リフレクション教育とは、行為のなかの内省のことです。近年、多くの企業が人材教育の一環として、リフレクション教育に注目しています。
そこでこの記事では、リフレクションそのものの意味やリフレクション教育が注目されている理由などを解説します。リフレクション教育を導入すると、企業や従業員にさまざまなメリットをもたらします。自社で導入する際に役立ててください
リフレクションとは
リフレクションとは、日本語に直訳すると反射や反映、熟考、内省などの意味があります。最初に提唱したのは、マサチューセッツ工科大学で組織学習を研究していたドナルド・ショーン氏だと言われています。
同氏は、組織学習の研究を重ねるなかでさまざまな専門職に就く人々を観察しました。その結果、働く上では現状を振り返りつつも、自身の行動や考え方をどうすべきか考える「リフレクション」が重要であることに気付きました。
やがてリフレクションは、さまざまなシーンで活用されるようになりました。ビジネスシーンにおいては、リフレクションとは一旦業務から離れ、これまでの行動や考え方を客観的に振り返ることを指します。
リフレクションと混同されやすい用語
リフレクションとは、内省を意味します。内省は反省やフィードバックと混同されやすいものの、厳密には意味が異なります。
反省
反省とは自分自身の行動を振り返り、悪かった部分を認識し、同じ過ちを繰り返さない方法を考えることです。行動そのものを振り返る点では、リフレクションと同じです。
反省とリフレクションの違いは、何をどのように振り返るかという点にあります。
反省は、悪かった部分にスポットを当て、主観的に振り返る行為です。一方のリフレクションは、悪い部分だけでなく良い部分も含めたフラットな視点で、自身の行動を振り返ります。そのようにして、客観的により広い視野で物事を見つめなおすことができます
フィードバック
リフレクションとフィードバックの評価対象は、どちらも自分自身です。しかし、両者には、自身の行動を、誰が評価するかに違いがあります。
フィードバックは、行動に対する評価を上司や同僚などの第三者にしてもらうため評価は客観的なものと言えます。
一方のリフレクションでは、行動を振り返るのは自分自身であり、評価は主体的なものとなります。
リフレクション教育が注目されている理由
近年、ビジネスシーンでリフレクション教育が注目されています。リフレクション教育とは、人材を育てるための効率的な手法です。その背景には、従業員の主体性を高めたい、リーダーを育てたいといった企業の思惑が関係しています。
従業員の主体性を高めるため
リフレクション教育が注目されている理由の一つは、従業員の主体性を鍛えたいと考える企業が多いためです。育った環境や考え方などは、人によって異なります。そのため、すべての従業員が自身の意思や判断に基づき、責任を持って行動する主体性を持ち合わせているとは限りません。
しかし、従業員が積極的に業務を進めるためには主体性が重要です。従業員の主体性をいかに高めるかは、企業にとって重要な課題と言えるでしょう。
上司からのフィードバックなどの客観的な評価だけでは、課題の解決策を自身で導き出せないこともあります。リフレクションはこれまでの行動を自身で客観的に振り返り、自ら課題を認識することが可能です。
取り組むべき課題が明確になっていると、次の段階へ進みやすくなるため、主体性を持った行動につながると期待できます。
リーダーを育てるため
企業が事業を継続し、成長させていくためには、組織を牽引していく人材が必要です。リーダーとなる人材には自己中心的な考えから脱却し、組織全体を広く見る力が求められます。
近年は少子高齢化により、生産年齢人口が減少しています。限られた人口のなかで将来的なリーダーを生み出すには、組織のために行動できる人材の教育が重要です。
リフレクション教育のメリット・効果
リフレクション教育を取り入れると、企業や従業員にさまざまな効果をもたらします。
企業にとってのメリット・効果
リフレクション教育を取り入れることによる、企業にとってのメリットや効果は、次のとおりです。
将来的なリーダーを育成できる
適切な行動と判断を行うことが求められる「リーダー」には、客観的に思考できる力が必要です。
客観的な思考が身に付けば、チーム全体を俯瞰的に見ることができるようになります。その結果、従業員に対してどのような改善や指示が必要なのかを適切に判断することができます。多くの従業員にリフレクションを定着させ客観的な思考力を鍛えることで、リーダー候補となる人材の育成にもつなげられます。
生産性の向上が期待できる
リフレクション教育を通じ、従業員一人ひとりが主体性を持って行動できるようになれば、組織としての生産性の向上が期待できます。
フィードバックのように他者に指摘されてから行動する場合、納得できなければ不満が先に立ち、解決を図ろうという気持ちが弱くなることも考えられます。そうして、課題の解決に時間を要することになれば、業務の質を向上させるのは難しいと言えるでしょう。
リフレクションは自身の業務を客観的に振り返り、課題ときちんと向き合えるため、改善も行いやすくなります。積極的に次のステップに進められる主体性が高い従業員が増えることで、組織全体の活性化につながります。
従業員にとってのメリット・効果
リフレクション教育を取り入れることによる、従業員にとってのメリットや効果は、次のとおりです。
従業員一人ひとりの成長が期待できる
リフレクションによる客観的な振り返りは、精神面や人格の形成にも良い影響を与えるため、従業員の人間的な成長につながります。また、他者に指摘されるのではなく、自身で言動を見つめなおすことで感情的にならず、冷静に行動できるようになるでしょう。
リフレクションを通じて、自身を客観的に分析できる力が身に付けば、納得した上で次のステップに進めるようになります。物事の捉え方や自身の行動に変化が生まれ、従業員のさらなる成長が期待できます。
自分の強みやこれまで気付かなかった面を新しく発見できる
自分の経験を客観的に振り返る習慣を身に付けることで、これまでは気付かなかった新たな面を発見しやすくなります。リフレクションは悪い面を振り返って反省するだけでなく、良い面にも着目します。
良い面の振り返りにより、自分自身の強みを理解し、さらに向上させることもできるでしょう。従業員一人ひとりの強みを引き出すことは、人材育成のなかでも重要な要素です。
企業がリフレクション教育に取り組むと、個人の強みを引き伸ばせるよう従業員に促すことにつながります。
リフレクションの実践方法
リフレクションは過去の行動を振り返ることから始めるのではなく、ステップを踏んで実践する必要があります。従業員にリフレクション教育を実施する場合は、手順やポイントなども伝えるようにしましょう。
リフレクションの基本的なステップは、次のとおりです。
- 対象となる出来事をピックアップする
- 出来事を複数のステップにわける
- 各ステップを分析する
- プロセスを再構築する
各ステップを詳しく解説します。
1.対象となる出来事をピックアップする
まずは、リフレクションの対象にしたい過去の出来事をピックアップすることからスタートします。ピックアップする出来事は失敗事例ではなく、成功事例でも問題ありません。
たとえば、失敗事例としては「営業で自社の商品を10個販売する予定だったものの、半分しか成果を上げられなかった」、成功事例としては「経理部の会議で経費申請のフローの見直しを提案したところ、新しいフローが採用された」などです。
この時点では主観的な良し悪しの判断はせず、単純に過去の出来事を書き出す程度にとどめておきます。
2.出来事を複数のステップにわける
次に、リフレクションの対象となる出来事を複数のステップにわけましょう。たとえば営業で新たな契約を獲得した事例なら、ファーストアプローチから契約までのプロセスを、課題のヒアリング、顧客への提案、…のようにわけます。
出来事を複数のステップにわけて分析することで、次に同じようなことが起こったときに適切に対処できるようになるでしょう。ステップをできるだけ細かくわけると、具体的な課題や良かった点を見つけやすくなります。
3.各ステップを分析する
リフレクションの対象となる出来事をわけたあとは、各ステップを分析し、「できていたこと」と「できたかもしれないこと」を振り返りましょう。ここでの注意点は、失敗の原因の突き止めにこだわり過ぎないことです。
リフレクションの目的は悪い点だけでなく、良い点も含めて分析することです。「できていたこと」と「できたかもしれないこと」の2つの軸をもとに、次に同じようなことが起こったときにどうするかに着目し、今後に向けた改善を考察しましょう。
4.プロセスを再構築する
最後に、ステップ3で分析した「できていたこと」と「できたかもしれないこと」をもとに、プロセスを再構築しましょう。グループワークでリフレクションを実践する場合、プロセスを再構築した上で、リフレクションの内容を発表し合うのも良いでしょう。
リフレクション教育は、リフレクションを通じて次に同じようなことが起きたときに活かすことが大切です。リフレクションは、一度実践したら終わりではありません。リフレクションと解決策の実践を繰り返し「習慣化」することで、業務の改善を継続的に行うことが可能になるでしょう。
リフレクション教育に活用できるフレームワーク
リフレクション教育を実践する際には、フレームワークを活用すると便利です。代表的なフレームワークには、KPT・KDA・YWT・経験学習モデルがあります。
ここからは、リフレクション教育に活用できるフレームワークを紹介するので、自社で実践する際に活用してみてください。
KPT
KPTは振り返りにより、業務やプロジェクトの改善を加速させるフレームワークとして活用されています。KPTとは、「Keep=保つ・続ける・維持する」「Problem=問題・課題」「Try=試みる」の頭文字をとったものです。
リフレクション教育では、K・P・Tの順に実践していきます。Kは、今後も続けていくべき業務の進め方をリフレクションで見つける段階です。Pの段階では、問題点や課題を見つけます。最後のTは、問題や課題の改善を試みる段階です。KPTを活用すると振り返る項目が整理されるため、次にすべきことを明確にすることが可能です。
KDA
KDAは過去を振り返った上で、今後どのように行動すべきかを考察するフレームワークです。KDAとは、「Keep=保つ・続ける・維持する」「Discard=捨てる・処分する」「Add=加える・付け足す」の頭文字をとったものです。
プロセス自体はKPTと類似しており、K・D・Aの順に実践していきます。Kの段階では、今後も続けていくべき業務の進め方をリフレクションで見つけます。Dは、不要な業務の進め方を見つける段階です。最後のAの段階では、新たに加えるべき業務の進め方を見つけます。KDAを明確にしたあとは、今後の業務で実践するよう呼びかけましょう。
YWT
YWTは、日本の経営コンサルティング会社が開発したフレームワークです。YWTは個人やチームの経験を学びに変え、次につなげていくためのフレームワークとして活用されています。
YWTとは、「Y=やったこと」「W=わかったこと」「T=次にやること」といった日本語の頭文字をとったものです。振り返りの対象は、プロジェクトよりも経験が中心となります。良かった点も悪かった点も次にどう活かすかが重要視されているため、反省やコントロールなどは禁句とされています。
たとえば、新商品開発の取り組みにあたって、市場調査や競合調査を行うとします。調査により、ユーザーのニーズは把握できたものの、開発には自社だけでは対応が難しい技術的な課題があることが判明しました。そこで、専門家の協力を検討し、自社製品の見直しを行うことにしました。
以上の流れを整理すると、「Y:市場調査や競合調査」「W:技術面に関しての課題」「T:専門家の協力依頼と製品機能の見直し」となります。この一連の流れがYWTによるリフレクションです。
経験学習モデル
経験学習モデルは、組織行動学者のデービッド・コルブが1984年に提唱したフレームワークです。多くの学習モデルは、受動的に学んで覚えるのが一般的です。一方の経験学習モデルは、経験から学びを得るプロセスを体系化しています。
経験学習モデルでは、「経験する」「リフレクションする」「教訓を獲得する」「試行する」といった4つのプロセスを繰り返します。経験学習モデルは別の場面でも応用できるため、自身をスキルアップさせることが可能です。
リフレクション教育を実践する際のポイント
最後に、リフレクション教育を実践する際のポイントを解説します。
感情的にならないよう気をつける
リフレクションでは、どのような事実でも客観的に捉えることが大切です。特にネガティブな出来事に対しては感情的になり、自己嫌悪に陥ったり他者の責任にしてしまいたくなったりするかもしれません。
しかし、リフレクションを成功させるためには、自身の感情を排除し、事実ベースで振り返っていく必要があります。感情に流されると、正しいリフレクションができません。リフレクション教育を実践する際には、事実と感情を切りわけるよう指導しましょう。
悪い部分だけに注目し過ぎない
リフレクション教育を実践する際には、悪い部分だけに注目し過ぎないように注意を促しましょう。リフレクションでは、良い部分と悪い部分の両方を客観的に振り返る必要があります。
悪い部分だけを振り返って課題を見つけるだけでは、リフレクションではなく、反省になります。良い部分もしっかりと引き出し、従業員の将来的なキャリアアップにつなげていくことが大切です。
目標と結果の相違を把握する
過去の出来事を振り返る際には、目標と結果を比較し、どのくらいの相違があったかを把握することが大切です。目標と結果を比較することで、なぜ結果が伴わなかったのか、目標が高すぎたのかなどを分析できます。
目標が高すぎる場合は、モチベーションの低下につながるおそれもあります。一方で目標が低すぎる場合は、従業員自身の成長を妨げてしまう可能性もあるでしょう。リフレクション教育では、従業員一人ひとりの目標設計が適切かを確認することも必要です。
人材育成の一環としてリフレクション教育を取り入れてみよう
近年は将来的なリーダーの育成や生産性の向上などを目的に、リフレクション教育を取り入れる企業が増えています。リフレクション教育は企業だけでなく、従業員にもさまざまな効果をもたらします。
自社で取り入れる際には、反省やフィードバックとの違いをきちんと理解した上で進めることが大切です。リフレクションは、良い部分と悪い部分の両方を振り返る客観性と自分自身の行動を評価できる主体性、どちらの側面も求められます。
リフレクション教育は、若手からシニア層までの幅広い従業員が対象になります。より多くの従業員にリフレクション教育を実施し、リーダーの育成や生産性の向上を目指しましょう。
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