カッツモデルは、マネジメント層向けの能力開発に作られた理論のことで、人材育成や組織マネジメントの指針として活用されているものです。
本記事ではカッツモデルを構成する階層とスキルに加え、カッツモデルを活用するメリットや、カッツモデルを活用した人材育成方法とそのポイントをご紹介します。自社の人材育成を行う際の参考にしてください。
カッツモデルとは
ここでは、カッツモデルの意味やその起源をご紹介します。
フレームワークの一つ
カッツモデル(カッツ理論)とは、管理職の階層ごとに求められる能力を整理したフレームワークです。管理者層の人事評価や人材育成の指標として、半世紀以上にわたりビジネスの現場で活用されてきました。
カッツモデルの起源
カッツモデルの起源となったのは、アメリカの経営学者であるロバート・L・カッツ氏が1955年に発表した論文「スキル、アプローチによる優秀な管理者への道」です。カッツ氏は、管理者の性格や資質と言った人物像ではなく、1950年代の当時としては画期的な、能力(スキル)に着目して研究調査を行いました。
現在では、内閣官房の参考資料にも用いられるなど、マネジメント層、並びに従業員のスキル向上のために、ビジネスシーンで広く活用されています。
カッツモデルを活用するメリット
カッツモデルはマネジメント層向けの能力開発に作られたものですが、管理者だけではなく従業員にも活用できます。3つの階層別にそのメリットを確認していきましょう。
【従業員にとってのメリット】必要な能力が明確になる
従業員にとっては、自己啓発を促す効果が期待できます。それぞれの階層に必要な能力をポスターや冊子などにまとめ周知することで、自分に必要なスキルが明確になり、従業員一人ひとりの能力開発に役立ちます。
新入社員向けに活用するのであれば、パソコンなどの「テクニカル・スキル」やビジネスマナーなどの「ヒューマン・スキル」を具体的にまとめると把握しやすくなります。
また、キャリアアップに必要なスキルを確認できるほか、上司にとっては、部下の教育方針に役立てることもできます。
【評価者にとってのメリット】評価や育成に使用できる
管理者や人事などの評価者による社員の評価、および人材育成にもつながります。カッツモデルは、業務の目標達成度や業務の改善力、周囲との協調性などの評価項目を設定する際にも役立ちます。部下や従業員の現在の能力レベル、また、どの程度スキルが向上したかといった成長度合いを測る指針になり得るでしょう。
また、フレームワークには、役職ごとに求められる能力の割合が明示されているので、各階層の育成テーマや、スキル習得に適した研修を考える際にも参考となります。
【企業にとってのメリット】必要な人材を採用できる
カッツモデルでは、経営戦略をクリアするためには具体的にどのような能力を持った人材が必要かを整理できます。具体的に必要な人材を把握できるため、採用のミスマッチを防ぐ効果が期待できます。
また、戦略的な人材育成や配置の目安として活用できるほか、組織開発や会社の戦略立案にも使用可能です。社員に必要なスキルを周知するためのスキルマップ作成を検討する場合は、参考材料としても活用できるでしょう。
カッツモデルの3つの階層
カッツモデルでは、「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つの階層で構成されています。ここでは、各階層に該当する役職をご紹介します。
トップマネジメント
最高経営者(CEO)、会長、社長、副社長などの経営者層を指します。直接現場に指示を出す機会はほとんどありませんが、経営方針や戦略の決定など組織全体のマネジメントを行う階層です。また、結果や企業の業績に対して責任を担う立場でもあります。
ミドルマネジメント
部長や課長、工場長、エリアマネージャー、支店長をはじめとする中間管理職がミドルマネジメントに該当します。トップマネジメント層が決定した方針や戦略を、下の階層であるロワーマネジメントに伝え業務を円滑に遂行する立場です。
ロワーマネジメント
ロワーマネジメントとは、係長や主任、店長、チーフなどの現場監督層のことです。
また、一般社員であっても複数のメンバーをまとめる立場のプロジェクトリーダーはこの階層に該当します。
社員をまとめ、ミドルマネジメント層の指示を基に活動する立場で、現場で具体的な業務を滞りなく遂行できるかが求められる階層です。
カッツモデルを構成するスキル
カッツモデルを構成するスキルは、「コンセプチュアル・スキル」、「ヒューマン・スキル」、「テクニカル・スキル」の3つです。各スキルについても確認しておきましょう。
コンセプチュア・スキル(概念化能力)
物事の本質を見極めて適切に判断する能力で、概念化能力とも訳されるスキルです。
物事を筋道立てて考える論理的思考や、思考・行動を客観的に評価する批判的思考、既成概念にとらわれない自由な発想を生み出す水平思考などの要素が含まれます。
そのほか、多面的な視野や臨機応変に対応できる柔軟性に加え、探求心や知的好奇心なども「コンセプチュアル・スキル」に該当します。「ヒューマン・スキル」や「テクニカル・スキル」と比べるとやや抽象的なスキルですが、市場変化や組織内の諸問題などを客観的に分析し、最良の判断を下すための重要な能力です。
構成要素 |
概要 |
論理的思考(ロジカルシンキング) | 物事を筋道立てて考えたり、体系的に整理して考えたりすること |
批判的思考(クリティカルシンキング) | 無意識に浮かぶ思考や行動を、客観的に評価すること |
水平思考(ラテラルシンキング) | 既存の常識や既成概念にとらわれず、自由な発想を生み出すこと |
ヒューマン・スキル(対人関係能力)
良好な人間関係を構築し維持する「ヒューマン・スキル(対人関係能力)」も、カッツモデルを構成するスキルの一つです。職場内の上司や部下はもちろん、取引先や顧客など、あらゆる相手と信頼関係を築くために必要な能力と言えるでしょう。
具体的には、組織をまとめてメンバーを牽引するリーダーシップ力をはじめ、周囲と情報を正確にやり取りし良好な関係を築くコミュニケーション力などがあります。
また、相手の表情やしぐさから真意を読み取るヒアリング力や、相手に必要な情報、アイディアを論理的に伝えるプレゼンテーション力なども含まれます。
スキルの種類 | 適した研修手法 |
リーダーシップ | 組織や部署をまとめ、目的に向かってメンバーを引っ張っていく能力 |
コミュニケーション | 関係者と、情報を正確かつ双方向にやり取りをし良好な関係を築く能力 |
ヒアリング | しぐさや表情を観察しながら、相手の感情や真意を読み取る能力 |
プレゼンテーション |
相手に必要な情報や自分のアイディアを論理的に伝える能力 |
テクニカル・スキル(業務遂行能力)
「テクニカル・スキル(業務遂行能力)」とは、特定の業務を遂行するための基本能力のことです。現場の業務に即した「テクニカル・スキル」は、おもにロワーマネジメント層に求められる能力と言えます。
営業職であれば、市場や商品の知識、プレゼンテーションスキルなど、事務・内務系事務なら、パソコン操作スキルや経理、電話対応スキルなどです。そのほか、小売業は流通知識や接客マナー、技術系業務は機械の操作スキル、業務に関連する資格の保有など、職種によって必要となるスキルは様々です。
カッツモデルを活用した人材育成方法とポイント
社員一人ひとりに必要なスキルの周知や、スキル取得に効果的な研修手法など、カッツモデルを人材育成に活用するポイントをご紹介します。
階層ごとに必要なスキルを周知する
まず、各階層に必要なスキルが一目で分かるフレームワークを作成しましょう。これを、人事評価の項目に設定するほか、社内メールやポスター、冊子などの社内広報で周知します。
フレームワークを作成する際は、社員の階層を、社長、管理職、一般社員などに細分化し、それぞれに求められるスキルを記載するのがポイントです。具体的なスキルを示すことで、社員教育の指針になるほか、社員にとっては必要な能力、足りない能力などが把握しやすくなります。
なお、誤った解釈やスキルを限定的に捉えている可能性もあるため、フレームワークの作成は定期的に見直し、周知し直すことが大切です。
人事評価の基準として設定する
カッツモデルは、人事評価の基準に設定することも可能です。各階層に必要な能力の割合が示されているため、それぞれの階層に必要なスキルの習熟度を評価基準として設定できます。ミドルマネジメント層を例に取ると、トップマネジメント層とロアーマネジメント層の両方に必要なスキルがバランスよく求められます。
また、各階層によって、どの項目を重要視するかといったウエイト調整にも活用できるでしょう。たとえば、ロワーマネジメント層の場合、おもに「テクニカル・スキル」が重要視されるため、商品知識や市場知識のウエイトを、ほかの層よりも2~3倍に増やし評価に反映させます。
スキル取得に適した研修を実施する
研修を行う際には各階層と必要なスキルに応じた内容で実施する必要があります。たとえば、思考法や探求心などで構成される「コンセプチュアル・スキル」を習得するには、対面で議論の発展が期待できる集合研修が適しています。
また、「ヒューマン・スキル」は、集合研修のほか、交渉力やプレゼン力に長けた指導者、社員によるOJT研修を実施するのが望ましいでしょう。OJTとは「On the Job Training」の略で、職場での実務と並行して研修を行う教育手法を指します。実務を通じて知識やノウハウを効率よく学べるのが特徴です。
「テクニカル・スキル」は、実務経験を積んだ経験豊富な社員をトレーナーに、OJT研修などを実施します。
スキルの種類 | 適した研修手法 |
コンセプチュアル・スキル | ・集合研修 |
ヒューマン・スキル |
・OJT研修 ・集合研修 |
テクニカル・スキル |
・OJT研修 |
研修テーマは階層ごとに設定する
研修テーマは、「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」それぞれの階層に必要なものを設定しましょう。
たとえば、トップマネジメント層であれば、事業戦略構想や組織開発など、「コンセプチュアル・スキル」にウエイトを置いた研修テーマが望ましいです。
また、ミドルマネジメント層は、企画力などの「コンセプチュアル・スキル」に加え、リーダーシップやティーチングなどの「ヒューマン・スキル」などバランスよく手間を設定します。
ロワーマネジメント層は、パソコンスキルなどの「テクニカル・スキル」をメインに、コミュニケーション力などの「ヒューマン・スキル」などが研修テーマに相応しいでしょう。
階層の種類 |
研修テーマ例 |
トップマネジメント |
・事業戦略構想 ・財務管理 ・リスクマネジメント ・ネゴシエーション ・組織開発 |
ミドルマネジメント |
・決算書などの数字分析 ・市場分析 ・リーダーシップ ・ティーチング ・コーチング ・クリティカルシンキング ・課題発見力 ・企画力 |
ロワーマネジメント |
・パソコンスキル |
カッツモデルを活用してして人材育成や組織力を向上させよう
カッツモデルとは、各階層に必要なスキルを表したフレームワークの一つで、半世紀以上にわたり、人材育成や組織力の底上げに活用されてきました。おもにマネジメント層向けの能力開発に作られたものですが、ビジネス環境が変容するなか、現在では管理職だけではなく、一般社員の自己啓発にも活用されています。
カッツモデルを人材育成に活用する際は、各階層に必要なスキルを具体的に提示して社員に周知するのがポイントです。研修を実施する際は、スキルの習得に効果的な研修テーマを階層ごとにバランスよく設定し、それぞれに適した研修手法を実施しましょう。
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