近年の採用活動では、「カルチャーフィット」の視点が注目されています。多くの企業が採用基準でカルチャーフィットを重要視する理由は、採用した人材の早期離職の防止と組織の生産性向上につなげられるからです。
本記事では、カルチャーフィットの詳しい意味や注目されている理由、カルチャーフィットを重視する採用活動のメリットと課題について解説します。
採用活動で求職者のカルチャーフィットを見極める具体的な方法や、成功させるためにおさえておくべきポイントも紹介するので、カルチャーフィットを採用の判断基準に導入する際の参考にしてください
カルチャーフィットとは
「カルチャーフィット」とは、企業独自の文化や風土などに人材がフィットしている状態です。企業にはそれぞれ明文化しにくい特有の文化や風習がありますが、それらに人材がうまく馴染めている状態を指します。
人材がカルチャーフィットしていれば「居心地が良い」「働きやすい」「安心して長く働ける」と感じやすいでしょう。
一方、カルチャーフィットしていない人材は「居心地が悪い」「やりにくい」と感じやすく、職場の雰囲気ややり方に馴染めない可能性があります。この場合、人材が定着しにくくなり、早期離職につながってしまうこともあるでしょう。
カルチャーフィットと似た言葉に「スキルフィット」があります。これは、人材が持つスキルや能力が業務内容に適していることを指します。スキルフィットはカルチャーフィットに比べて定量化しやすいため、採用基準として取り入れられてきました。
しかし、スキルフィットが高くてもカルチャーフィットが低い場合、働きにくいと感じられたり周囲とのコミュニケーションに支障をきたしたりする可能性もあります。せっかくスキルや能力が高くても、やりにくいと感じる環境では十分に能力を発揮して活躍してもらうことはできません。
そのため、採用活動においてはスキルフィットだけでなくカルチャーフィットの両方が問題ないかを見極める必要があります。
カルチャーフィットが注目される理由
カルチャーフィットが注目される背景には、人手不足や定着率の問題などがあげられます。詳しい理由を見ていきましょう。
少子高齢化による人手不足に備えるため
現在、少子高齢化は社会問題となっています。労働人口が減少し、人手不足が深刻化しています。また、転職市場が「売り手市場」のため、入社後に合わないと感じた求職者がすぐに退職してしまう傾向があります。
せっかく人材を採用できても職場に馴染めず、早期に退職されてしまった場合、すぐ人員を補充するのは難しいでしょう。
そこでカルチャーフィットした人材を採用して、入社後に居心地が良いと継続的に感じてもらえれば、長く働いてもらえる可能性が高まります。実際に学情が実施した調査(※)でも、企業が内々定を出す決め手第1位は「自社(社風)に合いそう」という点でした。採用において、自社のカルチャーに合うかどうかを重視する企業は多いと言えます。
「2024年3月卒業予定者 就職戦線中間総括」https://service.gakujo.ne.jp/documents/24sokatsu-report
中途採用の定着を強化するため
中途採用は、すでに他の企業で働いていた経験を持つ人材を採用することを指します。これらの中途採用者は、入社後に既存社員・チーム全体の連携を円滑に図りながら、企業文化への適応が求められます。そのため、カルチャーフィットを重視することは中途採用の定着を強化する上で重要な要素となります。
中途採用では、人材の定着をより強化するために、採用におけるカルチャーフィットの優先順位を高める企業が増えています。カルチャーフィットしている人材を採用できれば、早期離職を防止でき、チームの活性化や長期的な定着を促進し、即戦力人材としての活躍を期待できます。
働き方の多様化に対応するため
近年、働き方の多様化が進んでおり、従来のような一律の働き方だけでなく、個人のニーズやライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が求められています。たとえば、リモートワークやフレックスタイム制、時短勤務など、さまざまな働き方が広がっています。
このような多様な働き方に対応するために、採用活動においてカルチャーフィットが重要視されています。企業の文化や働き方が、求職者自身のニーズやライフスタイルに合っているかどうかを確認することで、入社後の満足度や定着率の向上につながるのです。
カルチャーフィットを重視した採用活動をするメリット
採用活動では、カルチャーフィットを重視することで早期離職を防止し、生産性の向上が期待できます。それぞれのメリットを詳しく解説します。
早期離職の防止
2023年に実施したRe就活の20代を対象とする転職理由の調査では、上位5位までの中に「より会社の風土や考え方が合う企業で働きたい」という理由がありました。
転職理由の調査結果は次の通りです。
- 給与・年収をアップさせたい
- もっとやりがい・達成感のある仕事がしたい
- 残業を減らしたい、休日を確保したい
- より会社の風土や考え方が合う企業で働きたい
- 自身の市場価値を高めたい、ステップアップしたい
1位から3位までは給与・待遇面、仕事内容に関するものとなりましたが、4位ではカルチャーフィットしていないことが離職の原因となっています。
このことから、カルチャーフィットしていれば離脱を防ぎ、定着の可能性を高められると考えられます。
生産性の向上
カルチャーフィットする人材が集まれば、似た価値観をもった人が集まることになります。自社のビジョンや価値観に共感して仕事に取り組めることから、モチベーションが維持され、チーム間のコミュニケーションが円滑に行われるようになります。
このように組織内で意思疎通がスムーズに行われていると、伝達漏れやミス、方向性の違いによる従業員同士の摩擦が起きづらくなり、企業の生産性向上に大きく貢献します。
カルチャーフィットを重視した採用活動の課題
一方で、理解しておかなければならない課題も存在します。カルチャーフィットを重視した採用活動の課題は次の通りです。
- 多様性が失われる可能性がある
- 人材確保の機会を逃す恐れがある
カルチャーフィットする人材のみを採用していると、同じような価値観を持った人材が集まりやすくなります。すると異なる視点が減ってしまい、意見が偏ったり新しい発想が生まれにくくなったりする可能性があります。
また、カルチャーフィットを重視する採用では、スキルや能力があってもカルチャーフィットしないからという理由で採用を見送るケースがあるかもしれません。
しかし、採用時にはカルチャーフィットしていなくとも、採用することで新しいカルチャーが生まれることもあるでしょう。カルチャーフィットしていないという理由で採用を見送ると、人材確保の機会を逃したり、多様性が失われたりする恐れがあります。
そのため、カルチャーフィットばかりを重視し過ぎず、バランスの取れた採用基準を設定することが必要です。
求職者のカルチャーフィットを確認する方法
カルチャーフィットを重視する採用活動のメリットやデメリットを把握したところで、カルチャーフィットしているかどうかを見極める方法を紹介します。
- 自社のイベント・ワークショップに求職者を招待する
- 短期のインターンを実施する
- 面接時に自社のカルチャーに基づいた質問をする
- 適性検査を行う
- AIによるカルチャーフィット診断を行う
それぞれ詳しく解説します。
自社イベント・ワークショップに求職者を招待する
自社のカルチャーを実際に体験してもらうため、求職者をイベントやワークショップに招待すると良いでしょう。採用する側も求職者とコミュニケーションを取る機会を増やせるメリットがあります。
イベントやワークショップには従業員も参加することで、求職者と既存従業員のスムーズな意思疎通が可能かを見極められます。求職者のカルチャーフィットに対して、人事担当者の視点だけではなく、現場の従業員の客観的な判断も参考にできるでしょう。
また、求職者にはより企業文化や職場の雰囲気をわかってもらいやすくなります。イベントやワークショップでカルチャーフィットを感じてもらえれば求職者の志望度を高め、採用過程での離脱も防げます。
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短期のインターンを実施する
新卒採用では、短期のインターンで実際に業務を体験してもらうことが効果的です。職場の従業員ともコミュニケーションを取ってもらい、お互いにカルチャーフィットしているか判断します。
インターンシップは2025年卒業予定の学生を対象としたものからルールが変わります。短期の「インターンシップ」を実施する場合、汎用的能力活用型のインターンの場合は5日間以上、専門活用型のインターンは2週間以上の就業体験が必要です。1dayのプログラムは「オープン・カンパニー」と呼ばれます。
求職者は、実際に業務を体験して従業員と交流し、職場の雰囲気を掴めます。口頭でカルチャーを説明するより理解してもらいやすく、自分が企業にカルチャーフィットしているか実感をもとに考えられます。
この点は、下記の記事でも詳しく解説しているので、ぜひご一読ください。
面接時に自社のカルチャーに基づいた質問をする
面接の際に価値観や行動特性などを聞き出し、カルチャーフィットしているかを判断する方法もあります。
たとえば、「問題解決のためにどのような努力をしてきたか」といった質問では、価値観や行動特性がわかりやすいでしょう。
協調性を重んじるカルチャーがある企業なら「苦手な人にはどのように対応するか」「困っているメンバーを見かけたらどうするか」といった質問をすると、協調性の有無やコミュニケーションの取り方などがわかりやすくなります。
適性検査を行う
カルチャーフィットしているかどうかを判断するには、採用担当者の視点や主観だけではなく客観的な判断も必要です。客観的な判断材料として、適性検査の実施も効果的です。
また、適性検査と同様に客観的に判断する材料として、中途採用者には「リファレンスチェック」も有効です。リファレンスチェックとは、前職での勤務状況や、人物像などについて前職の関係者に問い合わせることです。
採用予定者や候補者が自社のカルチャーにフィットしているかどうかは、履歴書や職務経歴書、面接だけでは判断できない場合もあります。前職の同僚や人事担当者に話を聞くことで、求職者の勤務態度や普段の姿を知ることができるでしょう。
自社の関係者以外の、異なる価値観や視点を持った人による評価を参考にできるため、判断材料を増やすことができます。
AIによるカルチャーフィット診断を行う
客観的にカルチャーフィットしているかを判断する方法には、AI(人工知能)による「カルチャーフィット診断」もあります。
AIを用いれば人の主観が入らないため、より客観的かつ多角的に評価できます。選考の効率化や、評価の公平性を保つことにも役立つでしょう。
ただし、カルチャーフィットには明文化・定量化が難しい項目もあります。そのため、AIの判断結果ばかりを重視し過ぎないようにしましょう。
面接による担当者の主観的な判断や、インターンなどの施策の結果と合わせた判断材料の一つとして、総合的に採用の最終決定をすることが大切です。
カルチャーフィットを重視した採用活動を成功させるポイント
カルチャーフィットを重視した採用を成功させるには、次の3つのポイントをおさえておく必要があります。
- 採用開始前に自社のカルチャーを定義する
- 定義したカルチャーを浸透・醸成させる
- 就職・転職サービスの活用が効果的
それぞれのポイントを詳しく解説します。
採用開始前に自社のカルチャーを定義する
カルチャーフィットを重視する採用活動では、事前に自社のカルチャーをわかりやすく定義し、人事担当者間で認識のズレがないように共有しておく必要があります。
自社のカルチャーを明確に定義しておかないと、面接で聞くべき質問内容が、採用担当者によって変わってしまう可能性があります。
そもそも自社のカルチャーがどのようなものか明確になっていなければ、求職者とカルチャーフィットするかの判断もできません。
自社のカルチャーを定義するためには、既存の従業員で話し合いをしたり、マルチフォーカスモデルで分析したりすると良いでしょう。
マルチフォーカスモデルとは、次のような「6つの独立した次元」と「2つの半独立の次元」の項目でカルチャーを分析する方法のことです。
【6つの独立した次元】
- 組織の効果性
- 顧客志向のあり方
- 仕事の進め方
- 組織の関心のあり方
- 組織外との関わり方
- マネジメントの哲学
【2つの半独立の次元】
- リーダーシップの受容度
- 人と組織の一体感
このような項目に基づいて分析し、定義したカルチャーを共有することで、自社のカルチャーに対する関係者間の認識の食い違いを防げるでしょう。
定義したカルチャーに沿ったペルソナも作成しておけば、カルチャーに沿った理想の人物像がよりわかりやすくなります。「ペルソナに当てはまっているか?」という判断材料ができれば、採用担当者も判断しやすくなるでしょう。
定義したカルチャーを浸透・醸成させる
人事部や会社の上層部でカルチャーを定義していても、社内で浸透していなければ、カルチャーフィットを意識した採用活動を支える組織作りができていない状態になってしまいます。
そのため、既存従業員にも自社のカルチャーを浸透・定着させることが必要です。カルチャーが定義できたら、次のような方法で浸透させると良いでしょう。
- クレドの作成
- 社内報・オウンドメディアでの発信
- 社内研修の開催
クレドとは、自社が心掛けている信条や行動指針のことです。明文化したクレドを従業員全員に浸透させることで、日常的に意識してもらい、企業文化を醸成します。
クレドを伝えるには、カードにして配布したり、クレドをテーマにした研修会を行ったりすることが効果的です。社内報やオウンドメディアで発信するのも良いでしょう。
また、社内報やオウンドメディアでは、クレドだけでなく従業員へのインタビュー記事や自社のカルチャーが伝わりやすい事例などを取り上げた記事を掲載する方法もあります。自社のカルチャーに関する資料の配布や、定期的な社内研修を実施するのも良いでしょう。
就職・転職サービスの活用が効果的
カルチャーを定義し社内で浸透させたら、次は求職者に対して発信していく必要があります。自社のカルチャーを求職者に理解してもらうためには、カルチャーがわかりやすく伝わる方法で発信することが大切です。たとえば就職・転職サービスを活用すれば、自社のカルチャーをよりわかりやすい形で発信しながら、効率的にカルチャーフィットを重視した採用活動が進められるでしょう。
自社のカルチャーをリアルに感じてもらう発信をするなら、学情の「JobTube」サービスをご検討ください。「JobTube」なら、動画を活用したアプローチにより、企業のリアルな雰囲気や従業員の声を届けられます。就職活動のオンライン化が進む中で高まっている「デジタルを通して企業のリアルを知りたい」という求職者の声に応えられるでしょう。
「JobTube」ではオフィスに突撃する職場潜入動画や、先輩社員の成長ストーリーなどが動画で見られるため、カルチャーを文章で読むよりもリアルに理解してもらいやすくなります。
事前にリアルな企業情報やカルチャーがわかっていると、求職者も自分が企業にカルチャーフィットするか判断しやすくなるでしょう。カルチャーを理解した上でフィットした人材が応募してくれば、マッチング率が高まります。
カルチャーフィットを重視した採用活動で早期離職を防止しよう
採用活動においてカルチャーフィットを重視することは、早期離職を防止するのに役立ちます。カルチャーフィットで居心地のよさを感じてもらえれば、安心して長く働き続けたいと思ってもらえる可能性が高まり、定着率の向上につながるでしょう。
ただし、カルチャーフィットを重視する採用活動には、人材が偏って多様性が失われる可能性や人材確保の機会を損失する恐れもあります。カルチャーフィットは近年の採用活動において重要な視点ではありますが、そればかりを重視することなく総合的にバランスを見て採用判断することが大切です。
採用前にカルチャーフィットを確認するためのさまざまな施策を検討し、カルチャーフィットを採用活動の判断材料に取り入れて早期離職を防止しましょう。
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