HR用語の基礎知識

FIRE

人事の図書館 編集長 大西直樹
「FIRE」は「Financial Independence, Retire Early」を略した言葉で、直訳すると「経済的自立と早期リタイア」という意味になります。定年を待たず、なるべく早期にサラリーマン生活を終え、資産運用等を中心に生活していくライフプランで、2014年にはダボス会議でFIREが言及されたことで、主にミレニアル世代の若者の間で火が付きました。この動きは「FIREムーブメント」と呼ばれ全世界に拡大し、日本でも実践しようとする人が増えています。特に2020年以降はコロナ禍の影響もあり、職場や通勤から距離を置きたい人が増え、FIREへの憧れと注目度が一気に上昇しています。

経済的自立のために意欲的に貯蓄をし、退職後は運用益などで生活するのが「FIRE」

FIREと似た意味を持つ言葉で「早期リタイア」があります。どちらも定年を待たずに早期に退職することは同じですが、リタイアを迎えるまでの資産の作り方や老後資金の考え方が異なります。早期リタイアは、会社都合の場合だと割増された退職金を受け取れることもありますが、基本的に退職後は受け取った退職金と将来受け取る公的年金や貯金などを元手に、少しずつ切り崩しながら生活していきます。それに対しFIREは、経済的自立のために意欲的に貯蓄をし、退職後は運用益などで生活し元手(元本)は減らさないようにすることで、何歳まで生きても問題がないように備えるのです。

具体的には、以下の手順で考えます。

1.リタイア後の年間の生活費を計算する。
2.その生活費を、資産運用収入でまかなうことのできる資産総額を計算する。
3.FIREに必要な資産総額を貯めるために毎月積立投資を行う。

FIRE実現のためにはまず、必要な資産総額を逆算します。そしてできるだけ支出を減らしながら、お金をなるべく資産運用に回し、そこから得られる収入で早期退職を目指すというわけです。

そんなFIREの主な支持者は、マイホームやマイカーに強い憧れを持たず、従来の価値観に縛られないミレニアル世代の人たちです。過剰消費への疑義が根幹にあり、そのために貴重な時間を労働に充てることへの反発や、あくまで目的は豊かな人生設計を模索して自分で作りあげていくという共通認識が背景にあるようです。

FIREがいま、注目されている理由。

では、今なぜFIREがこれだけ注目されているのでしょうか。その理由には、次のような変化が関係していると考えられています。

◆働き方の多様化が進んだため
従来は会社員として1つの会社で定年まで勤め上げ、昇給や出世を目指すのが当たり前でした。しかし複業解禁やテレワークの推進等により、観光地や旅先で仕事をする「ワーケーション」や、会社員として働きつつも他の場所でも仕事をする「パラレルワーカー」、農業で生活する分だけの食を確保し、残りの時間で自分の好きなことや、やりたいことをして働く「半農半X」等、また働く場所だけでなく、時短勤務や週3〜4日だけ正社員として働くといった勤務形態の多様化が進んでいます。FIREもその新しい生き方・働き方の1つで、今までと違った働き方の選択肢が増えたことで、人生設計とともに改めて働き方を考えてみたい人が増えたのが一因として考えられています。

◆人生設計の考え方が変わったため
FIREが注目されている背景には、人生設計の考え方が変わったことが関係しています。人生100年時代といわれるように、日本人の平均寿命は年々長くなっており、年金だけに頼るような老後の人生設計は成り立たないのでは、と言われています。加えて、定年が70歳に引き上げられる等、年金受給時期もどんどん後ろ倒しになっているのも現状です。リタイア後のまとまった資金である退職金も1997年の平均2,871万円をピークに右肩下がりで減少しており、2018年には平均1,788万円と20年間で1,000万円以上減っています(厚生労働省「就労条件総合調査」)。さらにフリーランスや転職を繰り返している場合は退職金そのものを受け取らない可能性もあるでしょう。こうした時代の流れは自分の力だけでは変えられないため、FIREのような人生設計に注目が集まっているといえます。

◆資産運用が始めやすくなっているため
かつては、ある程度まとまった金額がなければ行えないイメージがあった資産運用ですが、近年では1万円以下で始められる少額投資も登場する等、そのハードルはぐっと低くなりました。なかには数百円から始められるものもある等、若者でも資産運用がしやすい仕組みが出来上がっており、FIREを後押しする一因となっています。また、低金利の影響で銀行に預けておくだけでは資産が増えないことから、資産運用に目を向ける人が増えていることもFIREを身近にしている要因でしょう。

FIREは働き方改革だけでなく「生き方改革」

FIREを実現すると、日々の労働ではなく投資等の資産運用が主な経済基盤となります。この経済基盤を構築するために、FIREを目指す多くの人がそれぞれリタイア後に必要な生活費を計算した上で資産運用を活用しているのです。ここで簡単にFIREを実現する目安となる金額をご紹介します。

●年間支出総額の25倍の金額を投資元本として確保する。
月25万円、年間300万円の支出がある場合は7,500万円を投資元本として確保することができれば、それ以降は投資の収益で暮らすことが可能だといわれています。

●生活費を投資元本の4%に抑えることができれば資産を減らすことなく暮らせる。
「4パーセントルール」を用いると、年間支出の17~20倍でFIREが可能という見立てもあります。この場合、前述の例だと5,100万円~6,000万円を投資元本にできればFIREが可能となります。

ただし、いずれの目安においても「絶対」はなく、ハイパーインフレや病気・事故といった不慮の事態が起こるケースも当然考えられますので、資産の切り崩しや仕事で収入を得る必要も想定しておかなければなりません。

FIREが特徴的なのは、経済的自立のためにお金持ちになることがゴールなのではなく、あくまで豊かな人生を楽しむことが目標とされている点にあります。そのため、自分の好きな副業をしながら収入を得る「サイドFIRE」や、気の合う仲間がいる職場に週1〜2日だけ短時間働きに行ったりする「バリスタFIRE」など、色々なタイプのFIRE実践者がいます。FIREは働き方改革だけでなく「生き方改革」です。FIREの意味を知ることで自分の働き方をもう一度見直し、これからどんな人生を歩んでいきたいのか改めて考える機会にしてみてはいかがでしょうか。

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