企業が継続的な成長を実現するためには、経営戦略が重要です。事業計画を作成する際、上司から経営戦略に沿ったものにしたほうが良いと指導を受けたが、具体的にどうすればいいか悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
本記事では、経営戦略の概要と必要性、策定の流れや注意点を詳しく解説します。企業事例も掲載していますので、経営戦略への理解を深めた上で事業計画に活かしたいと考えている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
経営戦略とは
「経営戦略(management strategy)」とは、企業が現状から目標を達成するための指針や指標を指します。
経営戦略は一般企業だけに限らず、自治体や非営利団体などあらゆる組織で必要とされ、実際に運用されています。
事業目標を達成するための行動指針
前述したとおり、経営戦略とは企業が目標を達成するための行動指針を表すものです。
戦略は「戦」という言葉が示すとおり、もともとは軍事用語でした。戦略の概念は、有史以前にも集団行動の指針として存在していました。その後、戦いに勝利するための計画といった意味合いで、軍事的な戦略が発展していきます。
現代社会において、戦いに勝利するといった軍事戦略の考え方を経営に応用する形で生まれたものが、経営戦略となります。
類似する3つの言葉との違い
似たような語句として次の3つがあげられますが、それぞれの持つ意味は異なります。
経営戦術 |
経営戦略を実現するためにとられる施策 |
経営計画 |
企業を経営するためにとられる具体的な計画 |
戦略経営 |
市場に合わせた戦略を立てて経営すること |
経営戦略は目標達成するための長期的な指針であるのに対し、経営戦術は戦略を実現させるためにとられる方法を指します。また、経営計画は経営戦略を実現するための具体的な計画を細かく描いたものです。
戦略経営は戦略的経営ともいわれ、市場のニーズや自社の組織体制の強化など、自社の経営を戦略的に進めることを指しています。
企業にとって経営戦略が重要な理由
企業の成長や発展には、経営戦略は重要な意味を持ちます。経営戦略を策定する理由は、主に次の点があげられます。
- 市場変化に対応するため
- 経営資源を効率的に活用するため
それぞれについて、詳しく説明します。
市場変化に対応するため
市場変化が激しい社会情勢に対応するためには、経営戦略の策定は必要不可欠です。
場当たり的な経営では長期的な変化に対応しきれず、経営が立ち行かなくなる恐れがあります。経営戦略として長期的なビジョンを立てておくことで、環境の変化に応じて戦略の立て直しが図れます。
あらかじめ自社の強みや弱みを把握して経営戦略を策定すると、市場が変化しても自社の進むべき道筋を見極めやすくなります。経営戦略という大きな柱を立てておくことで、環境の変化に応じて早い段階での戦略見直しが可能となり、市場に対応できる経営力の維持につなげられるでしょう。
経営資源を効率的に活用するため
経営資源の効率的な活用にも、経営戦略は大きく寄与します。経営資源とは、ヒト(人材)・モノ(原料や製品)・カネ(資金)といった経営を支える3つの要素のことです。
日本では、少子高齢化が進み将来的に生産年齢人口は縮小すると予想されています。それに伴い、人材が欠乏し、消費の落ち込みから原料や製品にかかるコストが増える可能性があります。経済規模が縮小し、資金繰りに悩むのは想像に難くありません。
経営資源の減少による変化に対応できるようになるには、経営戦略にて限りある経営資源を適切に分配することが重要です。その結果、行き当たりばったりの対策で経営資源が無駄にならず、企業としての成長も見込めるでしょう。
経営戦略の3つのレベル
経営戦略を立てるにあたっては、次の3つのレベルに分けて立案します。
- 企業戦略(全社戦略)
- 事業戦略
- 機能戦略
それぞれについて、詳しく説明します。
【企業戦略】企業全体の方向性を定める中長期的な戦略
企業戦略は、企業全体でどのような活動をするか方向性を定め、企業としてどう進むかという中長期的な戦略を立てることを指します。
企業戦略の具体的な例としては、次の内容があげられます。
- 事業領域の定義:複数の事業を行っている場合、どの領域に注力するか、どのような立ち位置で勝負していくか定める
- 経営資源の分配:それぞれの事業に対して、どのように経営資源を分配するか決める
- 経営理念の策定:企業の価値観や考え方を明確にし、目指すべき方向性を従業員や顧客、市場に対して発信する
企業戦略の内容によって今後の方向性が決められることから、客観的かつ誰にでも理解できる具体的な内容とするのが望ましいでしょう。
【事業戦略】企業の目標を実現させる事業ごとの方針や計画
事業戦略は、企業戦略をそれぞれの事業に落とし込み、目標を達成するための方針を定めることです。
複数事業に取り組む企業においては、それぞれターゲット顧客や市場、競合他社も異なってきます。そのため、取るべき戦略も事業ごとに変えていかなければなりません。事業戦略を考える際は、特定の市場や企業を分析し、事業内容に合わせた戦略が求められます。
具体的には、ターゲット設定に合わせた商品の立案、適切な経営資源の配分、企画から販売に至るビジネスプロセスの設定などがあげられます。
【機能戦略】組織内の各機能ごとに特化した戦略
機能戦略では、事業戦略を達成するために社内組織の機能を生かした戦略を立案し、経営資源を細かく振り分けます。
具体的には、次の例があげられます。
- 研究・開発戦略
- 営業戦略
- 人事戦略
- 財務戦略
- 生産戦略
- マーケティング戦略 など
機能戦略は、社内各部署の機能を生かした内容で策定され、部署としてどのように動けば良いかの方針となります。また、取り組まれる事業や商品・サービスによって、戦略内容はそれぞれ細かく変化します。しかし、各部署の戦略が企業戦略・事業戦略からかけ離れた内容とならないよう、全体の戦略や方向性に基づいた設計にすることが求められます。
経営戦略を策定する流れ
経営戦略を作成していく流れとしては、次の手順を踏む形が一般的です。
- 経営理念やビジョンの具体化
- 外部や内部の環境分析
- 戦略の策定・実行
それぞれについて、詳しく説明します。
経営理念やビジョンの具体化
経営戦略を策定するにあたって、まず経営理念と企業のビジョンを具体化します。
経営理念とは、企業がどのような理想像を持って存在しているかを明文化したものであり、経営者の考えそのものといっても過言ではありません。企業の「ミッション」と呼ばれることもあり、一般的に経営理念は時代や環境に左右されない、長期的な視点で考えられます。
企業のビジョンは、ある時点までに実現したい未来像を意味します。ステークホルダーや従業員に向けて具体的なゴールを示すものであり、経営理念に基づいた内容で策定されるケースが大半です。
経営理念やビジョンを具体化することで、企業としてどこへ向かうのか目標設定が曖昧にならず明確にできます。
外部や内部の環境分析
経営理念とビジョンを策定後、現実を正しく把握するために環境分析を行います。
企業の内外を取り巻く経営環境の分析によって、的確な課題の抽出が可能です。外部環境である顧客・競合の分析によって、市場のトレンドやニーズ、競合他社の動きなどが把握でき、事業の成功には何が必要かといった要因が抽出されます。
外部環境の分析と合わせて、自社環境の分析も進めます。経営資源の分析によって、外部環境分析で抽出された要因は自社の強みとして生かすこともできるでしょう。
外部環境で導き出した成功要因と内部環境の強みが合っていない場合は、外部環境を変えるように働きかけるか、自社構造の修正・改革によって対応します。
戦略の策定・実行
環境分析の結果をふまえ、実際の戦略を策定して実行していきます。
戦略を検討する際、複数パターンの方向性が出てくるケースもあるでしょう。その場合、実行の難易度や予想される結果、経営資源の状況を検討し、優先して実行する戦略を絞り込みます。可能であれば複数を同時進行させ、より効果的なものを選択するようにします。
実行課程で見つかった課題や問題に関しては、適宜振り返りを実施して改善、場合によっては経営理念やビジョン策定まで立ち返って見直すようにしましょう。
経営戦略を策定・実行する際のポイント
経営戦略を策定するにあたり、次のポイントに注意して進めるようにします。
- フレームワークを活用
- 経営に関わる概念・用語の理解
- 策定した経営戦略を現場に周知
- 優秀な人材の確保
それぞれについて、詳しく説明します。
フレームワークを活用
経営戦略の策定や実施には、フレームワークをうまく活用するとスムーズに進められます。
フレームワークとは、意思決定や状況分析、解決すべき問題などを一定の型や手順に落とし込み、内容を整理していくために使う枠組みです。経営戦略の策定時によく使われるフレームワークは、次表のとおりです。
フレームワークの種類 |
概要 |
SWOT |
・企業の強みや弱みの分析に活用 ・内部環境を強み(Strength)弱さ(Weakness)外部環境における機会(Opportunity)脅威(Threat)の4カテゴリーで情報を分析する手法 |
5フォース |
・企業を取り巻く脅威を5つに分けて分析する方法 ・「業界内の競合」「新規参入」「代替品・代替サービス」「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」の5つの要因に分けて分析、客観的な状況把握と改善を行う |
3C |
・企業を取り巻く環境分析のために活用される ・市場(Custmer)競合(Competiter)自社(Company)の3つを分析し、自社の戦略に活かす |
経営に関わる概念・用語の理解
経営戦略を策定する過程では、経営に関連する概念や用語がよく出てきます。それらの用語について、内容を深く理解しておくことが大切です。
よく使われる概念や用語について、次表にて紹介します。
用語 |
意味 |
コアコンピタンス |
・企業の中核を担う技術や能力など特定の強み。 ・企業の競争戦略には欠かせないものであり「顧客に利益をもたらす」「競合にまねされにくい」「複数の商品・市場に推進できる」といった自社能力を満たす必要があるとされている。 |
イノベーション |
企業内での技術革新を意味し、新たな発想や技術の導入でこれまでにない解決方法や新たな価値を生み出すこと。 ・イノベーションは提唱者によってさまざまな定義があり、代表的なものとしては「持続的イノベーションと破壊的イノベーション」「オープンイノベーションとクローズドイノベーション」「5種類のイノベーション」などがあげられる。 |
DX(デジタルトランスフォーメーション) |
・デジタル技術を活用して、人々の生活を改革する概念。 ・企業においては、ビジネス全体をDXによって変革させ、新たなビジネスモデルの創出と付加価値を生み出すことを指す。 |
企業遺伝子(企業DNA) |
・企業内部で長期間培われてきた文化や価値観のこと。 ・良くも悪くも、企業遺伝子は社内の文化や雰囲気、社外に対するブランディングにも大きく影響する。好ましくない企業遺伝子を見つけたら、早期に排除するのが重要となる。 |
インテグリティ |
・「誠実」「真摯」「高潔」などを意味し、組織をマネジメントする人材に求められる資質を指す概念。 ・マネジメント層の人選において、スキルとともにインテグリティのある人材を選ぶのが重要とされる。 |
サステナビリティ |
・「持続可能性」を意味し、環境や経済に配慮した経営活動を実施して、社会全体を長期的に持続させていく考え方。 ・「環境保護」「経済開発」「社会開発」といった観点を重視して取り組まれる。 |
一つめのコアコンピタンスについては、こちらの記事で詳しく解説していますので、あわせて参考にしてみてください。
策定した経営戦略を現場に周知
策定した経営戦略は、従業員全員に周知するようにします。
せっかく経営戦略を策定しても、経営陣で情報共有しているだけでは現場の活動にはつながりません。次にあげるような施策をとり、従業員へ内容の浸透を図ることが重要です。
- 経営陣から従業員へ直接説明する機会を設ける
- 社内報を発行し、従業員へ周知する
- 社内ポータルサイトを活用する
- 従業員研修に経営戦略の内容を入れる など
経営戦略は、企業の成長には欠かせないものです。従業員に周知させて意思の疎通を図り、従業員一人ひとりがそれぞれの役割を理解できるようにすることが求められるでしょう。
優秀な人材の確保
経営戦略を実行して成果を出すには、優秀な人材の確保は不可欠です。
いくら経営戦略が優れていても、十分なスキルを持つ人材が不足していると、思うような成果を得られない可能性があります。次にあげるような施策をとり、優秀な人材の確保と外部流出の防止に努めることが大切です。
- 求めるスキルに合わせた人材を採用する
- 業務内容に見合った報酬を支払う
- 既存従業員に対する育成を強化する
- 魅力的なキャリアパスを用意する など
経営戦略における企業事例
効果的な経営戦略の策定事例として、当サイトを運営する株式会社学情について紹介します。
学情は、新卒学生や20代を中心に、正社員での就職・転職の支援を実施する企業です。自社サイト内で経営戦略を公開しており、2022年10月期からの5か年での重点戦略として、次の3点をあげています。
- 運営している20代通年採用のプラットフォームをさらに強化する
- 新規事業への積極的なチャレンジを継続する
- 首都圏市場に資源を集中し、ブランド力とシェア拡大を実現する
経営ビジョンと経営戦略を具体的に明文化することで、ステークホルダーや従業員、さらに自社へ就職したいと考える求職者への大きなアピールにつながっています。
経営戦略は企業の成長のために重要な施策となる
経営戦略は企業が事業目標を達成するための指針であり、変化する市場への対応と効率的な経営資源の活用が可能となります。戦略レベルには「企業戦略」、「事業戦略」、「機能戦略」の3段階があり、企業戦略に基づいて事業分野や部署ごとの戦略へ細かく落とし込んでいきます。
優れた経営戦略が策定できても、従業員への周知や実行できる人材が不足していると思うように機能しません。従業員全員への周知徹底と優秀な人材育成が、経営戦略を実現させる上で重要となります。
経営戦略を策定して社外に公開すると、ステークホルダーへのアピールにもなるでしょう。また、従業員が企業で働く上でも経営戦略が基本とも言えます。経営陣だけではなく、各部署の担当者も経営戦略を深く理解し、部署内での行動指針とすることが求められるでしょう。
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