近年、採用活動にリクルーター制度を導入する企業が増えています。リクルーター制度とは、リクルーターと呼ばれる人材が求職者に直接働きかけ、応募につなげる制度です。リクルーター制度を導入すると早い段階からターゲットにアプローチでき、自社への志望度を高められるメリットがあります。
本記事では、リクルーター制度の概要や企業が導入するメリット・デメリットを解説します。リクルーターを選定する際のポイントや制度の導入手順も解説するので、自社で導入する際に役立ててください。
リクルーターとは
まずは、リクルーター制度を導入するにあたって欠かせない、「リクルーター」について把握しておきましょう。
リクルーターとは、求職者と直接コンタクトを取って、新しい人材を採用するための活動を行う担当者です。多くの場合、採用担当以外の従業員が担当します。社内でリクルーターを登用する場合、人事部以外の従業員を専門職として位置づけ、専門スキルを育成するのが一般的です。
ただし、リクルーターという言葉に明確な定義はありません。たとえば人事部が主催する学生とのイベントに、先輩従業員として参加する程度の場合もあります。その一方で、リクルーター自身が積極的にインターンシップを企画するなど、人事部以上に採用活動へ関与するケースもあります。リクルーターの業務範囲は、企業によってさまざまです。
リクルーターを確保するには、自社の従業員を登用する方法があります。
リクルーター制度とは
リクルーター制度とは、リクルーターが就職活動中の学生や求職者と直接コンタクトを取り、新しい人材を募る制度です。求職者との対話を通じて、自社の魅力を伝えたり、彼らを応募につなげたりすることを目的としています。
最近では、少子化の影響により、多くの業界で人手不足が深刻になっています。これまでの手法だけでは優秀な人材を獲得することが難しくなっているため、企業は積極的に求職者へアプローチすることが必要です。
また、新卒採用の場合、多くの企業が同時に採用活動を始めるため、後手に回ると競合他社に人材が流れてしまう恐れがあります。リクルーター制度には、早い段階で求職者と接触し、他社に人材を奪われないようにする狙いもあります。
リクルーターの役割
リクルーターのおもな役割は次のとおりです。
- 母集団の形成
- 自社の魅力のアピール
- 内定辞退の防止
人材の獲得が難しくなっている状況のなか、「母集団の形成が上手くいかない」「内定辞退者が多い」など、採用活動での課題を抱えている企業も多いでしょう。リクルーター制度を導入すると、自社が抱える課題の解決につながる可能性があります。
母集団の形成
リクルーターには、求職者とのコミュニケーションを通じて母集団の形成を図る役割があります。母集団とは自社の採用候補となる集団のことで、上手く母集団を形成できると、自社が求める人材を見つけるチャンスも広がります。
また、優秀な人材を獲得するには、どれだけ質の高い母集団を形成できるかが重要です。たくさんの応募があっても、すべての応募者が自社の求める人材とマッチするとは限りません。
そのため、企業によっては母集団を形成する段階でリクルーターが求職者を見極め、優秀な人材には特別な選考フローを提案するケースもあります。
自社の魅力のアピール
リクルーターには、求職者に自社の魅力を伝える役割もあります。求職者に自社の強みやパーパス、働く環境、福利厚生などの情報を知ってもらうことで、魅力的な職場だとイメージしてもらいやすくなるでしょう。
リクルーターを通じて自社の魅力をアピールする際には、求職者のニーズを把握しておくことも大切です。
あさがくナビの「2023年卒学生の就職意識調査(企業のビジョン・パーパス(存在意義))2021年12月版」によると、就職活動では企業のビジョンやパーパスを重視する学生が多いことがわかっています。ビジョンとは「企業の目指す姿」であり、パーパスは「社会に対する企業の存在意義」を表します。
また同調査では、就職活動の企業選びにおいて、「仕事内容」や「一緒に働く従業員との相性」「福利厚生の充実」を重視する学生が多いこともわかっています。
就職活動の企業選びにおいて、重視すること(複数回答可) |
割合 |
仕事内容 |
66.0% |
一緒に働く従業員との相性 |
39.4% |
福利厚生の充実 |
34.0% |
勤務地 |
32.0% |
社風や会社のカルチャー |
26.4% |
残業が少ないか、休日が確保できるか |
21.9% |
社会の役に立つ仕事ができるか |
21.4% |
給与の高さ |
17.3% |
会社のビジョン |
14.9% |
転勤の有無 |
10.6% |
求職者が知りたい情報を積極的に提供し、自社への理解が深まれば、応募につながる可能性があります。
内定辞退の防止
内定を出しても、すべての内定者が入社に至るとは限りません。リクルーターには内定辞退を防ぐ役割もあります。
特に新卒採用の場合、内定から入社までに1年程度の期間がかかることがあります。内定を獲得したあとも、就職活動を継続する学生は少なくありません。
あさがくナビの「2023年卒学生の就職意識調査(内定(内々定)獲得後の就職活動)2022年9月版」では、4割程度の学生が内定を獲得したあとも就職活動を継続していることがわかっています。
内定辞退を防ぐには、内定者に対して適切なフォローアップやコミュニケーションを行う必要があります。
あさがくナビの「2023年卒学生の就職意識調査(就職活動への不安)2022年5月版」によると、就職活動に不安を抱えている学生は84.4%と非常に多いことがわかっています。
リクルーターを活用して内定者をサポートすれば、内定者が抱える不安が解消され、無事に入社に至る可能性が高まるでしょう。
リクルーター制度を導入する企業側のメリット
企業がリクルーター制度を導入すると、優秀な人材の他社への流出を防止し、効率的に採用活動を行えるメリットがあります。
リクルーター制度を導入するメリットを把握し、自社の持つ課題の解決につながるかを検討してみましょう。
早い段階から求める人材にアプローチできる
リクルーターには、企業が求める条件にマッチする人材を見つけ出す役割があります。候補者を絞り込む際には、OB/OGのネットワークや専門的なデータベース、ダイレクトリクルーティングサービスやネットワーキングイベントなどを活用します。
求人広告や採用イベントを通じて早期に求職者にアプローチできるため、自社が求める人材に早く出会える可能性が高まるでしょう。
特に新卒採用では、多くの企業が同時に採用活動を開始します。そのため、早期にアプローチしないと優秀な人材が他社に流れてしまうリスクがある点に注意が必要です。
新卒の就職活動解禁は原則3月ですが、リクルーターは選考解禁日前に学生と「面談」を行えるため、早期に接触できます。
求職者の本質を把握しやすい
リクルーターは人材の採用に特化した役割があるので、コミュニケーションや選考プロセスを通じて、求職者の本質を見極める力に長けている場合が多いです。
求職者のスキルや経験、能力、価値観などがより深く理解できれば、求職者の本質を見極めることが可能です。
しかし、選考プロセスでの面接では求職者が緊張し、面接官が本音を上手く引き出せないことがあります。
あさがくナビの「2024年卒学生の就職意識調査(面接で本音を話したいか)2023年4月版」では、面接の際に本音で話せていると回答した求職者は6割程度にとどまっていることがわかっています。
求職者の本音を見抜けないまま採用すると、ミスマッチによる内定辞退や早期離職のリスクが生じます。
一方、リクルーターの面談の場合、選考プロセスでの面接よりもカジュアルな雰囲気で行われることが多いため、求職者の緊張が緩和されやすくなります。その結果、求職者の本音が引き出しやすくなるでしょう。
リクルーターの面談は、選考プロセスの面接のように、ある程度質問の型や内容が決まっているものではありません。リクルーター個人の考えやその場の話の流れによって、面談はアドリブ的に進行します。
そのため、求職者は選考面接よりもリラックスして、自然な流れで会話ができるでしょう。リクルーターは自然なやり取りのなかで求職者の本音を聞き出し、自社が求める人材かを見極められます。
求職者の自社への志望度を高められる
求職者の志望度を高めるには、自社の魅力をアピールし、興味を持ってもらうことが効果的です。
リクルーターは求職者と双方向のコミュニケーションを取るため、求人原稿などと比較して自社の魅力を伝えやすいというメリットがあります。求職者は、詳しい仕事の内容や一緒に働く従業員の様子など、リアルな情報が聞けるため、入社後の働き方をイメージしやすくなるでしょう。
前述したように、近年、求職者には「仕事の内容」や「一緒に働く従業員との相性」などを重要視する傾向があります。
学生が知りたい情報を積極的に提供することで、自社への理解が深まり、志望度が上がって応募につながる可能性が高くなるでしょう。
リクルーター制度を導入する企業側のデメリット
企業がリクルーター制度を導入すると「リクルーターの質に左右されやすい」「企業イメージの低下につながる恐れがある」などのデメリットがあります。リクルーター制度を導入する際には、デメリットに対処する方法を考えておくことが大切です。
リクルーターの質に左右されやすい
リクルーターは求職者との直接的な対話によって人材を見極めるため、リクルーターの持つスキルが採用結果に影響を及ぼします。
リクルーターのスキルが不足している場合、企業が求める人材の獲得が難しくなるケースがあるでしょう。リクルーター制度を導入する際は、リクルーターの質にも重点を置く必要があります。
具体的にどんなスキルが必要かは、「【入社年数別】リクルーターを選定する際のポイント」の章で詳しく解説します。
企業イメージの低下につながる恐れもある
リクルーターの振る舞いが、企業のイメージに大きな影響を及ぼす可能性があります。
たとえばリクルーターが過度に連絡をとったり乱暴な言葉を使ったりすると、求職者に不快感を与えます。
近年はSNSを通じて否定的な情報が拡散されるケースもあるため、コミュニケーションを取る際は慎重に行いましょう。
リクルーターを担当する従業員の負担が増える
社内の従業員をリクルーターとして登用する場合は、負担が増えて通常業務に支障をきたす恐れもあります。リクルーター業務と通常業務の兼ね合いが可能な人材かどうか、慎重な検討が必要です。
リクルーター制度の導入手順
リクルーター制度を導入する際には、まず制度そのものを構築する必要があります。
制度の導入手順は、次のとおりです。
- 採用したい人材の明確化
- リクルーターの選定
- リクルーターの育成
- リクルーター制度の開始
1:採用したい人材の明確化
リクルーター制度を上手く活用するには、自社が求める人物像を明確にしておくことが大切です。
リクルーターが自社の求める人物像を把握していなければ、条件に合わないターゲットにアプローチしてしまい、自社が求める人材を上手く獲得できない可能性があります。
優秀な人材を効率的に獲得するためにも、求める人物像の条件を明確にして、リクルーターと共有しましょう。
また、求める人物像は職種や現場のニーズに合わせて調整すると、より条件に近い人材にアプローチできます。
2:リクルーターの選定
リクルーター制度によって採用活動を成功させるには、リクルーターの選定も重要です。リクルーターの振る舞い次第では求職者に不快感を与え、企業イメージを低下させてしまう恐れがあるため慎重にアサインすることが必要です。
リクルーターの選定ポイントは、アプローチする求職者の属性に適した人物を登用することです(詳しくは、「【入社年数別】リクルーターを選定する際のポイント」の章で後述)。
また、リクルーターに対しては「目標/責任範囲 (通常業務との棲み分けなど)」「権限
」「評価/報酬制度への組み込み」を明確にしておくことも重要です。
3:リクルーターの育成
社内の従業員を登用する場合は、リクルーターとして育成することが重要です。
過去に採用活動に関わった経験を持つ従業員であっても、リクルーターとしての業務は初めての場合があります。
育成方法としては、リクルーター制度の目的や手法、求める人物像を説明する、社内外のセミナーへの参加を促すといった方法があります。
4:リクルーター制度の開始
リクルーター制度を開始する前には、制度の目的やリクルーターの選定基準などをまとめた規定を作成しておきましょう。ルールを定めておくことで、社内でリクルーター制度の統制を図ることができます。
準備が整い次第、リクルーター制度の活動を開始します。活動開始後は定期的にミーティングを行い、進捗状況や課題を共有しましょう。人事部の担当者とリクルーターが情報を共有することで、予期せぬ問題にも柔軟に対応できます。
【入社年数別】リクルーターを選定する際のポイント
リクルーターは、ターゲットの求職者に合った人物を選ぶことがポイントです。求職者の属性に適した人物を選定すれば、精神的な距離が近づき、コミュニケーションの活性化が期待できます。
就活経験がある若手従業員
新卒採用で学生をターゲットにする場合は、入社1~5年目の若手従業員を選定しましょう。若手従業員は学生と年齢が近いため、気軽にコミュニケーションが取りやすく、良好な関係を築きやすい傾向があります。
若手従業員がリクルーターとして活動することで、学生にとって身近なロールモデルになるでしょう。リクルーターとの対話を通じて、学生たちが「この人のようになりたい」と感じれば、自社への志望度の向上が期待できます。
キャリアパスを形成しつつある中堅従業員
中途採用の場合は、即戦力となる人材が必要になります。そのため、求職者から見て同僚のイメージを持てるような、入社6~15年目で自社での実績が高い従業員を選定しましょう。
中堅従業員がリクルーターとして活動すると、学生にとっては入社後の上司として、転職を考える人にとっては同じ世代の仲間として、一緒に働くイメージを具体的に持つことができます。
求職者は中堅従業員との深い対話を通じて、自身のキャリアパスをより具体的にイメージしやすくなるでしょう。
自社への理解力が高いベテラン従業員
優秀な学生にアプローチしたい場合や、中途採用で即戦力となる人材を逃したくない場合は、自社への深い理解を持つベテラン従業員が適任です。
ベテラン従業員は豊富な経験に加えて、自社の経営や業界のトレンドに関する知識も有しています。
求職者との対話において、組織全体の将来展望を含めた洞察力に基づいた情報を提供できるため、逃したくないターゲットにはベテラン従業員をリクルーターに選定するのがよいでしょう。
リクルーター制度はターゲットを狙ってアプローチできる
自社が求める人材に直接アプローチする方法として、リクルーター制度が有効です。リクルーターは求職者と直接コミュニケーションを取るため、早い段階からアプローチでき、優秀な人材が他社に流れるリスクを低減するメリットがあります。
ただし、リクルーター制度の成功は、リクルーターの質に大きく影響されます。ターゲットを絞る際は、リクルーターの人脈に頼るだけでなく、求人サイトや転職サイトなどのデータベースも活用するとよいでしょう。
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株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。