近年、時代の変化に伴い、キャリアデザインが注目を集めています。キャリアデザインは個々が主体となって考えるものである一方で、企業にも大きく影響します。
本記事では、キャリアデザインのメリットと気を付けたい注意点、流れについて解説します。企業ができる取り組みについても具体的にご紹介するので是非参考にしてみてください。
キャリアデザインとは
キャリアデザインとは、仕事だけでなくプライベートも含めて自分自身が将来どうなっていたいかを明確にし、その実現に向けて人生設計をすることです。
今働いている企業での昇進や昇給などのキャリアアップのみを目的とするのではなく、企業にとらわれず自らが主体となって考えることが重視されます。
キャリアデザインが注目された理由と、混同されやすい用語との違いについて紹介します。
キャリアデザインが注目される理由
キャリアデザインが注目される理由は、時代の変化によってキャリアを他人任せにできなくなってきたからです。
現代はVUCAの時代です。VUCA(ブーカ)とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)のそれぞれの頭文字を取った言葉で、先行きが不透明で変化の激しい現代を表します。
急激なテクノロジーの進化や新型コロナウイルスの流行などの想定外の出来事によって、先を見通すことが困難になりました。
ビジネスにおいても将来の予測が難しくなっており、これまでは安泰とされていた大企業であっても倒産のリスクを完全には避けられません。
働き手にとっても、今までは入社した企業で定年まで勤め上げることが一般的でしたが、時代の変化に伴い転職があたりまえの意識に変わりつつあります。自身のキャリアを過度に企業に委ねるのではなく、働き手自身が主体的・自立的にキャリアを考えることへの意識が高まっているのです。
そのため、企業は社員一人ひとりのキャリアデザインを理解し、それに応じた働き方を提案することが求められます。
キャリア形成・キャリアパス・キャリアプランとの違い
キャリアデザインと混同されやすい言葉のうち、5つの例を紹介します。
- 「キャリア形成」
- 「キャリアパス」
- 「キャリアプラン」
- 「キャリアアップ」
- 「キャリア・アンカー」
違いを詳しく見ていきましょう。
キャリア形成
キャリア形成とは、自分が進むべき人生やキャリアを計画し、そのために必要な経験やスキルなどの能力を習得することをいいます。
一方で、キャリアデザインはキャリア形成のために人生設計やキャリア設計をすることを指します。
キャリアパス
キャリアパスとは、「キャリア=職歴」と「パス=道筋」を組み合わせた言葉で、一つの企業のなかで従業員が目標とする役職に就くために必要な経験やステップなどの道筋を指します。
キャリアパスは一つの企業で働き続けることを前提としていますが、キャリアデザインはキャリアを形成するための転職や独立も視野に入れて考えます。
キャリアプラン
キャリアプランとは、自分が今後どのようなキャリアを積みたいかという計画のことをいいます。
仕事だけでなくプライベートも含めて将来設計をするキャリアデザインと異なり、キャリアプランはプライベートについては含めません。
キャリアアップ
「キャリアアップ」とは、知識や経験、スキルを身に付け、役職や経歴を高めることです。具体的には、営業経験を積んで営業部長に昇進する、アルバイトから正社員になるなどがあげられ、仕事の幅や裁量が広がり、任される役割も大きくなります。
引用:「企業がキャリアパス制度を設ける必要性とは?メリットや導入手順を紹介」(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/soshiki/00085/)「キャリアアップとの違い」
キャリア・アンカー
キャリア・アンカー(Carrer anchor)は、仕事をする上でこれだけは譲れないというような価値観や欲求のことを表します。
「anchor」とは「船の錨(いかり)」を意味しています。自分を船に、人生を航海に例えた場合、錨(キャリア・アンカー)がしっかりと海底に下りていると船は安定してとどまることができます。このように、キャリア・アンカーは、人生において自分の働き方の軸となるのです。
キャリアデザインの具体的な流れ
企業がキャリアデザインの進め方を把握することは社員の支援につながります。キャリアデザインの具体的な手順を、ステップに分けてみていきましょう。
なりたい自分を描く
まずは、自身の理想とする将来のビジョンを設定します。理想的なワークスタイルや家族構成、休日の過ごし方などを考慮しましょう。
しかし、なりたい自分を簡単に思い描けない場合もあります。その場合は、今の仕事や学業の何が楽しいのか、自分の趣味や好きなこと、他人から褒めてもらえてうれしかったことなどを思い出すとよいでしょう。
反対に、苦手な業務や嫌いなこと、よく注意されることも洗い出してみてください。
なぜそれらを好きなのか/苦手なのかを自分に問うことで、なりたい自分をイメージするきっかけを作れます。
現状を把握する
次に、今の自分を分析します。なりたい自分とのギャップを理解しましょう。
重要なのは他人からみた自分を把握することです。就職活動などで行なう自己分析や性格診断、適性検査などを活用して、自分の強みや弱みを客観的に見つめなおしましょう。
課題を分析して必要な行動をとる
最後に、なりたい自分と今の自分のギャップを埋めるために何が必要かを考え、目標をたてて実行します。あまりに高すぎる目標は、達成できず途中でくじけてしまう可能性もあるため、KPIを設定して段階的に目標を立てるとよいでしょう。
KPIとは、目標を達成するまでの中間的な指標です。特定の目標に対してどれだけ効果的に進捗しているかを示す指標として使われます。KPIと混同しやすい言葉に「KGI」があります。KGIの達成に向けた指標がKPIという関係です。
※引用:「採用活動におけるKPIとは?KGIとの違いや活用するメリット、設定手順を解説」(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/saiyo/00067/)
筆者の友人の経験から、キャリアデザインにおけるKPI設定の成功事例をご紹介します。
筆者の友人は、経理部志望で就職しました。内定時には経理部への配属がかなうかわかりませんでしたが、その可能性を高めるために、入社前に簿記2級の資格をとりました。そして、入社後、人事部に希望部署を伝える際に資格をアピールすることで経理部配属の希望をかなえたのです。
経理部で働くという大きな目標(KGI)を達成するために簿記2級合格というKPIを設定し、成功した事例といえるでしょう。
企業にとってのキャリアデザインのメリット
社員が真摯にキャリアデザインに向き合うと、企業に多くのメリットをもたらします。それぞれのメリットについて詳しく見てみましょう。
早期離職の防止
企業が社員のキャリアデザインを把握することで、社員が目指しているものと現状とのギャップにいち早く気付いて対応できます。
例えば、マーケティング職を志望する新入社員が営業職に配属された場合、その社員は自身のキャリアデザインが実現できるのか、不安を感じているかもしれません。
しかし、企業がその社員のキャリアデザインを認識していれば、将来マーケティング職として活躍するためには現場でお客様のニーズを知り、経験を身につける営業職が大切だと説得できるかもしれません。
企業にとって、社員の早期離職の可能性を下げられる点でメリットといえます。
人材力強化
経済のグローバル化が進み、国内外問わず企業間で激しい競争が起きています。競争に勝つために、企業は経験やスキルなど社員の能力を高めていく必要があります。
社員がキャリアデザインの実現のために行動することは、社員自身だけでなく、働いている企業の成長にもつながります。企業は積極的に社員のキャリアデザインを支援し、人材力を強化しましょう。
社員の論理的思考力の強化
キャリアデザインはその特性上、自然とPDCAを回すことになります。
具体的には、
Plan:キャリアデザインをする
Do:理想的な結果に向けていろいろな方法を試す
Chech:定期的に進捗を確認するとともに行動の結果を検討する
Action:最後に、効果の低い方法を改善しながら次の計画に生かす
の手順です。
このように、社員はキャリアデザインを通して論理的思考力を身につけられます。企業にとっても戦力となるでしょう。
企業にとってのキャリアデザインのデメリット
キャリアデザインは企業にとって多くのメリットがある一方で、デメリットも存在します。リスクと注意点をご紹介するので参考にしてみてください。
転職を後押ししてしまう
社員がキャリアデザインをした際、理想との間に大きな乖離を感じてしまうと、転職のきっかけになる場合もあります。
人材の流出を防止するには、企業側が社員一人ひとりのキャリアデザインを理解したうえで、現状とのギャップを埋める取り組みが重要です。
例えば、部署異動の希望を社員が申請できる制度も転職を防止する手段の一つです。
企業にとっては、社員のキャリアアップや人材の最適な配置、職場環境の活性化が実現できるので、導入を検討してみると良いでしょう。
昇進や昇給が目的化してしまう
企業が社員のキャリアデザインを主導してしまうと、会社のニーズに合わせた人材が育ち、個人のキャリアデザインではなく昇進や昇給が重視される恐れがあります。
社員の主体的なキャリアデザインを促すために、あくまで個々の人生観やビジョンに基づくものであり、人材育成とは異なる点を伝えましょう。
企業ができるキャリアデザインの支援方法
次に、キャリアデザインの具体的な支援方法についてご紹介します。企業として様々な支援方法を準備することで、社員はキャリアデザインを設計しやすくなります。
キャリアデザイン研修
キャリアデザイン研修では、主にキャリアデザインの進め方やコツなどをレクチャーします。
社員が過去の経験を振り返って自己理解を深め、長期目標から短期目標を立てる方法などを学びます。ほかにも、目標を達成するためのコミュニケーションスキルを鍛えたり、時間内で実際にキャリアデザインを行い、フィードバックを実施したりする研修もあるようです。
キャリアデザイン研修は社員の人生の節目に行なうケースがよくあります。若手社員だけでなく、中堅社員や役職を持った社員も対象になります。世代に応じて研修の内容を変えるとよいでしょう。
キャリア面談
キャリア面談では、社員が自身のキャリアの展望、または、現在不安に感じていることなどを上司と話し合います。
キャリアデザイン研修が集団を対象にしたものであるのに対し、キャリア面談は個人が対象です。
ジョブ型採用
ジョブ型採用とは、必要な職務内容に適したスキルや経験を持つ人材を採用する方法です。
株式会社学情が20代の転職希望者に行なったアンケート調査では、「転職・就職で実現したいことは何ですか?」という質問に対して「希望する仕事に従事できること」と答えた割合は、職歴3年以上で36.3%、職歴3年未満で44.5%、職歴なしで46.8%でした。ジョブ型採用は雇用条件が明確であるため、学生や求職者の理想とのギャップを小さくすることができます。
ジョブ型採用を導入し、採用後のミスマッチを防ぎましょう。
※出典:転職意識調査レポート2023 -20代・若手人材の「転職観」を紐解く(https://service.gakujo.ne.jp/jinji-library/report/tenshoku-ishiki-report2309/)
キャリアの選択肢を広げる人事制度
社員のキャリアデザインを後押しする人事制度の導入も、企業ができる支援の一つです。
株式会社学情の事例では、社員に長く働き続けてもらうための支援制度として、東京で働きたい社員を対象に3年限定で本社勤務に挑戦できる「Tokyo 3years Challenge!」や、自身の生活をより充実させるために原則定時での退社のほか一部業務が免除される「スマートキャリア制度」などを設けています。
そのほか、フレックスタイム制なども個別の事情に合わせて柔軟な働き方ができ、時間を有効活用できるため、ワーク・ライフ・バランスを実現できる人事制度の一つです。
まとめ
キャリアデザインは、個人にとってのメリットはもちろん、企業としてもメリットが多くあることをご紹介しました。よりよい企業づくりのためには、既存社員のキャリアデザインを後押しするほか、自身の将来を真剣に考えている人材へのアプローチも重要です。
採用にお悩みの方はぜひご相談ください。
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