆臨機応変に対応できる
変化が次々に起こるVUCAの時代では、企業はもちろん、人材にも柔軟性が求められています。変化を前に立ち止まってしまうのではなく、変化に合った思考や行動ができる人材が必要です。

◆柔軟にコミュニケーションがとれる
社会だけではなく、企業に集まる人材も多様化していきます。働き方や価値観等が異なる人たちと協力するためには、柔軟なコミュニケーション能力が必要です。それぞれの価値観や特性を受け入れ、円滑に対話できる人材が活躍するでしょう。

VUCA時代に活躍できる人材を育てるための思考法、OODAループ。

VUCAの時代では、企業を支える社員の育成・教育がこれまでよりも重要視されています。時代に合ったスキルを持つ人材を採用するだけではなく、既存の人材をVUCA時代で活躍できる人材に育てる必要があるためです。そのひとつとして提唱されている思考法が「OODA(ウーダ)ループ」です。

OODAループは、常に変化し、想定外のことが起こりうる戦況のなかで、また複雑になりすぎて全体像の理解が難しい状況のなかで、有効に働く迅速な意思決定モデルです。直面する緊急事態に「Observe(観察)、Orient(適応)、Decide(決断)、Act(行動)」という意思決定過程を繰り返すことで対応できるという思考法です。

◆Observe(観察)
最初の段階ではまず対象となる事象を観察し、ひたすら情報を収集します。十分な情報収集を行い、事業を取り巻く環境や競合の戦略を理解します。

◆Orient(適応)
収集した事業環境や競合の情報に対して、状況を分析し、どのような方針を立てるかを決めます。ひとつの方針だけではなく、複数の前提条件やシナリオを想定して考えるのもポイントです。

◆Decide(決断)
一つ前のステップで決定した方針を基に、施策や手段を決定していきます。刻々と変わる状況に合わせて、最善と思える方策を選び、なるべく具体的な行動をとることが重要です。

◆Act(行動)
意思決定した手段を実行していきます。VUCA時代は変化が早いので、状況が変わらないうちに迅速な行動が必要です。また1回のサイクルで終わらせず、何回もループを回すことも大切です。

有名なビジネスのフレームワークとしてPDCAがありますが、PDCAでは計画を立ててから実行に移すのに対し、OODAループではリアルタイムに情報収集と意思決定を行うところが異なり、まずは対象を観察し状況を判断し、そして意思決定し行動するという一連を繰り返していきます。OODAループのメリットは迅速に行動して判断を下せる点。つまりPDCAでいうところのPlanのプロセスを省いた、「やりながら考える」タイプのフレームワークであるといえます。ただし全てにおいてOODAループの方がPDCAよりも優れているというわけではないので、状況に応じて使いわける必要があります。

VUCA時代は、変動性・不確実性・複雑性が高く、明確な解決策を出すのが難しい曖昧な状態になりがちです。そのような時代を生き抜くためには、これまでのシステムから脱却し、より柔軟で迅速な意思決定をしたり、明確なビジョンを設定したりすることが必要です。VUCAとは何かを正しく理解し、時代に合った採用、人材育成に取り組みましょう。

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