企業の人事担当者であれば、自社の平均離職率を課題にして採用戦略を立てる機会があるでしょう。従業員の離職は企業に大きな損失をもたらす可能性があるため、企業は離職率をおさえ、優秀な人材を定着させることが求められています。
そこで今回は、離職率の定義と計算方法について解説し、日本企業の平均離職率や離職のおもな理由を紹介します。記事の後半では、平均離職率の高さが企業に与える影響や、従業員の離職を防ぐための対策も解説します。
本記事を通じて、離職率の定義と従業員の離職を防ぐ方法を理解し、自社の採用戦略に活かしていただければ幸いです。
離職率とは?
企業内で離職する従業員の割合を示す指標です。転職サイトや四季報などに掲載され、求職者が企業を研究する際の参考情報にもなります。
離職率は、企業の働きやすさや従業員の満足度を示す側面があります。もし離職率が上昇している場合は、原因を調査し対策を講じて、離職率の低下を図ります。
働きやすい環境をつくり、離職率を低く保つことができれば、優秀な従業員の流出や人材不足による業績の低下などを防ぐことが可能です。
離職率の計算方法
離職率とは、組織内の従業員が一定期間にどれだけ離職したかを示す指標のことです。しかし計算方法に明確な決まりはありません。また、調査期間や対象者も企業によって異なります。
ここでは厚生労働省が実施している「雇用動向調査」を基に、離職率の計算方法を説明します。計算式は次のとおりです。
- 離職率(%) = 離職者数÷1月1日現在の常用労働者数×100
また、離職者と常用労働者について、厚生労働省での定義は次のとおりです。
- 離職者:常用労働者のうち、調査対象期間中に事業所を退職したり、解雇された者をいい、他企業への出向者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所への転出者を除く
- 常用労働者:「期間を定めずに雇われている者」「1カ月以上の期間を定めて雇われている者」のいずれかに該当する労働者
たとえば、常用労働者数が100名の企業で、1月1日から1年間に5名が離職した場合、この計算式に当てはめると5÷100×100=5となり、離職率は5%になります。
このように離職率は、1月1日からの1年間を対象に算出するのが一般的ですが、企業によっては異なる日付を起算日とする場合があります。
また、離職した対象者を退職と解雇のみとするケースや、一時的な離脱や休職も含めるケースなど企業によってさまざまなのが現状です。
【2021年】日本企業の平均離職率は13.9%
日本企業の平均離職率を過去3年間と過去10年間で確認しましょう。また、新入社員の離職率や産業別の離職率も紹介します。
過去3年の平均離職率
厚生労働省が発表した雇用動向調査結果によると、過去3年の平均離職率は次の表のとおりです。
年度 |
離職率 |
2021年 |
13.9% |
2020年 |
14.2% |
2019年 |
15.6% |
過去10年の離職率の推移
2012年から2021年までの離職率と入職率の推移を見てみましょう。
※画像引用:「令和3年雇用動向調査結果の概要(入職と離職の推移 )」(厚生労働省)
過去10年を見ても、離職率はおよそ15%となっています。
2013年以降は、離職率が入職率を下回る状態が継続しています。2020年のみ離職率が入職率を上回ったのは、感染症の拡大が雇用状況に影響を与えた可能性が考えられます。
新入社員の離職率は3年で約3割
厚生労働省が発表した資料によると、2018年の就職後3年以内の離職率は、新規高卒就職者が36.9%、新規大卒就職者が31.2%です。
※画像引用:「学歴別就職後3年以内離職率の推移」(厚生労働省)
2018年より過去10年間における3年以内の離職率は、高校卒は約35%~40%、大学卒は約28%~33%で推移しています。急激な上昇や下降はみられず、約3割の状態が継続しています。
産業別の離職率
ここでは産業別の離職率を見ていきましょう。厚生労働省の発表した資料によると、2021年の産業別の入職率、離職率、入職超過率は次の表のとおりです。
区分 |
入職率(%) |
離職率(%) |
入職超過率(ポイント) |
宿泊業・飲食サービス業 |
23.8 |
25.6 |
-1.8 |
生活関連サービス業・娯楽業 |
28.6 |
22.3 |
6.3 |
サービス業(他に分類されないもの) |
18.5 |
18.7 |
-0.2 |
教育・学習支援業 |
17.9 |
15.4 |
2.5 |
医療・福祉 |
14.4 |
13.5 |
0.9 |
卸売業・小売業 |
12.0 |
12.3 |
-0.3 |
学術研究・専門・技術サービス業 |
14.2 |
11.9 |
2.3 |
運輸業・郵便業 |
11.5 |
11.5 |
0.0 |
不動産業・物品賃貸業 |
11.0 |
11.4 |
-0.4 |
鉱業・採石業・砂利採取業 |
10.0 |
10.0 |
0.0 |
製造業 |
8.2 |
9.7 |
-1.5 |
金融業・保険業 |
6.2 |
9.3 |
-3.1 |
建設業 |
9.7 |
9.3 |
0.4 |
情報通信業 |
11.5 |
9.1 |
2.4 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
8.2 |
8.7 |
-0.5 |
複合サービス事業 |
6.6 |
8.1 |
-1.5 |
離職率の高い産業のトップ5は、次のとおりです。
- 1位 宿泊業・飲食サービス業:25.6%
- 2位 生活関連サービス業・娯楽業:22.3%
- 3位 サービス業(他に分類されないもの):18.7%
- 4位 教育・学習支援業:15.4%
- 5位 医療・福祉:13.5%
アルバイトやパートの雇用が多い産業は、人員の入れ替わりが激しい傾向があり、離職率が高くなります。
【男女別】離職のおもな理由TOP5
厚生労働省の発表した資料をもとに、離職のおもな理由TOP5を男女別に見ていきましょう。
男性・女性とも、「定年・契約期間の満了」による離職が上位にあり、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」や「労働時間・休日等の労働条件が悪かった」が続きます。
男性の離職理由ランキングTOP5
厚生労働省の発表した資料によると、男性の離職理由の上位5つは次のとおりです。
- その他の個人的理由:19.1%
- 定年・契約期間の満了:16.5%
- その他の理由(出向等を含む):15.0%
- 職場の人間関係が好ましくなかった:8.1%
- 労働時間・休日等の労働条件が悪かった:8.0%
女性の離職理由ランキングTOP5
女性の離職理由の上位5つは次のとおりです。
- その他の個人的理由:24.6%
- 定年・契約期間の満了:12.3%
- 労働時間・休日等の労働条件が悪かった:10.1%
- 職場の人間関係が好ましくなかった:9.6%
- その他の理由(出向等を含む):8.0%
平均離職率の高さが企業に与える影響
離職率が上昇すると、新たな人材を探す必要があり、選考プロセスを進めるためのコストが増加する可能性があります。また、離職した人の仕事をほかの従業員がカバーする必要があり、残された従業員に負担がかかります。
採用コストの増加
離職率が高まると、企業は新たな人材を採用しなければなりません。
採用活動には、求人広告への掲載や採用イベントの開催、面接の実施など採用担当者の時間と労力が必要となります。
さらに採用した後も、新しく入社した従業員が職務に慣れて活躍するようになるまでには、研修やプログラムを実施する必要があり、一定の時間やコストがかかります。
採用コストに関する基礎知識や、新卒・中途採用別の採用コストの傾向、採用コストを削減する方法についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
従業員の負担増加
離職者が出ると、そのほかの従業員で退職者が担っていた分の仕事をカバーしなければなりません。一度に複数人が離職したり、頻繁に離職者が出たりすると、ほかの従業員の負担もその分大きくなります。
さらに離職者が増加すると、新たに人材を採用する必要があり、指導役の従業員の負担が増えることになります。指導役の従業員は、通常の業務をこなしながら新人の教育も行う必要があるため、指導役のリソース状況や業務負担を考慮して採用活動を計画する必要があります。
企業イメージの悪化
離職率が高いと、労働環境や仕事内容に対してマイナスイメージを持たれる可能性があります。
一般的な印象として「労働環境が悪いのだろう」「給与や報酬、福利厚生などの待遇に不満を抱いているのだろう」「組織の運営や経営に問題があるのだろう」と考えられてしまうかもしれません。
さらに、離職率の高さは採用活動にも影響を及ぼす可能性があります。企業が開示している離職率は、求職者が目を通す一つの指標です。離職率が高い企業は求職者から避けられやすいため、企業イメージを悪化させないよう従業員の離職率をおさえる対策を講じる必要があります。
従業員の離職率をおさえるための対策
離職率の低減、従業員の定着率向上に対する取り組みは、企業にとって重要な課題です。ここでは、従業員の離職率をおさえる対策を紹介します。
コミュニケーションがとりやすい職場づくり
従業員同士がお互いに話しやすく、悩みや不満を率直に聞き出せるような良好な関係を築くことで、定着を促す効果を期待できます。
現状を確認するためのヒアリングや、雑談を含めたランチミーティングなど、上司や同僚と定期的にコミュニケーションをとる機会を設けるのも良いでしょう。従業員同士で小さな問題や気になることを相談できる関係を築くことは、気持ち良く仕事ができる環境づくりにも役立ちます。
お互いを理解し、適切なコミュニケーションが取れる関係を築けば、離職を効果的に減らせるでしょう。
評価制度や給与体系の見直し
従業員の定着には、評価制度の明確化や給与体系の見直しが重要です。
従業員が「正しい評価を得ていない」「給与が低い」と感じている場合、原因は評価制度が不透明、給与体系が適切でない可能性があります。特に、上司や管理者の一任で評価を決めている場合は、評価基準をできるだけ数値化し、従業員の理解と納得を得ることが必要でしょう。
また、評価基準を数値化して明確にすると、従業員が自身の評価を上げ、給与を増やすにはどのようにすべきかを把握しやすくなります。人事評価をフィードバックする際は結果の根拠を示し、今後の目標を持てるように導くことが重要です。
研修・勉強会の実施やサポート制度の導入
研修や勉強会の実施やサポート制度の導入は、従業員のやる気を引き出して、離職をおさえられます。
知識や技術の習得をサポートする研修や勉強会は、意欲的に業務に取り組む従業員を増やす効果があります。キャリアアップに興味のない従業員にも向上心が芽生え、モチベーションアップのきっかけになる可能性もあるでしょう。
また、年齢の近い先輩や、直接的な利害関係のない他部署の先輩によるサポート(メンター制度)を取り入れるのも効果的です。さまざまな問題や心配ごとに関して、近い立場の従業員から経験に基づいたサポートを受けることで、同じ企業の一員としての意識を強められます。
さらに、サポートを任せられた従業員も、自主性や責任感を持つきっかけになり、キャリアアップへの意識が高まる可能性もあります。
ミスマッチの防止
採用活動の際は、労働条件や仕事内容、従業員に期待することなどを明確に開示し、人材を募集することが重要です。
求職者は企業が公開している情報を確認し、入社後に実現したい理想像を描いて応募してきます。開示された情報に不足や偏りがあると、企業に対して不信感を抱き、業務で求められるスキルや能力が自身のものと一致しなければ、早期の離職を招きます。
また、入社前適性テストの導入や、スカウト機能のある求人サイトの活用も検討しましょう。適性テストは、採用候補者のコミュニケーションスタイルや仕事への取り組み方を調べ、社内の思想や価値観にマッチするかをチェックできます。
スカウト機能のある求人サイトは、基本属性や経験、志向性などを基にして、求職者へアプローチが可能です。自社にあう特性をもった人材だけに求人情報を提供し採用活動ができるので、効率良くミスマッチを防げます。
スカウト機能のある求人サイトは、Re就活がおすすめです。20代をターゲットにした離職率の低い採用を実現可能です。
企業の平均離職率を確認するときの注意点
人事担当者の立場からすると、自社の離職率は気になるポイントです。しかし、離職率が高い企業が必ずしも悪い企業であると断定できるわけではありません。
離職率だけで企業の良し悪しを判断できない
離職率が高い企業は、必ずしも従業員にとって良くない企業というわけではありません。
たとえば、ある期間に多くの従業員が定年を迎えた企業では、離職率が急激に上昇します。また、繁忙期には一時的に短期雇用の従業員を増やす企業では、従業員の契約期間が終了する際に離職が発生するため、離職率が高くなるでしょう。
また、離職率の算出方法は定められていないため、企業ごとの離職率を単純に比べることは困難です。離職者数を集計する際の期間は企業ごとに異なり、起算日から過去1年間としている場合もあれば、3年としている場合もあります。
さらに、母数を退職と解雇の数のみにする場合や、一時離職や一時休職の数を含める場合もあり、各企業の離職率を対等に比較できません。
離職率が高い企業を、従業員が継続して働けない「悪い企業」として捉えると、判断を誤り、企業を正確に評価できない可能性があります。
必然的に離職率が高くなる企業もある
ベンチャー企業やスタートアップ企業は、従業員の流動性が高く、離職率が上がりやすい傾向があります。
これらの企業は新しい事業やサービスを展開するため、さまざまなスキルや経験を持つ人材を必要とします。そのため、一時的な「ジョブ型雇用」が一般的です。
「メンバーシップ型雇用(基本的には定年までの長期雇用)」とは異なり、契約が終了すれば解雇される場合があります。
また、これらの企業は一時的に経験を積む目的で入社する人も多いのが特徴です。個人の人生計画に合わせて、次のステップに進むために離職するケースも多く見られます。そのため、離職率が上昇しやすい傾向にあります。
離職率は適切に対策を講じておさえよう
企業の平均離職率がアップすると、採用業務にかかるコストは増加し、離職者の仕事を引き継ぐ従業員や新人を指導する従業員の負担も増えます。
従業員の離職を防ぐには、コミュニケーションがとりやすい職場づくりや、評価制度の明確化、給与体系の見直しが効果的です。さらに、採用情報の明確化や入社前適性テストの導入、スカウト機能のある求人サイトの活用などでミスマッチを防ぐのも重要です。
離職率が高い企業が必ずしも悪い企業とは限りませんが、求職者からは「労働環境や仕事内容に問題があるのではないか」というマイナスのイメージを持たれる可能性があります。
適切に対策を講じ、従業員が長く快適に働ける環境を提供して、離職率をおさえることが重要です。
株式会社学情 エグゼクティブアドバイザー(元・朝日新聞社 あさがくナビ編集長)
1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。