社内FA制度とは?企業が導入するメリットやデメリット、運用ポイントを解説
2023.12.15
近年、従業員や企業にもたらすさまざまなメリットを期待して、多くの企業が社内FA制度に注目しています。
本記事では、社内FA制度とは何なのか、導入によるメリット・デメリットなどを詳しく解説します。自社でFA制度を導入する際の要件やポイントも併せて解説するので、ぜひ役立ててください。
社内FA制度の意味と現状
社内FA制度とは何か、日本ではどのくらい普及しているのかを見ていきましょう。
社内FAとは
「社内FA制度」とは、従業員が異動したい部署に自身を売り込むことで、希望の人事異動を実現する制度です。
FAは「Free Agent(フリーエージェント)」の略称で、プロ野球をはじめとするスポーツ界における選手の権利として広く知られています。FAは従業員のモチベーションを高めることで企業の成長を促せるため、ビジネスシーンでも広まっている権利です。
通常の人事制度は、人事部や上司から「受動的」に配属先を伝えられます。一方、社内FA制度は人事部を通さずに従業員が主体となって、希望部署にスキルをアピールできます。従業員の希望を直接反映できるため、モチベーションアップや人材流出の防止などのメリットが期待できます。
なお、従業員が社内FA制度を利用するには、勤続年数や保有資格などのあらかじめ定められた要件を満たすことが必要です。
社内FA制度と社内公募制度との違い
企業が個別に設ける制度のなかには、社内FA制度のほかに「社内公募制度」があります。
社内FA制度は、従業員が主体的に希望の人事異動を実現する方法で、言わば「自分で売り込む」スタイルです。一方の社内公募制度は部署が求める人材の要件を公募し、社内から応募者を募る方式です。
社内FA制度の導入状況
「公益財団法人日本生産性本部」が実施した「第14回日本的雇用・人事の変容に関する調査」では、社内FA制度を導入した企業の割合が2001年から10ポイント以上上昇していることがわかっています。
※出典元:「第14回日本的雇用・人事の変容に関する調査」(公益財団法人日本生産本部)(https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/R122attached.pdf)
2001年以降は数ポイント程度の上昇や下降を繰り返しているものの、2012年には初の20%を超えている状況です。
社内FA制度が注目されている背景
近年、社内FA制度を導入する企業が増加傾向にある背景には、社会構造の変化が大きく関係しています。
従来の人事制度は、年齢や勤続年数に応じて給与が上がる「年功序列賃金制度」が一般的でした。しかし時代の変化とともに、企業を成長させるため「成果主義制度」に転換する動きが出てきています。成果主義制度では、従業員を評価する際に年齢や勤続年数ではなく、成果を重視します。
従業員が成果を出すためには、高いモチベーション維持が必要とされています。しかし、職務選択や異動に関するすべての権利を企業側が持っている状態では、従業員は成果を求められるにも関わらず、活躍できる場を一方的に決められることになってしまいます。そのため従業員の不満が募り、モチベーションの低下につながる可能性が否めません。
一方、社内FA制度なら従業員にも一定の職務選択権が与えられます。スキルや能力を活かせる場所を自身で開拓できるため、従業員のモチベーションや満足度が高められると期待されています。
企業が社内FA制度を導入するメリット
社内FA制度の導入は、企業や従業員に次のようなメリットをもたらします。
- 従業員のモチベーションアップにつながる
- 優秀な人材の獲得が期待できる
- 従業員の離職を防止できる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
従業員のモチベーションアップにつながる
企業が社内FA制度を設けることで、従業員のキャリア形成に対する自主性を高められます。そのため、仕事に対するモチベーションアップが期待できるでしょう。
また、社内FA制度は「FA権」を取得した従業員が利用できる制度です。FA権を取得するには、企業や部署が設けた一定の要件を満たさなければなりません。そのため、希望部署にアピールするためには、それなりのスキルを身に付ける必要があります。
従業員は、自己実現のために「FA権の要件を満たす」という目標ができることから、自主性を持って前向きに仕事へ取り組むようになるでしょう。
優秀な人材の獲得が期待できる
社内FA制度を設けると社内の人事だけでなく、採用においてもメリットがあります。
FA権の獲得には、企業が何らかの資格要件を設定するのが一般的です。たとえば「勤続年数」や「実績」、「資格」などです。FA権は厳しい条件をクリアした従業員のみが取得できるため、受け入れ部署にとっては優秀な人材を獲得できます。
また、FA制度は成果主義と深い関係性にあります。成果主義を採用している企業は学生からのニーズが高い傾向にあるため、新卒採用において優秀な人材を獲得できる可能性があるでしょう。
あさがくナビのアンケートでは、「成果に応じた給与体制」が魅力的だと回答した学生が、「年功序列型の給与体制」と回答した学生の約2倍だったことがわかっています。
※出典元:「2024年卒学生の就職意識調査(成果に応じた給与体制)2022年10月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/wp-content/uploads/2023/10/221020-navienq.pdf)
「成果に応じた給与体制」が魅力的だと回答した学生からは、次のような声が寄せられています。
- 「成果に応じた給与体制のほうが、早く成長できると思う」
- 「年齢によって給与が上がる企業よりも、成果に応じて給与が決まる企業のほうが、会社としてのパフォーマンスも高くなると思う」など
人材市場において、成果主義と社内FA制度は企業のアピールポイントになります。そのため、企業が導入すれば注目度や志望度が高まる可能性があります。また、自分の能力を発揮して成果を出したいと考える優秀な人材の獲得にもつながるでしょう。
従業員の離職を防止できる
社内FA制度では、従業員に「スキルや能力を活かせる場所へ異動する」という選択肢を与えます。そのため、配属先への不満を理由とした離職を防止する効果が期待できるでしょう。
通常の人事制度では、従業員が必ず希望する部署に配属されるとは限らないため、見切りをつけて離職されることがあります。また、部内の人間関係に悩み、転職を考える従業員も出てくるかもしれません。
社内FA制度を導入し、現状の環境を変えられる選択肢を増やすことで、従業員の不満を解消できるでしょう。また、社内FA制度は部署の内情を把握した上で異動を申請できるため、異動後のミスマッチの防止にもつながります。
企業が社内FA制度を導入するデメリット
社内FA制度にはデメリットもあります。おもなデメリットは次のとおりです。
- 従業員から不満が出る可能性もある
- 会社の規模によっては導入しにくい場合もある
- 人間関係に悪影響を及ぼす可能性がある
導入後のスムーズな運用のためには、事前にデメリットへの対策を検討しておく必要があります。それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。
従業員から不満が出る可能性もある
FA権の獲得要件によっては、従業員から不満が出る可能性があります。FA権の獲得要件は企業ごとに自由な設定が可能ですが、要件が厳しすぎると一部の優秀な従業員しかFA権を獲得できない場合があるためです。
社内FA制度は従業員同士の競争意識も刺激する一方で、要件のハードルが高すぎるとFA権の獲得を目指す従業員が減り、制度自体が衰退していく恐れもあります。
会社の規模によっては導入しにくい場合もある
社内FA制度は大企業向けの制度であり、中小企業では導入しにくい側面があります。企業で社内FA制度を上手く運用していくためには、人員にある程度の余裕が必要です。
大企業は従業員数だけでなく、部署や事業所も多い傾向にあります。一方、中小企業は人手不足に陥っているケースもあり、部署や事業所も限られるのが現状です。ギリギリの人数で稼働していると、希望の異動を叶えられず、社内FA制度を導入しても十分な効果を得られない可能性もあります。
社内FA制度の導入が難しい場合は「ジョブローテーション」を実施する方法もあります。現在の人員を流動的に配置するため、比較的、中小企業にも取り入れやすい制度です。
人間関係に悪影響を及ぼす可能性がある
従業員が社内FA制度を利用する際には、現部署の上司との関係が悪化する恐れがあります。
本来、社内FA制度は従業員が主体的に動ける制度であり、一般的な人事異動のように上司や人事部は介在しません。しかし、従業員が現部署の上司に知らせずに社内FA制度を利用した場合、現部署の上司からFA権行使に対する納得を得られない可能性があります。
社内FA制度が従業員と上司の人間関係に悪影響を及ぼさないよう、企業として何らかの配慮が必要です。
社内FA制度を導入する際のポイント
自社で社内FA制度を導入しても、上手く運用できるとは限りません。社内FA制度の効果を高めるには、導入する際に次のようなポイントをおさえておく必要があります。
- 従業員が納得できる要件を設ける
- 秘密保持を徹底する
- 社内FA制度不採用者のフォロー体制を整備しておく
それぞれのポイントを詳しく解説します。
従業員が納得できる要件を設ける
社内FA制度を導入する際には、FA権を獲得するための要件を設定します。代表的な要件には、次のようなものがあります。
- 勤続年数〇年以上
- 〇〇の資格取得
- 〇〇の実績が〇〇以上 など
実績の場合、部署によって業務内容が異なるため、社内で統一するのは難しいのが現状です。しかし、曖昧な要件を設定すると不公平感が生じる可能性があります。人事部は現場の責任者と相談しながら、従業員が納得できる要件を設定するよう心がけましょう。
秘密保持を徹底する
企業は、社内FA制度を利用する従業員を社内で公表するか否かを慎重に検討します。基本的に公表の有無に関わらず、人事部と各部署の責任者は当事者情報の管理を徹底するようにしてください。情報の取り扱い次第では、権利を行使した従業員に不利益が生じるリスクがあるためです。
社内でFA権を行使したことを公表する場合、制度を利用する従業員の動機や背景を周囲の人々がしっかりと把握しておく必要があります。周囲の理解が不足していれば、不必要な憶測や誤解を生み、当事者への失望感や会社に対する裏切りとして捉えられてしまう可能性があるからです。
公表しない場合は、秘密保持を徹底するようにしましょう。制度を利用する当事者の情報が漏れて部署内に広まってしまうと、人間関係に影響を及ぼし従業員が働きにくくなる可能性があります。
社内FA制度不採用者のフォロー体制を整備しておく
社内FA制度を利用しても従業員の異動希望が採用されなかった場合に備えて、フォローする体制も整備しておきましょう。企業や部署の事情によっては必ずしも希望する部署に配属されるとは限らないためです。
不採用者が現部署で業務を続ける場合、希望に沿わなかったことでモチベーションが低下する可能性があります。人事部はフォロー面談やキャリア相談などを実施し、次の機会に向けて前向きになれるよう、不採用者をケアしましょう。
社内FA制度を上手く活用して効果を高めよう
社会構造の変化により、多くの企業では社内FA制度を導入する動きが見られています。社内FA制度を導入すると、従業員のモチベーションアップや優秀な人材の獲得など、さまざまな効果が期待できます。
ただし、社内FA制度は大企業向けの制度です。中小企業の場合は人員の過不足状況や配属先の数などを考慮し、十分な効果が得られるかを慎重に検討しましょう。
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