通年採用とは、企業が時期を決めずに年間を通して行う採用活動のことです。新卒一括採用における課題や求職者の多様化などの理由から、実施する企業が増えています。
通年採用とは
「通年採用」とは、企業が時期を決めずに年間を通して行う採用活動のことです。
企業が通年採用を行う背景には2種類あります。ひとつは多様な人材を採用するために積極的に取り入れているケースです。従来の採用スタイルに危機感を覚えて、戦略的に導入している企業もあります。
もうひとつは、通年採用にならざるを得なかったケースです。近年は学生の動き出しが早まっているにもかかわらず、内定承諾の時期はあまり変わらないので、採用活動が長期化しています。これに伴ってある程度の内定辞退は避けられない事態も多く、一度採用活動を終えたが、想定以上の内定辞退によって再開する例も増えています。
通年採用の定義
「通年採用」とひとくちに言っても、企業によって実施スタイルはさまざまです。
- 年間で複数回の選考を開く(例 3月に1回、6月に2回、9月に1回、11月に1回)
- 募集期間を決めずに常に門戸を開いており、応募があり次第、随時選考を行う
- 今までに選考を受けて不合格となった人でも、再チャレンジできるようにする
選考期間を延ばす観点と募集対象を広げる観点のどちらも通年採用と呼べるでしょう。
新卒一括採用との違い
従来の採用手法は「新卒一括採用」と呼ばれ、通年採用とは、採用活動の募集期間が異なります。
通年採用:年間を通して採用活動を行う
新卒一括採用:決まった時期に一斉に選考・採用を行う
- 広報活動開始:卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
- 採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降
- 正式な内定日:卒業・修了年度の10月1日以降
これは、学生の本分である学業を就職活動が妨げないように経団連が設定した「採用選考に関する指針」をベースとしています。新卒一括採用を行う場合は、基本的に、上の解禁時期に従って採用活動を行わなければなりません。
新卒採用のスケジュールや早期化・長期化の傾向についてくわしく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
新卒一括採用の課題
しかし、政府主導のルールに従うだけでは十分に応募を集められない現状があります。
採用目標人数に届かない
少子化の影響で、求人数が学生数を上回る「売り手市場」が続いています。企業が新卒採用で目標人数を達成することは年々むずかしくなっています。
新卒一括採用では、多くの企業が同じタイミングで一斉に学生へアプローチをかけるため、知名度の高い大手企業が学生の注目を集めます。学生があまり名前を知らない企業や、採用にたくさんのリソースをかけられない企業などは、競争に負けてしまう可能性も考えられます。
また、ここ数年は、ある程度の内定辞退は避けられないものと捉えるのが通説となっています。これは、学生が複数の企業からの内定をもっている状態で就職活動を終えたあとに、自分にとってもっとも魅力的な企業を選ぶという行動パターンが増えているためです。
就職活動のスタートが年々早まっている
就職活動のスタートは年々早まっています。実際に、2025年卒業予定の学生では、3年生の1月時点で4人に1人が内々定をもっています。これは、2024年卒の同月より7.1ポイント高く、2023年卒の同月より10.4ポイント高い結果でした。
※出典:2023年卒 内々定率調査 2022年9月度(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/23naiteiritsu0902/)、2024年卒 内々定率調査 2023年9月度(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/24naiteiritsu0904/)、2025年卒 内々定率調査 2024年1月度(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/25naiteiritsu0109/)
内々定出しの時期が早まっているということは、選考の開始も早まっているということだと考えられます。
早期化は、売り手市場と深い関係があります。早いうちから優秀な学生と接点をもちたい企業側、自分にとってより魅力的な企業から内定を得ようと早期から積極的に就職活動を行う学生側、双方の思惑が早期化の原因のひとつでしょう。
このように実質的な開始時期は早まっているものの、内定承諾の時期は大きく変わらず、採用活動が長期化する傾向もみられます。長期化のほかの要因には、企業が想定以上の内定辞退を受け、本来予定していなかった時期に採用活動を再開せざるを得なくなるケースもあるようです。
通年採用におけるメリット
戦略的に通年採用を実施することで企業は多くのメリットを得られます。学生側もスケジュール面での恩恵を受けられます。
企業側のメリット
企業は、通年採用を実施することで、より多様な学生と余裕をもったスケジュールで出会うことができます。
多様な人材と接触できる
新卒一括採用では、学生側も決められた期間内で優先順位をつけて活動するため、必然的に企業が学生と接点を持てる数は限られます。
その点、通年採用では、一括採用では採用活動を行わない時期にも活動を行います。接触できる人数が増えるだけでなく、新卒一括採用では出会いにくかった多様な人材と出会える可能性が高まります。
たとえば、グローバル人材です。海外の大学は日本の大学と卒業時期が異なるため、通年採用を実施することで海外からの留学生や留学からの帰国者を採用する間口が広がります。
ほかにも、大学院の進学を目指していた学生や司法試験に挑戦していた人、大学時代にボランティア活動に注力していた学生などが例に挙げられます。
専門性や豊かな経験を持つ人材へのアプローチが可能です。
慎重な選考でミスマッチを防げる
通年採用は新卒一括採用と異なり、時期が決められていないので、慎重な選考を行えます。
入社までの時間がない中では応募者ひとり当たりにかけられる時間が限られますが、通年採用では余裕をもって応募者が自社とマッチするかを見極められるでしょう。
内定辞退があっても柔軟に対応できる
学生から内定辞退の連絡があっても、通年採用なら時期に縛られずに柔軟な補填計画を立てることができます。
新卒に限らず、既卒や第二新卒を対象にした通年採用であれば、入社時期を分けて研修を行うことで戦力化までの期間を短縮できます。
このように、人員計画の変更に合わせて臨機応変に採用人数・採用時期を設定することが可能です。
学生側のメリット
学生側が享受できる通年採用のメリットは、おもにスケジュール面にあります。
選択肢が広がる
新卒一括採用では、学生は限られた時間の中で複数社の検討を行わなければなりません。どうしても説明会や面接のバッティングが発生し、出会える企業の数が限定されてしまう傾向があります。
この点、通年採用では、年間を通して複数回の選考が開催される、もしくは、常に窓口が開かれており、学生も多くの企業に応募できるようになります。
新卒一括採用と異なり、長期スパンでキャリアを考えるため、そのときどきの興味によって多種多様な業界を比較検討できて選択肢を広げられるでしょう。企業にとっても、自社に興味を持ってもらえる学生の数が増えるといえます。
一社一社大切に進めることができる
選考の時期が分散するので、一社一社の準備に時間をかけられます。業界・企業理解や自己分析が深まり、学生側も万全の状態で選考に臨めます。
通年採用におけるデメリット
通年採用にはメリットだけでなくデメリットもあります。自社ではじめて実施する際は、これらのデメリットを踏まえて対策を行いましょう。
企業側のデメリット
新卒一括採用から通年採用に切り替えると、今まで決められた期間で行っていた採用活動が延びることになります。その分の採用担当者の負担もコストも増えるでしょう。
採用担当者の負荷が増える
通年採用では、募集期間が延びることで面接や選考の回数が増えます。加えて、採用対象の枠が広がって応募者数が増加し、連絡・選考日程調整などの工数や採用担当者の負担が増す可能性があります。
とくに、採用担当者が労務や人事などの他業務と兼務の場合は、業務量の調整を検討しましょう。
採用コストが高くなる
通年採用では新卒一括採用よりも長い期間、求人広告などを出すケースが多く、一般的に採用コストは高くなります。
ただし、採用にかかる費用が一度に発生する新卒一括採用と比べ、長期的に分散されると考えることもできます。
一括採用の期間も力を入れなければいけない
自社が通年採用に切り替えたとしても、新卒一括採用を実施している他社は従来通り決まった期間で集中的に採用活動を行います。通年採用と言っても、その期間にはほかの期間より採用活動に注力する必要があるのです。
エネルギーを平等に年間に分散させながら採用活動を行っていると、訴求力不足で競合他社に優秀な人材が集まってしまう可能性があります。
通年採用を実施する場合でも、学生の動きや学事日程に合わせて、採用活動に緩急をつけることがカギになります。
学生側のデメリット
通年採用の定義が企業によって微妙に異なる影響で、政府主導のルールに則った新卒一括採用よりも自主性が求められる場合があります。
採用までの期間が長い可能性がある
通年採用ではより慎重な選考が行われるため、短期間で就職活動を終わらせたい学生にとってはデメリットになる可能性があります。
しかし、通年採用を実施している企業は、新卒一括採用の選考よりもじっくりと対話の機会をもつ傾向があります。
企業の目的と学生のやりたいことが合致するかなどを丁寧に見極めてもらえる可能性が強く、相互理解が深まった上で次のステップにすすめるでしょう。
より積極的な活動が必要
新卒一括採用では、3月の採用広報活動解禁日に複数社の企業情報を一気に手に入れられます。
しかし、通年採用では、企業によって採用スケジュールはまちまちなので、自ら積極的に情報収集をしようとする姿勢が求められます。
企業側も、学生のニーズに応えて、常に最新の情報を手に入れられる体制を整える必要があるでしょう。
通年採用をこれから導入するには
これらの背景やメリット・デメリットを踏まえて、これから通年採用を実施しようとしている企業の採用担当の方に向けて、導入の際のポイントをご紹介します。
明確な目的、目標を設定する
具体的にどのような人材を採用したいのかというペルソナや、「いつまでに・どの部署に・何人」採用すべきなのかなど、明確な目標設定が必要です。
採用環境を的確に把握する
新卒一括採用と通年採用では、採用環境が異なる可能性があります。
たとえば、今までも通年採用を実施してきた外資系の企業と、優秀なグローバル人材の取り合いが発生するかもしれません。
採用競合の動向や学生の傾向などの情報収集を行い、採用市場を広い視点で把握することが大切です。
学生を理解する
学生を理解することは選考・採用活動の質に影響します。
新卒採用のターゲットであるZ世代が就職先に求めるものは何か、重視するポイントや傾向を把握し、本当に欲しい人材の採用を実現しましょう。
Z世代の傾向を掴むなら、こちらのダウンロード資料をご活用ください。
採用管理システムやAIツールを使う
多くのナビサイトは新卒一括採用に対応しており、ピークが過ぎた秋冬になるとクローズしてしまうのが普通です。通年採用に向いている採用システムやツールを選び、効率良く採用を進めましょう。
たとえば、企業から学生にスカウトメールを送るオファー型のサービス(AIからのレコメンド機能が付いているものもあります)や、LINEなどのチャットツールを利用した配信を用いて、学生の管理工数・コミュニケーションコストを大幅に削減しましょう。
通年採用の事例
通年採用とひとくちに言っても企業によって実施方法はさまざまです。
年間で複数回の選考を開く方法
春に1回・秋に1回、春・夏・秋で1回ずつなどと、年間で複数回の選考を行う方法です。
通年採用といっても、選考・入社がいつでもできる状態だと、採用や教育のタイミングが分散してコストが増えるデメリットもあります。選考時期を決めることでコストを抑えられるでしょう。
応募があり次第、随時選考を行う方法
文字通り通年で採用の窓口を開き、応募があり次第、随時選考を行う方法です。
学生が好きな時期に応募でき、主体性に任せる形になっています。
採用期間が広がっていつでも応募ができる分、学生との接点も増えるといえるでしょう。
対象の枠を大学1,2年次まで広げる方法
オープン・カンパニーなどのプログラムへの参加から、大学1,2年次から学生と接点を持つことで、採用の対象年次を広げる方法です。
早期から積極的に情報収集を行う優秀な学生との接点を増やすことができる一方、卒業までのフォロー期間が長くなるというデメリットもあります。
対象を既卒や第二新卒、ヤングキャリア層まで広げる方法
新卒採用では一括採用の時期に則る一方、通年で中途採用も実施する、新卒だけにこだわらずに「新卒+既卒・第二新卒・ヤングキャリア層」の2軸で採用活動を行う方法です。
新卒採用だけでは採用目標人数の達成が難しいため、近年スタンダードになりつつあります。
通年採用を成功させるポイント
通年採用を実施する企業が増えている理由は、新卒一括採用の課題への対策として、採用対象の枠を広げるためと言えます。
ですが、実は枠を広げるベクトルには二方向あると考えられます。
ひとつは通年で窓口を開くことですが、もうひとつは、従来の新卒一括採用では対象ではなかった大学1,2年次の学生も対象にすることです。
従来の一括採用では対象ではなかった年齢も対象にする
通常、インターンシップなどへの参加から就職活動準備を始めるのは大学3年生ですが、その前の大学1・2年生の段階から自社や業界のことを知ってもらうイベントを開き、早いうちに学生と接点を持つと同時に、学生に長期スパンでキャリアを考えてもらうきっかけにします。
また、既卒も採用対象とし、新卒と2軸で採用活動を行う企業も増えています。
(2024年卒採用動向調査レポートより引用)
通年採用を実施する際には採用期間を広げるだけでなく、採用対象も広げることを検討してみてはいかがでしょうか。
通年採用にシフトする企業は今後も増え続ける
通年採用は、企業にとっても学生にとっても時間的・心理的な余裕が生まれ、より綿密で慎重な選考活動ができることが特徴です。新卒採用による人員補充がだんだん難しくなる今、通年採用にシフトする企業は今後も増え続けると考えられます。
学情は「20代通年採用」を掲げており、「新卒」+「既卒・第二新卒・キャリア層」の2軸での採用活動をご提案することが可能です。
記事でご紹介したダイレクトスカウト機能・AIスカウト機能が実際に使えたり、LINEを活用したコミュニケーションツール「あさがくナビコミュニケーター」などの通年採用に強みをもった機能もございますので、ぜひ一度ご相談ください。
株式会社学情 セールスマーケティング本部 マーケティング課
2019年立教大学観光学部卒、新卒・未経験からSEとしてキャリアをスタート。4年ほど働いたところで、プログラムを動かすコードより人間の心を動かす文章の方が書きたくなり、転職。2023年2月に株式会社学情に入社し、現在はオウンドメディア「人事の図書館」にてSEO対策記事の執筆・校正を担当、人事採用関連の記事を170本以上公開。自社メディア「20代の働き方研究所」でインタビュー記事も担当。