DX化社会の到来によって、リスキリングへの関心が高まっています。リスキリングはDX時代の人材戦略の一つで、それまで会社になかった職種やスキルを、社員教育によって獲得する方法です。
この記事ではリスキリングの概要と会社にもたらすメリット、おすすめの教育内容やスキル、リスキリングを進める具体的なステップなどを解説します。リスキリング導入を考える際の参考にしてください。
リスキリングとは?
リスキリングの概要を解説します。またリカレント教育との違いについてもみていきましょう。
人材育成の概念
リスキリングの語源は「Re-skilling」で、日本語では「スキルの再取得」という意味があります。
経済産業省ではリスキングを、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。
つまりリスキリングとは、会社全体で社員のスキルアップにとりくむ、人材育成の概念です。
リカレント教育との違い
リスキリングと似ている言葉にリカレント教育があります。両者の違いは「誰が教育を主導するのか」という点です。
リスキリングを主導するのは、会社です。トップ層が「今後〇〇のスキルを持つ人材が必要となる」という事業戦略を立て、既存の社員に教育の場を与えて必要スキルを持つ人材を育てます。そのため社員は将来にわたり、会社で価値を創出するよう期待されます。
それに対してリカレント教育を希望するのは社員個人です。「〇〇のスキルを身につけたい」と望み、本人の意思で学びます。
リスキリングが注目され始めた背景
実施したアンケート(2022年3月)によると、リスキリングに取りくみたいと考える20代ビジネスパーソンは8割以上です。
なぜリスキリングが注目を集めるようになったのか、背景について解説します。時代の変化を知り、自社の人事戦略に活かしてください。
DX化の加速
経済産業省が『DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』を発表してから、「2025年の崖」という言葉が話題になっています。
レポートでは、現在日本で使用している既存システムは2025年までに老朽化・複雑化・ブラックボックス化するので、速やかなDX化により問題を解消する必要があると提言しています。
これからの時代はICT(情報通信技術)が社会に浸透して、会社にも大きな影響を及ぼすといわれています。
政府主導でDX化が加速するなか、会社はデジタル技術を取り入れてビジネスを改変しなければ、生き残ることはできないでしょう。
日常的に行われてきた業務プロセスを見直す必要がありますが、新しいシステムを取り入れても、既存の社員がツールを使いこなせなければ意味がありません。
そこで新しいシステムや職種、デジタルツールなどに対応できる人材を育てるためにリスキリングが注目されています。
技術的失業への対策
デジタル化が進むにつれて、これまで人間が行っていた仕事は今後AIに置き換えられていく可能性があります。
しかしリスキリングで人間にしかできないスキルを身につけられれば、社員は今後も会社の中で価値を見いだせるでしょう。
また、採用市場でも専門性の高いスキルを持つ人材の争奪戦が過熱すると予想されます。
新型コロナウイルス感染症流行の影響
新型コロナウイルス感染症流行の影響により、会社は必要に迫られてテレワークの推進、オンラインによる顧客とのやり取りをする環境を整えました。
「新しいやり方を取り入れなければ、今後変化していく社会では生き残れない」という危機感から、リスキリングに関心を寄せ始める人も増えています。
リスキリングの導入で得られるメリット
ここではリスキリング導入のメリットについて解説します。
業務を効率化できる
リスキリングにより新しいIT知識やスキルを導入できれば、業務の自動化やスピードアップが期待できます。
たとえば、ペーパーレス化を推進したい場合、システムやツールを使いこなせる人材がいれば業務を効率化できます。また、情報が電子データ化されると、会議の準備やエラーのチェックなど紙ベースの作業にかかっていた人手と時間を削減可能です。
このように、リスキリングでスキルと獲得した社員を活かしてデータ分析や情報管理ができれば、新しい価値の創造も可能です。
採用・育成コストの削減
新たに人材を採用すると、採用や育成にコストがかかります。また、今後スキルを持った優秀な人材は奪い合いになり、獲得が難しくなるでしょう。
しかしリスキリングによって既存の社員を育てると、新たに人材を採用する必要がありません。リスキリングは会社と社員、双方にとってメリットがあります。
新たなアイディアの発見
リスキリングで得られるのは、単なる新スキルの習得だけではありません。
新しいスキルを習得した社員は、視野が広がり、商品やサービスの開発に関わる革新的なアイディアを発見しやすくなるでしょう。
社員はこれまで知らなかった技術や方法をリスキリングにより知ることで、一段階成長し、新たなアイディアの創出を始めます。
リスキリングを導入する際の5ステップ
リスキリング導入の流れをみていきます。5つのステップを踏んで、スムーズにリスキリングを取り入れましょう。
1.習得すべきスキルを決める
まずは、リスキリングによって社員に何を習得してもらいたいのかを考えましょう。今後の事業計画を立て、必要となる職種やスキルを算出します。
このとき、現社員のスキルを可視化しておくと「誰がどのようなスキルを持っていて、理想と現実の間にどれくらいのギャップがあるのか」を把握できます。
現社員のスキル可視化により、習得させるべきスキルを確定し、金銭的・時間的コストを算出しましょう。
2.対象者を決める
会社の経営戦略を立てて現在と未来の間のスキルギャップを把握したら、次にリスキリングにより教育すべき人材を選定します。
まずは変革を必要とする部署を決定します。たとえば営業の今後の戦略が「足で稼ぐ営業から、デジタルマーケティングや、インサイドセールスへ切り替えていく」なら、対象部署は営業です。
会社が必要としている新しいスキルを率先して身に着け、社内をより良い方向へリードしていける社員をリスキリングの対象にしましょう。
3.教育方法を決める
リスキリングの対象となる社員が、効率的に学ぶための教育方法を決定します。会社が教育プログラムを構築し、それに沿って新スキルを習得させましょう。
リスキリングは、研修やオンライン講座、e-ラーニング、社会人大学などさまざまな方法があります。自社の社員に適した方法を取り入れてください。
またリスキリングに複数のスキル習得を取り入れようとするケースがあります。しかし教育内容を詰め込みすぎてしまうと、リスキリング対象者の選定や、本来の目的が定まらないので注意が必要です。
4.リスキリングを実施する
対象者と教育方法が決まったら、リスキリングを実施します。リスキリングは会社主導で行うものなので、実施するのは就労時間内にしましょう。
また人事は人材管理ツールを使い、各対象者の学習進捗を把握します。学習にかけている時間、理解度、習熟度なども把握しておきましょう。進捗が思わしくない場合は、ヒアリングを行いサポートをします。
リスキリング対象者は、通常業務を抱えています。従来の仕事量が変わらないままリスキリングの時間を作ろうとすれば、当然本人の負担は重くなるでしょう。人事は各部署と連携して、仕事量の調整やリスキリングの時間を作るためのサポートを行います。
5.習得したスキルを実践する
リスキリングでスキルを身につけても、実践の場がなければ意味がありません。スキル習得後は、スキルを実施する場を用意します。
その際、いきなり大きなプロジェクトを任せるのではなく、トライ&エラーで新しいスキルを少しずつ経験させる「小さな場」からのスタートが良いでしょう。
スキルを習得させたら終わりではなく、継続して社員の声をヒアリングしていきましょう。
リスキリングで取り入れたい学習内容・スキル
企業のDX化にあたり、取り入れたいスキルを5つご紹介します。自社で習得するスキルを決定する際の参考にしてください。
プログラミング
Re就活による20代ビジネスパーソンへのアンケート「リスキリングの際に身に付けたいスキル」のアンケートを取った結果、プログラミングスキルが最多でした。若手社員は今後プログラミングスキルが必要になると考えているようです。
プログラミングを学んで習得できるスキルは、簡単にいうと「コンピューターに指示を出すスキル」です。コンピューターは、人間の言語がわかりません。そのためコンピューターがわかる言語を習得し、指示を出す必要があります。またエラーが出た際に対処できるのもプログラミングスキルです。
プログラミング言語を学ぶと、Webサイトやアプリの開発、AI・機械学習の開発、会社の顧客管理や売上計算処理の開発などができるようになります。会社にICTの導入を進めていくなら、会社にとって重要なスキルを持つ人材となるでしょう。
リスキリングを行う際は、まずプログラミングに関する資格取得を目標にするのがおすすめです。資格にはAWS認定資格、PHP技術者認定試験、C言語プログラミング能力検定などがあります。
Web制作
Web制作を学ぶと、ホームページを作成できます。「会社のホームページを外注せず自社で作りたい」「ECサイトに力を入れたい」と考えているなら、リスキリングの学習内容としておすすめです。自社でWeb制作を行うと、制作コストが人件費のみ、デザインや機能を自由に変更できるといったメリットがあります。
また社内にWeb制作のノウハウが蓄積されるので、デザインの修正や機能追加、リニューアルなどにもスムーズに対応できるようになるでしょう。
しかし自社で制作したホームページは、制作会社が作りこんだサイトに比べてデザイン面、セキュリティーなどが劣るケースがあります。デザイン関係に強い社員にリスキリングする、ホームページの維持管理を複数人で行うといった対策を行いましょう。
Web制作に関する資格には、ウェブデザイン技能検定やWebクリエイター能力認定試験、アドビ認定エキスパート(ACE)などがあります。リスキリングでは、資格取得を目指すのも一つです。
Webマーケティング
Webマーケティングを学ぶと、Webサイトを訪れたユーザーの行動特性を解析できます。ユーザーの求めている情報を探り、よりユーザーが満足できるようにWebコンテンツを改善できます。
Webマーケティングと似たものにはデジタルマーケティングがあります。デジタルマーケティングはWebサイトを訪れるユーザーだけではなく、アプリやイベント、店頭の来店データなども含め、広範囲にわたってユーザーの行動特性を調べるものです。
「ECサイトに力を入れたい」「インサイドセールスを導入したい」「Web広告を効果的に利用したい」場合は、リスキリングでWebマーケティングやデジタルマーケティングを学ばせるのがおすすめです。
関係する資格には、Webアナリスト検定やInternet Marketing Analyst(IMA)検定、ウェブ解析士認定、ネットマーケティング検定などがあります。
データ分析やAI活用
インターネットの発達により、会社が蓄積して扱えるデータが増えました。膨大なデータを活用し、新しい価値を提案できるデータ分析のプロを「データサイエンティスト」と呼びます。
今後、コンピュータ-によって得られる膨大なデータを元にした識別や予測は、AIが担う時代がくるでしょう。しかしそのデータをもとに何を変え、どこに価値を見出すか決めるのは人間です。AIの解析をパートナーとして、データから改善の提案や価値の創造を行うデータサイエンティストは、今後需要が増えると予想されます。
データ分析やAI活用が得意なデータサイエンティストの育成は、「データをもとに業務を効率化したい」「業務の一部にAIを導入したい」「データを元にユーザーやターゲットを分析したい」といった会社に向いています。
英会話
グローバル化が進むなか、英語関係のスキルも重要視されています。これまで英語が必要でなかった会社や人材にも、英語力が求められ始めました。
英語にも業務にも精通している人材はなかなか採用市場に現れず、他社とも取り合いになります。しかし自社で英語研修を行えば、社員の英語力を伸ばせるでしょう。
「海外との取引を円滑に行いたい」「海外勤務できる社員を増やしたい」と考えるなら、すでに業務に精通している社員を対象とします。
リスキリングを導入する際の注意点
リスキリングを成功させるためにも、注意点を知っておくのは重要です。ここではリスキリングのポイントをお伝えします。
社員の意見に耳を傾ける
リスキリングは、社員の意思ではなく会社の意思で実施されます。「業務だって忙しいのに、新しいことなんて覚えられない」「なんのために学習しなければならないかわからない」など、社員から不平不満がでる可能性もあります。
社員のモチベーションを保ち続けるためにも、リスキリングの重要性をしっかりと伝え、社員の意見も聞きながら進めましょう。
学習進度は、社員のモチベーションも影響します。人事側で学習進捗を把握し、かんばしくないようなら、ヒアリングして社員も納得のいくリスキリング体制を整える必要があります。
サポート体制を整える
リスキリングの成功は、サポート体制にかかっています。リスキリングは会社主導の社員教育なので、対象者がリスキリングに専念できるように体制を整えましょう。
ポイントとなるのは、社風と業務量です。「学ぶより、仕事のほうが重要だ」という社風では、リスキリング対象者も肩身が狭く学習時間の確保も難しくなります。トップ層が経営戦略やビジョンを語り、社員にリスキリングの重要性を周知しておく必要があるでしょう。
またリスキリングは個人の自由意思による学習ではなく会社主導による社員教育なので、学習時間は基本的に就労時間内です。対象者が学習時間を確保できるように、業務量を見直して負担を軽減する必要があります。
リスキリングでDX時代に対応できる人材を育てよう
DX時代を迎えるにあたり、会社にそれまでなかったスキルや職種に関する技術を、会社主導で社員教育するのがリスキリングです。
リスキリングを成功させるためには、今後会社が必要とするデジタルツールやツールを使いこなす人材を選定しなければなりません。
会社が生き残っていくためにもリスキリングを成功させて、社内にDXを推進していける人材を育てましょう。
就職・転職・採用を筆頭に、調査データ、コラムをはじめとした担当者の「知りたい」「わからない」にお応えする、株式会社学情が運営するオウンドメディアです。