近年、タレントプールと呼ばれるデータベースが注目を集めています。タレントプールを活用すると、効率的に採用活動を進められます。
自社で導入する前に、タレントプールとは何か、どのように活用するのかを把握しておきたい企業の担当者がいるのではないでしょうか。そこでこの記事では、タレントプールの基礎知識や採用活動で活用するメリットなどを解説します。
タレントプールとは
タレントプールは、人材や才能を意味する「タレント(Talent)」と蓄積を意味する「プール(Pool)」を組み合わせた言葉です。「人材プール」と呼ばれることもあります。
採用候補者の情報を管理するデータベース
タレントプールはその名のとおり、人材情報を蓄積するデータベースのことです。また、優秀な人材を中長期的に確保するために、採用候補者の情報を蓄積することにも使われることがあります。
たとえば社員が離職し、すぐに欠員を補充する必要がある場合、事前に採用候補者をデータベース化しておけば、自社が求める人材をピックアップし、すぐにアプローチすることができます。
一般的な採用活動の場合、応募者が多ければ選考に時間がかかりますが、タレントプールを活用すれば採用候補者を絞り込みやすく、多くの応募者から選考する必要がなくなります。
アメリカのコンサルティング会社が提唱した概念
タレントプールは、アメリカの大手コンサルティング会社が提唱した概念です。1997年から2000年の人材獲得や育成に関する調査結果をまとめた報告書「The War for Talent(ウォー・フォー・タレント)」で紹介されたのをきっかけに、広まりました。
当時はパソコンの登場により、IT人材の確保が急務だったという背景があります。人手不足を解消に導く有効な手段として、タレントプールが活用されるようになったというわけです。
タレントプールが注目されている背景
近年、さまざまな理由で人材獲得が困難になっています。このようななかでも、タレントプールを構築しておくことで、人材を獲得しやすくなります。ここからは、多くの業界で人材が不足している原因やタレントプールが注目されている背景を解説します。
生産年齢人口の減少
人材不足を課題に抱える企業が増えている理由の一つは、生産年齢人口の減少です。総務省の「令和4年版情報通信白書」によると、15~64歳の生産年齢人口は1995年をピークに減少していることが分かっています。
年 | 生産年齢人口数 |
1990年 | 8,590万人 |
1995年 | 8,716万人 |
2000年 |
8,622万人 |
2005年 | 8,409万人 |
2010年 | 8,103万人 |
2015年 | 7,735万人 |
2020年 |
7,509万人 |
2021年 | 7,450万人 |
このまま減少が続いた場合、2050年には5,275万人まで落ち込むことが見込まれています。生産年齢人口の減少は人材市場に大きな影響を与えており、すでに新たな人材を獲得するのが難しくなりつつあるのが現状です。
生産年齢人口が減少している近年は売り手市場にあるため、求職者に対して企業から積極的にアプローチしていく必要があります。そこで注目されているのがタレントプールなのです。
特定業界の人材不足
生産年齢人口が減少し続けているなか、すでに人手不足に陥っている業界もあります。厚生労働省の「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」によると、調査産業全体の34%の企業で人手不足が起きていることが分かっています。
産業 | 不足 | 過剰 |
調査産業合計 | 34% | 7% |
建設業 | 50% | 3% |
製造業 | 30% | 9% |
情報通信業 | 34% | 4% |
運輸業・郵便業 | 39% | 5% |
卸売業・小売業 | 17% | 8% |
金融業・保険業 | 10% | 2% |
不動産業・物品賃貸業 | 26% | 5% |
学術研究・専門・技術サービス業 | 40% | 4% |
宿泊業・飲食サービス業 | 16% | 17% |
生活関連サービス業・娯楽業 | 23% | 8% |
医療・福祉 | 53% | 4% |
サービス業 | 31% | 5% |
※出典:「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」(厚生労働省)
特に深刻なのは、建設業、医療・福祉、運輸業・郵便業、情報通信業です。建設業に至っては、半数の企業がすでに人手不足の状態です。厚生労働省の調査からは、人材を過剰に抱えている企業はほとんどないことが分かります。
また、業界に関わらず、専門性が高く優秀な人材は他社との人材獲得競争が激化しており、より獲得が難しい状況です。
働き方の多様化
時代の流れとともに価値観が変化し、在宅勤務や時短勤務など多様な働き方を求める求職者が増えています。
また、働く方法は企業に勤務するだけではありません。フリーランスや業務委託といった自由度の高い働き方もあります。
このように働き方が多様化し、労働力が流動化していることも、人材不足の原因の一つになっています。
タレントプールを活用するメリット
タレントプールを活用すると、一般的な採用活動に比べて効率的に人材を確保できる可能性があります。ここからは、タレントプールを活用するメリットを解説します。
採用ミスマッチを防げる
時間とコストをかけて人材を獲得しても、早期離職のリスクは少なからずあります。
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況を公表します」によると、2019年卒で3年以内に離職した人の割合は31.5%だったことが分かっています。
採用活動には、時間とコストがかかります。採用ミスマッチが起きて早期離職につながると、再度時間とコストをかけて人材を獲得しなければなりません。
タレントプールを活用し、プールしている人材に定期的にメルマガを発信したり個別にコンタクトをとったりすることで、自社への理解を深められ、採用ミスマッチの低減を期待できます。
採用活動の効率化が図れる
タレントプールを活用すると、将来的な採用候補者をデータベースに蓄積できます。採用が必要なタイミングを迎えたときに、データベースから条件に合う人材をピックアップすれば、すぐに候補者にアプローチすることが可能です。
一般的な採用活動では、求人の募集から採用までに一定の期間が必要です。また、自社の求人に応募があっても、自社が求める人材とマッチするとは限りません。
タレントプールは採用候補者を絞り込んだ上でデータベース化するため、採用までの期間を短縮できます。
採用コストの削減を期待できる
採用活動をする際には自社のホームページだけでなく、転職サイトに求人を掲載するケースもあります。転職サイトは、企業が広告料を支払って求人を掲載してもらう仕組みです。
求人を掲載しても、すぐに求職者から応募があるとは限らず、採用までに時間がかかる場合もあります。広告料は掲載期間が長くなるほど高くなるケースもあり、状況によっては採用コストが高額になることも想定されます。
一方でタレントプールを活用すれば、自社で採用候補者の情報を管理しているため、転職サイトでの求人掲載が不要です。広告料がかからない分、採用コストの削減を期待できるでしょう。
タレントプールを活用する際の課題と対策
タレントプールを活用する際の課題として、アプローチするタイミングやデータベースの管理が難しい点があげられます。自社で上手く運用するためにも、課題と対策を把握しておくことが大切です。
【課題】アプローチするタイミングの見極めが難しい
タレントプールを上手く活用するには、採用候補者に積極的にアプローチしていくことが重要です。しかし、採用候補者が求職中とは限らないため、アプローチのタイミングが難しい点が課題の一つです。
たとえ優秀な人材でも、求職中でなければ自社での採用につながらない可能性があります。また、採用候補者が求職中でも、タイミングが合わなければ他社に流れてしまうおそれもあります。
【対策】候補者の状況を考慮する
採用候補者を自社で獲得するためのポイントは、積極的にコンタクトを取ることです。しかし、採用候補者の転職意思が低く、条件が合わなければ、良い反応は期待できません。
そのためコンタクトを取る際は、採用候補者の状況を確認しましょう。状況に応じて適切なアプローチを仕掛けることで、採用につながる可能性があります。
【課題】データベース管理が難しい
タレントプールのデータはすぐには蓄積されないため、実質的に運用できるようになるまでには時間がかかるのが現状です。
また、採用候補者が少ないうちは条件にマッチした人材をピックアップしやすい一方で、データが蓄積されるほど似通った条件の採用候補者が増え、管理が難しくなる側面もあります。
【対策】定期的に整理する
蓄積されたデータベースは、定期的に整理すると管理しやすくなります。たとえば、採用候補者に優先順位をつけたり、グループ設定をしたりするなどです。
定期的に整理しておけば、必要なタイミングで条件にマッチする採用候補者をピックアップできます。
タレントプールの活用手順
タレントプールの活用手順は、次のとおりです。
- 自社が求める人材を明確化する
- データベースを構築する
- 採用候補者にアプローチを仕掛ける
各手順を詳しく解説します。
STEP1:自社が求める人材を明確化する
タレントプールを活用するにあたって、まずは自社が求める人材を明確にすることからスタートしましょう。入社後に働いてもらうポジションと業務内容をしっかり考えることで、具体的な人材をイメージしやすくなります。
特定のポジションを想定する場合、どのような能力や資質が必要なのかを定義します。企業理念や経営方針を参考に、自社にはどのような人材がマッチするかを検討し、ポジションに当てはめていく方法もあります。
STEP2:データベースを構築する
次に、自社が求める人材の情報をデータベース化していきましょう。たとえば過去に入社には至らなかったものの、優秀な人材がいた場合、基本属性や職歴などの情報をまとめます。データベース上で採用候補者を管理できれば、アプローチすべき人材を絞り込みやすくなります。
データ量が増えて管理が難しくなってきたら、専用の採用管理システムを導入するのも手段の一つです。採用管理システムについては、後述の「タレントプールの活用に関するよくある質問」で紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
STEP3:採用候補者にアプローチを仕掛ける
最後に、データベースからピックアップした採用候補者に向けて、アプローチを仕掛けましょう。採用候補者からのアクションがなくても、タイミングを見極めて再度アプローチを試みることが大切です。
また、何らかのアクションがあった採用候補者は、コンタクトが途絶えると関心が弱まるため、定期的にアプローチを続けましょう。採用候補者にアプローチする方法として、SNSを活用するのも選択肢の一つです。
なお、SNSを活用したアプローチについては、後述の「タレントプールの活用に関するよくある質問」で紹介しているので、参考にしてください。
タレントプールの活用に関するよくある質問
最後に、タレントプールの活用に関するよくある質問を紹介します。
データベースを管理しやすくする方法はあるのか
タレントプールは、データ量が増えるほど管理が難しくなる傾向にあります。
採用管理システムを導入すれば、データ量が増えても管理しやすくなります。採用管理システムとは、採用活動の管理に特化したシステムです。
管理のしやすさを重視してシステム構築されているため、採用候補者にアプローチするタイミングを見極めやすい点が魅力の一つです。
株式会社学情の「あさがくナビコミュニケーター」は、タレントプールとしても活用できます。近年の求職者が慣れ親しんでいるLINEを使用するため、高い開封率や返信率を期待できます。
また、求職者の基本属性や能力、志向性などを指定し、就職説明会やセミナーの案内を配信することも可能です。あさがくナビコミュニケーターの資料ダウンロードについては、こちらからお問い合わせください。
効果的にアプローチする手段はあるのか
採用候補者に効果的にアプローチする方法としてSNSがあります。
あさがくナビの「2023年卒学生の就職意識調査(スカウトメール)2021年11月版」でも、企業選びにスカウトメールを活用している学生が多いことが分かっています。
インターンシップなどの企業選びにおいて、活用しているもの | 割合 |
インターンシップ情報サイトからのお知らせメール | 60.6% |
スカウトメール | 52.3% |
条件を選択しての検索 |
48.0% |
おススメなどのピックアップ | 25.5% |
フリーワード検索 | 17.1% |
SNSでの情報 | 15.1% |
ハッシュタグを使用しての検索 | 5.4% |
採用候補者にはどのような情報を提供するべきか
採用候補者には、自社の求人に興味を持ってもらうことが重要です。アプローチする際は、次のような情報を積極的に開示しましょう。
- 自社が開催するイベント情報
- 事業に関する案内
- 交流会の情報 など
これらの情報を発信すると、自社の社風や雰囲気を伝えられます。静止画だけでなく、動画などの多種多様なコンテンツを発信することで、企業への理解が深められ、採用ミスマッチの低減にもつながります。
SNSやアプリに慣れ親しんだ学生や20代の採用には、JobTubeシリーズの活用がおすすめです。JobTubeでは学情レポーターが企業にインタビュー。働く人や社内の雰囲気が分かり、企業の魅力が求職者に伝わります。ぜひ自社での活用をご検討ください。
タレントプールを活用して効率的に人材を確保しよう
近年はさまざまな事情により、人材を獲得しにくい傾向にあります。従来の手法では、思うように応募者が集まりにくいため、企業には効率的に人材を確保する工夫が求められています。
タレントプールは自社の条件に合う採用候補者をデータベース化するため、必要なときにすぐにアプローチすることが可能です。タレントプールを活用して優秀な人材を獲得し、人手不足を解消しましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。