ジョブクラフティングとは?推進するメリットと具体的なやり方を解説
2023.12.04
近年は、社会情勢や企業を取り巻く環境が次々と変化していく時代です。そのなかで従業員一人ひとりが時代にあわせて、仕事に対する認知や行動を変化させていく必要があります。
そこで注目されているのが、従業員の主体性が高まり、仕事のやりがいを見出せるようになるジョブクラフティングです。
本記事では、ジョブクラフティングの概要や目的、従業員がジョブクラフティングの意識を持つことによる企業のメリットについて解説していきます。また、従業員がジョブクラフティングを実践する際の方法や注意点、ジョブクラフティングがシニア世代にも有効といわれている理由についても紹介していきます。
ジョブクラフティングとは?
ジョブクラフティングとは、従業員自らが仕事に対する認知や行動を変えることでやりがいのある仕事に創り変えていくことです。企業側の施策としてではなく、従業員が自分自身の意志で考え、仕事を再定義し、新しいやりがいや自分らしさを見つけていくことを意図しています。
ジョブクラフティングの目的
ジョブクラフティングの目的は、おもに次の3つです。
- モチベーションの向上
- 組織への愛着心(エンゲージメント)を高める
- コミュニケーションの円滑化
それぞれの目的を詳しく解説します。
モチベーションの向上
ジョブクラフティングは、従業員が主体となって業務内容を捉えなおし、仕事にやりがいを見いだせるよう工夫していきます。主体性をもって業務に向き合うことで、仕事へのモチベーションの向上が期待できます。
組織への愛着心(エンゲージメント)を高める
ジョブクラフティングによって仕事にやりがいを感じ、従業員一人ひとりが存在意義を感じられると、企業への貢献意欲が高まります。企業に貢献している実感が得られるようになると、結果的に、組織へのエンゲージメントを高めることにつながるでしょう。
コミュニケーションの円滑化
従業員が仕事に対してやりがいを持てるようになると、業務への向き合い方が積極的なものとなり、コミュニケーションの改善にも目を向けられるようになるでしょう。
仕事で関わる人たちとの接し方を改善するように意識することは、良好な人間関係の構築につながります。そのため、社内外でのコミュニケーションが円滑になるという面でも、ジョブクラフティングは役立ちます。
ジョブデザインとの違い
「ジョブデザイン」も従業員のモチベーションを上げる手法として用いられますが、主体となるものに違いがあります。
ジョブデザインは企業側が主体となるのに対して、ジョブクラフティングは従業員側が主体となります。ジョブデザインは企業側が従業員のためにやりがいのある仕事を設計していくものです。
一方、ジョブクラフティングは従業員の主体性を軸に、業務内容や人間関係を見直し、自らやりがいを見つけていくものです。そのため、ジョブクラフティングはジョブデザインに比べ、従業員のより能動的な行動が求められます。
こうした違いをふまえた上で、ジョブクラフティングが注目されている理由や推進するメリットについて学んでいきましょう。
ジョブクラフティングが注目される背景
近年、ジョブクラフティングは従業員にも企業にも注目されています。その背景として次の3つがあげられます。
- 労働市場の流動化
- 業務の複雑化によるモチベーションへの影響
- 仕事の個業化による人間関係への影響
それぞれを詳しくみていきましょう。
労働市場の流動化
ジョブクラフティングが注目されている理由の一つとして、従業員の労働に対する価値観が多様化し、労働市場の流動性が高まってきていることがあげられます。
従業員のなかには、主体的に仕事を作り上げられるような環境でないとキャリアアップができずに不安を感じる人もいます。また、「働き方改革」によって、転職がしやすくなったことから、キャリアを磨いていくために企業を離れる選択をすることもあるでしょう。企業にとっては優秀な人材をつなぎとめておくのが難しくなっているのが現状です。
そこで、仕事への満足度や組織への貢献度を高められるジョブクラフティングは、従業員にも企業にも有効だと言われています。
業務の複雑化によるモチベーションへの影響
ジョブクラフティングが注目されている背景として、業務が複雑化していることがあげられます。
業務の細分化・専門化が進み、与えられた専門の業務をこなすだけの仕事も増えてきました。与えられた業務だけでは仕事が単なる作業のようになり、従業員のモチベーションを保つことが難しくなっています。モチベーションの低下は成果にも影響し、企業の業績や自身の評価の悪化につながる可能性もあります。
そのため、従業員が仕事にやりがいを見つけ、モチベーションを高めていくジョブクラフティングは、企業にも従業員にも注目されています。
仕事の個業化による人間関係への影響
仕事の個業化も、ジョブクラフティングが注目されている理由の一つです。個業化とは、自分一人で仕事が完結することを指します。
個業化によって職場の人間関係の幅が狭くなり、コミュニケーションが不足する場合があります。また、自分以外の従業員の業務内容が見えにくく、互いにフィードバックを行う、適切なサポートを行うなどの機会が少なくなる影響もあるでしょう。
そこで、ジョブクラフティングによって、従業員自らが職場内の人間関係を見直し、再構築していく過程が注目されています。
ジョブクラフティングを推進するメリット
次に、企業にとってジョブクラフティングを推進するメリットはどのようなものがあるのかみていきましょう。ジョブクラフティングの意識を持った従業員がいることで企業にもたらすメリットは次のとおりです。
- 主体的な従業員が増える
- リーダーの育成につながる
- 創造性が高まる
それぞれのメリットを詳しく解説します。
主体的な従業員が増える
従業員がジョブクラフティングの意識を持つことができると、従業員が業務に対して主体的・能動的に取り組めるようになるメリットがあります。
主体的な行動が増えれば、従業員同士の交流も増え、円滑なコミュニケーションにつながるでしょう。また、業務に対する意見交換も活発化し、従業員がやりがいを感じやすくなるだけでなく、生産性の向上も期待できます。
リーダーの育成につながる
ジョブクラフティングを推進すると、リーダーの育成につながる効果もあります。従業員が自ら考えて周囲へ働きかけを行い、業務の段取りを組むことによって、自然とリーダー育成の過程を踏んでいくことになります。
この過程を繰り返すことによって、従業員の業務全体の把握力や計画力が鍛えられ、リーダーとしてのスキルを身に付けていけるでしょう。
創造性が高まる
従業員がジョブクラフティングを実施すると、創造性が高まる効果も期待できます。
業務内容についてはもちろん、仕事に対する向き合い方や関わる人との関係性などについて思考する機会が増えるので、自然とアイディアがうまれるきっかけが増えていきます。自主的に発せられた現場の声は組織としても反映しやすく、業務改善のみならず新規事業につながることもあるでしょう。
離職防止につながる
ジョブクラフティングによって、従業員が業務にやりがいを感じられるようになれば離職防止にもつながるでしょう。
近年では「ホワイト企業」が増えている一方で、「緊張感がなくやりがいを感じられない」「ここでは成長できない」という理由で離職する若者が増えている現状もあります。待遇や給与の面だけでなく、自身の業務にやりがいを感じられるかも仕事選びの重要な要素になっています。
ジョブクラフティングによって従業員自身に仕事のやりがいや今後のスキルアップ、またキャリアの見通しをもってもらい、従業員の定着率向上につなげていきましょう。
ジョブクラフティング実践のための3つの視点
ジョブクラフティングには、実践するのに役立つ次の3つの視点があるといわれています。
- 作業クラフティング
- 人間関係クラフティング
- 認知クラフティング
企業はジョブクラフティングを推進する上で、3つの視点を理解しておきましょう。
作業クラフティング
作業クラフティングとは、主体的に業務を構築することを指します。業務内容の追加・削除や従来の業務内容を変更することによって、より理想的な業務プロセスを構築できます。
業務プロセスが改善されれば、仕事がスピーディーになって生産性が向上し、より充実感を得られるようになるでしょう。
人間関係クラフティング
業務を通じて関わる人と人間関係を構築していくことを、人間関係クラフティングと言います。従業員自ら、業務を通じて多くの人と積極的に関わりをもち、より良い人間関係が構築できると、仕事のやりがいや成果を実感しやすくなります。
また、従業員同士の協力関係も深まり、互いに高い意識をもって仕事に取り組めるでしょう。
認知クラフティング
認知クラフティングとは、業務に対する認知を見つめ直すことです。自身の業務内容について、業務の質や手順を見直したり、社会的観点で必要とされている業務であるという価値を再確認したりできます。
また、業務によって目的が達成されたことや業務の成果について考え、社会に貢献している実感を持つことも重要です。
ジョブクラフティングのやり方
ジョブクラフティングを実践する手順は次のとおりです。
- 業務内容の洗い出し
- 業務における目的・動機・強みを分析する
- 業務の捉え方を見直す
- 業務の遂行方法や人間関係を見直す
企業はそれぞれのステップを理解し、必要なタイミングで従業員をサポートできるように準備しましょう。
1.業務内容の洗い出し
まずは、従業員自身の業務内容をすべて洗い出します。
やりがいを感じている業務もやる気が出ない業務も、あらゆる業務内容を書き出して一覧にします。現状を把握することは、業務の課題や改善策を見つけ出すのに役立つでしょう。
2.業務における目的・動機・強みを分析する
次に、業務の内側を掘り下げる分析を行います。業務を行う目的や動機、自身の強みを分析してみましょう。目的や動機には、業務に取り組むことで獲得したいもの、大事にしたいものが当てはまります。自身の強みは、現在の業務では活かしきれていないスキルや得意分野についても書き出し、改めて自分自身を見つめ直してみることが大切です。
目的・動機・強みといった視点で自身を客観的に分析することで、業務に対する理想的な向き合い方や自身の課題も見つかるでしょう。
3.業務の捉え方を見直す
次に業務の捉え方を見直します。最初に洗い出した業務内容と分析した目的・動機・強みを組み合わせながら、業務の捉え方を変えていきます。
現在取り組んでいる業務が企業や社会にどのように貢献し、どんな人の役に立っているのかを見直してみましょう。業務が周囲に与えている影響について、消費者や顧客といったエンドユーザーはもちろん、他部署や経営陣、株主なども含めたさまざまな視点から見直すことができます。自身の強みが業務にどうアプローチしているかも見つめ直します。
業務内容と業務の目的・動機、自身の強みを紐付けられれば、思いがけないやりがいが見つかり、自身の業務がさらに意義あるものに変わるでしょう。
4.業務の遂行方法や人間関係を見直す
最後に、業務の遂行方法や人間関係を見直します。よりやりがいを感じられる方向を目指して、業務方法をブラッシュアップしましょう。「もっと効率的になるよう工夫できないか」「自身のアイディアを活かす方法はないか」といった視点ですべての業務を見直します。
業務によっては、誰かと組む、得意な人に任せるなどの方が有効な場合もあるかもしれません。同時に、人間関係についての見直しも行います。業務に関係する人との関わり方を見直し、新たな関係を構築することで協力関係も広がり、業務のやりがいにもつながるでしょう。
ジョブクラフティング推進の際に注意すべきこと
ジョブクラフティングを推進する際はメリットだけでなく次の3つの注意点をおさえておくことも大切です。
- やりがい搾取に陥りやすい
- 業務が属人化しやすい
- チームワークに影響する恐れがある
注意するべき3つの点について詳しくみていきましょう。
やりがい搾取に陥りやすい
ジョブクラフティングを推進する過程で、業務のやりがいを重視しすぎると、やりがい搾取に陥りやすい危険があります。「やりがい搾取」とは、企業が「やりがいこそが報酬である」という価値観を従業員に押し付けることです。
ジョブクラフティングの目的は、従業員が自分の意思で業務へのやりがいを見出すことです。従業員主導だからこそ効果が上がります。企業側は経営陣の価値観や理想を押し付けすぎないように注意が必要です。
業務が属人化しやすい
ジョブクラフティングの特徴である従業員の主体性にこだわりすぎると、業務が属人化しやすい側面もあります。属人化とは、特定の業務が担当の従業員にしかできなくなることです。
従業員が自身の業務以外を知らないという状況が生じないよう、定期的に情報共有を行うことが大切です。従業員の業務に対する上司のフィードバックや評価を行う機会を作り、上司の意見を取り入れられる環境を整える必要もあります。
従業員の主体性を認めつつも、情報共有やフィードバックの機会をつくり、上司が関わることも忘れないようにしましょう。
チームワークに影響する恐れがある
ジョブクラフティングは主体的な行動が求められるため、チームワークが重視される業務やチームワークを高めることを目的としている場合にはあまり向かない可能性があります。
ジョブクラフティングは、従業員が個人としてやりがいを見つけ、個性や自身のアイディアを発揮できる環境を整えていくものです。従業員の業務の性質を良く見極めた上で、ジョブクラフティングを推進するか検討しましょう。
ジョブクラフティングを推進して従業員の主体性を上げよう
ジョブクラフティングとは、従業員自らが仕事に対する認知や行動を変えることでやりがいのある仕事に創り変えていくことです。
企業ではなく、従業員が主体となって自身の業務内容や仕事に関わる人間関係を見つめ直していくため、従業員にはより能動的な行動が求められます。従業員がジョブクラフティングを実施することによって、主体性や創造性を高め、リーダーの育成にもつながるメリットがあります。
企業がジョブクラフティングを推進する際は作業クラフティング・人間関係クラフティング・認知クラフティングの3つの視点が必要です。また、ジョブクラフティングの手順や注意点についても正しく理解し、企業として従業員のジョブクラフティングをサポートしていく必要があるでしょう。
ジョブクラフティングを推進して従業員の主体性を高め、仕事へのモチベーションを向上させることを目指しましょう。
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