ミッション・ビジョン・バリューは、企業の価値観や経営方針、目指す姿、指針などを表すものです。採用活動や企業ブランディング、従業員エンゲージメントの向上にも役立ちます。
本記事では、ミッション・ビジョン・バリューの意味や目的、作り方を詳しく解説します。パーパスとの違いや、ミッション・ビジョン・バリューの効果を高めるために大切なポイント、浸透させるための具体的な手法なども紹介するので、導入する際の参考にしてください。
ミッション・ビジョン・バリューとは
ミッション・ビジョン・バリューとは、経営学者であるピーター・F・ドラッカーが提唱した、企業の経営方針や指針を示すものです。ミッション、ビジョン、バリューそれぞれの意味を解説します。
ミッション
ミッションは、企業が社会に対して「果たすべき使命」や「存在意義」を表す言葉です。「何のために存在しているのか」「なぜこれをやるのか」といった企業の存在理由や目的を端的に表現した短い文章で作ります。
企業の価値観の根幹を明文化した言葉でもあるため、ミッションを読めばその企業がどのような企業なのかがわかります。
ビジョン
ビジョンは、企業が目指す「あるべき姿」を表す言葉です。
ミッションよりも具体的に「いつまでにどういった姿を目指すのか」「この市場においてどのような役割を果たす企業になるのか」といったように、将来の理想像や中長期的な目標を明文化します。
ビジョンからは、企業がミッションを実現するためにどのような目標や志を持っているのかがわかります。
バリュー
バリューは、ミッションやビジョンを実現するために、企業の従業員が「やるべきこと」を表すものです。従業員全員が日々意識すべき具体的な行動指針や行動基準を示しています。
従業員にとっては具体的な行動指針が明確になることで、迷いなくビジョンに取り組むことができます。その結果、ミッションが実現されるというわけです。
ミッション・ビジョン・バリューとパーパスの違い
「パーパス(Purpose)」は、「目的」「意図」と訳され、ビジネスでは「存在意義」を指します。ミッションに似た概念を示すものですが、パーパスの方が社会とのつながりをより強く意識しており、将来像よりも「現在あるべき姿」を指す傾向にあるのが特徴です。
ミッション・ビジョン・バリューは企業単体が主語になっているのに対して、パーパスはより社会的な要素が強く、「企業以外の第三者の視点」が意識されています。
ミッション・ビジョン・バリューを作るメリット
ミッション・ビジョン・バリューは、企業の「経営方針」を短い文章でわかりやすく表現する言葉です。
そのため求人情報に掲載すれば、求職者に対して企業の目指す姿や価値観を明瞭かつ端的に伝えることができ、企業の価値観に共感する人材を集めやすくなるでしょう。
ほかにも従業員エンゲージメントが向上する、一体感のある組織が醸成されるなど、さまざまなメリットがあります。ミッション・ビジョン・バリューを作るメリットを一つずつ詳しく見ていきましょう。
企業の目指す姿が明確になり共通認識が生まれる
ミッション・ビジョン・バリューでは、企業の使命や存在意義、行動指針や価値観を表すことで、企業の「目指す姿」が明確になります。
経営者を含め、すべての従業員が目指す姿や行動指針を共有することによって、企業全体の共通認識が生まれます。この共通認識が、ブレない経営判断や目標設定を可能とするのです。
企業活動を行う中で、従業員が「どのような判断を下すべきか」と迷う局面に遭遇することもあるでしょう。そのようなときにミッション・ビジョン・バリューがあれば、目的や方法を見失うことなく、それに沿って判断を下すことができます。
ミッション・ビジョン・バリューは現場での判断基準や軸となり、従業員の意思決定を迅速かつ的確にするでしょう。
従業員エンゲージメントが向上する
企業の目的や価値観、企業文化を共有することで、従業員全員が同じ方向に向かって日々の業務を行えるようになります。すると組織としての一体感が醸成され、従業員のエンゲージメントも向上するでしょう。
従業員エンゲージメントとは、企業に対する従業員の愛着心や貢献意欲のことです。従業員エンゲージメントが向上すると、従業員の定着率やモチベーションアップにもつながります。
企業ブランディングが実現できる
ミッション・ビジョン・バリューが浸透して世間から賛同を得られると、企業のブランドが評価されるようになるでしょう。
ミッション・ビジョン・バリューを掲げれば、企業にとっての顧客や消費者、取引先や株主、地域社会など幅広い層の人々に対して、具体的かつ明瞭な企業のイメージを発信できます。
さまざまなところに企業のイメージがわかりやすく伝われば、企業の認知度が上がります。企業への理解も深まり、サービスや製品も広く知られるようになるでしょう。
また、企業ブランディングの実現により、自社の目指す姿や価値観、目標を理解し、それに共感する人材の採用や確保にもつながります。
ミッション・ビジョン・バリューの作り方
ミッション・ビジョン・バリューを作るときは、まずミッションを決めます。次にビジョンを作り、最後にバリューを考えます。作成する際の手順は次の通りです。
- 経営陣による事業内容の整理と分析
- 従業員へのアンケートやワークショップ
- ミッション作成
- ビジョン作成
- バリュー作成
- 社内外への周知・浸透
それぞれの手順を詳しく解説していきます。
経営陣による事業内容の整理と分析
まずは経営陣のメンバー全員で、事業内容を整理します。ミッション・ビジョン・バリュー作りは、企業の価値観の根幹に関わることです。そのため、社長や代表をはじめとする事業理解の深い経営幹部や役員層のメンバーで行いましょう。
メンバーがそろったら、創業時の理念や想い、事業の主目的などを洗い出します。社長や代表が自らの想いや考えを伝えて経営陣メンバー全員で共有し、「自社は何のために存在するのか」「社会にどんな価値を提供していきたいのか」などを話し合います。
また、企業に関わるさまざまな層が何を求めているのかを分析することも大切です。この分析には顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)を分析対象とする3C分析を用いるとよいでしょう。
3C分析では、顧客が企業に求めるニーズや競合企業のミッション・ビジョン・バリュー、業界や市場における自社のポジションなどを調査します。
従業員へのアンケートやワークショップ
経営陣のメンバーが事業内容を整理・分析し、ミッション・ビジョン・バリューの骨子をまとめたあとは、従業員にも意見を求めるとよいでしょう。
従業員へのアンケートやワークショップを行って、現場の声を収集するのも大切です。現場の生の声や体験、やりがいと感じていることなどが反映されることによって、従業員にとってもミッション・ビジョン・バリューが自分ごととして捉えやすくなり、策定後の浸透しやすさにも繋がります。
従業員にミッション・ビジョン・バリューの候補案をいくつか提示して、さまざまな角度から「わかりやすく伝えられているか」「認識のズレや誤解を生むような表現はないか」などディスカッションしてもらうのもよいでしょう。
ミッションの作成
意見がまとまったら、最初にミッションを決めます。自社の存在意義や使命を表現するのにふさわしい言葉を深く検討しましょう。
ミッションには、キャッチコピーのような端的でわかりやすい言葉を選びます。一目見ただけで内容が理解でき、頭に残るような情報にするのがポイントです。
ミッションを作成する過程では、さまざまな意見が出てくるでしょう。どのような意見も否定や批判をせず、建設的に話し合うことが大切です。言葉の認識にズレが生じないよう、丁寧に擦り合わせて共通認識を確認しながら作成しましょう。
ビジョンの作成
ミッションを実現するために具体的に何をするのか、いつまでにどのような姿を目指すのかを考えましょう。
ビジョンを作る際は、整理した事業内容や企業の価値観をベースに、ミッションが実現されている将来像を想定します。「そのとき自社は社会へどのような役割を果たしているのか」を表す言葉にするとよいでしょう。
耳慣れない横文字や難しい言葉、人によって解釈が分かれるような表現は避けます。この際、企業目線で伝えたい言葉だけでなく、時代や社会性にあった言葉や、共感を得られるような言葉を選ぶとよいでしょう。
バリューの作成
バリューでは、ミッションやビジョンを達成するための「手段」や「手法」、「提供方法」などを示す具体的な言葉を検討します。
バリューを作る際はより現場に近い従業員を集めて「ミッションやビジョンを実現するためにはどうしたらよいのか」を話し合い、出てきたキーワードをもとに選定するとよいでしょう。
バリューは日々の業務における行動レベルで従業員全体に浸透させる必要があるため、覚えやすく実現可能なものにすることがポイントです。
社内外への周知・浸透
ミッション・ビジョン・バリューが決まったら、いよいよ社内外に周知します。決めた内容を提示・発表するだけでなく、どのような方法で浸透させていくのか計画を立てることも大切です。
日常的に従業員や顧客、消費者が目に触れるような形で発信することや、企業内のさまざまな制度に組み込んで使いこなすことで、より深く浸透させられます。
企業にミッション・ビジョン・バリューを浸透させる方法
ミッション・ビジョン・バリューは作成して終わりではなく、いかに社内外へ浸透させるかが重要です。より深く広く浸透させ、理解してもらうための具体的な方法を紹介します。
社内で発表する
作成直後のお披露目会や朝礼、全社集会、決算報告会などで、経営陣や代表から発表する機会を作るとよいでしょう。
ミッション・ビジョン・バリューは「知っている」だけでなく「理解している」ことが大切です。企業の代表や社長が自らの言葉でミッション・ビジョン・バリューの意味と想いを説明し、従業員に関心を持って理解してもらう必要があります。
社内報やホームページに掲載する
社内外へ広く周知するため、社内報やWebサイト、オウンドメディアなどに掲載するのもおすすめです。特に社内報では代表や社長からのメッセージとして、気軽な読み物感覚で定期的に発信し、従業員に関心を持ってもらうとよいでしょう。
会社概要や求人ページなどに掲載すれば、企業に対して興味を持っている人や求職者に広く周知することができます。ミッション・ビジョン・バリューのメイキングとして策定までの道のりや背景にある想いを、インタビュー形式で自社サイトの記事にするのも効果的です。
人事評価制度に組み込む
ミッション・ビジョン・バリューに沿った行動に対する表彰制度を設けたり、人事評価制度に組み込んだりすれば、従業員が日頃から身近に意識する環境を作れます。
また、ミッション・ビジョン・バリューは公正な人事評価の基準作りにも役立ちます。
例えば、従業員が人事評価制度に不満や不公平感を持っていると、職場の人間関係が悪くなったり離職率が高まってしまうかもしれません。しかし、ミッション・ビジョン・バリューがあれば、それに沿った行動が評価されることがわかりやすく、公平な人事評価制度が構築できます。
さらに従業員にとっては求められている行動基準が明確になるため、意思決定がしやすくなり、働きやすさやモチベーションアップにも繋がる可能性があります。
社員証や名刺などのツールに記載する
従業員が常に携帯する社員証や名刺、クレドカードなどに記載するのもよいでしょう。クレドカードとは、企業の行動方針を記載したカードのことで、従業員が常に携帯するものです。
ミッション・ビジョン・バリューは目にする機会が多くなればなるほど記憶として残りやすくなります。
従業員が日頃から使うツールに記載したり、エントランスや従業員食堂など日常的に目にする場所に掲げたりするのも効果的です。
ミッション・ビジョン・バリューの効果を高めるポイント
ミッション・ビジョン・バリューの効果をより高めるためにできることは、次の3つです。
- 継続的に発信し続ける
- 採用活動で掲げる
- 研修やワークショップなどで理解を深める
それぞれ詳しく解説します。
継続的に発信し続ける
ミッション・ビジョン・バリューの効果はすぐに表れるものではありません。中長期的な効果を見据えて、継続的に発信し続けることが大切です。
継続的に発信し続けて浸透させることで、従業員の意識が少しずつ変わり、ミッション・ビジョン・バリューに沿って行動や意思決定が行われるようになるでしょう。その結果、企業の生産性や利益が上がり、ミッションが達成されていきます。
採用活動で掲げる
ミッション・ビジョン・バリューは、企業の意思表示として、求人情報や企業案内に記載するのが採用活動において効果的です。
求職者は、企業がどのような価値観で何を目指しているのかがよくわからないと応募しにくいかもしれません。また、企業への理解が浅いまま入社すると、入社後に「思っていたのと違う」「こんなはずじゃなかった」といったミスマッチが起きる可能性もあります。こうなると、せっかくコストをかけて採用しても早期離職になりかねません。
しかし、求人情報や採用活動における企業の概要などにミッション・ビジョン・バリューが掲載されていれば、求職者は企業がどのような価値観で何を目指しているのかがわかります。
そのため、企業理念に共感する人材を集めやすくなるだけでなく、入社後のミスマッチや早期離職も防ぎやすくなるでしょう。
また、求人票や就活サイトなどに記載する会社概要でミッション・ビジョン・バリューを発信することによって、企業イメージやブランド、企業の存在意義などの認知度も高められます。
研修やワークショップなどで理解を深める
社内ワークショップや研修、社員旅行などで、ミッション・ビジョン・バリューを深く理解するための機会を設けるとよいでしょう。
たとえば、ミッション・ビジョン・バリューの理解を深めるためのワークショップは次のような内容と流れで行われています。
【ミッション・ビジョン・バリューの理解を深めるワークショップ事例】
- チェックイン(導入オリエンテーション)
- 事前インプット(ミッション・ビジョン・バリューの解説)
- ワークショップの目的解説
- ワークショップの進め方解説
- ビジョンの内容を「それは具体的にどんな状態か?」と掘り下げるワーク
- ミッションの内容を「それはどのようなことか?」と掘り下げるワーク
- 「具体的に日々のどのような行動がバリューを体現しているか?」を掘り下げるワーク
- ワークショップチェックアウト(感想を話し合う)
このように、ただ発信・周知するだけではなく、従業員同士がミッション・ビジョン・バリューについて話し合ったり考えたりする場を設ければ、より深い共通認識が醸成されます。
ミッション・ビジョン・バリューで企業理念を社内外に広めよう
ミッション・ビジョン・バリューは、企業の経営方針を端的な言葉で明確にするものです。従業員全員が企業のミッション・ビジョン・バリューを深く理解し、共通認識を持つことで、企業の方針に沿った経営判断や行動が可能となります。
従業員エンゲージメントの向上にも繋がるため、離職率を下げ、従業員の企業に対する貢献意欲やモチベーションアップも狙えるでしょう。
このように、ミッション・ビジョン・バリューは企業の更なる成長に役立つものです。特に採用活動においては、企業のイメージや目指す姿をわかりやすく端的に伝えられるため、企業の価値観や理念にマッチした人材を確保しやすくなります。
現在明確なミッション・ビジョン・バリューがない企業は策定を検討してみてはいかがでしょうか。ミッション・ビジョン・バリュー自体はあるけれどあまり浸透していないという場合は、社内外へ継続的に発信し、従業員にも理解を深めるための機会を設けるとよいでしょう。
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