近年、国内企業でリカレント教育の重要性が増しています。政府もリカレント教育への支援制度を用意しており、活用することで優秀な社員の育成や確保に役立ちます。
しかし、リカレント教育を知らない方や、研修や生涯学習といった似たような言葉と混同してしまう方も多いです。本記事ではリカレント教育の概要と導入のメリットに加え、注意点やリカレント教育導入の際に活用できる支援制度を詳しく解説します。
リカレント教育とは?
リカレント教育とは、学生時代が終了してからも個々のタイミングで自主的に学び直すことです。「リカレント」は、「再出発」や「循環する」という意味を持ちます。たとえば会社の支援を受けて資格を取得する、社会人が大学に入学し働きながら学習する、失業後に職業訓練を受けるのもリカレント教育の一種です。
似た意味を持つ言葉に「生涯学習」がありますが、これは仕事に限らず趣味やスポーツなど、人生を豊かにするためのさまざまな学びを指します。一方、リカレント教育はおもに仕事や今後のキャリアに役立つスキルを習得する意味で用いられています。
リカレント教育の概念は国内でも広まりつつあります。実際、株式会社学情による「社員のスキルアップ・学び直しの支援」に関する企業調査(2023年4月)」によると、社員のスキルアップ・学び直しのために社内でなんらかの取り組みを実施している企業は回答のあった385社のうち7割を超えました。特に資格取得支援や研修の実施を行っている企業が多くを占めています。
リカレント教育が注目されている背景
株式会社学情が行った「社員のスキルアップ・学び直しの支援」に関する企業調査(2023年4月)」によると、社員のスキルアップや学び直しに資格取得支援をしている企業が78.7%を占めており、リカレント教育に力を入れる企業が多いことがわかります。
なぜリカレント教育が注目されているのでしょうか。その理由を詳しく解説します。
雇用の流動化への対応
リカレント教育に注目が集まっている理由の一つには、雇用の流動化が進む現代社会への対応があげられます。
現代では、従来のように一つの企業に終身雇用でとどまる人材よりも、転職や再就職を通じてスキルやキャリアを高めていく人材が増えています。同時に従来のメンバーシップ型の採用方法から、ジョブ型採用に切り替えたり、併用したりする企業が増えています。リカレント教育は社員のスキル向上とキャリアの成長を促進し、現代の多様な働き方に対応する重要な手段となっています。
また、優秀な人材を中途採用して自社に留まってもらうためには、社員が企業で働くことで自身の成長やスキルアップを実感できる環境を整える必要があります。リカレント教育を通じて、さまざまな知識や技術を習得すると社員は企業に対してより価値を提供しやすくなるでしょう。
企業側もより専門性の高いスキルを持つ人材を確保でき、現代の激しい人材流動のなかでも競争力を高められます。リカレント教育は、社員の成長と企業の発展を両立させる近道となるのです。
市場変化や技術革新への対応力強化
長期間働くにつれ、市場の変化や技術の進歩に適応するスキルが必要とされているのも理由の一つでしょう。
たとえばパソコンやインターネットが普及してからは、ITスキルが重要視され、パソコンを使用した作業が一般的になりました。しかし、普及する前に社会人となった世代は、これらのスキルが一般的ではなかったため新たにスキルを身に付ける必要に迫られました。
時代とともに求められるスキルが変化するため、リカレント教育は重要な役割を果たすのです。
また、インターネットの普及により顧客へのアプローチ方法も大きく変化しました。デジタル化に伴い、従来のアナログ的な手法で運営していた店が競争に負け閉店する例もあります。
あくまで一例に過ぎませんが、このように市場変化や技術革新が起こると、もともと持っているスキルだけでは対応できない場合があります。特に現代は革新スピードが著しいため、企業にはリカレント教育を通じてこのような状況に対応できる人材の育成や確保が求められています。
人生100年時代の到来
近年、世界的にも平均寿命が伸びており、世界一の長寿国と言われる日本でも100歳を超える方が今後増加すると予想されています。
しかし、平均寿命が伸びると老後の資金の負担も重くなり、社会とのつながりを維持するために定年後も働き続ける人が増えていくでしょう。
現代社会は常に変化しているため、長期間働くには、適切なタイミングでの学び直しが必要です。新たなスキル獲得や、複数のスキルを持ち多様なキャリアを形成することで、長期間活躍しやすくなるでしょう。
定年までの間はもちろん、転職や再就職、定年後の働き方も踏まえて自分に必要なスキルを選定し計画的に取得すれば、長期間働く上で大きな助けとなります。
リカレント教育の導入で企業が得られるメリット
では、実際にリカレント教育で企業が得られるメリットにはどのようなものがあるのか解説します。
優秀な人材の確保
企業が率先して社員のリカレント教育をサポートすれば、優秀な人材を確保しやすくなります。より働きやすい環境を求めて転職や再就職をするのが当たり前の現代では、リカレント教育に積極的な企業ほど高いスキルを持つ人材に好まれやすいでしょう。
求職者に「この企業であれば成長できそう」と思ってもらえれば、求人への応募数が増える可能性が高まります。実際、資格取得支援や研修などリカレント教育の実施は、社員に対する福利厚生の一つとして求人の待遇に記載されていることも多いです。
離職率の低減
リカレント教育に積極的に取り組む企業は、社員のモチベーションやエンゲージメントがアップしやすく、離職率低下につなげられます。
社員が自身の成長を感じられない場合、離職の要因になる可能性があります。そこで、企業がリカレント教育を支援し、働きながら資格やスキルを習得できれば社員は働きがいを感じやすくなるでしょう。
またなかなか成果をあげられない社員も、リカレント教育を支援すれば活躍する可能性を期待できます。成果が出せない社員が減ると、優秀な社員の負担も軽減され、全員が業務時間を有意義に使えるようになります。
さらに、成長や活躍が続くことで、愛社精神を持ちやすくなり、離職率の低減にもつながるでしょう。
生産性の向上
社員が業務に役立つスキルを身に付ければ、企業全体の生産性が向上します。
特に、プログラミングやビッグデータ処理、サイバーセキュリティなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関連するスキルを持つ人材は、多くの企業で不足しています。しかし、リカレント教育を通じて既存社員にこれらのスキルを学んでもらうことで、新たな人材を採用する必要がなくなります。
さらに、新事業を始める際も、社員にリカレント教育を通じて必要な資格を取得させると、スムーズな進行を期待できます。
このように、リカレント教育によって社員が時代に合わせた技術や知識を身に付けることで、組織の業務効率は大きく向上するでしょう。
リカレント教育を導入する際のポイント
リカレント教育は、いくつかの注意点を把握した上で実施するとより高い成果を上げやすくなります。具体的なポイントを解説します。
導入目的を社員に周知する
社員に対して、企業がリカレント教育を導入する予定や既に実施していることを明確に伝えるようにしましょう。社員に利用してもらわなければ導入の意味がありません。
また、リカレント教育の導入を知っていても、どう活かせば良いのかわからない社員がいることを想定し、リカレント教育の重要性や促進の理由も説明しておくとよいでしょう。
休暇制度や評価制度の整備を行う
リカレント教育をサポートするために、休暇制度や評価制度の整備も進めましょう。
休暇制度は、社員に時間的、精神的な余裕が必要なケースで役立ちます。たとえば高難易度の資格取得や海外での研修、学校に入学しての長期的な学習、超短期での集中学習などです。
また、休暇をとってスキルを学び、復職したあとは、新たに獲得したスキルを活かせるポストや、スキルによる成果を適切に評価できる制度を検討します。これにより社員のモチベーション向上やエンゲージメントが促進されるでしょう。新たな評価制度を導入しリカレント教育が企業にどのように役立ったのか数値化し、今後の参考にすることも可能です。
学び直しが企業や社員の不利益にならないよう、各制度をリカレント教育実施前に細部まで整備しましょう。
リカレント教育の専門家と連携する
リカレント教育では、外部のキャリアコンサルタントやカウンセラーの支援を受けるのも効果的です。
リカレント教育は、業務と並行して学習したり休暇をとって学習したりする必要があるため、社員の負担になる場合があります。
また、無計画に資格取得を目指しても実際の業務に役立たない場合や、自身のキャリア形成には本当は別の資格のほうが有利だったケースもあります。専門家と連携して学習計画や取得するスキルの選定をすれば、社員がより効率的な学習ができるようになるでしょう。
学習に関する専門家なら勉強が行き詰まった際も適切なアドバイスがもらえます。社内の人材をサポーターとして配置することも可能ですが、社員だけでは専門的なサポートがしにくい場合もあるでしょう。専門家や専門機関と連携すれば、リカレント教育を効率良く進める大きな助けとなります。
リカレント教育の方法
リカレント教育の方法はさまざまですが、国や各教育機関でもリカレント教育に適した支援策を用意しています。リカレント教育に役立つ学習方法をいくつか紹介します。
大学や専門学校の社会人コースを受講
教員や調理師のように学校で学ばないと得られない資格の取得を目指す場合や、長期的に学習したい場合は大学や専門学校へ入学する方法があります。夜間や土日に学習できる社会人コースを用意している学校も多いので、学びたい分野や学校の学習プログラムを確認しましょう。
大学によっては社会人向けの公開講座を用意していることもあります。合う日程を見つけてから、一回ごとに受講料を支払って勉強する仕組みです。語学やパソコンスキル、人事労務や政治経済といったビジネスに役立つスキルを中心に学べます。
大学や専門学校での学習は数年単位の長期にわたり、多額の学費もかかりやすいため、企業側が休暇制度や学習費用支援を充実させるのが有効です。
オンライン講座の受講
学びたい内容によっては、オンライン講座を活用して自宅で勉強する方法もあります。仕事と学校への通学を両立するのが時間や体力の問題で難しい場合に役立ちます。
オンライン講座を利用した学習サービスでは、社会人向けに柔軟にスケジュールを組めるプランや、短期集中で資格やスキル取得を目指すプランなど各社さまざまなサービスを用意しています。ビデオ通話を使用してリアルタイムで講師とマンツーマンレッスンできるものもあれば、録画された動画を視聴して好きなタイミングで勉強できるサービスもあるので各社を比較してみましょう。
なお、オンライン講座のなかには無料で公開され学習できるサービスも豊富です。仕事と両立できるか不安なら一度無料のサービスを利用して勉強してみて、問題なければ本格的に勉強を開始するのもおすすめです。
国の教育訓練給付制度の活用
企業だけでなく国からも支援を受けられます。そのなかの一つが教育訓練給付制度です。
学校に入学しての勉強やオンライン講座など、厚生労働省から認定を受けた約14,000講座を受講する際に受講料の20~70%に相当する給付金を受けられるため、学習費用を大幅に節約できます。教育訓練給付制度には次の3種類があります。
- 一般教育訓練給付金(上限20%、10万円まで)
- 特定一般教育訓練給付金(上限40%、20万円まで)
- 専門実践教育訓練給付金(上限70%、1年間で56万円まで)
受講する講座や資格の難易度や、キャリア形成に役立つスキルかどうか、あるいは中長期的な勉強かどうかによってどの給付金に該当するかが変化します。たとえば簿記2級やファイナンシャルプランナー、プログラミングやパソコンスキル、業務独占資格取得や大学での学習など幅広く対象になっているので、資格取得や学校入学を検討しているなら確認しましょう。
教育訓練給付制度について、詳しくは下の章で解説します。
リカレント教育導入で企業が活用できる支援制度
リカレント教育に関する支援制度は政府や自治体が用意しているものも多いので、企業側が知っておくと社員に案内しやすくなるでしょう。政府の定めた制度をいくつか紹介します。
教育訓練給付制度
厚生労働省による教育訓練給付制度は、雇用保険に紐付いた給付金制度です。いったんは費用を全額自己負担しますが、申請すれば後日給付金が支払われます。
利用するにはハローワークを通じて申請します。一般教育訓練給付金は受講修了後に申請すれば給付を受けられますが、特定一般教育訓練給付金や専門実践教育訓練給付金は受講修了前に相談や手続きをする必要があります。
給付を受けられるのは雇用保険に加入して通算1年(より給付額の多い専門実践教育訓練給付金の場合は通算2年)以上、すでに制度を利用した場合は最後に利用してから3年が経過した方が対象です。離職している場合は離職から1年以内の受講開始が条件になっています。
教育訓練給付金制度は企業ではなく個人単位での給付になるため、企業側の費用負担や手続きはできません。学習中の休暇制度を設けるか、雇用保険および給付金制度に関する案内や相談などを支援策として実施するとよいでしょう。
高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金は、母子家庭・父子家庭の経済的自立のため、資格の取得を支援する給付金です。給付を受けるには次の条件を満たしている必要があります。
- 20歳未満の子を扶養している
- 児童扶養手当の支給水準にある、もしくは支給対象になっている
- 適職につくために教育訓練が必要と認められる
高等職業訓練促進給付金では理学療法士や保育士、看護師など、働くのに有利になる特定の資格取得を目的とする際に毎月10万円を上限として支給されます。
ほかに「自立支援教育訓練給付金」もあり、前述した教育訓練給付金制度の対象講座や、都道府県知事の指定した講座を受講するときに利用できます。
各自治体によって対象講座や要件が異なります。自治体へ確認し、必要に応じて社員に利用を提案しましょう。
就職・転職支援の大学リカレント教育推進事業
文部科学省でもリカレント教育推進事業を行っています。「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」は、国からの委託を受けた大学が、企業や地方公共団体などと連携してリカレント教育のプログラムを提供する事業です。
失業中の方を中心にした事業ですが、非正規雇用の方、転職を目指す方なども対象に含まれます。国が支援するため原則無料で受講できるのがメリットです。医療や介護、デジタル、地方創生、女性活躍といったさまざまな分野の学習ができます。
また、学習後はハローワークを通じて就職支援も受けられます。職業訓練給付金の条件を満たせば月最大10万円の給付を受けながら勉強もできるため、社会人でもスキルを身に付けやすいのが魅力です。
リカレント教育で長期的に活躍できる人材を育成しよう
近年は雇用の流動化が進み、技術の進歩や変化といった時代の流れに対応できる人材を確保するのが急務になっています。採用した人材を企業に定着させるために、また既存社員が長く活躍できるような環境を整えるために、リカレント教育は企業にとって必須と言えるでしょう。
政府もリカレント教育を重要視しており、雇用保険に紐付いた教育訓練給付制度や大学と連携したリカレント教育推進事業も行っています。費用面の負担や制度の案内など、企業ができる限りのサポートを行い、優秀な人材を社内に確保しましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。