コアコンピタンスとは、「企業の中核となる技術力や能力」のことで、企業が成長し発展していくために重要なものです。
本記事では、コアコンピタンスの詳しい意味や要件、コアコンピタンス経営のメリットと課題について詳しく解説します。
自社のコアコンピタンスを見極める方法や5つの視点、コアコンピタンス経営を成功させるために大切なポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
コアコンピタンスとは
コアコンピタンスは、「core(コア=中心・核)」と「competence(コンピタンス=能力)」を組み合わせた言葉です。ビジネスシーンでは「企業の中核となる能力」のことを意味するものとして、1990年にアメリカの経済学者C.K.プラハラードとゲイリー・ハメルによって提唱されました。
コアコンピタンスは企業の競争戦略には欠かせないものとされ、「顧客に対し、他社には真似できない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」と定義されています。コアコンピタンスでは次の3つの要件を満たす必要があるとされています。
- 顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
- 競合相手に真似されにくい自社能力
- 複数の商品・市場に推進できる自社能力
似た言葉に「ケイパビリティ」というものがありますが、ケイパビリティは企業の持つ「組織的な能力」を意味しています。一方、コアコンピタンスは「特定の技術力」を指すものです。
どちらも同じ「企業の強み」を意味する言葉ですが、ケイパビリティは強みとなるビジネスのプロセスや、企業が顧客へ価値を提供する際の全体的な組織としての能力を指し、コアコンピタンスは特定の機能や技術力のみにフォーカスしているという違いがあります。
コアコンピタンスの5つの視点
コアコンピタンスを見極めるには、次の5つの視点が必要です。
- 模倣可能性(Imitability)
- 移動可能性(Transferability)
- 代替可能性(Substitutability)
- 希少性(Scarcity)
- 耐久性(Durability)
それぞれの視点を具体的に解説します。
模倣可能性(Imitability)
模倣可能性とは、「保有している技術や能力が、競合他社が簡単に模倣できるようなものか」ということです。他社が簡単に模倣できるような強みはコアコンピタンスとは言えません。
保有する技術や能力が他社より突出しており、「その分野では簡単に追いつかれることはない」「競合他社が簡単に模倣できるものではない」という場合は、その市場における優位性が高いということになり、コアコンピタンスであると言えるでしょう。
移動可能性(Transferability)
移動可能性とは、「保有する技術や能力が、一つの製品や分野に限らず、能力を発揮できる汎用性があるか」ということです。
素晴らしい技術や能力があっても、一つの製品にしか使われないものではその先の成長・発展が見込めません。自社のさまざまな製品やサービス、多方面の分野へ応用が可能な能力であることが大切です。
今後の幅広い展開が期待できる汎用性のある能力であるかどうか、所有する能力で新しい製品やサービスの開発も可能かどうかもコアコンピタンスを見極める大切な視点です。
代替可能性(Substitutability)
代替可能性とは、「保有する技術や能力、製品やサービスなどが、ほかのものに代替えできないか」ということです。別の技術やサービスでも同様のことができるのならば、独自性があるとは言えません。
ほかのものには代えることのできない技術やオリジナリティのある製品・サービスを持った企業は、独占的にシェアを確保できる可能性があります。そのため、代替できる可能性が低い能力は、コアコンピタンスであると言えます。
希少性(Scarcity)
希少性とは、「保有する技術や能力が珍しいものであるか・希少価値があるか」ということです。
希少価値があるかどうかは、模倣可能性と代替可能性が低いかどうかで判断できます。競合他社が簡単に模倣できたり、ほかのものに代替可能な技術や能力は、希少価値があるとは言えません。
模倣可能性と代替可能性が低く、希少性の高い技術や能力であれば、その市場におけるアドバンテージを確保できるコアコンピタンスと言えるでしょう。
耐久性(Durability)
耐久性とは、「保有する保有する技術や能力が短期間で消滅しないか・長期間にわたって競合他社の追従を許さないか」ということです。
短期間で強みがなくなってしまう場合は市場で有利な立場に立ち続けることはできず、コアコンピタンスとは言えません。強みに耐久性があればあるほど、価値や信頼性は高まるでしょう。
移り変わりの激しい現代社会のなかで、耐久性を維持するのは難しくなってきていますが、ブランド力だけでなく、製品やサービスの価値に耐久性があることが大切です。
自社のコアコンピタンスの見極め方
自社にとってのコアコンピタンスが何かを見極める際の手順は次のとおりです。
- 自社の強みをリストアップする
- コアコンピタンスとなりえるか評価する
- 顧客の利益につながるか検討する
- コアコンピタンスを絞り込む
それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
1.自社の強みをリストアップする
まずは自社の持つ強みを洗い出しましょう。技術や能力、特性、製品・サービス、人材、企業文化やノウハウなど、さまざまな要素でリストアップします。
「これは強みと言えるか分からない」といったような判断に迷うものも、ほかの強みと掛け合わせることで新たな強みや何かのきっかけになる可能性もあります。まずはすべてリストアップしましょう。
2.コアコンピタンスとなりえるか評価する
リストアップした強みが、次の3つの要件を満たしているかどうか評価します。
- 顧客に何らかの利益をもたらす自社能力
- 競合相手に真似されにくい自社能力
- 複数の商品・市場に推進できる自社能力
その後、コアコンピタンスを見極めるための5つの視点である「模倣可能性」「移動可能性」「代替可能性」「希少性」「耐久性」に加え「顧客に価値をもたらすか」に当てはめて評価しましょう。
評価の際は、安易な見極めや希望的観測にならないよう注意する必要があります。見極めを誤ると企業の損失や成長を止める要素になりかねないため、慎重に行いましょう。自社の強みや弱みを整理するためには、SWOT分析を用いるのも効果的です。
SWOT分析とは、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の頭文字を取ったフレームワークです。この4つの要素を使って現状を分析します。
3.顧客の利益につながるか検討する
自社内で「これは強みである」と考えている技術や能力も、顧客にとって価値や利用する利益を感じてもらえないものであれば意味がありません。顧客の利益につながらなければ自社の売上も上がらず、コアコンピタンスとは言えないでしょう。
そのため、リストアップした強みが顧客満足につながるものであるかどうかを踏まえて検討する必要があります。
4.コアコンピタンスを絞り込む
最後に評価をおこなった強みを多角的な視点から精査し、自社にとってのコアコンピタンスを絞り込みます。
コアコンピタンスは、将来にわたって経営方針を支える重要なものです。一度決定したコアコンピタンスを大きく変えることはないという前提のもと、自社の将来や未来の市場動向を踏まえながら絞り込みましょう。
コアコンピタンス経営のメリット
コアコンピタンス経営とは、自社の持つ優位性を活かして市場における地位を確保する経営手法のことです。コアコンピタンス経営をするメリットは次のとおりです。
- 市場の変化に対応しやすい
- 新たな事業の創出が期待できる
- 経営の長期的安定に寄与する
それぞれのメリットを詳しく解説します。
市場の変化に対応しやすい
コアコンピタンスは特定の製品やサービスではなく、製品やサービスの根幹をなす技術力や能力です。そのため、市場のニーズが変化しても柔軟に対応しやすいことは大きなメリットと言えるでしょう。
需要に合わせてコアコンピタンスとなる技術の適用方法を柔軟に変え、多方面に応用すれば、市場が変化しても極端に業績が落ちることはないと考えられます。
新たな事業の創出が期待できる
コアコンピタンスは、その事業の特定分野が変わっても活用できる可能性が高いです。たとえば、化学分野の技術を応用して医療分野で活用できる形にしたケースや、フィルムの精密技術を美容分野で応用して新たな主力製品を開発したケースもあります。
このように、コアコンピタンスでさまざまな業界や企業と連携すれば、新たな事業の創出も期待できます。
経営の長期的安定に寄与する
コアコンピタンスの技術や能力は耐久性を満たすものです。製品やサービスは、壊れたり欠陥が見つかったり、需要がなくなったりすれば消費者や顧客から不要とされてすぐに消滅するリスクがあります。
一方、コアコンピタンスは製品やサービスを生み出す元になる技術力や知識、能力であるため、企業内や技術者、従業員たちに共有されている限り、なくなることはありません。浸透した技術は長期的に利益の源泉となってくれるため、経営の長期的な安定に寄与します。
コアコンピタンス経営の課題
メリットの大きいコアコンピタンス経営ですが、課題も抱えているのが現状です。それぞれの課題を具体的に解説します。
技術者離れの影響を受けやすい
現在在籍している技術者によってコアコンピタンスが成り立っている場合、その技術者が退職や離職をしてしまうと強みを失う可能性があります。
技術者が企業の経営状況や働き方に不満を感じて転職を考えた場合、競合他社へ優秀な技術者が流出してしまう恐れもあります。そのため、技術者たちが高いモチベーションを維持しながら働ける環境作りが欠かせません。
技術が継承できる体制を整備するとともに、人材定着化のための取り組みや新たな人材確保の強化も課題となってくるでしょう。
技術は陳腐化していく
どのような技術でも、時代の進歩や移り変わりとともに徐々に陳腐化していくものです。
コアコンピタンスは移動可能性があり、時代の進歩にも柔軟に対応しやすいものではありますが、コアコンピタンスがあることに頼り過ぎてしまうと、大きな変化が起きた際に対応が遅れたり、適応し切れなくなったりする可能性もあります。
時代の流れや市場に大きな変化があった際にも柔軟に対応できるよう、常に広い視野で、率先して新しい技術を開発し続ける必要があるでしょう。
コアコンピタンス経営を成功させるポイント
コアコンピタンス経営を成功させるためにおさえておくべきポイントは次の2つです。
- コアコンピタンスの強化に努める
- 人的資本を形成する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
コアコンピタンスの強化に努める
現状ではコアコンピタンスとなりえるものでも、いつまで強みとなるかは分かりません。競合他社が時間を掛けて似た技術を開発してきたり、時代の変化に合わなくなったりする可能性も考えられます。
そのため、どんなに素晴らしいコアコンピタンスがあっても安心することなく、技術開発や人材への投資など、常に企業として研鑽を続けていかなくてはなりません。
自社のコアコンピタンスを強化しながらほかの業界や新しい市場にも横展開し、進化・発展を続けていく努力が大切です。
人的資本を形成する
コアコンピタンスを維持・強化していくためには、人的資本の形成が必要不可欠です。継承し強化していける人材がいなければ、コアコンピタンスの維持も困難となるでしょう。
自社で働く従業員をコストとして考えるのではなく、事業の価値を向上させる投資対象として位置づけて経営する視点も必要です。
人材育成の制度を整備したり、働き方改革やダイバーシティを進めたりするなど、人材の定着・確保にも注力しましょう。
コアコンピタンス経営で時代の変化を柔軟に乗り越えよう
コアコンピタンス経営は、時代の変化や市場のニーズに左右されず、長期的に安定した経営がしやすい経営手法です。強みとなる技術や能力をもとに、事業を幅広く展開し発展させていくことができます。
コアコンピタンスは製品やサービスそのものではなく、それを生み出す源泉となる技術力や知識、能力です。そのため時代が変化しても、技術力を市場のニーズに合わせて応用し、適応させていけば、長期的に安定した経営が望めるでしょう。
自社のコアコンピタンスを見極めるには、3つの要件と5つの視点で評価を行います。コアコンピタンスを確立して市場における優位性を確保し、企業の成長や発展へつなげましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。