タレントマネジメントとは、従業員を教育するための人材マネジメント手法です。効率的な人的資源の活用や人材の定着率の向上などを目的に、さまざまな企業で導入されています。
この記事では、タレントマネジメントを導入するメリットや基本的な導入手順を解説します。タレントマネジメントが注目されている背景や近年の導入状況、導入する際のポイントも解説するので、ぜひ最後までお読みください。
タレントマネジメントとは
「タレントマネジメント」とは、従業員の情報をデータベース化し、優秀な人材の採用計画や人材配置・育成などに役立てる取り組みのことです。登録する情報には、年齢・学歴・職務経歴などの基本情報や、自己評価・保有資格・経験・キャリアプランなどの人材情報が含まれます。
経営資源には、「ヒト」「カネ」「モノ」「情報」の4つがあります。タレントマネジメントは、4つの経営資源のうち「従業員=ヒト」が持つ能力やスキルをマネジメントすることに該当します。従業員のデータを集め、適切な採用、配置、育成に活用することで組織風土の改善を図り、企業目標の達成につなげます。
なお、タレントマネジメントの対象は正規雇用労働者に限らず、パートやアルバイトなどの非正規雇用労働者も含まれます。
タレントマネジメントが注目されている背景
近年、多くの企業でタレントマネジメントを導入する動きが出ています。タレントマネジメントが注目されている背景には、日本が抱える課題や時代の変化などが大きく影響しています。おもな理由をいくつか見てみましょう。
限られた人的資源を最大限活かすため
日本は少子高齢化による生産年齢人口の減少により、労働力不足が深刻化しています。建設業や運輸業など、すでに労働力不足に陥っている業界もあるのが現状です。少子高齢化に伴う慢性的な人材不足は、今後も続くことが予測されています。
このような状況下において、限られた人的資源をどのように活かすかが企業に求められています。そこで、自社に在籍する従業員の能力やスキルを最大限活かせるようにするため、タレントマネジメントが注目され始めました。
多様化する働き方に対応するため
近年は「働くこと」に対する価値観の多様化により、テレワークや時短勤務、フレックスタイム制度などさまざまな働き方が生まれました。政府も働き方改革を推進しており、企業には多様な働き方への対応や長時間労働の是正が求められています。
企業が人材を継続的に確保し続けるためには、自社の働き方そのものの見直しを行い、必要な対策を講じることが大切だと言えます。また、限られた人的資源を最大限に活かすためにチームの生産性を高めることも重要です。
タレントマネジメントを活用することで、従業員の能力やスキル、ライフスタイルに合った労働環境を提供しやすくなります。結果的に、人材の定着につながり企業の成長に良い影響を及ぼします。
急激な市場変化に対応するため
近年はデジタル化やグローバル化などの影響で、市場のニーズが急激に変化しています。このような変化により、企業は付加価値の高い商品やサービスを生み出すことで差別化を図る必要性が出てきました。
昨今の人的資源が限られる状況下において、付加価値の高い商品やサービスを生み出すためには、より高いスキルや能力を持つ人材を継続的に確保しなければなりません。
ここでもタレントマネジメントが活躍します。自社が必要とする優秀な人材の獲得をはじめ、既存の従業員の底上げを図る効率的な育成計画を立てることができます。このような利点を考慮して、急激な市場の変化に対応しようとするため、タレントマネジメントに取り組む企業が増えています。
タレントマネジメントの導入状況
労働力人口の減少や価値観の多様化により、あらゆるビジネスシーンにおいてタレントマネジメントが活躍するようになりました。
厚生労働省が公表している2017年度時点のデータによると、7.1%の企業がすでに導入しており、試験導入中・導入準備中の企業が3.8%、検討中の企業が14.2%だったことがわかっています。
また、将来的にグローバルな経済活動を重視している業種として、情報通信業、宿泊業・飲食サービス業、製造業が多い傾向にあります。グローバル化による働き方の多様化に対応していく上で、これらの業種は特にタレントマネジメントを検討する必要があると言えるでしょう。
※出典:「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-2-2_03.pdf)
企業がタレントマネジメントを導入するメリット
「従業員の育成が上手くいかない」「従業員の定着率が低い」などの課題を抱えている企業は、タレントマネジメントの導入が解決の糸口になるかもしれません。
ここからは、タレントマネジメントのおもなメリットや効果を紹介します。
人員配置の最適化を図れる
タレントマネジメントを活用することで、従業員のキャリアやスキルを一元管理できます。
このデータをもとに、各部署のニーズと従業員の能力や経験をマッチングさせることが可能となり、適材適所の人員配置を実現できます。新しいプロジェクトがスタートする際も、このデータベースを活用すれば、最適なメンバーを必要な部署に配置できるようになるでしょう。
効率的な人材育成を実現できる
タレントマネジメントを用いると、従業員の経験やスキルをデータベース化でき、それぞれの強みや成長ポイントを明確に知ることができます。このような情報を上手く活かせば、各従業員に最適な育成プランを組み立てることができ、効果的な人材育成が可能となります。
さらに、この育成計画を組む際には、従業員のニーズだけでなく、会社の経営目標や戦略にもリンクさせることが大切です。そうすることで、企業全体の方向性に合わせて人材を育て上げることができ、組織としてのパフォーマンス向上に寄与するでしょう。
従業員満足度の向上が期待できる
従業員のスキルや能力に合わせて人員配置をすれば、各々が実力を発揮しやすくなるため、従業員満足度の向上や離職率の低下を期待できます。
人材が離職してしまう原因の一つには、業務内容や配属先への不満が挙げられます。
実際にRe就活のアンケートでは、「もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい」ことをを理由に離職した人が多いことがわかっています。
※出典:「20代の仕事観・転職意識に関するアンケート調査(転職理由)2023年8月版」(Re就活)(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/230802/)
仕事へのやりがいや達成感を高めるには、従業員本人のスキルや希望を考慮した適切な人材配置を行うことが重要です。
従業員の満足度は、「正しく評価されていない」と感じることで低下する可能性もあるためです。そこで、タレントマネジメントの活用により従業員が実力を発揮できる環境に配置できれば、適正な評価を受けやすくなり満足度の低下を防げるでしょう。
優秀な人材の獲得と定着率の向上に役立つ
タレントマネジメント導入後における人事評価は、一元管理したデータをもとに実施します。基準が統一されることにより公平性を担保しやすくなるため、個人の主観に依存しない適正な評価ができるようになります。
人事評価において、公平性や透明性は重要な要素です。評価基準や評価方法を明確に提示することで、求職者は入社後のキャリアプランをより具体的にイメージできるようになります。これにより、採用ミスマッチを低減させることができ、優秀な人材の獲得につながる可能性が高まります。
また、公平な評価は従業員一人ひとりの心理的安全性やモチベーションにも良い影響を及ぼすため、帰属意識の向上を促進します。そして、企業全体の強い結束感が生まれ、従業員の定着率の向上も期待できるでしょう。
企業がタレントマネジメントを導入するデメリット
タレントマネジメントの効果を高めるためには、導入するデメリットも把握し、その対策を検討しておく必要があります。おもなデメリットは次のとおりです。
情報収集が難しい
タレントマネジメントの活用は、従業員一人ひとりのデータが収集されていることが前提となります。従業員一人ひとりの価値観や考え方など深い部分まで正確に把握することで、より質の高いマネジメントが可能になります。
詳細なデータの収集は時間がかかるだけでなく、管理の手間も増えます。そのため、正確なデータを収集するために、事前に従業員からの理解と協力を得ることが大切です。タレントマネジメントを導入する際、その目的やメリットの丁寧な説明によって、正確なデータ収集ができるでしょう。
データの管理に手間がかかる
従業員から収集した情報は、データベースに蓄積して管理するのが一般的です。アンケートの回収後、データベースへの入力や整理などの作業が必要になるため、担当者の負担が増える可能性があります。
基本的に担当者が手作業で行うため、アンケートの紛失や入力時のミスなどのヒューマンエラーのリスクも無視できません。特に情報項目が多ければ多いほど、管理の手間は増えるでしょう。
そこで、タレントマネジメントを新しく取り入れる際には、従来の業務とのバランスを考慮しながら導入計画を進めることが重要となります。
上手く活用できるとは限らない
従業員からの情報を集め、データベースを整備したからといって、すぐにタレントマネジメントが効果的に機能するわけではありません。データベースを作成した後も、その中の情報を整理し、何が課題なのかを明確にする作業や詳細な分析が欠かせません。
さらに、企業の規模や、必要な情報の項目数が増えると、データベースの完成までの時間も自然と長くなります。このため、データ収集と管理の工程で一定の時間を取られることを想定して、タレントマネジメントの運用開始のタイミングを計画段階から余裕を持たせておくことが大切となります。
タレントマネジメントを導入する際のポイント
自社でタレントマネジメントを導入した後、必ず上手く運用できるとは限りません。効率的に運用するには、導入する際のポイントをおさえておく必要があります。
全社的に取り組む
タレントマネジメントを導入するにあたり、その目的やメリットを社内全体で共有することは極めて重要です。ただ、経営陣や特定の部署が理解しているだけでは十分と言えません。なぜなら、従業員自身がその意義や価値を事前に把握していないと、データ収集に協力してもらえなかったり、企業の導入目的に対して不信感を抱かれたりするなど、運用段階で想定していない問題が発生するリスクが高まるからです。
従業員がタレントマネジメントの導入目的やメリットを理解できていれば、正確な情報の提供やデータのアップデートがスムーズに行われるでしょう。個々の情報の更新が必要な時にも、即時に報告する姿勢が身につきます。そのため、導入においては、きちんとした社内周知を実施し、従業員の協力を得られる体制を整備していくことが求められます。
人事評価制度を見直す
現在の人事評価制度が年齢や勤続年数を重視する「従来型」であるならば、タレントマネジメントの導入は人事評価制度を見直す良い機会となります。従来の評価制度の場合だと、在籍年数の長い従業員を優遇してしまうため、本来需要のある人材の価値を十分に活かせない可能性があります。
タレントマネジメントでは、従業員のスキルや能力を前面に押し出して評価します。しかし、従来型ではその効果を最大限に引き出すことが難しいかもしれません。そこで、タレントマネジメントの導入を機に、企業の現状や方針に合致した人事評価の仕組みを再考することが重要となるのです。
タレントマネジメントシステムの導入を検討する
タレントマネジメントは、システムで管理する方法もあります。運用する際には従業員の情報管理だけでなく、評価や育成、人材配置などの作業が必要です。限られた従業員での対応には手間がかかり、業務負担の増加も懸念されます。
システムを導入すればデータベースの構築のほか、配置シミュレーションや評価の管理などが可能です。ただし、システムの導入には一定のコストがかかるため、予算と業務負担のバランスを考慮した上で検討する必要があります。
タレントマネジメントの基本的な導入手順
自社でタレントマネジメントを導入する際には、運用開始までのスケジュールを立てるために、導入手順を確認しておきましょう。タレントマネジメントの基本的な導入手順は、次のとおりです。
- 目的を明確にする
- 従業員の特性をデータ化する
- 人材の採用・育成計画の立案
- タレントを配置・活用する
- 分析・見直しを行う
各手順を詳しく解説します。
1.目的を明確にする
まずは自社の課題を洗い出し、タレントマネジメントの活用で解決できるかを検討しましょう。
その上で、タレントマネジメントの導入目的を明確化します。導入目的によっては必要な人物像の基準が変化するため、経営戦略や長期的なビジョンに基づいて決めることが大切です。
2.従業員の特性をデータ化する
導入目的を設定したあとは、従業員の特性をデータ化しましょう。タレントマネジメントに活用できる代表的な特性は、次のとおりです。
- 職歴
- 経験
- 保有資格
- キャリアプラン など
適材適所に人材を配置するためには、より詳細な情報が必要です。これまでに携わったプロジェクトとその評価もデータ化すれば、各部署が求める人物像に近い人材を見つけやすくなるでしょう。
また、経験や保有資格などの一部の情報は、将来的に更新される可能性があります。新たな情報が追加されたらすぐに更新し、常に新しい状態でデータベースを管理できるように仕組みを整えましょう。
3.人材の採用・育成計画の立案
従業員の特性をデータ化したあとは、登録した内容をもとに各部署のニーズに適した人材を発掘していきます。事前に各部署から求める人物像をヒアリングしておけば、人材を発掘しやすくなります。
ただし、既存の従業員だけでは、部署のニーズに合う人材が見つかるとは限りません。そのため、データ化した従業員の能力やスキルを適切に評価し、理想の人物像とのギャップを明確にすることが大切です。
そのギャップを埋めるために、まずは既存の従業員を理想の人材に近づけるための育成計画を立てます。もし対象となる人材が不足していれば、企業の採用方針(ターゲット、方法、期間など)を見直し、適切な人材を獲得する採用戦略を策定しましょう。
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4.タレントを配置・活用する
人材の採用・育成計画を立案したあとは、発掘した従業員、すなわちタレントを適切なポジションや部署に配置して、実際に活用していきます。タレントマネジメントの目標達成に向けて個人のプロフィールや保有資格などを整理し、適切なポジションに配置することが大切です。
人材を配置する際には従業員の能力だけでなく、個々のキャリアプランも考慮しましょう。将来的なキャリア形成を踏まえた中長期的な視点を持つことで、従業員は理想のキャリアプランを実現しやすくなります。従業員が働きやすい環境の構築にもつながるでしょう。
5.分析・見直しを行う
タレントマネジメントは、従業員を最適なポジションに配置したら終わりというものではありません。その後、実際の業務でどれだけ能力を発揮しているか、その様子を継続的に見守ることが必要です。
そのため、人事担当者は部署内のリーダーやマネージャーと定期的にコミュニケーションを深め、実情をきちんと把握するようにしましょう。そして、その情報を社内で共有し、データ化することで次のアクションに活かせます。もし新しい課題や問題点が見つかった場合には、教育手段や評価基準などを適宜見直していくプロセスが重要となります。
タレントマネジメントを導入して組織力を高めよう
タレントマネジメントの目的は、従業員の能力やスキルを効率良く発揮させ、企業の成長につなげることです。労働力人口が不足するなかで企業が成長していくためには、限られた人材を効率的に活用する必要があります。
タレントマネジメントを導入すると、企業は人員配置の最適化や定着率の向上などさまざまな効果が期待できます。ただし、データベースの構築までに時間がかかる可能性もあるため、導入する際は計画的に進めていくようにしましょう。
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