「思うように応募者が集まらない」「自社が求める条件にマッチする人材が見つからない」など、採用に課題を抱えている企業も多いのではないでしょうか。採用に関する課題は、人材紹介サービスの活用で解決する可能性があります。
人材紹介サービスを活用する際には、仕組みやメリット・デメリットなどを把握しておくことも大切です。そこでこの記事では、人材紹介サービスの仕組みや企業が活用するメリット・デメリットなどを解説します。
人材紹介サービスとは
人材紹介サービスとは、職業紹介事業の許可を得た人材紹介会社が、人材を探している企業と転職を希望している求職者をマッチングするサービスです。日本では、1960年代に初の人材紹介会社が誕生しています。
当時は、特定の専門職以外の有料職業紹介は法律で禁止されていました。しかし1999年に、職業安定法が改正され、民間事業者による営利目的の職業紹介が解禁されました。
企業は、希望条件にマッチする人材の紹介を受け、自社で書類や面接などを通して選考プロセスを進めていきます。人材紹介は、求職者から料金は受け取らず、企業から成功報酬を得ることで成り立っているビジネスです。紹介を受けた求職者が入社すると、企業は人材紹介会社に成功報酬を支払う必要があります。
人材紹介サービスと人材派遣サービスの違い
人材派遣サービスは、人材派遣会社と雇用契約を結んだ人材が企業に労働者として派遣されるサービスです。派遣期間は最長6カ月で、労働者の給与は人材派遣会社が負担します。企業側は労働者の派遣期間中に限り、人材派遣会社に派遣費用の支払いが必要です。
一方の人材紹介サービスは、人材紹介会社から紹介を受けた人材を雇用する場合、企業と直接雇用契約を結びます。成功報酬は、人材が入社するタイミングで発生します。成功報酬の金額は人材の要件によって異なりますが、年収の30~35%程度が相場です。
人材紹介サービスの利用が効果的なケース
人材紹介サービスの利用が効果的なケースは、次のとおりです。
- 急な欠員ですぐに採用が必要なとき
- 第三者視点でマッチする人材を的確に紹介してもらいたいとき
- 採用に多くのコストをかけられないとき
- 即戦力を採用したいとき
- 専門的なスキルを持った人材を採用したいとき
- 採用担当者の負担が大きく工数を軽減したいとき など
従業員の心身の病気や両親の介護といったやむを得ない事情によって急な人員不足が生じたときには、人材紹介サービスが効果的です。人材紹介サービスは、人材紹介会社と企業間の契約が成立次第、すぐに募集を開始できることから採用工数を削減できます。また報酬体系が成功報酬型のため、採用コストをおさえることも可能です。
人材紹介会社には、さまざまなスキルや経験を持つ求職者が登録しています。新規事業や事業拡大などで即戦力を必要としている場合、登録者のなかから条件にマッチする人材をスピーディーに紹介されることがあります。また、人材紹介会社の求人サイトでは、求職者の保有資格やスキルを検索することができるため、専門性の高い人材にもアプローチできるサービスもあります。
人材紹介サービスの種類
人材紹介サービスは、大きく分けると登録型とサーチ型の2種類があります。登録型はさらに総合型や専門型に分けられ、それぞれ特徴が異なります。
登録型
登録型は、人材紹介サービスに登録されている求職者のなかから企業の条件に合う人材を紹介するタイプです。登録型には、総合型と専門型の2種類があります。
・総合型
総合型は、事務職や営業職などの幅広い職種を取り扱っているタイプです。総合型は大手人材紹介会社が運営しているため、歴史が長く、登録者も多い傾向にあります。総合型にはさまざまなスキルや経験のある求職者が登録しているため、幅広い人材のなかから検討したい場合におすすめです。
・専門型(業界特化・職種特化タイプ)
専門型は、医療系やエンジニア系などの業界や職種に特化したタイプです。業界や職種に特化した人材を紹介しているため、総合型では見つけるのが難しい人材が登録している可能性があります。専門型は、専門性の高い人材を探している企業におすすめです。
サーチ型
サーチ型は、企業の条件に合う人材を幅広い手段で見つける方法です。人材を見つける手段は、SNSや他社の人材データベースなどさまざまです。登録型のように、人材紹介サービスに登録されている求職者のなかから人材が見つかるケースもあります。
利点は、転職潜在層へもアプローチできることです。転職サイトや人材紹介会社に登録していない人材もターゲットになり、今は転職する意思がない人材でも選考移行につなげられる可能性があります。
ターゲットに直接アプローチするため、ヘッドハンティングやスカウトと呼ばれることもあります。サーチ型で探す人材は一般的な従業員ではなく、幹部候補やマネージャーなどの上級管理職のケースもあります。役員候補や特定の専門スキルを持つ人材を探している企業には有効な手法の一つです。
人材紹介サービスを活用した採用活動をするメリット
企業が人材紹介サービスを活用すると、採用活動に関するさまざまな課題を解決できる可能性があります。ここからは人材紹介サービスを活用するメリットを紹介します。
より多くの求職者にアプローチできる
人材紹介サービスには、さまざまな経験やスキルを持った求職者が登録しています。求人を出していることを求職者に広くアピールできるため、人材紹介サービスを通じて自社に興味を持ってもらえる可能性があります。
求職者が転職先を探す方法は、ハローワークや求人情報誌などさまざまです。厚生労働省の「職業紹介事業に関するアンケート調査結果の概要」によると、人材紹介サービスのような民間職業紹介事業者を利用する求職者が多いことがわかっています。
求職活動にあたり利用している方法 | よく利用する | たまに利用する |
民間職業紹介事業者 | 30.7% | 27.9% |
公共職業安定所(ハローワーク) | 20.7% | 26.1% |
インターネットの求人情報サイト | 28.0% | 20.2% |
求人情報誌 | 20.8% | 21.9% |
ハローワークインターネットサービス | 12.7% | 15.2% |
しごと情報ネット | 2.8% | 7.6% |
アウトプレースメント | 0.8% | 1.5% |
特別の法人など | 3.3% | 4.4% |
コンサルティング | 0.9% | 5.6% |
新聞広告・屋外広告 | 6.9% | 23.1% |
求職・就職関連のSNS | 2.8% | 9.8% |
知り合いなどからの紹介 | 8.5% | 26.7% |
企業のWebサイトなどから情報を得て、直接応募 | 4.3% | 14.6% |
そのほか | 1.0% | 0% |
※出典元:「職業紹介事業に関するアンケート調査結果の概要」(厚生労働省)
民間職業紹介事業者を「よく利用する」と回答した求職者の割合は、30.7%でした。「たまに利用する」求職者も27.9%いるため、半数以上が民間職業紹介事業者を利用していることがわかります。
専門スキルや特殊な職種の人材を集めやすい
専門スキルや特殊な職種の人材は母数が限られているため、転職市場で見つけにくい傾向があります。人材紹介サービスのなかには、エンジニアや介護などの専門分野に特化したタイプもあるため、特定の条件にマッチする人材が見つかりやすくなります。
専門型の人材紹介サービスには、専門性の高いコンサルタントが在籍しているケースも珍しくありません。コンサルタントからは求人票を作成する際のアドバイスもしてもらえるため、採用ノウハウが蓄積されていない企業でも専門的な知識や技術を持つ人材を集めやすいでしょう。
採用担当者の負担を軽減できる
人材紹介サービスを活用すると、自社が求める人材を探す手間が省けるため、採用担当者の負担を軽減できます。自社ですべての業務を担当する場合、候補者探しや面接のスケジュール調整などの多くの工程をこなさなければなりません。
人材紹介サービスでは、人材紹介会社が保有しているデータベースのなかから企業の条件に合う人材を紹介してもらえます。また、応募者とのスケジュール調整や合否連絡なども代行してくれるため、採用担当者の工程を削減できます。
人材紹介サービスを活用した採用活動の流れ
人材紹介サービスを活用する際の基本的な流れは、次の通りです。
- 人材紹介会社の選定・契約
- 候補者の紹介
- 選考
- 内定・入社
- 成功報酬の支払い
まずは人材紹介会社を選定し、契約を結びます。契約後は求人票を作成し、自社の条件に合う人材の紹介を受けます。書類選考や面接などの選考を行うのは、人材紹介会社ではなく企業側です。
応募者への合否連絡は、人材紹介会社を経由して伝えます。応募者の内定承諾日または入社日のタイミングで成功報酬が発生するため、人材紹介会社に支払います。
費用対効果を踏まえた採用計画を立てやすい
人材紹介サービスは、費用対効果を踏まえた採用計画が立てやすい側面があります。紹介された人材が入社してはじめて、成功報酬が発生する仕組みです。入社に至った人材一人当たりの採用コストを考慮すれば良いため、予算に応じた採用計画が立てられます。
今までとは別の母集団にアプローチできる
人材紹介サービスを活用すると幅広い層にアプローチできるため、これまでとは別の母集団を形成できる可能性があります。
たとえば、採用サイトを活用した求人情報だけでは、アプローチできる層が限られてしまいます。一方の人材紹介サービスは、キャリアアドバイザーによる客観的な意見や特定企業の採用要件を求職者に細かく伝えてくれるため、自社を認知していない優秀な人材からの応募を期待できます。
非公開での採用活動が可能になる
人材紹介サービスでは、非公開で求人を出すことが可能です。非公開求人とは、一般に公開されていない求人情報のことを指します。
求人を一般公開すると、業務の重要なポジションや幹部候補の採用要件など外部に知られたくない情報が漏れ伝わる可能性があります。情報漏洩のリスクをおさえつつ、効果的に特定のスキルや経験を持つ優秀な人材を獲得したい場合は、非公開での採用活動が効果的だと言えるでしょう。
企業が人材紹介サービスを活用する際の課題
人材紹介サービスは短期間で人材を獲得できる、非公開で採用活動が行えるなどのメリットがある一方で、いくつかの課題もあります。サービスを利用する前に課題を把握し、何らかの対策を検討しておきましょう。
一人当たりの採用コストが割高になる可能性がある
人材紹介サービスは、企業から成功報酬を受け取ることで成り立つビジネスです。成功報酬は、紹介された人材の内定承諾日または入社日のタイミングで支払います。金額は、入社した人材の年収の30~35%程度です。たとえば、年収500万円の人材が入社した場合、150~175万円程度の費用が発生します。
人材紹介会社に支払う費用は、入社した人材の年収が高く、人数が多いほど高くなる仕組みです。人材紹介サービスから紹介を受ける人材の年収や人数によっては、一人当たりの採用コストが割高になる可能性がありますが、求人掲載よりも応募が来る可能性は高まります。自社の採用計画に基づいて検討・選択してくとよいでしょう。
自社に採用ノウハウが蓄積されにくい
人材紹介サービスを活用すると、採用活動の一部は外部に依頼することになります。外部に依頼した部分のノウハウは自社に蓄積されにくいため、今後の採用活動に影響を及ぼす可能性があります。
予算の関係で人材紹介サービスが利用できなくなった場合、ノウハウがなければ効率的な採用活動は行えないでしょう。自社に採用ノウハウを蓄積するには、人材紹介サービスの担当者と積極的にコミュニケーションをとり、情報共有することが大切です。
希望する人材が見つかるとは限らない
人材紹介サービスは、転職市場では見つけるのが難しい人材を紹介してもらえる可能性があります。ただし、人材紹介サービスを活用しても、自社が希望する人材が必ず見つかるとは限りません。
人材紹介会社は、求職者の経験やスキルなどが登録されたデータベースから人材を探すため、企業が求職者に求める条件が多いほどマッチする人材が見つかりにくい傾向にあります。希望条件が多い場合は優先順位をつけ、サービスの担当者と相談しながら最終的な条件を決めるようにしましょう。
人材紹介サービスを選ぶ際のポイント
人材紹介サービスにはさまざまなタイプがあり、それぞれ特徴が異なります。サービスを探す際にはタイプや会社の規模を確認し、自社に適したものを選ぶようにしましょう。
自社に適したタイプかを確認する
人材紹介サービスには、登録型やサーチ型などのさまざまなタイプがあります。幅広い求人に対応しているタイプもあれば、特定の業種や職種に特化したタイプもあります。まずはどのような人材を求めているかを整理し、自社に適したサービスを選びましょう。
たとえば、エンジニアを探している場合はIT業界に特化したタイプ、医療従事者を探している場合は医療系の職種に特化したタイプなどです。自社に適したサービスを選ぶことで、適切な人材にアプローチできる可能性も高まります。
人材紹介会社の規模を確認する
人材紹介サービスを選ぶ際には、人材紹介会社の規模感を確認することも大切です。規模が大きい会社は登録している求職者数も多く、より多くの人材を紹介してもらえる可能性が高まります。複数の候補者から比較検討でき、よりスムーズに選考プロセスを進められるでしょう。
しかし小規模の会社にも、メリットがないわけではありません。なかには、特定の業界や職種に特化した小規模の人材紹介会社があり、より専門性の高い人材を紹介されることがあります。また、求職者へのサポート体制が充実している会社もあり、より企業のニーズにマッチした人材を紹介されることもあります。
それぞれの会社の規模を一つの参考にしながら、自社に適した人材紹介会社を選ぶようにしましょう。
人材紹介サービスを上手く活用するコツ
人材紹介サービスを活用しても、自社が求める人材が獲得できるとは限りません。最後に人材紹介サービスを上手く活用するコツを紹介します。
求人情報や企業情報は定期的に更新する
人材紹介サービスに登録している求人情報や企業情報を定期的に更新することで、採用に興味を持つ求職者に対して最新の情報を提供することができます。古いままの状態にしておくと、求職者とのマッチング率が低下するのは言うまでもありません。
求人情報の更新により、競合他社との差別化を図り、積極的な採用姿勢をアピールできるため、優秀な人材を採用できる可能性が高まるでしょう。
企業の採用担当者は、最新の求人情報や企業情報を更新するスケジュールをあらかじめ組み込んでおくようにしましょう。
選考結果を担当者にフィードバックする
実際に紹介を受けた人材の選考状況や直近の自社の採用状況について、人材紹介会社の担当者と密にコミュニケーションを取ることが大切です。
人材紹介会社から求職者の紹介を受けても、必ずしも採用に至るとは限りません。採用に至らなかった理由には、求職者のスキル不足やミスマッチなどのさまざまな状況があげられます。
これらの情報を事細かにフィードバックすることで、自社の採用要件を詳しく共有できるため、人材紹介会社が紹介する求職者のマッチング精度がより高まるでしょう。
人材紹介会社の担当者に自社の魅力をアピールする
人材紹介会社の担当者に自社の魅力を伝えることも大切です。担当者に自社の魅力をより深く知ってもらい、第三者視点で自社の魅力を伝えてもらえれば、求職者の志望度を上げられます。
企業の採用担当者は、人材紹介会社の担当者との関係構築も積極的に進めていきましょう。
自社に適したサービスを選んで効率的に人材を獲得しよう
企業が人材紹介サービスを活用すると、より多くの求職者にアプローチできる、専門性の高い人材の紹介を受けられるなどのメリットがあります。その一方で成功報酬は年収で変動するため、採用戦略によっては採用コストが割高になる可能性があります。
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1986年早稲田大学政治経済学部卒、朝日新聞社入社。政治部記者や採用担当部長などを経て、「あさがくナビ」編集長を10年間務める。「就活ニュースペーパーby朝日新聞」で発信したニュース解説や就活コラムは1000本超、「人事のホンネ」などでインタビューした人気企業はのべ130社にのぼる。2023年6月から現職。大学などでの講義・講演多数。YouTube「あさがくナビ就活チャンネル」にも多数出演。国家資格・キャリアコンサルタント。著書に『最強の業界・企業研究ナビ』(朝日新聞出版)。