内定者フォローは、企業が確実な人材確保のために内定者に対して行う施策です。
入社辞退や早期退職に悩む企業では、内定者フォローの必要性を感じる人事担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、内定者フォローを詳しく解説し、実施する際のポイントを紹介します。さらに、具体的事例や注意点も説明するので、自社で取り組む際にぜひ参考にしてください。
内定者フォローとは
内定者フォローとは、企業が採用選考プロセスにおいて、内定者に対して行うさまざまなサポートです。具体的には、懇親会や面談、内定者研修などを開催して、上司や先輩社員、内定者同士の交流を促進し、入社に向けての情報提供を行います。
内定者のなかには「新しい職場環境に適応できるか」「業務を十分にこなせるか」といった不安や悩みを抱えるケースも珍しくありません。
内定者フォローは、内定者が抱える不安や疑問を解消し、自社に対する理解を深める施策です。新しい職場や仕事に対する信頼感、仲間との一体感を生み、入社に向けてスムーズに準備ができるようにサポートします。
内定者フォローの目的
内定者フォローのおもな目的は、内定辞退と早期離職の防止です。それぞれ解説します。
内定辞退の防止
内定者フォローの目的の一つは、内定辞退の防止です。内定者に自社の魅力を適切に伝え、期待と希望をもって入社できるようにサポートします。
あさがくナビの「2024年卒 内々定率調査(2023年8月度)」によると、2023年7月末段階の内々定率は86.1%、一人当たりの内定(内々定)獲得平均社数は2.8社と学生優位の状況がうかがえます。
また、新卒採用は、内定を出してから入社まで半年以上の期間があり、実際に入社するまでのあいだに内定者の気持ちが変化してしまうケースも考えられます。
このように競争の激しい市場で優秀な人材を確保し、自社に入社するよう導くには、きめ細かなサポートが欠かせません。
内定辞退率を下げる方法は、こちらの記事でもくわしく解説しています。あわせてご覧ください。
早期離職の防止
内定者フォローを通じて定期的な連絡で内定者との接点を保ち、入社へのモチベーションを高めておくことは、早期離職の防止にもつながります。
厚生労働省の発表によると、2019年3月に大学を卒業した就職者のうち、3年以内に離職した人は31.5%と、約3人に一人が早期に離職している状況です。
仕事を辞める理由の大部分は、「実務の理解不足」や「上司や先輩、同僚との関係構築の不十分さ」によるものです。
内定者フォローを通じて、新しい環境や仕事、人間関係に適応できるようなサポートをすれば、モチベーション低下による離職を防止できます。
内定者フォローの実施でおさえるべきポイント
内定者フォローでは、内定者の不安や疑問を解消し、入社へのモチベーションをアップさせる必要があります。次のポイントをおさえましょう。
定期的に連絡をとる
内定者とのつながりを維持するために、連絡はこまめにとりましょう。新卒採用では、内定を出してから入社まで半年以上の期間があるため、内定者の気持ちが変化してしまうケースがあります。
企業から定期的に連絡することで、内定者に安心感を与えられます。長期間連絡しないと、内定者がほかの企業に魅力を感じて入社意欲を失うリスクもあるため、期間を空けず、連絡しておきましょう。
社内交流の機会を設ける
内定者懇親会は内定者同士が入社前につながりをもてる貴重な機会です。心配や疑問を懇親会で共有すれば、実際に入社への準備もスムーズに進められます。
社内交流では、先輩社員とコミュニケーションをとる機会を設けましょう。過去に内定を受けた経験のある先輩社員との交流により、内定者の不安や疑問を引き出し、解決に導ける可能性があります。
その際、先輩社員が1日の仕事の流れや仕事とプライベートの両立のコツなどを伝えれば、内定者は自分が入社後どのような日常を過ごすかを具体的にイメージしやすくなります。会社説明会では伝えきれないリアルな情報やアドバイスを得ることで、内定者はより期待や希望をもって入社に臨めるでしょう。
さらに、内定者同士が交流できる機会を設けるのも効果的です。内定者同士で志望動機や入社後の意気込みなどを共有することで、企業の新たな魅力を再発見でき、働くモチベーションを上げることができるでしょう。
企業情報を積極的に提供する
内定者に対しては企業情報も積極的に提供しましょう。入社前の情報提供により、内定者の不安を払拭するだけでなく、内定者を歓迎している意図も伝えられます。
公開する企業情報には、将来の社内組織の構成や新たに進出予定の事業など、社外の人には知られていない内容を含めることが大切です。情報を得た内定者は、自分が会社の一員として認められていると感じるでしょう。
会社の今後の方向性を理解して、より深く興味を持ち、社員として連帯感を高めることにつながります。
内定者フォローの事例
企業では具体的にどのような施策を実施しているのか、内定者フォローの事例をいくつか紹介します。
チューターやメンターと面談
概要 |
チューターやメンターと内定者がマンツーマンで面談する |
具体的な目的 |
内定者の状況を把握し、不安や悩みの相談に応じる
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チューターは、業務内容に関する相談に答える人です。チューターとの面談では、実務で必要な知識やスキルを身につけるためのアドバイスを提供します。
メンターは新入社員や若手社員に精神面でのサポートをする人を指します。仕事のトラブル解決や、キャリア構築方法、プライベートとの調和など多岐にわたる相談が可能です。また、企業によっては、チューターとメンターの機能をあわせて「リクルーター」と呼ぶケースがあります。
通常、チューターやメンターは先輩社員が担当します。ただし、メンターへの相談はプライベートな悩みも含まれるため、直属の上司や先輩になる人材以外から選定するのが一般的です。
内定者面談
概要 |
経営陣や採用担当者が内定者と面談をする |
具体的な目的 |
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内定者面談は、対面またはオンラインで行います。内定者の本音を引き出すには個別面談がおすすめです。
面談で悩みや不安を聞いたら、細心の注意を払ってサポートしましょう。会社の現状を正確に伝え、真摯に向き合う姿勢を示すことで、内定者の安心感や信頼感につながります。
こちらの記事では、内定者面談の目的や手順をくわしく説明しています。内定者に聞くべき質問例や内定者からの想定質問、成功のポイントなどを知りたい方は、ぜひご覧ください。
内定者懇親会
概要 |
内定者同士や先輩社員とともに、食事会やグループワーク、クイズやゲームなどを行う |
具体的な目的 |
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内定者懇談会は、内定者同士や先輩社員とのつながりを作り、入社後の人間関係を円滑にするための場です。
内定者がリラックスして参加できることが大切なので、堅苦しさを排除し、楽しいグループワークやクイズ、ゲームなどを導入するのがおすすめです。
また、食事をともにするのも内定者のリラックスを促して、短時間で人間関係を築くのに効果的です。自然に自由な会話が生まれやすく、コミュニケーションが円滑に進みます。
座談会
概要 |
上司や先輩社員と内定者が決められたテーマで話し合い、交流する |
具体的な目的 |
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座談会は、内定者と上司や先輩社員がリラックスした雰囲気で、率直な意見を交わす場です。話しやすいテーマを選び、参加者の発言を促すファシリテーター(進行役)を配置することでスムーズに進められます。
ポイントは、議論が活発になるように促し、目標に向かって進めるように配慮することです。また、内定者全員が平等に発言できる場を設けます。
内定者研修
概要 |
内定者が、社会人としての心得やビジネスマナー、業務に関する知識を習得する |
具体的な目的 |
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内定者研修は、社会人として歩み始める内定者を支援するためのプログラムです。入社後の負担を減らし、早期に能力を発揮できるようになります。
多くの企業は、内定者のビジネスマナーやチームワーク、コミュニケーション能力の向上を目的として「内定者ロープレ(ロールプレイング)」を開催しています。内定者の実務に近い状況を模倣したロールプレイング形式の研修のことです。たとえば、顧客との商談シーンや上司・部下とのコミュニケーションシーンなどを想定して行われます。複数の内定者でチームを組み、あるテーマや課題について議論やプレゼンテーションを行うケースもあります。
他にも、Webを活用したeラーニングを採用する企業もありますが、内定者が受け身になりがちで、モチベーション管理が課題となるケースがあります。そのため、課題やレポートの提出によって評価やフィードバックを受けられる仕組みを導入し、内定者自身が自分の成果を確認できるようにすることが大切となります。
SNSツール・Webサイト
内定者フォローには、SNSツールやWebサイトを活用する方法もあります。
SNSツールを活用することで、内定者とより近い距離でコミュニケーションを取ることができます。また、自社に関するニュースやイベント情報なども気軽に共有できるでしょう。さらにSNSツールは、メールよりも内定者の返信率が高いという利点もあります。
Webサイトでは、入社に関する情報や資料の提供、内定者が回答したアンケート結果の共有、社内の先輩社員の紹介などさまざまな情報を提供できます。
これらの情報を踏まえて、自社に合う手段をぜひ試してみてください。最初は試験的に導入しながら、継続的に効果検証を図りながら実践してみるのも一つの手です。
内定者フォローの注意点
内定者フォローをする際は、次の点に注意しましょう。
内定者研修には給与が発生するケースもある
内定者研修が業務上必要な知識や技能を修得するためのもので、強制力や拘束力がある場合は、給与の支払いが必要になる点に注意しましょう。
企業が直接または間接的に義務づけた研修は、使用者の指揮命令下で行われるため、労働基準法で労働時間とみなされます。たとえ、参加が任意であっても、不参加が内定者に不利益をもたらす場合、事実上強制されたとみなされることがあります。
給与は、地域の最低賃金を基準に計算できますが、内定者が不満を抱かないよう注意が必要です。
あらかじめ求人情報に研修内容や拘束時間、報酬を明示しておくことで、トラブルを未然に防げるでしょう。
他社や他業界を下げるような内容は逆効果
内定者の入社意欲を高めるために、他社や他業界の評価を下げるような情報発信をすると、自社の印象が悪くなる場合があるので注意しましょう。
このような行動は内定者の入社意欲を削ぐだけでなく、自社のイメージダウンにもつながりかねません。他社への不誠実な態度やネガティブな発言は避けましょう。
座談会に出席する社員は慎重に選出する
内定者とコミュニケーションをとる場に出席する社員は、内定者にとって自社の社員全体への印象を左右する存在になるため、選出は慎重に行うべきです。
極端に愛想がなかったり、高圧的な態度を示したりする社員を選んでしまうと、内定者の自社への印象を損ね、入社意欲を低下させる可能性があります。参加する社員には状況を詳しく説明し、目的を理解した上で参加してもらうことが大切です。
内定者の負担にならないよう配慮する
内定者フォローが内定者の負担にならないように注意しましょう。
頻繁にイベントを開催すると「入社後も過度な残業があるのでは?」「強制参加のイベントが多く、付き合いが大変なのでは?」と不安感を与えてしまう可能性があります。
特に卒業が迫っている大学生は卒論や研究発表との兼ね合いがあるため、企業側は内定者のスケジュールに柔軟な対応をする配慮が必要です。
内定者フォローは適切に実施し内定辞退や早期退職を防ごう
内定者フォローは、内定辞退と早期離職の防止を目的に行います。
懇親会や面談、内定者研修などを通じて内定者の悩みや不安を解消するとともに、自社への理解を深めてもらい、入社に向けてスムーズに準備を進められるよう手助けします。
優秀な人材を自社に導くためにも、適切かつ効果的に内定者フォローを実施しましょう。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。