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学情レポート【COMPASS】2018.09

学情レポート【COMPASS】 2018.09

東日本大震災から7年半 ~被災地における産業・雇用のいま~

AIやIoTなど、日進月歩で技術革新が進む昨今にあっても、免れがたいものが自然災害である。今年も6月の大阪府北部の地震、7月の平成30年7月豪雨などにより、甚大な被害がもたらされている。異常気象の発生は年々増加していると見られ、来年終わりを迎える平成を「災害の時代」と呼ぶ声もある。その平成において、さらには戦後において最大の被害をもたらしたのが、平成23年3月11日の東日本大震災である。

東日本大震災の発生から7年半。被災地では復興に向けた様々な取り組みが行われてきた。道半ばではあるが、復興庁によると、震災当初47万人だった避難者数は今年7月時点で6万人に減少している(復興庁ホームページ「復興の現状と課題」(平成30年8月)より)。また8月には2019年に開催されるラグビーワールドカップの会場となる岩手県釜石市の復興スタジアムの完成式典が開かれるなど嬉しいニュースも届けられた。被災地での復興に向けた取り組みを知ることは、新たな災害が起きた際、復興に向けて何をすべきかを考える礎となるだろう。

そこで今号では、特に産業や雇用に関して被災地ではどのような取り組みが行われ、復興に向かっていったのかを、現地で復興支援に携わる「東北経済産業局」へのアンケート等をもとに紹介する。

被災地における産業・雇用の復興について

※「東北経済産業局 地域経済部 産業支援課 産業人材政策室」および「東北経済産業局 地域経済部 東日本大震災復興推進室」へのアンケート等をもとに、株式会社学情が記事を作成

東日本大震災以降、新たに生まれた産業について

▲飯舘村にオープンした「いいたて村の道の駅までい館」。地元で生産された野菜の直売や生活必需品を販売するほか、花きの展示販売を行っている。

東日本大震災による津波や原子力災害により甚大な被害を受けた地域における課題の一つは、商業の再生・復興である。そこで、雇用の創出を通じての地域経済の活性化、産業立地や住民の帰還の促進等を図ることを目的に、津波被災市町村を対象とした「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金」及び原子力被災市町村を対象とした「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金」といった補助制度が創設されている。この補助金を活用し、工場、物流施設、試験研究施設、コールセンター等が新増設され、これにより「売上を約2倍に伸ばした」、「従業員数が約1.5倍に増加した」といった企業も現れ始めている状況だ。

さらに、同補助金を活用して、住民生活を支える商業機能の回復を支援するための商業施設も多く整備されてきている。例えば、岩手県においては、平成29年4月に陸前高田市にて「アバッセたかた」がオープンした。「アバッセ」はこの地域の方言で「一緒に行きましょう」という意味で、まさにこの言葉が示すように、事業再開を迷っていた多くの商業者が事業再開を決意。周辺の土地区画整備の進展とともに、新たなまちの中心施設として、賑わいが戻りつつある。同じく平成29年4月、大船渡市では、「いらっしゃい、おいで」という意味の「キャッセン」の名が付いた「キャッセン大船渡」もオープンした。

宮城県においては、平成28年12月に女川町にて「地元市場ハマテラス」が、平成29年3月には南三陸町にて「南三陸さんさん商店街」がオープン。「地元市場ハマテラス」は海をコンセプトに海産物等を販売する店舗等が出展。さらに近隣の商業テナントには首都圏から移住し創業した若者等が入居するなど、活気が生まれている。「南三陸さんさん商店街」は、オープンからの1年間で来場者は60万人を超えた。ウニやイクラなど、四季折々の海の幸を豪快に盛り付けた「キラキラ丼」が人気を博している。

福島県においては、平成29年7月に川俣町にて「とんやの郷」が、同年8月には飯舘村にて「いいたて村の道の駅 までい館」がオープン。住民の生活を支える生活必需品を販売するほか、特産品の展示販売、食堂、多目的スペース等を備え、地域コミュニティの再生や交流の活性化に貢献している。さらに今年6月には楢葉町にて「笑(えみ)ふるタウンならは」もオープンしている。こうした商業施設は地域住民の拠り所であり、まちの復興のシンボルとして、賑わい創出拠点、住民の帰還の促進等につながることが期待されている。

また、福島県においては、平成29年の3月から4月にかけて、川俣町、浪江町、飯舘村、富岡町の「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」が解除され、避難地域の復興再生の動きが進展している。原子力災害により失われた浜通りの産業・雇用を回復するためには、「福島イノベーション・コースト構想」の推進等による産業の復興・創造とともに、住民の帰還の促進に向けた賑わい創出、観光産業の強化等による新たな消費や交流人口の拡大が重要になる。「福島イノベーション・コースト構想」とは、浜通り地域等の産業回復に向け、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すものであり、廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産の分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいる。

例えば、廃炉については、福島第一原発の廃炉を加速するため、国際的な廃炉研究開発拠点の整備が進められている。その中の一つ、楢葉町の「楢葉遠隔技術開発センター」では、原子炉格納容器下部の漏えい箇所の補修や燃料デブリの取り出しに向け、モックアップ(実物大模型)試験施設を建設し、遠隔操作機器等の試験が行われている。

▲無人走行トラクターの耕うん実験

ロボットについては、南相馬市と浪江町を跨ぐエリアに総合的なロボット開発・実証拠点「福島ロボットテストフィールド」が整備され、例えば、ドローンを使用したインフラ点検、災害対応、物流などの実証試験等が進められている。

エネルギーについては、再生可能エネルギー等の新たなエネルギー関連産業の創出に向けた研究が進められている。例えば浪江町では、世界最大級となる1万kW級の水分解装置により、再生可能エネルギーから水素を製造する実証試験が実施されている。また、相馬市では「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」において、太陽光発電の余剰電力を活用する水素製造・貯蔵システムに関する実証試験が行われており、これによって再生可能エネルギーの地産地消を目指しているという。ほかにも、南相馬市では福島県土着の微細藻類を活用し、国産バイオ燃料の生産技術確立に向けた研究が進められているほか、福島県内沿岸部の各所にて新エネルギー関連産業の創出に向けた取り組みが進められている。

▲川俣町で栽培されたアンスリウム

農林水産については、担い手不足に対応した省力化や効率化等を図るため、全国に先駆けた先進的な農林水産業が実践されている。例えばICTによる温度、湿度等の生育条件の管理や省力化技術等を導入した、低コスト耐候性ハウス(トマト栽培)や太陽光利用型植物工場(イチゴ栽培)等を整備しているほか、無人走行トラクターによる耕うん実験も進められている。そのほかにも、食品に代わる新たな生産品として「花き」等の栽培を推進。カスミソウやトルコギキョウ、胡蝶蘭、アンスリウム等の栽培が行われている。アンスリウムについては川俣町と近畿大学が土の代わりにポリエステル培地による栽培を共同で進め、そこから栽培・出荷されたアンスリウムは様々な祝典で贈呈される花としても活用されている。

被災地の産業復興や雇用の活性化に向けての課題

▲東北復興水産加工品展示商談会の風景(平成30年)

東北経済産業局が平成29年6月に実施した事業者向けアンケート結果によると、建設業のように売上も雇用も震災前の水準以上という業種もあるが、震災前の水準には達していない業種が多い状況だ。「震災直前の水準まで売上が回復していない要因」は、例えば卸小売・サービス業は「既存顧客の喪失」が、旅館・ホテル業は「風評被害」が、運送業は「従業員不足」が際立っており、課題は一様ではない。

その中でも、太平洋沿岸の津波被災市町村の基幹産業である水産・食品加工業は、人材確保難や原材料調達難などから、震災前に比べ雇用や売上の回復が特に遅れている。水産・食品加工業は沿岸被災地域の雇用集積産業でもあり、黒潮と親潮、さらには日本海側からの津軽暖流がぶつかり合う三陸沖は、「世界三大漁場」の一つと言われるほど水産資源が豊富だ。この水産資源は、将来的にも大きな付加価値を生み出す可能性を秘めており、水産・食品加工業の売上や雇用の回復は被災地が産業復興を果たす上で欠かせない要素だと言える。

そこで東北経済産業局では、平成28年3月に商工団体、行政、支援機関からなる「三陸地域水産加工業等振興推進協議会」を設立。この協議会は「三陸地域が一体となってブランド力を高め、海外販路拡大等を促進すること」を目的としている。各社が単独で海外販路を見出すのは困難を伴う。また、関係省庁等の連携による海外展開等支援も行っており、複数の水産加工業者がチームを組んで海外展開を図るプロジェクト等を進めている。一例を挙げると、「石巻の食品を世界へ~企業連携型水産加工品等共同輸出モデル事業~」(石巻食品輸出振興協議会)、「『三陸ナマコ』の多用途商品開発推進事業」(「三陸ナマコ」ブランド創生チーム)、「気仙沼フィッシュソーセージのイスラム市場開拓プロジェクト」(株式会社阿部長商店)などである。そのほかにも海外展開に向けた様々なプロジェクトが進行している。

また、平成27年度から水産庁の予算を活用した「東北復興水産加工品展示商談会」が開催されている。青森・岩手・宮城・福島・茨城県の沿岸部水産加工業者と国内および海外のバイヤーが一堂に会する大規模商談会で、過去4年間で延べ461社が出展、来場者は延べ20,500名に上り、こうした場も新たな販路開拓に貢献している。

東北経済産業局のアンケートでも「震災直前の水準まで売上が回復した要因」として、水産・食品加工業は「新商品・新サービス開発等による新規顧客の確保」が他の業種を上回っている。同局では豊富な三陸の水産資源を活用し、新たな販路拡大を通して、被災地域の復興と自律的な発展を今後とも支援していく考えだ。

震災直前と現在の「雇用の動き」の比較

震災直前と現在の「売上の状況」の比較

震災直前の水準まで売上が回復していない要因

震災直前の水準まで売上が回復した要因

※出典:東北経済産業局「第7回グループ補助金(中小企業等グループ施設等復旧整備補助金)交付先アンケート調査(平成29年6月実施)」 http://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/topics/171012group.html をもとに株式会社学情が作成。

東北経済産業局による被災地での就職・雇用支援事業について

東日本大震災の被害が大きい東北地域においては、少子高齢化や大都市への人口流出が顕著である一方、復興の進展に伴い工場等の再開が加速しており、企業が必要とする人材の確保が困難な状況となっている。そこで東北経済産業局では、被災地域の中小企業・小規模事業者が必要な人材を確保できるよう、「東日本大震災被災地域中小企業・小規模事業者人材確保・定着等支援事業」を実施している。この事業は、企業の将来像や経営課題をふまえ、企業の成長・発展に資する真に必要な人材像を明確化するとともに、その人材の確保・定着までを一貫的に支援することを目的としている。合わせて、首都圏等から被災地域への人材還流を促進するとともに、被災地企業と必要な人材が適切にマッチングできる環境を構築することも目的としている。

事業の主な内容は、①専門家派遣、②魅力発信、③マッチングの3つだ。

①専門家派遣・・・被災地域の中小企業を対象に、企業の将来像や経営課題等をふまえた自社に必要な人材像の明確化、職場環境の整備・構築に向けた指導やアドバイスを実施。合わせて、人材に対する自社の魅力等の的確な発信力の習得・強化を支援するための専門家等の派遣を実施している。

②魅力発信・・・被災地企業の求人情報にとどまらない、経営ビジョンや、そこで働く人にフォーカスした企業及び地域の魅力を発信するためのツール(情報誌・HP等)の構築・運用を実施。また、首都圏等において、被災地域の現状や被災地企業の取組等に関する情報発信を行うセミナーやシンポジウム、ワークショップ等を開催し、母集団を形成。その母集団に積極的に参加を募り、首都圏等の人材をキャラバン隊として被災地域に派遣し、被災地企業や地域の魅力に触れてもらうとともに、企業の経営者等と意見交換を行い、被災地企業で働くことへの関心を高めている。

③マッチング・・・被災地企業が必要とする中核人材等を確保するため、首都圏を含めた地域内外から確保できる場として、マッチングイベントの開催や個別マッチング事業等を実施。また、採用人材の内定辞退や従業員の離職の低減を図るため、人材定着支援を実施している。

被災地で働くことの魅力ややりがいとは

最後に、被災地で働くことの魅力ややりがいについて、「東北経済産業局 地域経済部 産業支援課 産業人材政策室」からのアンケート回答を紹介する。「東日本大震災により甚大な被害を受けた地域では、商業の再生や復興の中核となる商業施設が続々とオープンし新規企業等の立地も徐々に進みつつありますが、更なる企業立地の促進や、観光誘客も含めた賑わいの創出が今後の課題の一つともなっています。被災地企業等で働くことは、自らが被災地域での復興支援に直接携わり、地域が前に向かって進む姿を目の当たりにできる機会となります。それは大きな充実感に繋がるのではないでしょうか。また自身のこれまでの専門性を活用できる仕事や、更なるスキルアップに対して、やりがいを感じていけると思います」。

 
 
 

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