人材定着とは?なぜ従業員が離職するのかと人材定着のポイントを解説
2024.01.17
人材定着は「リテンション」とも呼ばれ、人材の離職を防ぐための施策や取り組みを指します。この記事では、なぜ従業員が離職するのか、その理由と、企業が離職を防ぐポイントと具体的な施策を解説します。
人材定着とは
人材定着とは、人材が組織から離職するのを防ぐことです。
「リテンション(retention・【語源】retain + tion)」とも呼ばれ、人事領域においては「人材の確保・維持」を指します。
近年、年功序列・終身雇用制度の崩壊をはじめ、日本でもジョブ型雇用を始める企業が現れるなど、人材の流動性は高まっています。そんな中、注目されたのが人材定着(リテンション)です。
人材定着率の計算方法
ある期間が経過した時点(例:3年)の社員数を、その期間が始まる時点(例:2020年4月)での社員数で割ることで算出できます。その結果に100を掛けてパーセンテージ表記にすると「定着率」になります。
たとえば、2023年4月入社 新入社員120人のうち、3年後に90人が在籍していた場合、
90人 ÷ 120人 × 100 = 75% |
3年後の人材定着率は75%です。
人材定着が重要な理由
人材定着の取り組みが重視される理由は、労働人口の減少による採用競争の激化です。
総務省の発表では、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年の8,716万人をピークに減少しており、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)になると見込まれています。
※出典:総務省|令和4年版情報通信白書|生産年齢人口の減少(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html)
離職が起こると新たに採用・教育コストがかかります。このように人材が減っている状況での採用は難しく、ひとりにかかるコストも平均して増加しているのが事実です。そこで、従業員の離職を防ごうと人材定着の取り組みが重視されるようになりました。
なぜ従業員が離職するのか
企業に人材が定着しない理由は大きく二つに分けられます。企業を取り巻く環境である外的要因と、企業の努力によって解決可能な内的要因です。
この二つの要因についてさらに細かく分けて説明します。
【外的要因】なぜ従業員が離職するのか
終身雇用・年功序列制度が一般的だった時代とくらべて、転職は当たり前の感覚が広まってきました。「リスキリング」や「ポータブルスキル」といった、転職にまつわる単語を見聞きする機会も増えています。
このような価値観の変化には外的要因があります。おもに以下が考えられます。
- グローバル化による人材の流動化がすすんでいる
- 「売り手市場」が続いている
- 多様な働き方が認められつつある
- 「VUCA(ブーカ)」時代の到来
グローバル化による人材の流動化がすすんでいる
技術の発達によって海外から人材の流入が増え、かつ、インターネット・SNSなどの普及で世界中の人々の価値観や生き方を知るのが容易になりました。このようなグローバル化に合わせ、欧米で主流のジョブ型雇用を導入する日本国内の企業も増加中です。
従来の日本型雇用であるメンバーシップ型は、基本的には終身雇用を前提としています。それに対してジョブ型は職務に対して人材を採用するため、該当職務がなくなれば契約終了となるのが一般的です。
日本では労働者を解雇するには非常に高いハードルがあるので、必ずしもこの限りではありません。ジョブ型によって人材の流動化がすすんでいるとは言い切れないでしょう。
しかし、自分のキャリアを自分で選びたいとのニーズから、ジョブ型に注目が集まっているのも事実です。
労働人口が減る中で優秀な人材を採用したい企業間の競争はますます激しくなっています。自社より良い条件の他社へ転職を検討する流れは止まらないと考えられます。
そのほかの外的要因(売り手市場・多様な働き方・VUCA時代)
近年は求人件数が求職者数を上回る「売り手市場」によって求職者優位の状況がつづいています。
また、コロナ禍の期間に全国的に導入されたリモートワークをはじめ、フレックスタイム制や副業・兼業など、多様な働き方を認める考え方が広まってきました。
そして、現代は、自然災害やテクノロジーの発達の影響で先行き不透明で予測困難な「VUCA(ブーカ)」の時代と呼ばれています。
これらの外的要因から求職者・労働者のあいだで「自分のキャリアを自分で選ぶ」傾向が強まりました。会社を辞めることは必ずしもネガティブな意味合いを持つものではなくなってきたといえます。
【内的要因】なぜ従業員が離職するのか
環境や人々の意識はなかなか変えられないものですが、従業員が企業に対して抱いている不安や不満は努力次第で解消できます。
離職につながる要因を5つ紹介するので、当てはまるものを見つけて対策を講じ、未然に離職を防ぎましょう。人材定着のポイントや具体的な施策については、「人材を定着させるポイント」章と「人材定着に有効な具体的施策」章で解説します。
- 採用ミスマッチが起きた
- チームや企業への帰属意識の低下
- 成長実感を得られない・将来の展望を描きづらい
- 評価制度が整っていない
- 職場環境や労働条件が厳しい
採用ミスマッチが起きた
社会人経験3年未満の場合、希望の仕事内容と実際の業務内容がかけ離れていたことが離職理由になるケースが多いです。
株式会社学情が実施したアンケートでは、「転職しようと思う理由」にもっとも多かった回答が「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」でした。
※出典:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(Re就活)(https://service.gakujo.ne.jp/press/230802)
アンケート結果から、自身が思い描いていたキャリアパスとは異なる配属になった際、早いタイミングで一社目に見切りをつける新入社員が一定数いることがわかりました。
チームや企業への帰属意識の低下
帰属意識の低下から離職につながるケースもあります。
とくにテレワークがメインの勤務形態では、出社している場合とくらべて上司や同僚とのコミュニケーションが希薄になる傾向があります。
チームや組織への貢献度を適切なタイミングで感じられず、帰属意識やモチベーションに影響する可能性が高いです。
ほかにも、入社したての社員を気にかける人がそばにいないと、社内の雰囲気やすでにできている人間関係になじみづらいと考えられます。
成長実感が十分でない・将来の展望を描きづらい
成長実感とは、自身の成長を感じながら日々の仕事ができる状態を指します。これが十分でないときに離職につながるケースが多く見られます。
株式会社学情が実施したアンケートでは、就職活動でも「自分自身が成長できそうかを重視する」と回答した学生が9割に迫りました。
※出典:「2025年卒学生の就職意識調査(自身の成長)2023年12月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/231204/)
終身雇用が当たり前ではなくなりつつある今、働き手による主体的なキャリア形成への関心が高まっています。この会社で今後、自分自身の成長のチャンスはあるのかが不明瞭だと、キャリアアップできる環境を求めて転職を検討する人が多いといえます。
具体的には、会社からキャリアパスが明示されていない、目指すべきロールモデルを組織内に見つけられないなどの状況が該当します。
このような状況に焦りを感じて、従業員自ら「何か行動を起こさなければ」と考える風潮が強まっています。
自身の働きに見合った評価がされない
会社からの評価や給与が妥当でないのも離職の大きな要因のひとつです。
「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(Re就活)では、社会人経験3年以上でもっとも多かった転職理由は「給与・年収をアップさせたい」でした。
※出典:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(Re就活)(https://service.gakujo.ne.jp/press/230802)
今は採用市場が活発なので、賃金も含めて妥当な評価が得られない状態が続くと、優秀な人材ほど他社に流れる可能性が高いです。
このような事態が起こるのは、評価基準が従業員に対して公表されていない、または、明文化されていないケースです。がんばっているのに評価されない環境では、企業への信頼度は上がらないでしょう。
職場環境や労働条件が厳しい
人間関係でのトラブル・上司からのパワハラや、休日が少ない・残業が多いなどの厳しい労働条件では、就業自体が困難になる場合があります。
ほかにも、テレワークへの対応や育休・産休のとりやすさが従業員のエンゲージメントに影響します。
2024年卒業予定の学生を対象に株式会社学情が実施したアンケートでは、入社する企業にテレワークの制度があったら「利用したい」と回答した新社会人が8割を超えました。
出典:「2024年卒学生の就職意識調査(テレワーク)2024年1月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/240109/)
従業員の働きやすさを実現している職場では、このタイプの離職を防げます。
人材を定着させるポイント
では、どうすれば人材の離職を防げるのでしょうか。企業が人材を定着させるポイントを説明します。
ありのままの企業の姿を伝える
採用ミスマッチを防ぐにはリアルな情報を伝えましょう。
たとえば、配属先や業務内容について、求職者の希望に沿えないケースがあるかもしれません。
その際、無責任にその仕事ができると伝えることは、入社後のミスマッチにつながります。
キャリアを積むことでいずれはやりたい仕事ができるようになるなど、求職者のニーズに寄り添う形で事実を伝えるとよいでしょう。
自社で実現できるキャリアプランをあらかじめ提示すれば、求職者の将来への不安も解消できます。
入社前から求職者と企業側のニーズをすり合わせておくことで新入社員の定着率を上げられます。
相談しやすい環境づくり
人材の離職を防ぐには、相談しやすい環境づくりも必須です。
株式会社学情が実施したアンケートでは、成長できそうだと思う企業の特徴として「相談しやすい環境がある」がもっとも多い回答でした。
※出典:「2025年卒学生の就職意識調査(自身の成長)2023年12月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/231204/)
同じ部署内だけでなく、社内を横断して従業員同士が頼れる環境が求められています。
従業員にとってのメリットは、部署内だけでは解決できない問題を社内の誰に聞けばいいか把握できることや、仕事以外の繋がりができることです。これらによって従業員の帰属意識が高まり、人材定着に貢献するでしょう。
資格取得やスキル向上支援制度の整備
従業員が成長実感を得るためには、「以前の自分と比べて成長している」とわかる指標やシステムがいります。
資格に関する奨励金や研修など、スキル向上のための制度を社内に整備し、かつ、企業側で取り組みの進捗を管理できるとよいでしょう。
従業員は、仕事に役立つ技術を学べる環境が身近にあり、過去の自分の知識量といまの力を見比べられることで、満足度が高まります。
新しい知識を積極的に身につけて自主的に成長できる人材が増え、いままで触れてこなかった事業領域においても可能性が広がるのではないでしょうか。
評価制度の整備・公表
従業員の満足度を高めるには、公平な評価制度とその明文化が不可欠です。
等級ごとに何が評価に値するのかを全社員に明確に示すことでモチベーションアップが図れます。評価基準は相対的なものでなく、同じ仕事に従事している従業員同士が同等に評価される公平さが求められます。
基準を設定して終わりではなく、定期的なフィードバックを行って従業員に成長と改善の機会を提供しましょう。
ワークライフバランス向上のための支援
従業員の働きやすさを実現するには、残業時間の削減や年間休日の見直しが必須です。
業務量が過多になっていたり人間関係にトラブルを抱えていたりする従業員への適切な支援制度がポイントになります。
従業員のライフステージの変化に合わせた働き方をサポートできるとより良いです。具体的には、育児休暇や介護休暇、時短勤務、テレワークなどの整備です。
本人に就業の意志があるにも関わらず、家庭の事情や体調の問題などで離職せざるを得ないケースを防げます。
人材定着に有効な具体的施策
前章で説明したポイントを踏まえ、人材定着に有効な具体的施策を紹介します。
カジュアル面談
ありのままの企業の姿を伝えるには、合否を判断しない「カジュアル面談」がおすすめです。
カジュアル面談とは、選考前に企業と求職者が気軽にお互いのことを知れる場です。
双方がリラックスした雰囲気で行われるため、企業側は自社の魅力やどのような人材を必要としているのかといった情報を過不足なく受け取ってもらえるメリットがあります。
求職者側も、採用面接では合否への影響を気にして聞けないようなことやリアルな職場の雰囲気などを質問できます。
お互いに疑問を解消してから応募に進むことができます。
カジュアル面談の流れや必要な準備などについてくわしく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
シャッフルランチや1on1ミーティング
部署を超えて横のつながりをつくる具体的な施策には、以下のような例があります。
- ランダムな従業員同士の組み合わせでランチに行く「シャッフルランチ」
- 磁石に吸い寄せられるように人が集まる「マグネットスペース」の設置
- 「もくもく会」などの勉強会
また、部署内で上司や先輩・後輩、同僚との信頼関係を築くには、業務上は直接つながりのない相手とも定期的に話す時間があるとよいでしょう。
- 1on1ミーティング
- メンター制度やブラザー・シスター制度
研修やOJT
新卒入社者と同じく、キャリア(経験者)人材に対しても同様に研修が必要です。伴走期間を設け、徹底的なフォローを行えば、入社直後の不安を解消できます。
研修の中で、企業が目指す方向性(パーパスやMVV、企業理念など)を積極的に伝えていくことも人材定着に良い効果があります。パーパスは、単なる利益追求だけでなく、その企業が社会全体の中でどのような存在意義があるかを示します。企業のパーパスが正しく共有されていると、従業員は自らの仕事を通して社会への貢献度を感じることができ、やりがいや帰属感が高まります。
まとめ|自社に多い離職理由を的確にとらえ対策を講じよう
環境や人々の意識の変化によって、転職のハードルは下がっています。人材定着の策を講じないままでは、採用してもすぐ離職されてしまう状況になりかねません。
自社に不足している部分はどこかを的確に把握し、従業員の声に応えられる仕組みづくりが重要です。
人材定着に必要な準備や具体的な施策をもっとくわしく知りたい方は、ぜひこちらの資料をダウンロードしてご覧ください。
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