近年「コーピング(ストレスコーピング)」が、注目されています。コーピングは英語で「対処する」という意味で、ストレスに対処する方法を指します。
人はストレスがかかると、本来の力を発揮できません。仕事の効率が落ち、ミスも起こります。そのため、企業には従業員のストレスを軽減し、従業員が力を発揮できる環境を整える施策が求められます。ストレスコーピングは、企業がメンタルヘルスの施策を取り入れる上で、知っておくべき内容です。
この記事ではコーピングの意味や注目を集める背景、ストレスの種類、人がストレスを感じる仕組み、コーピングの種類や特徴、企業がコーピングを取り入れる方法などを解説します。効果的なメンタルヘルスの施策を導入する際に、役立ててください。
コーピングとは?
コーピングとは、ストレスがかかる状況に対処するための方法や戦略を指します。英語のcope(うまく対処する)から派生した言葉です。「ストレスコーピング」とも呼ばれます。
「コーピング」という心理学用語が広がったのは1980年代ごろで、アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルスが提唱した概念です。
コーピングでは、個人がどのような状況がストレスの原因(ストレッサー)であり、それがどれだけの脅威を持つかを認識し、適切な対処方法を考えて実行します。
コーピングが注目を集める背景
厚生労働省の「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」によると、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じている事柄がある」と回答した労働者は82.2%でした。多くの人がストレスを抱えていることを自覚していることがわかります。
従業員のストレスが増すと、注意力や判断力、集中力などの認知能力が低下し、仕事の成果やモチベーションが低くなります。さらに、高いストレス状態が続くと、うつ病や過労による健康問題、ときには自殺などのリスクも増えるかもしれません。
「コーピング」をメンタルヘルス対策として企業に導入し、従業員のストレスを軽減できれば、生産性や業績の向上を期待できます。
また、従業員にとって働きやすい環境を提供すれば、離職率を減少させ、優秀な人材を確保することも可能です。
さらに、社会的な責任を果たす企業としての評価が高まり、企業のイメージ向上にもつながるでしょう。こうした理由から、コーピングは今注目を浴びています。
出典:「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r04-46-50_kekka-gaiyo02.pdf)
コーピングで対処するストレスの種類
コーピングでは、どの要因がストレスを引き起こすのかを理解することが重要になります。ストレスの種類はおもに3つあります。一つずつ紹介します。
物理的なストレス
物理的なストレスは、体への外部的な圧力や負荷によって引き起こされます。たとえば、重い物を持ち上げる作業や過度な運動、不快な環境条件(温度、騒音、光など)、長時間の体力的労働などがあげられます。
化学的なストレス
化学的なストレスは、体内において化学的な変化や影響によって引き起こされるストレスです。
具体的にはアルコールやタバコ、食品添加物などがあげられます。また、強い香りを放つ香水や柔軟剤にストレスを感じる人もいます。
心理的・社会的なストレス
不安や焦り、恐怖、緊張などの感情によるストレスは、心理的なストレスです。また経済的な問題や人間関係、仕事にかかわるプレッシャーなどが社会的なストレスに当たります。
心理的・社会的なストレスは、精神的な圧力や社会的な要因によって引き起こされます。
現代におけるストレスの大半が、心理的・社会的なストレスといわれています。
人がストレスを感じる仕組み
ストレスに対処する際には、まず何がストレスの原因なのか、それが自分にとってどの程度の脅威となっているかを認識(一次的認知評価)し、次にストレスを軽減するために具体的にどのようなアプローチをとるべきかを考える(二次的認知評価)ことが重要です。
ステップ1:一次的認知評価
一次的認知評価では、特定の刺激が自身にとってストレッサーとなるかどうかを判断します。
たとえば、晴れた日を「外で楽しむチャンス」と捉える人もいれば「渋滞で外出が不便になる可能性がある」とみなす人もいます。これらの評価は、個人の思考や信念、認識などに大きく影響されているのです。
一次的認知評価で刺激が脅威だと評価された場合は、対処法を考える二次的認知評価に進みます。
ステップ2:二次的認知評価
刺激の脅威度を評価する一次的認知評価に対し、二次的認知評価では具体的な対処方法を考えるプロセスです。
具体的には、「ストレッサーへの対処法を知っているか(結果期待)」と、「その対処法を実行できるかどうか(効力期待)」を考えます。
これらの条件が両方とも満たされた結果、ストレスは軽減されるでしょう。しかし、どちらかの条件が叶わないと判断されれば、ストレスは増加してしまいます。
コーピングの種類と特徴
ストレスを放っておくと、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。ここではストレス対処方法(コーピング)の種類と特徴を紹介します。
問題焦点コーピング
問題焦点コーピングでは、ストレスの原因や問題の根本的な解決に焦点を当てます。自分で情報を集めて、適切な方法で問題を改善しようとする行動です。
たとえば「部署内の人間関係が悪いため、転職をする」「長時間労働を上司に訴える」などがあげられます。
問題焦点コーピングでは問題解決に焦点を当てるので、うまくいけばストレスの原因そのものを取り除ける可能性があります。
ただし、原因解消の方法を考えすぎて疲れてしまうこと、対処方法はわかっていても実行する自信や能力が足りないと悩むことに注意が必要です。
情動焦点コーピング
情動焦点コーピングは、問題そのものの解決が難しい場合に使われる方法で、ストレスの受け取り方や感じ方を変えて対処します。
たとえば「ストレスの高まりを感じて深呼吸してリラックスした」「上司に叱られて落ち込んだので散歩して気分転換した」などです。
ただし、情動焦点コーピングは問題の解決を目指す問題焦点型とは異なり、根本的な問題の解決は行われません。ストレッサー自体は取り除かれていないため、同じ状況が再び起こる可能性があります。
企業がコーピングを導入する方法
メンタルヘルスの向上を図る一環として、企業がコーピングを取り入れることがあります。企業がコーピングを導入する方法を5つ紹介します。
メンター制度
初心者や新人に対してコーピングを考えているなら、メンター制度が有効です。メンター制度では、経験豊富な指導者(メンター)が初心者や新入社員(メンティー)に対して指導やアドバイスを提供します。
直属の上司ではなく、日頃の悩みを相談しやすいように年齢や勤続年数が近い従業員をメンターとするのがポイントです。
メンターは自身の経験や知識を共有し、成長をサポートし、メンティーが悩んでいる場合は相談に乗ります。問題解決に至らなくてもメンティーに悩みを吐き出させることで、ストレスを軽減できるケースもあるでしょう。
1on1ミーティング
上司と部下の間で関係性を築きたいなら、1on1ミーティングがおすすめです。1on1ミーティングでは上司と部下が一対一で面談をして、上司が部下の悩みに寄り添います。
1on1ミーティングにコーピングを取り入れる際は、上司は部下のストレスや課題を理解し、適切なアドバイスや対処方法を提供することが重要です。部下がストレスを感じている場合、その原因やどのように対処すべきかを一緒に考え、具体的なプランを立てることができます。
1on1ミーティングを実施する流れは、下記記事でも詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
専門家によるカウンセリング
カウンセリングの窓口を設置することも、コーピング導入方法の一つです。この施策では、専門家のカウンセラーが従業員のメンタルヘルスに関する悩みや問題に対して支援を行います。
同僚や上司には言いにくいプライベートな悩みも、専門家に相談することで気軽に解決策を見つけられるでしょう。
カウンセリングはコーピングの専門家が対応するため、従業員の心理的な健康状態やストレスのレベルに合わせたアドバイスが得られます。
ただし、カウンセリングにはコストがかかるため、企業は予算やリソースの面を踏まえて導入を検討する必要があります。
研修・eラーニング
従業員にコーピングの基本的な概念やスキルを提供したい場合、研修やeラーニングが適しています。
研修では専門のトレーナーやカウンセラーが、参加者にコーピングスキルやストレス管理の戦略を教えます。実践的な演習やグループディスカッションを通じて、コーピングリストの作成(不安時の対処リスト)、輪ゴム理論(ネガティブな感情を断ち切る方法)などの具体的な手法を学ぶことができます。
eラーニングはオンライン学習を指します。電子的なメディアを通じて学ぶため、場所や時間に制約を受けずに学習できます。従業員は自分の都合に合わせて、コーピングに関する知識やスキルを身に付けることができます。
オフィス環境の改善
従業員が働きやすい環境を整えるのも、コーピングに役立ちます。次のポイントに注意して、オフィス内の環境を見直してみましょう。
- 適切な照明や温度の設定
- 快適なデスクや机、必要な備品の配置(必要に応じてレイアウト変更)
- 自然光を取り入れられる構造
- 静かで集中できる環境確保
- 植物や緑の要素の導入
- ブレイクエリアの充実(ソファやカフェエリアの設置)
- メンタルヘルスに関する情報提供(ポスター、パンフレット)
- 柔軟なシフトスタイルの導入(フレックスやリモートワークなど)
- プライバシーの確保
- カウンセラーのサポート
現場の意見を尊重しながらオフィス環境の改善を進めることが大切です。
コーピングの理解を深めて企業に取り入れよう
企業において従業員のストレスを軽減することは、作業効率の向上やミスの減少につながります。そのためストレスへの対処法であるコーピングは非常に重要です。
具体的な対処方法を実践するためには、企業側のサポートが欠かせません。研修や教育プログラムの導入、メンター制度の実施、専門家によるカウンセリングの提供、オフィス環境の見直しと改善など、さまざまな手段が考えられます。
従業員のストレスを軽減するために、コーピングの概念を深く理解し、自社に適した対策を検討してみましょう。
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