女性活躍推進法は、働きたい女性が十分に能力を発揮して働ける社会の実現を目指して制定された法律です。企業には女性の活躍推進に関する行動計画の策定や情報の公表が求められ、求められる取り組みの詳細は常用雇用する労働者の人数によって異なります。
本記事では、女性活躍推進法を詳しく知りたい人に向けて、法律の基本原則や企業に求められる取り組み、得られるメリットなどを詳しく紹介していきます。
企業が行動計画を策定する際の流れや留意点も解説するので、取り組みを行う際の参考にしてください。
女性活躍推進法とは
女性活躍推進法の正式名称は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」です。仕事で活躍したいと望むすべての女性が、個性や能力を十分に発揮できる社会の実現を目指して制定されました。
国や自治体、企業などの事業主に対して、女性の活躍状況を把握すること、課題分析や数値目標の設定、行動計画の策定や公表などが求められています。
女性活躍推進法は2025年までの時限立法であり、2016年4月に全面施行されました。2019年、2020年、2022年にはそれぞれ対象企業の拡大や情報公表の強化を目的に改正され、現在では常時雇用する労働者が101人以上の事業主に義務化されています。
なお、女性活躍に関する情報公開をしていない場合や虚偽の情報を公表したときの罰則はありませんが、公表しない企業に対し労働局から3段階(助言→指導→勧告)の指導が入る可能性があります。その3段階の指導を受けても、対応しない企業に対しては女性活躍推進法第6章39条の罰則である過料が科される可能性があります。
※出典元:「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(e-Gov法令検索)(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=427AC0000000064)
女性活躍推進法の基本原則
女性活躍推進法には、次の3つの基本原則があります。
- 積極的な採用・昇進等の機会の提供や職場慣行が及ぼす影響への配慮
- 仕事と家庭の両立に必要な環境の整備
- 仕事と家庭の両立に対する本人の意思の尊重
それぞれの内容を詳しく解説します。
※出典元:「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の概要」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000095826.pdf)
積極的な採用・昇進等の機会の提供や職場慣行が及ぼす影響への配慮
基本原則の1つ目は「女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用と、性別による固定的役割分担等を反映した職場慣行が及ぼす影響への配慮が行われること」とされています。
この基本原則では、企業に対して女性の採用や昇進・昇給などの機会を積極的に提供することが求められています。
また、「家庭を持つ女性には重要な職務を任せにくい」、「男性中心の企業風土がある」といったような、性別による固定的な役割分担を反映した職場慣行が及ぼす影響に対しても、配慮を行うこととしています。
仕事と家庭の両立に必要な環境の整備
基本原則の2つ目は、「職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること」です。
女性活躍推進法が成立した背景には、仕事を続けていきたいと考えている女性が、出産や育児など家庭の事情によってやむを得ず仕事を辞めなければならなくなる事態を改善する必要があるという課題がありました。
そのため、仕事を続けていきたいと考えているすべての女性が、仕事と家庭を円滑かつ継続的に両立できるよう、働きやすい環境の提供を持続することが事業主に求められています。
仕事と家庭の両立に対する本人の意思の尊重
基本原則の3つ目は、「女性の職業生活と家庭生活との両立に関して、本人の意思が尊重されること」です。
出産や育児などの家庭の事情によって、「本当は働き続けたいのに、退職せざるを得ない」といったような、本人の意思に反した離職を余儀なくされる事態が起こらないようにする必要があるでしょう。
そのため、企業は「働き続けたい」という意思を持った女性が、家庭と両立しながら仕事を続けられるような環境づくりをすることが求められます。
女性活躍推進法で企業が行うべき取り組み
企業が行うべき取り組みは、大きく分けて次の2つです。
- 行動計画の策定・公表・届出
- 女性の活躍に関する情報の公表
それぞれ詳しく見ていきましょう。
行動計画の策定・公表・届出
行動計画の策定・公表・届出は、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に義務付けられています。100人以下の事業主に対しても努力義務としており、おもな流れは次のとおりです。
- 自社の状況把握・課題分析
- 行動計画の策定
- 行動計画の周知・公表
- 行動計画を策定した旨を届出
- 行動計画の実施・効果の測定
それぞれの手順について詳しく解説します。
※出典元:「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000984248.pdf)
1.自社の状況把握・課題分析
自社の状況把握と課題の分析では、次の基礎項目を調査して分析します。
- 女性労働者の割合
- 平均継続勤務年数の男女差
- 各月ごとの平均残業時間
- 管理職の女性労働者の割合
このような基礎項目の数値が算出できたら、「雇用している女性社員は多いが正社員は少ない」、「女性を採用してもすぐに辞めてしまう」、「女性の管理職が少ない」といったように、社内の女性の状況についての課題を書き出してみましょう。
基礎項目のほかにも、男女別の採用時の競争倍率や配置状況など、必要に応じてより詳細に調査・分析をする選択項目もあります。
2.行動計画の策定
状況を把握し、見えてきた課題に対する対策を行動計画として策定します。行動計画はA4用紙1枚程度でも問題ありませんが、盛り込むべき必須項目が定められています。行動計画に盛り込むべき内容は次のとおりです。
- 計画期間
- 数値目標
- 取り組み内容
- 取り組みの実施時期
計画期間は、2025年度末までの期間内で2〜5年間に区切って定めます。数値目標は、常時雇用する労働者数により設定する数値目標の数が異なるため注意しましょう。
取り組み内容を策定する際は、男女雇用機会均等法に違反しない内容になっているかどうかの確認も必要です。行動計画を策定する際は、厚生労働省の詳しい資料を確認してから行いましょう。
3.行動計画の周知・公表
行動計画を策定したら、社内外に周知します。社内では、次のような方法で周知するとよいでしょう。
- 社内報や社内ネットワークへの掲載
- 休憩室や掲示板などへの掲示
- 書面での交付
- 電子メールの送付
周知する際は、非正規雇用を含めた「すべての労働者」へ周知することが大切です。従業員が利用する休憩室や日ごろから従業員の目につきやすい場所に掲示するとよいでしょう。書面で周知する場合は、従業員が手に取りやすい場所に書面を設置します。
社外に向けた周知では、次のような方法があります。
- 「⼥性の活躍推進企業データベース」への掲載
- 自社サイトへの掲載
厚生労働省が運営している「女性の活躍推進企業データベース」には、公表データ入力用のフォーマットも用意されています。更新時期を知らせてくれる便利な機能もあるため、利用してみるとよいでしょう。自社ホームページで公表することも効果的です。
4.行動計画を策定した旨を届出
行動計画を策定したら、管轄の都道府県労働局へ届け出ましょう。届出の方法は、電子申請や郵送、または持参です。
届出の様式は「様式第1号 一般事業主行動計画策定・変更届」となっており、厚生労働省の「女性活躍推進法特集ページ」または都道府県労働局のホームページよりダウンロード可能です。
厚生労働省の特集ページには詳しい記入例も記載されているため、よく読んで作成しましょう。なお、必要項目が網羅されていれば、所定の様式以外で提出しても有効とされます。
5.行動計画の実施・効果の測定
行動計画策定届を提出したら、行動計画を実施しましょう。行動計画の実施状況を定期的に点検し結果をその後の行動計画に反映させ、PDCAサイクルを確立させましょう。
行動計画を変更する場合は、初回の行動計画策定届と同様に「様式第1号 一般事業主行動計画策定・変更届」をダウンロードして作成しましょう。
管轄の都道府県労働局に提出したあとは、行動計画を変更した旨を社内外へ周知・公表します。
女性の活躍に関する情報の公表
企業が公表すべき女性の活躍に関する情報は、次の2つに分けられます。
1.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
2.仕事と家庭との両立のための雇用環境の整備
それぞれの公表項目の詳細は次のとおりです。
1.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供 |
・採用した労働者に占める女性労働者の割合 ・男女別の採用における競争倍率 ・労働者に占める女性労働者の割合 ・係⾧級にある者に占める女性労働者の割合 ・管理職に占める女性労働者の割合 ・役員に占める女性の割合 ・男女別の職種又は雇用形態の転換実績 ・男女別の再雇用又は中途採用の実績 ・男女の賃金の差異 |
2.仕事と家庭との両立のための雇用環境の整備 |
・男女の平均継続勤務年数の差異 ・10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合 ・男女別の育児休業取得率 ・労働者の1カ月当たりの平均残業時間 ・雇用管理区分ごとの労働者の1カ月当たりの平均残業時間 ・有給休暇取得率 ・雇用管理区分ごとの有給休暇取得率 |
ただし、上記すべての項目の公表義務があるわけではありません。企業の常時雇用する労働者数によって、公表が求められる情報の項目や数が異なります。常時雇用労働者とは、パート、契約社員、アルバイトなどの名称に関わらず、「期間を定めず雇用されている者」・「一定の期間を定めて雇用されている者」であり、「過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者」または「雇入れのときから1年以上引き続き雇用されると見込まれる者」も含みます。自社に求められる項目や数を確認し、必要な情報を公表しましょう。
※出典元:「主な用語の定義 」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/jittai/13/dl/yougo.pdf)
常時雇用する労働者が301人以上の事業主の場合
常時雇用する労働者が301人を超える事業主は、「1.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」から男女の賃金の差異を含めた2項目以上の公表が求められています。
加えて、「2.仕事と家庭との両立のための雇用環境の整備」からは1項目以上を選択し、合計3項目以上の情報を公表することが必要です。
常時雇用する労働者が101人以上の事業主の場合
常時雇用する労働者が101人から300人以下の事業主は、「1.女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」および「2.仕事と家庭との両立のための雇用環境の整備」から1項目以上の情報を公表することが求められています。
また、公表義務のある情報に加えて、女性の活躍を推進する社内での取り組みを公表している企業もあります。
常時雇用する労働者が100人以下の事業主の場合
常時雇用する労働者が100人以下である場合、情報の公表は必ずしも必要なわけではなく、「努力義務」とされています。
※出典元:「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000984248.pdf)
女性活躍推進法の取り組みによる企業のメリット
女性活躍推進法の取り組みによって企業が得られるメリットは次のとおりです。
- 労働力不足の回避
- 従業員の満足度・モチベーションアップ
- 企業イメージの向上
それぞれのメリットを詳しく見ていきましょう。
労働力不足の回避
出生率の低下や少子高齢化が進む現在の日本社会では、働き手の数が不足し、今後ますます労働力不足となることが懸念されています。企業は労働力不足に備えて、優秀な人材を確保しなければなりません。
そこで女性活躍推進法の取り組みによって、女性が出産・育児などで離職することを防げれば、労働者不足を回避できます。家庭と仕事を両立して働きやすい環境があれば離職せずに長く働けるため、離職率が低下し定着率も向上します。加えて、優秀な人材や業務に慣れている即戦力が継続して働いてくれることになるため、生産性の低下を防ぐことにもつながるでしょう。
また、従業員定着率の高い職場は「働きやすいのだろう」と求職者からも好意的に評価され、優秀な人材確保につながる可能性もあります。
従業員の満足度・モチベーションアップ
女性も男性も対等にキャリアアップできる環境を整えることで、従業員の満足度やモチベーションアップにもつながります。多様な人材がそれぞれの能力を発揮して活躍するダイバーシティ経営の足掛かりにもなるでしょう。
また、働きやすい職場環境づくりの姿勢が従業員に評価されれば、従業員のエンゲージメントも向上します。自社への愛着心や貢献意欲を持った人材が定着すれば、企業の成長・発展にもつながるでしょう。
企業イメージの向上
女性が活躍している会社は、ダイバーシティを推進している企業イメージとなり、国内外から評価されやすい傾向があります。
厚生労働省が優良企業を認定する「えるぼし認定」・「プラチナえるぼし認定」を活用すれば、認知度をさらにアップさせられるでしょう。
女性の活躍が進んでいる企業としてイメージが向上すれば、採用においても優秀な人材の確保につながる可能性があります。
えるぼし・プラチナえるぼし認定とは
女性の活躍に関する行動計画の策定・届出を行った企業のうち、評価基準を満たす企業が受けられる認定制度です。厚生労働大臣によって女性の活躍に関する取り組みが優良な企業であると認められた場合に認定されます。
認定の申請は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)で受け付けています。認定を受けた企業は、厚生労働大臣が定める認定マークを企業紹介や商品・サービスに付けることができます。
認定マークを活用すれば、女性が活躍する企業としてのイメージアップや認知度向上が期待できるでしょう。
女性活躍推進法の改正に注意
女性活躍推進法は、2016年に10年間限定の時限立法として施行されて以来、これまでに数回改正されています。
そのたびに対象企業の拡大や情報公表の項目などを強化し、2022年4月からはこれまで「努力義務」とされていた常時雇用する労働者が101人以上の企業にも義務付けられることとなりました。
企業を取り巻く環境や社会情勢は常に変化しているため、今後も法改正が行われる可能性があります。2025年度末までは法改正に留意しながら、最新の女性活躍推進法に基づいた取り組みを実施していきましょう。
女性の活躍を推進し、誰もがいきいきと働ける社会を目指そう
女性活躍推進法は、女性が能力や個性を発揮して活躍できる場を充実させ、仕事と家庭が両立できる環境づくりを求めた法律です。企業が積極的に取り組めば、優秀な人材の確保や従業員の定着率・モチベーションの向上など、さまざまなメリットがあるでしょう。
女性活躍推進法で企業がすべきことは、自社の女性活躍に関する行動計画を策定し、労働局へ提出することです。行動計画は企業内外へ公表・周知し、計画を実施した際の実績情報の公表も行います。
女性の活躍をはじめとして、多様性のある人材が活躍できるダイバーシティを推進し、誰もがいきいきと働ける社会を目指しましょう。
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