CoE(センターオブエクセレンス)とは?注目される背景や導入するメリットを解説
2023.12.06
CoE(センターオブエクセレンス)は、組織改革の選択肢となる考え方です。企業の人事領域で使われる言葉ですが、具体的な内容を知らず、どのように実行すれば良いのかわからない方もいるでしょう。
本記事ではCoEの基本的な意味からメリット・デメリット、導入のポイントまでわかりやすく解説します。
CoEの導入は、企業の問題解決や成長に大きく寄与する可能性のある選択肢です。CoEはどのように企業の現状を変えるのか、企業はCoEをどう活用できるのかを把握していきましょう。
CoEとは?
まずは、「そもそもCoEとは何か?」「CoEはどのような必要性と役割を持っているのか?」といった疑問を解消しましょう。次の3つの観点から、CoEの基礎知識を解説します。
- CoEの特徴
- CoEが注目される理由
- CoEの役割と業務例
それぞれの詳細を見ていきましょう。
CoEの特徴
CoEは「Center of Excellence」という英文の略語で、日本語訳は「中核的研究拠点」です。具体的には、企業の優秀な人材やノウハウ、設備などのリソースを、縦軸の指揮系統を超えて横断的に集約した組織のことを指します。
CoEの概念はアメリカ西海岸のスタンフォード大学で、優秀な卒業生が政治経済の中枢である東海岸に流出していく課題を解決するために1940~50年代に誕生したものです。また、先端IT企業が集まる地域「シリコンバレー」が生まれるきっかけにもなりました。
歴史的にも、CoEには組織の成長をサポートする大きな力が秘められていることがわかります。専門知識や技術を持つ人材を集めて能力を共有し、組織全体の能力を向上できれば、企業の問題解決や業務の効率化に大きく役立つでしょう。
CoEが注目される理由
CoEが注目を集めるようになった背景には、企業がDX(データとデジタル技術の活用)による改革を実施するため、横断的な組織の構築に迫られている事情があります。
企業がDX化による業務の効率化を求められるなか、従来の縦割り構造の組織では、部門を超えたノウハウの共有やデータ連携が難しく、思うようにDX化を進められない課題が可視化されるようになりました。
そこで課題解決のために注目されたのが、CoEの導入です。CoEは、部門を超えた横断的な改革を推進する組織概念であるため、全部門へのDX化に大きな貢献ができると考えられています。
また、デジタル技術に特化したDCoE(Digital Center of Excellence)や、クラウド技術を推進するCCoE(Cloud Center of Excellence)という概念も登場しています。技術的な差異はあれど、いずれも全社的な新技術への適応を進めるための組織です。
CoEの役割と業務例
具体的なCoEの役割と遂行する業務は、情報収集や提案を含んだ非常に広範なものです。次の表で詳細を把握しましょう。役割と業務の例は、大きく5つに分けられます。
役割 |
業務の例 |
社内全体の情報を収集・整理 |
・各部門がもつ情報やノウハウをアーカイブ化 |
企画や戦略の立案 |
・新しい企画や戦略を立案し、組織の方向性を示す |
測定・フィードバック |
・業務の効果や成果の測定 |
業務プロセス構築 |
・組織全体に効率的な業務フローを提供 |
社内イノベーション |
・新技術や方法論の取り入れ |
CoEを組織するためには、これらの役割と業務を遂行できる人材が必要です。コンサルタント的な業務性質を持つため、業務分野の専門知識はもちろん、それぞれの部門に対する的確なコミュニケーション能力も求められるでしょう。
人事におけるCoEの役割と効果
CoEはモノの研究開発だけでなく、人事領域においても運用可能な考え方です。全社的な人材活用の改善を行いたい場合には、人事領域でのCoE導入が有効な選択肢となります。
CoEの人事業務における役割と、得られる効果を解説します。
人事領域でのCoEの役割
人事領域で組織されるCoEのおもな役割は、経営的な視点に基づいた人事制度の開発です。採用・給与体系構築・能力開発など各分野の専門家を集め、全社的な取り組みを行うことが求められます。
たとえば、部門ごとに乱立した評価基準や人材育成方法を一斉に改革するとき、人事領域のCoEは大いに有効な選択肢となります。CoEは全部門の情報を集約し、開発した人事制度を全社に定着させることが可能です。
また、CoEは人事における改革組織・手段である3ピラーモデルのうちの一つとなっています。3ピラーモデルとは、次の3要素を柱として人事組織を機能させる考え方で、企業の人事改善のための有効な手段として近年注目を集めています。
- CoE(Center of Excellence):人事に関する専門家集団。報酬体系の整備、人材育成などを専門に行う
- HRBP(Human Resource Business Partner):経営を人事戦略からサポートする
- HRSS(Human Resource Shared Service):給与計算や福利厚生などの業務を担当する
人事領域でCoEを導入する際には、HRBPとHRSSを同時に取り入れると、より効果的です。
人事領域でのCoEの効果
CoEは、経営戦略と直結した人材マネジメントを可能にします。人事CoEが全社的に人材をチェックすることで、企業のビジョンや目標に合わせて、適切な人材を育成・配置できるでしょう。
また、人事部門自体の業務効率化や、付加価値を創出する生産性向上効果も期待できます。部門ごとに異なっていた人事システムを統一すれば煩雑な管理の手間も省け、浮いた時間で別の施策に取り組むことも可能です。
人事領域CoEは、企業全体の競争力を向上させるための強靭な基礎です。CoEで人事システムと業務手順を確立すれば、戦略性と生産性を高められるでしょう。
CoEを導入する3つのメリット
CoEを導入することによって、おもに次の3つのメリットが企業にもたらされます。
- 社内連携の強化・見直し
- 効率的な問題解決
- 企業全体でのコミュニケーションの活性化
それぞれのメリットの詳細を解説します。
社内連携の強化・見直し
CoEで部門間の壁を取り払い、情報をオープンに共有することで、従来組織では難しかったほかの部門との連携がスムーズに行えます。CoEを通じて疑問や確認事項を解消できれば、連絡や手続きにかける手間と時間を削減できるでしょう。
また、CoEは社内の情報整理を進めるため、これまでの業務フローにおける無駄な工程を可視化できます。無駄を排除することで関連する部門同士がより緊密に連携をとれるようになり、別部門との業務の重複も解消できます。
CoEを導入することで、社内の連携が強化され、業務の効率化や意思決定の高速化、無駄の削減が期待できます。不要なコストを支払う必要もなくなるため、企業の競争力を高めるための重要なステップとなるでしょう。
効率的な問題解決
CoEが存在すると、組織を悩ませる問題に対し、多角的なアプローチが可能となります。CoEは部門間の情報やノウハウを集約する場として機能するため、部門それぞれの専門的な知見を用いた効率的な問題解決を実現しやすくなります。
開発部門が労力の配分で悩んでいるときには、CoEを通じて人事部門が効率的な運用をアドバイスできます。また、人事部門がITシステムの運用法で悩んでいるときは、IT部門から技術的な提案を受けることもあるでしょう。
多様な視点や情報を持つメンバーが集まることで、従来の方法では見えてこなかった解決策や新しいアイディアが生まれる可能性が高まります。CoEの存在は、組織全体の問題解決能力を向上させる重要な要素と言えるでしょう。
企業全体でのコミュニケーションの活性化
CoEの活動で部門間の情報共有が進むと、企業全体で仕事に用いる言葉や用語が共通言語化されるため、コミュニケーションを取りやすくなります。個別の部門内だけで通用する言葉や概念が減り、目標や価値観なども共有しやすくなります。
共通言語が増えることで、異なる部門の従業員同士でも同じ認識を持って課題に取り組めるようになるでしょう。たとえば、営業職が技術職の業務性質を理解できるようになれば、スケジュールや工数に無理のない案件の受託も行いやすくなります。
部門を超えたコミュニケーションを活性化できれば、企業の取り組む事業に対し一体感を持って取り組むことができるようになるでしょう。
CoEを導入する流れ
CoEの役割や効果、メリットを理解し、自社での有効性を見積もることができたならば、次は導入の手順を把握しましょう。
企業にCoEを導入する際は次の流れを踏みます。
- CoEが機能しやすい組織構成を検討する
- CoEに所属させる人材を定義する
- 社内教育体制を強化する
それぞれの手順の重要なポイントを解説します。
1.CoEが機能しやすい組織構成を検討する
導入の際には、CoEがしっかりと機能できることが何よりも重要です。CoEには次の2種類の組織構成があるため、まずはどちらが自社に適しているかを検討しましょう。
- CoE集中型:各部門から独立した組織構成
- 中央・部門ハイブリッド型:独立部に加え、各部門にもCoEを分配配置する
CoE集中型では、全部門から独立した新組織としてCoEを導入します。既存部門への負担が少ないため、組織全体に一律でCoEの施策効果を与えることができます。ただし、コンサルティング系スキルやリーダーシップを兼ね備えた人員の集中配置が必要です。
中央・部門ハイブリッド型では、独立した中央CoEを設置し、各部門にCoEの小チームを分散配置します。部門内部の人員が施策を実施するため、中央とのギャップを埋めやすい利点があります。しかし、特定の人員に対しては、通常業務に加えて連携・CoE施策実行の負担がかかってしまうかもしれません。
それぞれの特徴を踏まえ、自社人材の能力や部門ごとの稼働人数に適した組織構成を検討しましょう。
2.CoEに所属させる人材を定義する
組織構成の決定の次は、CoEに適した人材を選抜し、組織に所属させます。ただし、各部門での優秀な人材がそのままCoEとして活躍できるとは限りません。「どのような人ならばCoEでの役割を果たせるのか?」と考え、CoE人材の理想像を定義しましょう。
CoE人材には社内コンサルタント的な能力や性格が求められます。専門的な知識や技術だけでなく、部門を超えた視野や協力的な姿勢といったコミュニケーション能力、新しい取り組みに対する柔軟性が必要です。
また、多様性を重視することで、異なる背景や経験を持つ人材が集まり、新しいアイディアや視点が生まれやすくなります。性別や国籍、年齢などの制限を設けず、幅広い人材を受け入れることがCoEの成功の鍵となるでしょう。
3.社内教育体制を強化する
CoEに必要な人材像を定義したあと、実際に在籍する人材へ目を通すと、理想像を満たす人材が質・量ともに十分確保されているとは限らないでしょう。理想と現実のギャップを解消するためのキーとなるのが、社内教育体制の強化です。
理想的な人材像を定義した上で、基準に合致する人材を社内で育成するためのキャリアマップや教育方針を策定することが求められます。策定の際はCoEに求められる経験や実績、スキル、資格などの目標を設定することが大切です。
ただし、明確な資格や技術が求められる技能職・事務職とは違い、CoEの一般的なスキルの定義は困難です。必要なスキルは、自社の課題から逆算して考えるとよいでしょう。仮にIT化に課題があれば、ITマネジメント系のスキルが求められます。
専門的な知識や技術の習得はもちろん、部門間の連携や協力の精神、新しい取り組みに対する柔軟性なども求められます。将来的にCoEとして活躍するための資質や能力を育てる教育プログラムを実施しましょう。
CoEを導入する際の注意点
CoEの導入では多くのメリットが期待される一方で、注意すべき点もあります。特に、CoEに所属する従業員の負担には注意すべきでしょう。CoEの専門的な業務に加え、各部門の通常業務の並行が求められる場合が多いためです。
業務過多な状況が続くと、従業員の健康被害のリスクが高まります。さらに、業務負担に不公平感を抱くことで、従業員のエンゲージメント(組織への愛着)が低下する恐れもあります。
健康に支障が出てエンゲージメントも低くなれば、業務の効率や成果が低下し、CoEの効果を十分に発揮できないでしょう。深刻なケースでは、出勤困難な状況や離職を招き、CoEを任せられる人材を失う結果に至ってしまいます。
CoEを導入する際には、従業員の業務負担を適切に管理し、健康やモチベーションの維持に努める人材を設置することが大切です。定期的なヒアリングを行い、必要に応じて業務の調整やサポート体制の強化を検討しましょう。
CoEを導入して自社の競争力と生産性を高めよう
CoE(Center of Excellence:センターオブエクセレンス・中核的研究拠点)は、企業を横断する取り組みを実施するための組織です。CoEがある企業では部門の壁を取り払い、全社的な問題を集合知で解決できます。
部門間の連携や問題解決、コミュニケーションに不要なコストがかかっている場合には、CoEの施策で状況改善を望めます。不要な労力や費用、時間を省き、業務の効率化やイノベーションを実現できるでしょう。
CoEは、企業の組織改革の手段として有効です。自社に合った組織構成や人材を選びながら導入を検討し、継続的なCoE運営ができる教育・サポート体制の構築も重要です。適切なCoEで、自社の競争力と生産性を高めていきましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。