日本は人口減少による労働力不足が深刻化しており、政府は課題を解消するためにさまざまな施策を講じています。代表的な施策は、より働きやすい環境を実現することを目的とした働き方改革です。
しかし、労働者が働く環境を改善するだけでは、労働力不足の課題解決につながりません。日本が抱える課題を解消するためには、就労していない人々に働くきっかけを与えることも重要です。
人々が安定した職に就けるようサポートすることを目的として、若者雇用促進法と呼ばれる法律が制定されています。この記事では若者雇用促進法とは何か、企業にもたらすメリットは何かを中心に解説します。
若者雇用促進法とは
若者雇用促進法とは、若者が安定した職に就けるようにサポートすることを目的に制定された法律です。一般的には「若者雇用促進法」と呼ばれていますが、正式名称は「青少年の雇用の促進等に関する法律」です。
若者雇用促進法は、2015年から施行されていますが2019年4月からの働き方改革を受け、注目が集まるようになりました。
日本は少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、労働力不足の解消が急務となっています。また、非正規の雇用形態により、不安定な就労に悩む若者も少なくありません。
そこで、若者が就職できるよう支援しつつ、不安定な就労の防止を目指して制定されたものが若者雇用促進法です。
若者雇用促進法の対象者
若者雇用促進法の対象者は、基本的に15歳以上35歳未満の人です。就業の有無にかかわらず、学生や無職の人も含まれています。しかし、2016年に個々の施策や事業の運用状況に応じ、対象となる年齢が45歳未満まで拡大されました。企業の事情によっては、年齢が45歳未満であれば法律の対象とすることは妨げないとされています。
対象者が限定されている背景には、若者の人口減少が大きく関係しています。厚生労働省の「青少年雇用対策基本方針」によると、2017年における若年労働人口は総労働人口の25.5%でした。このまま人口減少が続けば、2040年にはピーク時の57.4%にまで陥ると見込まれています。
※出典元:「青少年雇用対策基本方針」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000922211.pdf)
若者は中長期的な社会の支え手であり、就労できない人が増えれば労働者一人当たりの負担も大きくなるでしょう。今後も経済や社会システムを維持していくためには、若者の労働力が不可欠というわけです。
若者雇用促進法が制定された背景
若者雇用促進法が制定された背景には、労働人口の減少や若者の離職率の高さが深く関係しています。
労働人口が減少しているため
若者雇用促進法が制定された背景の一つは、労働人口の減少です。日本は少子高齢化による労働人口の減少により、人手不足が深刻化しています。今後も人手不足の状態が続くと、経済規模の縮小をはじめとする社会的・経済的な悪影響は避けられないでしょう。
現に、すでに人手不足に陥っている業界も少なくありません。厚生労働省の「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」によると、建設業で50%、医療福祉で45%、運輸業・郵便業で42%が人手不足であることがわかっています。
※出典元:「労働経済動向調査(令和3年8月)の概況」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2108/dl/8roudoukeizaidouko.pdf)
ドライバーの上限労働時間が制限される2024年問題もあり、運輸業や郵便業などの物流への悪影響も懸念されています。
人手不足を解消するためには若者の労働力が必要です。そのため、若者の就労サポートを目的とした若者雇用促進法が制定されました。
若者の離職率が高いため
若者雇用促進法が制定された理由の一つは、若者の離職率が高いことです。厚生労働省が公表した「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)」によると、新規学卒就職者の3年以内の離職率(短大等・大学)は31.5~41.9%だったことがわかっています。
新規学卒就職者の就職後3年以内離職率 |
割合 |
短大等 |
41.9% |
大学 |
31.5% |
また、業界別では、「宿泊業・飲食サービス業」をはじめとする3つの業界で大卒者の離職率が40%を超えています。
新規学卒就職者の就職後3年以内離職率(大学) |
割合 |
宿泊業・飲食サービス業 |
49.7% |
生活関連サービス業・娯楽業 |
47.4% |
教育・学習支援業 |
45.5% |
医療・福祉 |
38.6% |
不動産業・物品賃貸業 |
36.1% |
※出典元:「新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)を公表します」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00005.html)
3年以内の離職では経験が不十分であるため、すぐに別の職に就くことは難しい現状があります。若者が安定した職に就くためには、国をあげたサポートが必要です。
若者雇用促進法のおもな内容
若者雇用促進法では若者が安定した職に就けるよう、企業にさまざまな取り組みを求めています。若者の採用や育成に積極的な企業向けに認定制度を設けている一方で、法律に違反した場合の罰則も設けられているので注意が必要です。
職場情報の積極的な提供
ミスマッチによる早期離職を防ぐために、若者雇用促進法では、新卒採用を実施する企業に対して幅広い情報提供を行う努力義務が課せられています。
また、応募者等から求めがあった場合には、次の3類型に基づく情報提供が必要です。
- 募集・採用に関する状況
- 職業能力の開発・向上に関する状況
- 企業における雇用管理に関する状況
企業は応募者からの求めに対し、上記の項目ごとに一つ以上の情報提供を必ず行わなければなりません。
労働関連法に違反した事業者のハローワークにおける求人不受理
若者雇用促進法には、企業が労働関連法に違反した場合の罰則が盛り込まれています。具体的な罰則は、ハローワークにおいて一定期間新卒求人を不受理にするというものです。
求人不受理になるのは、次のような法律違反があったケースです。
法律名 |
不受理の対象 |
労働基準法および最低賃金法 |
|
男女雇用機会均等法および育児介護休業法 |
法違反の是正を求める勧告に従わず公表された場合 |
若者雇用促進法に基づく事業主等指針では、職業紹介事業者においてもハローワークに準じて取り扱うことが望ましいとされています。
ユースエール認定制度
ユースエール認定制度とは、若者の採用や育成に積極的に取り組む企業を認定する制度です。若者雇用促進法では、職場情報の積極的な提供、労働関連法に違反した事業者のハローワークにおける求人不受理に先駆けて施行されました。
企業がユースエール認定を受けると、助成金の優遇措置や日本政策金融公庫による低利融資などのメリットが得られます。認定を受けるためには、次の基準を満たす必要があります。
- 若者の採用や人材育成に積極的に取り組んでいること
- 直近3事業年度の正社員として就職した人の離職率が20%以下であること
- 前事業年度の月平均の所定外労働時間、有給休暇の平均取得日数、育児休業の取得日数や取得者数(男女別)を公表していること など
詳しい認定基準は厚生労働省の「ユースエール認定制度」に記載されているので、ご確認ください。
ユースエール認定は企業のアピールポイントにもなり得るため、若者雇用促進法に取り組む際には認定企業を目指しましょう。
若者雇用促進法がもたらすメリット
企業が若者の雇用促進に取り組むと、助成金の優遇措置を受けられる、ミスマッチを防止できるなどの効果を期待できます。
ユースエール認定を受けるメリット
厚生労働省が設けた基準を満たした場合、若者の採用や育成に積極的で雇用管理の状況が優良な企業として、ユースエール認定を得られます。認定企業になるとさまざまな優遇措置を受けられるだけでなく、人材市場でもアピールポイントとして活用することが可能です。
さまざまな優遇を受けられる
ユースエールの認定企業には、次のようなさまざまな優遇が用意されています。
- ハローワーク等で重点的PRの実施
- 認定企業限定の就職面接会等への参加
- 自社の商品、広告などに認定マークの使用が可能
- 日本政策金融公庫による低利融資
- 公共調達における加点評価
上記のような優遇を受けることにより、企業のイメージアップや優秀な人材の確保につながることが期待できるでしょう。なお、各優遇の詳細は、「ユースエール認定企業が受けられる優遇の内容」で詳しく解説します。
優秀な若手人材に出会える可能性が高まる
厚生労働大臣からユースエール認定を受けた企業は、ハローワークが実施する就職面接会の案内を優先的に受けられます。ハローワークからの紹介や就職面接会を通じて若手人材と接触できる機会が増えるため、優秀な人材に出会える可能性が高まります。
また、ユースエール認定を受けると若者の雇用を積極的に取り組んでいる企業として、社内外に印象付けることが可能です。人材市場で求職者に上手くアピールできれば、応募者が多く集まり、優秀な人材の獲得につながるでしょう。
若者雇用促進法に基づいて情報提供を行うメリット
若者雇用促進法では、求職者に対する決められた内容の情報提供が企業に義務づけられています。法律で規定された内容に基づいて企業が積極的に情報提供すると、求職者は企業の価値観や働き方などを十分に理解できるでしょう。内定後や入社後のギャップを埋められるため、採用ミスマッチの防止が期待できます。
あさがくナビのアンケートでは、ミスマッチに「とても不安がある」「やや不安がある」と回答した学生が約80%だったことがわかっています。
ミスマッチに不安があると回答した学生からは、「やりたい仕事と適性のある仕事が合致しているかがわからない」「希望する部署に配属されるかわからない」などの声が寄せられました。
※出典元:「2024年卒学生の就職意識調査(ミスマッチ)2023年3月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/wp-content/uploads/2023/10/230315-navenq.pdf)
企業が求職者に対して積極的に情報提供することは、学生の不安を軽減するだけでなく、ミスマッチの低減にもつながるでしょう。
若者雇用促進法に対して企業がするべきこと
若者の雇用促進に積極的に取り組むと、企業にはさまざまなメリットを受けられます。これから若手人材の募集や採用をする際には、次に紹介するポイントをおさえておきましょう。
採用する際に労働条件を明示する
若者雇用促進法では求職者に対し、職場情報の積極的な提供が義務づけられています。職場情報の積極的な提供とは、労働条件を求職者に明示することです。特に注意が必要なのは、みなし残業制度を導入しているケースです。
若い労働者と企業との間では、残業代をめぐるトラブルも数多く起きています。みなし残業制度を導入する場合は、みなし残業代を超える時間外労働が発生した場合の割増賃金の取り扱いについて、きちんと明示するようにしましょう。
なお、労働条件に関しては、虚偽や誇大な情報を提供することが禁止されています。一度提示した労働条件は、原則として入社までに変更できません。入社後であれば労働条件を変更することは可能ですが、その際には労使間の合意が必要です。新卒は内定から入社までの期間が長いため、労働条件の変更が想定される場合は、内定時にその旨を伝えておくようにしましょう。
正当な理由なく内定取り消しをしない
一度内定を出したあとは、企業側の都合でみだりに内定取り消しをしないようにしましょう。内定の状態でも労働契約が成立したと認められる場合もあります。その際、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない内定取消しは無効になります。
やむを得ず内定を取り消しする際には、内定者が就職先を確保できるよう最大限の努力が必要です。なお、内定者側の都合で内定を取り消す場合でも、就職活動の妨害といった職業選択の自由を妨げる行為は避けなければなりません。
ハラスメント対策をしておく
企業が若者の雇用促進に取り組む際には、ハラスメント対策を検討しておくようにしましょう。近年、就活生に対するハラスメント行為が社会問題化しています。ハラスメント対策は正式な採用活動だけでなく、OB・OG訪問やインターンシップなどの場でも必要です。
労働施策総合推進法の改正・指針の内容では、身体的な攻撃や精神的な攻撃などのハラスメント防止措置が企業に対して義務化されました。
厚生労働省は、就職活動中の学生やインターンシップの参加者に対する従業員の言動について、注意を払うよう配慮することが望ましいとしています。従業員によるハラスメントを防ぐためには、言動に注意するよう社内での徹底が求められます。また、何がハラスメントにあたるのかなど、ハラスメントに対する啓蒙も必要です。
青少年雇用情報を提供する
採用活動を実施する際には、次のような青少年雇用情報の提供が必要です。
類型 |
内容 |
募集・採用に関する状況 |
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職業能力の開発・向上に関する状況 |
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雇用管理に関する状況 |
|
企業は求職者に対し、基本的に幅広い情報提供の努力義務があります。求職者から求めがあった場合は、上記類型ごとに一つ以上の情報提供が必要です。ただし、厚生労働省では、青少年雇用情報のすべての項目について情報提供することが望ましいとしています。
企業にとって求職者への幅広い情報提供は努力義務ではあるものの、採用ミスマッチを防ぐためにもより多くの情報を提供することを心がけましょう。
卒業後3年以内でも「新卒」として応募を受け付ける
若者雇用促進法では、企業に「新卒」の枠を広げた採用活動が求められています。現在は、学校卒業見込み者が「新卒」と捉えられています。しかし、新規学卒者のなかには、未就職のまま卒業する人もいる状況です。総務省統計局の「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約」によると、ここ数年は未就職のまま卒業した求職者が70,000人程度いることがわかっています。
※出典元:「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約」(総務省統計局)(https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index1.pdf)
未就職のまま卒業した人は社会経験がないため、すぐに就職するのが難しいのが現状です。そこで若者雇用促進法では未就職のまま卒業した人に就職機会を与えるため、卒業後3年間は「新卒枠」として扱うことや上限年齢を可能な限り設けないことを企業に要請しています。
※出典元:「3年以内既卒者は新卒枠で応募受付を!!」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000wgq1.html)
ユースエール認定企業が受けられる優遇内容
ユースエールの認知企業になると、求職者に企業を積極的にアピールできる、認定企業限定の就職面接会に参加できるなどのメリットがあります。
ハローワーク等で重点的PRの実施
ユースエール認定を受けると、「わかものハローワーク」や「新卒応援ハローワーク」などの、ハローワークが管轄する就職支援拠点で、求人情報を積極的にアピールできるようになります。企業に関心がなかった求職者にも求人情報が提供されるため、若者からの応募増加が期待できるでしょう。
また、厚生労働省が運営する「若者雇用促進総合サイト」に認定企業として企業情報が掲載されます。若者雇用促進総合サイトとは、若者の採用や育成に積極的な企業情報を公開している就職情報サイトです。
企業の魅力を幅広くアピールできるため、求職者からの関心が高まる可能性もあります。
認定企業限定の就職面接会等への参加
認定企業は、各都道府県労働局やハローワークが主催する就職面接会の案内を積極的に受けることが可能です。就職説明会には、正社員への就職を希望する多くの求職者の参加が見込まれます。
就職面接会に参加すると、就業意欲の高い求職者と接する機会が増えます。その結果、自社の条件に合う人材を見つけやすくなり、優秀な人材の獲得につながる可能性があります。
自社の商品・広告などに認定マークの使用が可能
企業がユースエール認定を受けると、ユースエール認定マークの使用が認められます。ユースエール認定マークは自社のホームページに留まらず、商品や広告への使用も可能です。
商品や広告を通じ、認定企業であることを社内外にアピールできるため、優良企業としての認知度が高まるでしょう。認定マークを見た若者が企業に対してポジティブな印象を抱くと、興味関心が高まり、応募につながる可能性もあります。
日本政策金融公庫による低利融資
働き方改革を推進している企業は、一定の要件を満たすと株式会社日本政策金融公庫から「働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)」の融資を受けることが可能です。令和5年3月1日時点の基準利率は、期間5年以内で1.20%に設定されています。
一方でユースエール認定企業は、基準利率からマイナス0.60%で融資を受けられます。利率は総支払額に影響するため、従業員の働き方改革で資金が必要な場合は、ユースエール認定を受けて低利で融資を受けることを検討しましょう。
公共調達における加点評価
ユースエール認定を受けた企業は公共調達の一部の方式において加点評価がなされます。
「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」では、認定企業が総合評価落札方式や企画競争方式を行う場合、入札参加者は契約内容に応じて企業を加点評価するよう定めています。総合評価落札方式や企画競争方式とは、価格以外の要素を総合的に評価して決定する方式です。
ただし、加点評価の詳細は公共調達を行う期間によって異なるため、事前に確認が必要です。
若者の雇用を強化して人手不足を解消しよう
若者雇用促進法は、45歳未満の若者が安定した職に就けるようサポートするための法律です。法律では職場情報の積極的な提供や労働条件の明示など、企業側にさまざまな事項が義務づけられています。
法律に基づいた採用活動を実施すると、優秀な若手人材の獲得やミスマッチの防止などのメリットをもたらします。採用・育成コストの増加に不安がある場合は、ユースエール認定を受けましょう。
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