アンコンシャスバイアスとは?企業にもたらす影響と対処法を解説
2023.09.27
アンコンシャスバイアスは、雇用や採用のプロセスにおいて、公平さや平等性に対する障害となる可能性があるため、重要な問題として注目されています。
企業は適切な人事評価や採用活動を実施するため、アンコンシャスバイアスについての理解を深める必要があります。
本記事ではアンコンシャスバイアスとは何か、なぜ企業はアンコンシャスバイアスについて理解を深めなければいけないのかを詳しく解説します。具体的な対策方法も解説するので、ぜひ参考にしてください。
アンコンシャスバイアスとは?
本人が無意識でしている偏見や歪んだものの見方を指します。「無意識」を意味する英単語「unconscious」と、「偏見」や「先入観」を意味する英単語「bias」を組み合わせた言葉です。
アンコンシャスバイアスは、それぞれの経験や知識、信念や価値観から生み出されます。誰もが持っているとされており、特定の場面に限らず、日常生活や職場などさまざまな場面で現れることがあります。
つまり、私たちは自覚していなくても、無意識のうちに特定の人やグループに対して肯定的または否定的な見方をしてしまうことがあるのです。
アンコンシャスバイアスが注目されている理由
アンコンシャスバイアスが注目されるようになったのは、2010年代に入ってからです。
アメリカの大手IT企業で、社内の人種や性別の構成に大きな偏りがあることが明らかになり、偏りが生じる原因として、アンコンシャスバイアスの可能性が指摘されました。
日本では、平成後期になって女性労働者が増加しました。それに伴い、「女性は結婚したら退職する」「子どもが生まれたら女性はパート勤務が当たり前」といった考え方が問題視され、アンコンシャスバイアスの影響を受けた不適切な価値観ではないかと問題視されるようになりました。
現代の多様性・公正性が重視される社会に対応するため、企業や組織はアンコンシャスバイアスがかかっていないかを確認し、自社のやり方や価値観を見直すことを求められています。
アンコンシャスバイアスが企業にもたらす影響
アンコンシャスバイアスは、企業にさまざまな影響をもたらします。
無意識なハラスメント
アンコンシャスバイアスのかかった発言や言動は、本人に悪気はなくても、無意識なハラスメントにつながってしまう可能性があります。
たとえば長く勤務して役職が上がると、周囲が注意しにくくなります。気付かずに無意識のままハラスメントを続けてしまうこともありえます。
企業における無意識なハラスメントの具体例として「雑用をするのは女性」「定時で帰宅するのはモチベーションが低いから」といったものがあげられます。また、女性や若手に高圧的な態度をとることや、若手は上司より早く退社してはいけないといった決めつけもハラスメントと見なされる可能性があるため、注意しましょう。
無意識なハラスメントは、本人に悪意が無くても相手にとっては不快に感じられ、職場の雰囲気を悪くします。これは結果的に離職率を上げる原因にもなり得るため、企業は適切に対処する必要があります。
不適切な人事評価
アンコンシャスバイアスによる無意識な偏見は、人事評価に影響をもたらす可能性があります。
社内で評価する立場の人間が自身のアンコンシャスバイアスに気づいていない場合、公平性を欠いた人事評価や適切ではない配属を行ってしまうからです。
不適切な人事評価の一つの例として、評価者が自分の能力を基準として判断することがあげられます。このような場合、評価者は自分が得意な分野に対しては厳しい評価をし、逆に苦手な分野に対しては甘い評価をしてしまう傾向があります。
公平性を欠いた人事評価は、評価を受ける者の不満を増加させます。また適切ではない配属をされた人材は、持っている能力を十分に発揮できない場合があります。
不適切な人事評価は、優秀な人材の流出や業績の悪化につながるため、注意が必要です。
偏った採用活動
アンコンシャスバイアスによって、採用活動が偏った結果になってしまうことも考えられます。採用する側に思い込みや偏見があることで、自社にマッチした人材を適切に選べなくなってしまうからです。
学歴だけを基準にしたり、性別に対する偏見で採用活動を行うことは、優秀な人材を見逃してしまう可能性があります。逆に、適切でない人材を採用してしまう可能性もあるので、注意が必要です。
人材の成長阻害
従業員が無自覚な固定観念や先入観を持っていると、配慮に欠けた言動が増え、職場のコミュニケーションが悪化します。その結果、働きづらい職場となり、人材の成長を阻害するデメリットが生じます。
また、「彼には荷が重い」「前例のない計画は成功するはずがない」など、上司からの根拠のない決めつけは、部下の挑戦をためらわせる可能性があります。結果として、従業員のモチベーションが低下し、人材の成長が妨げられる可能性も否めません。
アンコンシャスバイアスの種類
アンコンシャスバイアスは、特徴や傾向によっていくつかの種類に分類できます。正しく対処するため、それぞれの特徴を知っておきましょう。
正常性バイアス
「正常性バイアス」は、危機的状況に陥っても自分に都合の良い情報のみを重視し、都合の悪い情報を無視または過小評価する傾向です。これにより、問題を先送りしてしまうことがあります。
たとえば、「業界全体の景気が悪化しても、自分の会社は倒産しないだろう」「住んでいる地域で災害が起こっても自宅は大丈夫」と考えるのは、正常性バイアスの影響です。
正常性バイアスは、問題や被害を拡大してしまう可能性があるため、注意が必要です。仕事では、問題を放置することで大きな問題に発展するケースがあります。
集団同調性バイアス
集団のなかで多数派の意見や行動に合わせてしまう傾向のことを、「集団同調性バイアス」と言います。自己評価が低いことや、同調圧力を感じることが原因と考えられます。
たとえば、コンプライアンス違反があるのに誰も注意しない現象や、津波の警報が出ているのに近隣の人々が避難していないため自分も避難しないと判断する人々が多数いる現象は、集団同調性バイアスの一例です。
企業や組織で起きる集団同調性バイアスには「ハラスメントが横行しているのに誰も意見を言わない」「会議で反対意見が出ない」などがあげられます。
集団の意見を優先して自分の主張や適切なコンプライアンスを軽視してしまうのが集団同調性バイアスの特徴です。
ステレオタイプバイアス
「ステレオタイプバイアス」とは、所属する組織や属性によって人の特徴を決めつける傾向のことです。
性別や年齢、職業、国籍、人種、血液型など、さまざまな要因に対してステレオタイプが存在します。
特に性別に対するステレオタイプバイアスは「ジェンダーバイアス」と呼ばれ、「女性は家事をするべき」「飲み会でお酌をするのは女性」「工事現場で働くのは男性」「男だから泣いてはいけない」といった偏見が見られます。
アインシュテルング効果
「アインシュテルング効果」は、自身が慣れ親しんだ価値観や思考方法にとらわれて、柔軟に視点や考え方を変えられない状態を指します。
たとえば、「過去の成功体験にこだわって、状況の変化に対応できない」「いつも同じ方法しか試さない」といった考え方はアインシュテルング効果の典型的な例です。
アインシュテルング効果は、柔軟な考え方や新しい視点を持つことを阻害し、イノベーションの妨げになるのが問題点です。企業の成長を促進するには、アインシュテルング効果に対処する必要があります。
確証バイアス
「確証バイアス」は、自分の信念や仮説を支持する情報だけを集め、否定する情報には目を向けない傾向を指します。これにより、都合の良い視点だけで世界を見ることになります。
企業で見られる確証バイアスの例には「残業しない人間はモチベーションが低い」「ワーキングマザーは家庭を優先して、仕事をないがしろにする」といったものがあります。
また、第一印象に左右されやすいのも確証バイアスの特徴です。見た目や印象だけで優秀な人材と判断してしまうことがあります。採用後に期待したレベルに達しなかった場合は、面接時に確証バイアスが影響していた可能性も考えられます。
慈悲的差別
「慈悲的差別」とは、自分より立場や力が弱いと思われる者に対して、本人に確認することなく勝手な決めつけで、不要な配慮や気遣いをすることです。自分自身は思いやりのつもりでも、実際には相手を傷つけてしまう可能性があります。
具体例としては「女性には重い荷物を絶対に持たせない」「小さな子どもがいるから飲み会には誘われたくないだろう」「高齢者だからボリュームのある肉は食べないだろう」などがあげられます。
慈悲的差別による行動や言動は、相手の事情や心情を聞かずに先回りして決めつけてしまうため、配慮や気遣いをしたつもりが逆効果になることも考えられます。
ハロー効果
「ハロー効果」とは、何かを評価するときに目立ちやすい特徴に注目しすぎて、ほかの特徴の評価が歪められる現象を指します。この言葉は、1920年に心理学者のエドワード・ソーンダイクが自身の論文で初めて使いました。
「高い装飾品を身に着けているから育ちが良いのだろう」「容姿が良いから能力も高いのだろう」といった対象となる人物の一つの要素だけに注目して、ほかの要素も無意識にポジティブに決めつけてしまうのは、ハロー効果によく見られる傾向です。
人事評価においてハロー効果が働くと、自身が好意的に感じる人物や、親近感を覚える人物をすべて肯定的に評価するため、適切な人事評価ができなくなってしまいます。
企業ができるアンコンシャスバイアスへの対処法
ここからは、アンコンシャスバイアスへの対処法を詳しく解説します。
アンコンシャスバイアスを認知させる
まず、職場の改善に向けて重要なのは、従業員一人ひとりがアンコンシャスバイアスを認知することです。
従業員は「自分自身もアンコンシャスバイアスのかかったコミュニケーションや人事評価を行っている」と気づく必要があります。
アンコンシャスバイアスは無意識の行動であり、それぞれが「自分は偏った見方をしていないか」を再確認しなければなりません。
アンコンシャスバイアスを認知するには、自身の行動や判断を一定期間メモするのが効果的です。後でメモを見返すことで、自分の行動や判断にアンコンシャスバイアスがかかっていないかを判定しやすくなります。
評価基準を整える
アンコンシャスバイアスを認知した上で、企業の運営体制や評価基準を整えます。
特に人事評価では、評価項目を詳細に設定し、一貫性のある要件や基準を明確に定めることで、アンコンシャスバイアスが影響する余地を減らすことができます。
さらに、採用活動においてもアンコンシャスバイアスへの対処が必要です。アンコンシャスバイアスへの対処としては「面接での質問項目を統一する」や「学歴や職歴、顔写真など職務には関係ない項目をすべて隠した状態で合否の判定を行う」といった方法が効果的です。これにより公正な判断が行われるようになります。
社内研修を実施する
評価基準を整えたら、社内研修の実施を検討しましょう。研修を行うことによって、アンコンシャスバイアスへの理解が深まり、改善に向かって対処しやすくなります。
社内研修では、アンコンシャスバイアスの解説や改善方法についてのトレーニングを行います。外部から講師を招いて研修を実施するのもよいでしょう。
ただし、アンコンシャスバイアスへの対処は一度の研修だけでは完了しません。時間が経過すると意識や認識が薄れる可能性があります。定着させるには、長期にわたって繰り返し研修を行うことが重要です。
アンコンシャスバイアスに対処して働きやすい職場をつくろう
多様性や公正性が重視されるなか、企業でもアンコンシャスバイアスが注目されています。アンコンシャスバイアスは、無意識なハラスメントや不適切な人事評価につながるため、企業は正しく対処する必要があります。
対処するには、まず従業員一人ひとりがアンコンシャスバイアスを認識することが大切です。認識や理解を深めるため、社内研修を行うのも効果的です。アンコンシャスバイアスに対する理解を深めた上で、運営体制や評価基準を構築しましょう。
アンコンシャスバイアスへの対処は、長期的な視点で計画的に行う必要があります。適切な対処を行って、働きやすい職場をつくっていきましょう。
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