企業にとって、社員の早期退職は避けたい問題でしょう。退職を防ぐには、新たに入社した社員に早く職場に慣れてもらい、力を発揮できる環境を整える必要があります。
この記事では、早期退職の防止と早期戦力化に有効な施策として検討したい「オンボーディング」についてご紹介します。オンボーディングの定義をはじめ、メリット・デメリットや導入プロセス、成功させるためのポイントなどを解説するので、新入社員の離職対策を検討中の人事担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
オンボーディングとは
オンボーディングとは新規採用した人材が職場で活躍して定着するよう、企業側が働きかける取り組みを指します。
対象者は新卒社員や中途入社など、新しく企業の一員となったすべての従業員です。取り組みの内容によっては、社内異動者や出向者を含むケースもあります。
オンボーディングに含まれる内容は幅広く、業務時間内でのミーティングや研修だけではなく、ランチや歓迎会など業務時間外の取り組みも含まれるのが特徴です。
似たような意味合いとして「OJT」「リテンション」が使われることも多く見られます。OJTは、実務を通して業務内容を教育する手法です。オンボーディングは業務時間内外の取り組みを含むため、オンボーディングの中にOJTが含まれていると解釈できるでしょう。
リテンションは、企業内に人材をとどめるために実施する施策です。ねらいはオンボーディングと似ていますが、オンボーディングは新入社員向けなのに対し、リテンションは既存社員に対する施策という違いがあります。
オンボーディングを実施する目的
オンボーディングは新しい従業員が活躍できるようにする取り組みです。具体的な目的として、次があげられます。
- 新入社員の早期離職防止
- 新入社員の早期戦力化
- 教育環境の格差をなくし標準化する
それぞれについて、詳しく解説します。
新入社員の早期離職防止
オンボーディングを実施することで、コミュニケーション不足を理由とした早期離職の防止が期待できます。
オンボーディングは、新入社員と既存社員の間で十分にコミュニケーションをとる施策です。業務内外で継続的なコミュニケーションを取ることで、実務の目的ややりがいが理解でき、既存社員との信頼関係も構築できます。
既存社員との信頼関係ができると、仕事や人間関係のギャップを感じにくくなるため、新入社員の定着率が上がるでしょう。
新入社員の早期戦力化
オンボーディングで継続した教育を実施することで、新入社員がパフォーマンスを早期に発揮できる足掛かりにできます。
新入社員は、企業内における仕事内容や職場のシステムなどを知る必要があります。また、新卒入社の社員においては、社会人としてのルールやマナーを学ぶことも不可欠です。オンボーディングを実施することで、これらの内容を効率的に伝えられ、短期間での習得が期待できます。
明文化されていない社風・企業文化・人的交流などについては、既存社員とのコミュニケーション機会を積極的に設けると、早期に職場環境へ馴染みやすくなります。
平等な教育環境の整備
教育環境の整備と標準化を図ることもオンボーディングの目的の一つです。
現場の裁量に任せたOJTでは、内容が標準化されておらず、部署や担当者によって人材育成・教育に格差が出ます。オンボーディングは、たとえば人事や総務などの担当部門が先導して、会社全体で実施する施策です。担当部門によって内容を体系化・標準化して行うため、部署間での格差がなくなり、平等な教育環境が提供できます。
またより標準化を進める方法として、オンボーディングの実施時に外部研修機関の併用も検討してみると良いでしょう。
オンボーディングのメリットとデメリット
オンボーディングのメリット
オンボーディングには次のようなメリットがあります。
- 採用コストを削減できる
- 生産性が高まる
- 従業員満足度が向上する
それぞれについて、詳しく解説します。
採用コストを削減できる
早期離職を防止し離職率を下げることができれば、新規採用のコスト削減につながります。
少子高齢化で人材確保の必要性に迫られている現在、新卒・中途ともに採用にかかるコストは増加傾向です。早期離職されると、これらにかかるコストが無駄になるうえ、さらに新たな求人コストが必要となります。
オンボーディングで企業への定着率を高めると、余分な求人コストがかからず、新入社員の働きにより採用コストの回収も見込めます。
生産性が高まる
効果的なオンボーディングの実施により、生産性の高まりが期待できます。
新入社員が職場環境や仕事内容を早期で理解できると、早い段階から戦力として企業に貢献するようになるでしょう。同時に、教育担当者や周りの従業員もオンボーディングから手がはなせるようになり、本来の仕事に集中しやすくなります。
結果的に、企業全体で生産性を高められる効果が見込めるでしょう。
従業員満足度が向上する
従業員のエンゲージメント向上にも、オンボーディングが貢献します。
オンボーディング施策により、コミュニケーションが活性化すると、新入社員だけでなく既存の従業員も巻き込んだつながりの強化が望めます。組織内で自分の役割の理解が進み、助け合いも生まれやすくなるでしょう。また、オンボーディング施策の実施により、新入社員も「組織の一員として認められた」という満足感を得やすくなります。
オンボーディングの実施で、従業員同士に信頼関係が生まれます。その効果で働きやすい職場環境となり、従業員満足度が向上するでしょう。
オンボーディングのデメリット
オンボーディングの実施を検討する際には、次のようなデメリットがあることもおさえておきましょう。
- 準備に時間と手間がかかる
- 既存の従業員の負担が増える
それぞれについて、詳しく説明します。
導入に時間や手間がかかる
オンボーディングを全社で導入するためには、時間と手間が必要です。
オンボーディングの導入時は、自社で実施可能な仕組みを設計し、コンテンツを準備することが求められます。オンボーディングでどういった効果を得たいのか、目的が曖昧だと成果の出ない可能性があります。また、実施の際も会場や講師の手配など、事前準備が不可欠です。
社内で実施体制を整備するまでには、時間と手間、コストがかかることを念頭に置いて進めるようにしましょう。
既存の従業員の負担が増える
既存社員へ協力を求める際に、業務の負担となることが考えられます。
既存の従業員には、本来の業務に従事する時間を割いてもらい、オンボーディング施策を実施することとなります。長期的な負担となる場合、既存社員への負担が増大し、モチベーションが下がる可能性も否定できないでしょう。
オンボーディングは新入社員のための施策ですが、既存社員の協力なしでは成り立ちません。既存社員から快く協力が得られるよう、オンボーディングを導入する目的やメリットへの理解を深めてもらうことが重要です。
オンボーディングの導入プロセス
オンボーディング導入の手順をご紹介します。
- 目標の設定
- プランの作成・見直し
- 実践
- 振り返り
それぞれの項目について、次に詳しく解説します。
1.目標の設定
まずは、達成したい目的を明確にして、導入に対する目標設定をします。
新入社員に対して「どのようなスキルを求めるのか」「どのような活躍を求めるか」「最終的にどのような姿となってほしいか」など、あるべき理想像を明確にして言語化しておきましょう。
明示することによって協力してくれる既存社員への情報提供が容易になり、価値観の共有もしやすくなります。
2.プランの作成・見直し
目標が設定できたのち、具体的なプランを作成していきます。
「最終的にはどうなれば良いのか」、将来的にあるべき姿を具体的に設定します。それをもとに、1週間・1ヶ月・半年といった細かいスケジュールを立て、それぞれのタイミングで達成すべきプランを作成すると良いでしょう。プランの作成時は、新入社員が抱えやすい問題点を考慮し、その問題を解決できるものも織り込むようにします。
作成したプランは、事前に新入社員を迎える現場の従業員全員で共有し、認識のズレが無いか確認しておきましょう。オンボーディングは長期継続して行う施策であるため、受け入れる部署の環境についても、無理の生じないよう考慮することが大切です。
3.実践
プランが固まったら、新入社員を迎えてオンボーディングを実践していきます。
最初のうちは体制が整わず、試行錯誤することもあるでしょう。課題に直面したらその都度記録しておき、今後の軌道修正につなげます。
既存社員側が迷っている姿を見ると、新入社員が不安に思ってしまうかもしれません。新入社員には現在の状況を包み隠さず報告し、不用意に不安をあおることのないよう注意が必要です。
オンボーディングはあくまで新入社員をサポートする施策であり、プラン通り実行するのが目的ではありません。かかわるすべての社員とコミュニケーションを取りながら、臨機応変に進めることが大切です。
4.振り返り
オンボーディング開始後は、ポイントとなるタイミングで振り返りを実施します。
対象者の新入社員と、オンボーディングにかかわったすべての社員から意見をヒアリングします。内容についての感想を聞くのと合わせて、今回の施策の効果や問題点も吸い上げて、次回以降の改善や見直しにつなげられるようにしましょう。
オンボーディングの施策具体例
業種・職種・労働環境などの要因によって、とるべき施策は異なります。ここではオンボーディングの施策について、入社前と入社後にとられる施策例をご紹介します。自社の目的に合わせた具体的な施策を検討する際の参考にしてみてください。
入社前の施策具体例
オンボーディングは、入社前の内定者に対しても実施します。たとえば次のような施策があります。
- 入社前の研修、インターン
- 内定者同士の交流会
- 既存の従業員との懇親会やランチ会
- 会社見学
- 面談
- 社内報や企業理念ブックなど資料の送付
- 課題図書や通信教育、外部のeラーニング提供 など
入社前の段階では企業の風土や環境がわからないため、内定者の多くは不安や疑問を抱えています。それらを払拭して入社意欲を高めるとともに、入社後の自分自身の姿がイメージできるような施策をとると良いでしょう。
入社後の施策具体例
入社後もオンボーディングは継続することで、より効果を期待できるようになります。
- 社長や経営陣による講義
- 企業理念・文化やルール・社内用語を学ぶ研修
- 業界の知識や技術を学ぶ研修
- 社内の各部署、施設見学会
- ランチ会、歓迎会、交流会、同期会
- 質問窓口、相談担当の設置
- 主任やリーダーなどキーパーソンとの面談
- OJT
- 新入社員の個別面談で短期目標の設定と達成サポート など
入社後は、早い段階で社風になじんでもらい、会社へのエンゲージメントを高める施策が中心となります。
中途採用の社員に関しては、企業への貢献を入社すぐの段階で求められることが多く、オンボーディングの施策が十分取られないことも考えられます。離職を防ぐには中途採用でもオンボーディングが重要と理解し、重点的に実施するよう注意が必要です。
オンボーディングを成功させるためのポイント
オンボーディングで求める効果を得るためには、実施にあたっていくつかのコツがあります。
- 事前準備を徹底する
- 組織全体でサポートする体制を整える
- 教育システムを構築する
- 期待値のズレを擦り合わせる
- 目標を細分化しスモールステップで進める
それぞれ詳しく解説します。
事前準備を徹底する
オンボーディングの成功には、何よりもしっかりとした事前準備が大切です。
目標設定・制度の設計・マニュアルの作成・教育担当者の選定などの事前準備を怠ると、オンボーディングがうまく機能せず、むしろモチベーションの低下を招く可能性があります。
オンボーディングに関わる社員に関しても、認識の共有や社員間の連携が十分でなければスムーズに進めることはできません。二重チェックやツールの事前テストなど、考えうる限りの事前準備をしっかりと行うことが重要です。
組織全体でサポートする体制を整える
オンボーディングは組織全体で行う施策と捉え、全体で取り組む体制を整えるようにします。
オンボーディングの実施は、人事部門や担当者だけではなく、新入社員を迎える部署の従業員全員で行うのが基本です。先輩・上司による縦のサポート、同期や同年代の横のサポートと、縦横でサポートできる体制を整えておきましょう。
合わせて、部署を超えた上司や先輩とも相談できる機会を設けるなど、企業全体で新入社員をサポートできる体制として、オンボーディングの価値観を共有しておくことも重要となります。
教育システムを構築する
新入社員が早期に業務で成果を出せるよう、教育体制も見直しておきましょう。
社内ルールや業務内容を早期に理解できるように、いつでも内容確認できるマニュアルや社内サイトを作成しておくのがおすすめです。また、研修や講義の機会を多く設定し、知識を深められるようにすると、仕事へのモチベーションにつなげられます。
その際、担当者によって教育方法が異なると混乱を招きかねません。指導担当者間で教育方法について擦り合わせ、認識を共有しておくようにしましょう。
期待値のズレを擦り合わせる
離職の原因の一つとして「入社前に思っていたこととのギャップ」があげられます。期待値のギャップによる離職を生まないため、入社前から新入社員と企業側の期待値をすり合わせておきましょう。
また、部署ごとに新入社員へ求めるものが異なる場合も、新入社員の混乱を招く可能性が高くなります。企業全体での新入社員へ求める期待値をすり合わせ、意識を共有しておくと誤解が生じにくくなります。
オンボーディングは新入社員のサポートとして実施しているのを忘れず、期待値のすりあわせを常に意識するようにしましょう。
目標を細分化しスモールステップで進める
達成可能な小さな目標を設定することで、モチベーション低下を防げます。
新入社員に対して大きな目標だけを与えた場合、なかなか達成できずモチベーションの低下につながる恐れがあります。それを防ぐため、短期間で達成可能な目標を細かく設定し、成功体験を積む「スモールステップ法」をとると良いでしょう。
小さな目標を達成するたびしっかりとフィードバックも行い、成功体験を積んで意欲的な行動やモチベーションアップにつなげると、新入社員の意欲的な行動へとつなげられます。
オンボーディングで新入社員のエンゲージメントを高めよう
オンボーディングを新入社員教育に導入することで、早期離職の防止や従業員の早期戦力化へつなげられます。
ただし、受け入れる企業が目的意識を持たずに実施していると、思うような成果が期待できません。企業全体で取り組むことで、新入社員のエンゲージメント向上につなげられます。
企業によって適したオンボーディングの内容はそれぞれ異なります。実践と振り返りを随時実施して、自社に合ったオンボーディングの運用方法を見つけ出していきましょう。
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