毎年、4月前後になると、SNSなどで「配属ガチャ」というワードを目にすることが多いのではないでしょうか。配属ガチャの意味と言葉が発生した背景、人によって異なるハズレの定義や、企業や従業員への影響を解説します。
配属ガチャとは
配属ガチャとは、新入社員の入社後の配属内容(部署や勤務地など)が、必ずしも本人の希望通りにはならない状況を言います。
企業からすると、初期配属は計画に基づいており、決して運任せのガチャではないでしょう。しかし、総合職として一括で大量採用する手法が一般化している日本の新卒採用においては、新入社員は自分の配属結果をただ待ち、受け入れることしかできません。自分の努力ではどうにもできないので「ガチャ」と呼ばれている現状があります。
配属ガチャの「ハズレ」とは
配属ガチャの「ハズレ」とは、なにも希望の部署に配属されなかったことだけではありません。
業務内容にこれといった希望がなくても、配属された環境が本人の理想とほど遠い状況であれば「ハズレ」と言われてしまうでしょう。
理想の環境は人によってさまざまです。X(旧Twitter)上で「配属ガチャ」と検索し、ヒットした例をいくつかご紹介します。
- 優しい先輩
- 引っ越しが必要でない勤務地
- 働きやすい職場(例:妊婦に優しい、残業が少ない)
- 将来必要になるスキルを正しく学べる
- 自分の評価者であり教育者の上司が、人格者なこと(「上司ガチャ」とも呼ばれる)
これらは一部の例ですが、叶わない職場だった場合に「配属ガチャハズレ」「配属ガチャ失敗」と言われる可能性が高いです。
筆者の経験では、Eコマース事業に関わりたいとITサービス企業に新卒入社したものの、実際には携帯ショップの現場に配属された友人がいました。入社前に聞いていた話とそもそもの企業の実態が異なるといったケースもありそうです。
今まで働いた経験のない新卒社員にとって、最初の配属は、今後の人生を大きく左右する重大な要素です。社会のことが何もわからない手探り状態で配属ガチャの「ハズレ」を言い渡された場合、先の見通せなさから働くモチベーションは大きく下がってしまうでしょう。「配属ガチャ」は、「希望通りにならなかったらどうしよう」という新卒社員の不安な心境から発生した言葉なのです。
「配属ガチャ」が新入社員を不安にさせる理由
新入社員の不安は一体どこからきているのか、日本の採用システムと新卒学生の意識の変化の視点から解説していきます。
従来の新卒一括採用が現在の学生のニーズにマッチしていないため
Z世代と呼ばれる現代の新卒学生の多くは、自身のキャリアパスやライフスタイル形成を企業に委ねず、自分で選びたいと考える傾向があります。
株式会社学情が2025年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象に行ったアンケートでは、「キャリアは自身で選択したい」と回答した学生が8割を超える結果となりました。
※出典元:「2025年卒学生の就職意識調査(キャリア形成)2023年12月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/231206/)
日本の採用手法で一般的である新卒一括採用では、総合職もしくは一般職などの雇用形態で採用するケースが多いです。総合職では、職種に基づいて採用するのではなく、入社してからそれぞれの適性や各部署への振り分けが考慮され、職種が決まるのが多くの場合です。
やりたい仕事を理由に企業を選んだ学生からすれば、配属希望が通らないと理想のキャリアへの最短ルートは閉ざされてしまいます。従来の日本の採用手法が「キャリアを自身で選びたい」と考える学生のニーズに合っておらず、不安にさせているといえます。
配属が発表されるまでの期間が長いため
入社が決まってから配属が発表されるまでの期間が長いことも理由のひとつに挙げられます。
現在の新卒一括採用のスケジュールでは、10月の内定式から翌年4月の入社までに半年弱の期間が空きます。内定式よりも前に内々定を得ている学生では、配属発表までの時間はさらに長くなります。
時間が経つほど不安は大きくなるものです。また、希望の配属先にならなかった場合には、その分比例してショックも大きくなってしまうでしょう。
配属ガチャがハズレだった際のデメリット
配属ガチャでハズレを引いてしまうと、学生だけでなく、企業にとっても実はデメリットがあります。それぞれ説明します。
企業側
配属ガチャがハズレ=従業員が現状に何らかの不満を抱いている状態なので、エンゲージメントが低まったり業務へのモチベーションが下がったりします。対策しないままだと、最終的には離職につながりかねません。
早期離職につながる可能性が高い
早期離職とは、入社してから3年以内の離職を指します。希望する部署に配属されず、学びたいスキルを学べない場合や、入社前に聞いていた話と実態が違うケースなど、採用ミスマッチが発生した際に早期離職につながる可能性が高いです。
株式会社学情が実施したアンケートでは、社会人3年未満の転職理由は「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」が36.2%で最多でした。
※出典:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(Re就活)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/230802/)
採用や教育にかかった費用との採算がとれる前の早期離職は、企業にとっては損失です。さらに、退職した社員のポストを埋めるために新たに採用活動を行う必要が発生し、追加でコストがかかります。
従業員のモチベーションが下がる
離職までいかないケースでも、新しく入ってきた社員のモチベーションが低いと、組織全体の士気を下げてしまう可能性があります。
とくに新卒の場合は教育の一環でメンターがついたり上司がこまめに1on1を実施したりしますが、一度下がってしまったモチベーションを再び上げるには根気がいります。その人のフォローに労力や時間を割き、業務効率が落ちる社員もいるでしょう。
新入社員側
実際にハズレを引いてしまった新入社員側では、まず就業意欲が下がるといった瞬間的なものもありますが、その後回復することも考えられます。本人への影響がより大きいのは長期的なデメリットです。
思い描いていたキャリアパスに最短ルートではたどり着けない
希望していた部署への配属が叶わなかった場合、自分が希望するスキルを身につけられる環境になかなかたどり着けないデメリットが考えられます。たとえば、研究職を志望していたのに実際の配属は地方の工場勤務だった、などのケースです。
何年経てば希望部署に異動できるかわからないままだと、「この会社にいて自分の将来は大丈夫だろうか」と不安を抱く人も多いでしょう。
ただし、やりたいことが明確に定まっていない場合では自覚していなかった適性が見つかったり、希望の業務でなくても後々意外なところで経験が活きたりすることもあります。
ストレスから体調を崩してしまうこともある
人間関係や職場環境が合わないと、ストレスで体調を崩してしまう可能性もあります。たとえば上司からのセクハラ・パワハラや、想像以上に体力を使う過酷な勤務形態などが挙げられます。
企業がこのような状況を放置したままだと、心身ともに健康状態が悪化し、通常どおりの出勤がむずかしくなってしまうケースも残念ながら少なくありません。そうなる前に手を打ちましょう。
配属ガチャによるデメリットを未然に防ぐ対策
では、そのようなデメリットを未然に防ぐために企業や個人として何ができるでしょうか。双方の視点からご紹介します。
企業側
配属ガチャのデメリットは従来の新卒採用システムによって引き起こされる場合が多いので、企業側の働きかけで大きく改善できます。
ジョブ型採用の導入
ジョブ型採用とは、その名の通り「仕事」の内容に合わせた採用手法です。
ジョブ型採用では職務内容に基づいて求人を行い、被雇用側もそれに納得した上で応募します。そのため、入社・配属後の「希望部署に配属されなかった」「求めるスキルを身につけられる環境ではなかった」などのケースを防げます。
ジョブ型採用のニーズは高まっています。株式会社学情が実施したアンケートでは、ジョブ型採用を実施している企業があれば「プレエントリーしたい」「どちらかと言えばプレエントリーしたい」と回答した学生が合わせて7割を超えました。
調査期間:2023年4月11日~2023年4月24日
※出典:「2025年卒学生の就職意識調査(ジョブ型)2023年5月版」(あさがくナビ)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/230511/ )
日本では、従来のメンバーシップ型雇用とのハイブリッドで取り入れたり、研究職やエンジニア職などで限定してジョブ型採用を導入したりする例が増えています。配属ガチャによる課題に困っていれば、自社に合わせた形でのジョブ型採用を検討してみるのはいかがでしょうか。
株式会社学情が提供する「あさがくナビ」は、ジョブ型採用に完全対応。職種別の求人掲載によって、ターゲット人材に直接アプローチできます。
早いタイミングでの配属先の決定・発表
すでに配属計画が決まっている場合は、入社前に配属先を知らせるのも対策のひとつです。
そうすれば、新入社員は将来のキャリアや職務内容について具体的なイメージを得られ、内定を辞退するかどうかの判断をしやすくなります。これは企業の採用担当者にとっても悪い話ではなく、内定式直前の辞退を防ぎ事前に手を打てる点でメリットです。
また、あらかじめ入社後の業務内容が知らされていれば新入社員も心の準備ができ、実際の配属の際にもスムーズでしょう。
十分な内定者フォロー
「上司ガチャ」をはじめとした、一緒に働く人に関する不安を払しょくするには、内定者時代から既存社員との接点をつくる(内定者フォロー)のが効果的です。具体的な施策には、先輩社員との交流会や内定者懇親会などがあります。
内定者は企業の雰囲気や文化を確かめられると同時に、入社前に不明点を気軽に質問できます。そして、すでに関係が築かれているので入社後のコミュニケーションもスムーズでしょう。
新入社員側
企業側の対応が時代のニーズに追いつくにはある程度の時間がかかります。新入社員側として、配属ガチャでの失敗を防ぐためにできることは何があるでしょうか。
専門性の高い職種への応募
自分が希望する職務を専門としている企業をえらぶと、事業領域が広い企業よりもキャリアを描きやすくなります。
たとえば、社員のほとんどがSE(システムエンジニア)であるSIer(システムインテグレーター)企業の多くでは、SE職とそれ以外で募集枠がわかれている場合が多いです。希望した職種のなかでの部署ガチャ・常駐先ガチャなどはあるかもしれませんが、自分のやりたいことから大きく逸れる可能性は低いでしょう。
ほかに専門性の高い職種には、クリエイティブ職やコンサルタント、研究開発、データアナリストなどが挙げられます。
パーパスを軸とした企業えらび
職務内容に重きを置かず、パーパスや企業理念を軸に企業をえらぶのもひとつの手です。組織全体の目指す方向に共感していれば、どんな配属になってもやりがいをもって働けるでしょう。
配属希望の提出(可能な場合)
配属希望を出してもその通りになるとは限りません。しかし、すぐに希望通りの仕事を任せてもらえなかったとしても、空きのポジションが発生した時にその希望を考慮してもらえる場合があります。
配属ガチャがハズレだった場合の対策
では、実際にハズレを引いてしまったらどうすればよいのでしょうか。その後の対策をご紹介します。
企業側
「配属ガチャがハズレだった」と感じている従業員はモチベーションやエンゲージメントが下がっています。早期離職を防ぐために迅速なフォローが必要です。1on1ミーティングを実施して話を聞き、原因がどこにあるかを探りましょう。
従業員が将来への不安を抱えていれば、今後の異動の可能性や、希望する職務に今の配属先の業務内容がどのように役立つかを具体的に伝えます。ほかにも、社内で活躍している先輩を紹介するなど、キャリアモデルを示すとより効果的です。なぜその配属先になったのか、配属理由をていねいに説明するのもよいでしょう。
もし、従業員が精神的にストレスを抱えているのであれば、早急に手を打つ必要があります。
新入社員側
配属された部署でしばらく働いてみたもののどうしても自分の成長が見込めない場合、もしくは職場環境があまりにも合わない場合は、まずは人事や上司に相談をしたり、異動希望を出したりして、社内で対応を検討してみてください。
それでも状況が良くならない場合は、転職も視野に入れる必要があります。ストレスをため続けて体を壊してしまう前に動き出せるようにしてください。
配属ガチャによるデメリットを防ぎ、人材流出を止めましょう
近年はソーシャルゲームの流行もあり、「ガチャ」という言葉が身近になりました。しかし、配属ガチャがゲームと違うのは、アタリが出るまで何度も気軽に引き続けるわけにはいかないところです。また、アタリの内容も人によって異なります。
働く環境や住む場所を自分で選べない従来の雇用システムは、今後はもしかしたら時代のニーズとかけ離れていくのかもしれません。職種別採用を導入する際はぜひ当社にお問い合わせください。
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