マーケティング用語として使われる「ペルソナ」。ペルソナとはどのような意味なのか、企業の採用活動に活かすにはどのような手順を踏んで作成すればよいのか、気になる人事担当者は多いのではないでしょうか。
本記事では、採用活動におけるペルソナについて詳しく解説し、採用活動に用いるべき理由・メリットを紹介します。ペルソナの設定から募集・選考までの手順も詳しく説明するので、ぜひ参考にしてください。
企業の採用活動における「ペルソナ」とは
まずは、「ペルソナ」の意味と具体例、混同しやすい「ターゲット」との違いについて紹介します。
ペルソナの意味と具体例
マーケティングにおいてペルソナとは「商品やサービスの典型的なユーザーモデル」です。性別・年齢・居住エリアのほか、これまでの経験・趣味・ライフスタイル・将来の夢・最近の悩みなどの細かい点を明確にして、サービスや商品の利用者を想定する際に用いられます。
ペルソナを企業の採用活動に活用するときは「企業が入社して欲しいと思う架空の人物像」を指します。採用活動では、ペルソナを設定することで、経営陣や採用担当者のニーズと、現場のニーズを一致させ、採用ミスマッチによる早期離職を防ぐ効果を期待できます。
また、欲しい人材の興味・関心をある程度予測し、ペルソナの行動に合わせた採用媒体を活用して、効率的に自社の求人情報を届けることも可能です。
ペルソナ設定の例
採用活動におけるペルソナ設定の具体的な例をみていきましょう。
名前 |
田中 雄太 |
性別 | 男性 |
年齢 | 22歳 |
居住地 | 東京都練馬区 |
最終学歴 | 〇〇大学〇〇学部卒 |
部活動 | サッカー |
家族構成 | 父・母・妹の4人家族 |
性格 |
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応募先企業を選ぶ際に 重要視すること |
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よく使うSNS |
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所有する資格 | 英検2級 |
仕事で身に着けたいスキル |
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将来の夢 |
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最近の悩み | 営業職に興味はあるものの、まだ志望する業界を絞れていない |
自社の採用ニーズにあわせて、生活パターンを示す「就寝・起床時間」や、行動の特徴を示す「利用する店舗や飲食店」などの項目を加える場合もあります。
「ターゲット」との違い
「ターゲット」と「ペルソナ」は似たような使い方をしますが、設定する際の考え方が異なります。
ターゲットは年齢や性別、学歴などの条件によって分類されたグループ(集団)です。たとえば「20代の男性、最終学歴が大卒」など、一定の要件を満たす人物が対象になります。
一方ペルソナは、ターゲットで分類されたグループ内の個人の人柄や価値観、興味対象などを想定して、詳細なパーソナリティを構築して作る人物像です。たとえば「名前は〇〇××。22歳の大卒の男性で一人暮らし、趣味はサイクリングや読書」など、詳細な人物の特徴を作り上げます。
どちらも対象者を絞り込む際に使われますが、経営陣や人事担当者、現場など社内の異なる部門の認識を一致させて共有するためには、細かい人物像を作るペルソナの設定が重要だと言われています。
採用活動でペルソナを設定するメリット
欲しい人物像をペルソナ設定で明確にすると、採用活動を効率的に行え、採用基準を社内に周知しやすくなります。
採用活動を効率的に行える
ペルソナを設定することで、自社が求める人材が明確になり、社内で共通認識を持てるようになります。その結果、現場と採用担当者がコミュニケーションをとりやすくなり、採用活動を効率的に行うことができます。
また、ペルソナに沿った人材がよく使うであろう採用媒体やWebサイトを選べば、費用対効果の高い求人が行えます。設定したペルソナの特徴に類似する求職者に、直接アプローチ可能なダイレクトリクルーティングの利用もおすすめです。
新卒学生へのダイレクトスカウトなら、あさがくナビがおすすめです。スカウト対象の詳細を検索でき、自社のペルソナに沿った人材に直接アプローチできます。
採用基準を社内に周知しやすくなる
ペルソナを設定すると採用基準を社内に周知しやすくなります。
採用活動は社内のさまざまな部門が関わる業務です。求める人物像を一致させて共有しないと、書類審査や面接はスムーズに進みません。採用基準が不明確な場合は合否が個人の判断になりやすく、実際に配属される現場のニーズにマッチしない可能性もあります。
経営陣や採用業務の担当者をはじめ社内メンバー全員で採用活動に携わる場合、ペルソナを設定することで自社が募集する人材イメージを統一できるため、配属先でのミスマッチを防いで、長期的に活躍する社員の採用につながります。
採用活動のペルソナを設定する手順
ペルソナを設定して採用活動を行う手順は次のとおりです。
- 採用目的を明確にする
- 求める人材に必要な要件を調査する
- 要件をまとめ、詳細な人物像を作りあげる
- 経営陣や現場の社員に確認してもらう
- ペルソナに沿って募集と選考を行う
それぞれを詳しくみていきましょう。
1.採用目的を明確にする
ペルソナを設定する際は「何のためにどのような人材を求めているのか?」に焦点をあて、採用の目的を明確にしましょう。採用目的を明らかにすると、求める人材に必要な要素を適切に定められます。
たとえば、退職による欠員の補充が目的で、即戦力になる人材を求める場合は、退職した社員と同じようなスキルや経験を持った人材をペルソナとして設定するのも一つです。
また、新しい事業を立ち上げるのが目的の場合は、事業の遂行に必要な能力や資格
などをもっていることが重要になります。さらに、リーダーや責任者としての活躍を期待する人材には、コミュニケーション能力や行動力、分析力なども必要になるでしょう。
ペルソナは採用目的にあわせて項目を設定します。そのため、目的の明確化はペルソナ設定に欠かせません。
2.求める人材に必要な要件を調査する
経営陣や現場の社員にヒアリングし、採用する人材に求める能力やスキル、性格などを調査しましょう。現場は責任者のほか、配属後に同僚となる社員にもヒアリングし「どのような人材がマッチするのか?」を細かい部分まで探っていきます。
また、直近で採用した社員や現在活躍している社員など、求めている人材に近いポジションの社員にもヒアリングしましょう。ペルソナ設定を現実的なものにし、理想の盛り込み過ぎを防ぎます。
求人を知ったきっかけや自社に魅力を感じた点を調査すれば、採用広告に掲載する内容や媒体選択の参考になります。
3.要件をまとめ、詳細な人物像を作りあげる
ヒアリングで集めた要件をもとに、詳細なペルソナを作りあげましょう。
ペルソナ設定時の項目例は次のとおりです。
【骨組みの項目例】
- 年齢
- 性別
- 最終学歴
- 居住地
- 家族構成
- 性格
- これまでに取得している資格・経験・スキル
- 趣味・特技
- 情報収集の手段
- 利用しているSNS
- 好きなサイトやアプリ など
骨組みができたら肉付けします。ポイントは、背景やストーリーを考えてイメージを膨らませ、できるだけ具体的に人物像を作ることです。
骨組みで作った人物が経験するエピソードやイベントを想像すると、肉付けがスムーズに進み、ペルソナが設定しやすくなります。
4.経営陣や現場の社員に確認してもらう
ペルソナが設定できたら、経営陣や現場の社員に確認とフィードバックを依頼します。
ペルソナは作り込んでいく過程で、当初の目的や理想の人物像とズレが生じる可能性があります。経営陣や現場の社員に確認してもらい、欲しい人物像と異なる点がある場合は、再度意見をもらって修正しましょう。
また、設定したペルソナが市場の状況に合っていないと、思うように応募者が集まりません。採用担当者も確認し、実際の新卒・転職市場にペルソナが存在するかどうかの検証も重要です。
ペルソナは、一度の設定で完成することはほとんどありません。最初に作り上げたペルソナにこだわらず、柔軟に修正を繰り返すことで、精度の高いペルソナ設定となります。
5.ペルソナに沿って募集と選考を行う
作り上げたペルソナに沿って求人広告を作成し、採用基準に基づいて選考を行います。
求人広告の掲載文は、ペルソナにとって魅力的で、応募したいと思えるような内容を意識しましょう。また、ペルソナの行動パターンや嗜好性も考慮し、注目を集めやすい媒体や手段を選びます。
選考は、事前に設定した項目の優先順位を定め、共有して行います。たとえば、保有資格のニーズが高く、学歴にあまりこだわらない場合は、最終学歴よりも保有資格の優先順位を高くします。
設定されたペルソナの要件にすべて当てはまる人材が現れることは、ほとんどありません。優先順位の決定・共有は選考をスムーズに進める重要なポイントです。
ペルソナを活用して採用活動を成功させるポイント
ペルソナの設定を最大限に活用して採用活動を成功させるためには、定期的な見直しと、求人広告や求人票の作成、スカウトメールの文面にも反映させることが大切です。
定期的に見直す
ペルソナは流動的なものであるため、定期的な見直しが必要です。
就職・転職市場は、経済状況や時勢などに影響を受けやすく、常に変化しています。求職者のニーズや置かれている状況も同様に変化していくため、過去に設定したペルソナを使い続けることはできません。
また、経営戦略や事業の方針が変更された場合は、経営陣や現場のニーズも変化するため、ペルソナ設定や採用基準も変える必要があります。項目の優先順位の見直し・共有も忘れずに行いましょう。
常に「現在必要とされる人物像」になるようにペルソナを設定し、採用活動を進めることが重要です。
あらゆる採用媒体に反映させる
設定したペルソナは、求人広告や求人票のほか、スカウトメールの作成時にも活用しましょう。設定したペルソナの心をつかむスカウト文によるアプローチが重要です。
なお、返信率を高めるには、スカウトメールの文面に「あなたのこういうところに魅力を感じました」といった1to1のメッセージを盛り込むことが大切です。経験やスキルなど魅力を感じた部分を具体的にあげ、「誰にでも送っているものではなく、自分だけに来たスカウト」であると受け取ってもらえるように工夫しましょう。
Re就活では、基本属性や経験、志向性などの詳細なデータをもとに調査し、ペルソナに近い人材に直接アプローチできるスカウトメール機能があります。高い開封率・返信率を誇る独自メールシステムを提供しているので、ぜひ採用活動への利用を検討してください。
採用活動でペルソナを設定する際の注意点
採用活動でペルソナを設定する際は、次の点に注意しましょう。
- ペルソナは複数パターン用意する
- 個人の主観に基づいて作らない
- 細かく設定しすぎない
ペルソナは複数パターン用意する
ペルソナは一つに限定せず、複数パターンを作成します。一つのペルソナだけで人材を募集すると、細かく設定した要件に当てはまる求職者に出会えない可能性があるからです。
ペルソナを複数用意することで対象の人材を増やし、要件にあう求職者に出会うチャンスが広がるでしょう。
たとえば、営業職のペルソナを作成する場合「周りを巻き込めるコミュニケーション能力が高いタイプ」や「着実に実務をこなす失敗回避タイプ」など、異なる特徴をもつ社員を選んで参考にするのも一つです。
特に、新卒の場合は部署ごとに2~3パターン用意して、採用活動に活かしましょう。さまざまな個性をもつ人材の採用は組織の多様性につながります。異なる視点からの意見が得られて、考え方の偏りの防止や新しい発想による業務の効率化が図れる場合があります。
個人の主観に基づいて作らない
ペルソナは、個人の主観ではなく複数の客観的な意見やデータをもとに作ることが重要です。採用担当者が、個人の主観でペルソナを作ると、市場に合わないものになり、適切な人材が見つけられないという事態になる可能性があります。
ペルソナは、経営陣や採用担当者、各部署の社員などの複数の意見やデータをもとに作成します。必要に応じて、社内ヒアリングのためのアンケート調査を実施したり外部の専門家などの意見を取り入れたりするのも効果的でしょう。
社内で求める理想の人物像と市場に実在する人材層にズレがないことを確認した上で採用活動を進めることが、長期的に活躍する即戦力人材の獲得につながります。
細かく設定しすぎない
欲しい要件を満たす人材を採用するには、ペルソナを細かく設定しすぎないこともポイントです。要件を盛り込み過ぎると該当者がみつからず、採用までたどり着けない可能性が高くなります。
特に業務と関係のない要件で絞り込むと該当者が見つからないだけでなく、どのような人材を採用すべきなのかかえってわかりにくくなってしまいます。
ペルソナ設定では現実とかけ離れていない、実際に存在しそうな人物像を設定するように心がけましょう。ペルソナを細かく設定すると、自社が必要とする人材をより具体的にイメージできる半面、市場に実在しない理想像が出来上がってしまうかもしれません。そうならないためにも、設定した要件には、適切な優先順位を設けておくことが重要です。
ペルソナ設定で採用を成功させミスマッチを防ごう
ペルソナを設定すると、求人媒体の絞り込みや、求める人材に響くスカウトメールの作成などが進み、採用活動を効率的に行えます。また、採用基準を社内で共有してミスマッチを防ぐ効果もあります。
作成したペルソナは定期的に見直します。流動的な市場に合わせたペルソナ設定で、自社が必要な人物像を社内で共有し、効率的に長く活躍する優秀な人材の採用を成功させましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。