Quiet Quitting(静かな退職)が企業に起きる理由|原因や対策まで解説
2023.09.11
Quiet Quittingとは、「静かな退職」という意味です。必要以上に働かない労働スタイルのことを指し、近年、Quiet Quittingは増加していると言われています。
本記事では、Quiet Quittingの詳しい意味や具体例、Quiet Quittingが生まれる原因を解説します。企業がQuiet Quittingの対策をすべき理由や、具体的な対策も紹介するので、Quiet Quittingについて考える際の参考にしてください。
Quiet Quittingとは
Quiet Quittingはキャリアコーチのブライアン・クリーリー氏がTikTokで発信した言葉です。2022年には流行語の一つとなりました。
Quiet Quittingが意味することや現れ方の具体例を解説します。それぞれ詳しく見ていきましょう。
Quiet Quittingの意味
「Quiet Quitting」は、日本語で「静かな退職」と訳されます。しかし、退職と言っても実際に勤務先から離職するわけではありません。
仕事を続けるために、契約上義務付けられた必要最低限の仕事のみを行い、それ以外の業務を辞めることを意味しています。
つまり、心理的には勤務先から離れており、職務に就いたまま仕事へ注ぐエネルギーを静かに減らしていく状態です。サービス残業や時間外のメールチェックなど、契約上義務付けられている範囲外の業務を辞め、必要以上に一生懸命働かない労働スタイルを指しています。
Quiet Quittingの具体例
Quiet Quittingは、次のような形で現れます。具体例は次のとおりです。
- 毎日定時に退社する
- 時間外に仕事のメッセージへの返信をしない
- 職務記述書に含まれていないプロジェクトは断る
- ボランティア扱いの仕事はしない
- 簡単な仕事のみ引き受ける
- 自分の仕事に感情を込めない
- タスクに余分な労力を費やさない
Quiet Quittingは静かな退職と呼ばれる通り、従業員の離職の一形態であると考えられています。これはQuiet Quittingによってパフォーマンスが低下し、周囲のモチベーションを下げたり全体の生産性を低下させたりする可能性があるためです。
Quiet Quittingの改善に企業が取り組むべき理由
Quiet Quittingは、ワーク・ライフ・バランスを重視する価値観の現れとも言える働き方です。働き方改革が推進され、働く人の価値観が多様化する現代においては、必ずしも否定的に捉える必要はないでしょう。
ただし、Quiet Quittingは企業にとって、生産性を低下させる危険性も含んでいます。そのため企業は次のような理由で、Quiet Quittingの改善に取り組む必要があります。
- 企業の業績悪化を未然に防ぐ
- 従業員一人ひとりのパフォーマンス低下を防ぐ
- 企業体質の改善につながる
それぞれ詳しく解説します。
企業の業績悪化を未然に防ぐ
Quiet Quittingは、必要最低限の労力と時間で、義務付けられた範囲内の仕事のみをおこないます。「より良くしよう」「どうすればより効率や生産性をあげられるのか」といった取り組みをしないため、モチベーション高く業務をしている従業員と比べると、生産性は低くなる可能性が高いでしょう。
Quiet Quittingが存在することで、ほかの社員までQuiet Quitting化する恐れもあります。生産性が低い従業員が増えれば、企業の業績も悪化する恐れがあります。そのためにも、企業はQuiet Quittingの改善に取り組む必要があるでしょう。
ただし、これまで過剰な労働をストレスや負担に感じていた従業員にとっては、Quiet Quittingの考え方によってストレスから解放される場合もあります。その場合、ストレスがなくなった分パフォーマンスが向上し、成果を出すといったケースも考えられます。
従業員一人ひとりのパフォーマンス低下を防ぐ
Quiet Quittingは、従業員が企業への関与や意欲を失い、仕事に対するエネルギーや情熱をなくすことにもつながります。勤務先の職場や仕事から気持ちが離れている状態であるため、従業員の継続的なパフォーマンス低下が懸念されます。
また、モチベーション高く業務を行っていたメンバーがQuiet Quittingの状態になると、チーム全体の雰囲気が悪くなる場合もあるでしょう。周囲の人に対して、仕事へ消極的な態度を抱かせてしまうことも考えられます。
このような従業員一人ひとりのパフォーマンス低下を防ぐためにも、企業はQuiet Quitting改善に取り組むと良いでしょう。
Quiet Quittingの解消が企業体質の改善につながる
Quiet Quittingによって、企業の課題が明らかになることもあります。Quiet Quittingで明らかになった課題は、自社で優先的に取り組むべき課題である場合も多いです。
そのため、Quiet Quittingになった従業員の声を聞き流さず、耳を傾けることが大切です。従業員が発言する場を設けたりヒアリングをしたりすることで、なぜQuiet Quittingが生まれているのかを知ることができるでしょう。
Quiet Quittingが生まれている原因を探り、継続的に対策することで、企業体質の改善につなげられる可能性があります。
Quiet Quittingが生まれる原因
Quiet Quittingが生まれる原因は、働く人の意識の変化や頑張ることへの燃え尽き、仕事や職場への不満であると考えられます。それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。
仕事に対する意識の変化
働き方改革が推進されている近年では、働く人の価値観が、仕事中心の人生からワーク・ライフ・バランスを重視する考え方へとシフトしてきています。
ワーク・ライフ・バランスとは、仕事とプライベートのバランスが取れた生活をすることです。仕事に対して個人の時間と労力を過剰に注ぎ過ぎることなく、プライベートの時間も重視した生き方を選択する人が増えてきました。このような働き方に関する意識の変化は、新型コロナウィルス感染症拡大がきっかけで急速に広がり、現在では特にZ世代において率先して受け入れられています。
このようなワーク・ライフ・バランスを実現するために、Quiet Quittingという選択がとられている可能性が考えられます。
頑張ることに対する燃えつき
働き方改革やワーク・ライフ・バランスの考え方が広く浸透する以前は、サービス残業や時間外のメールチェック、職務範囲を超えたボランティアのような業務を行うことが良しとされる傾向にありました。
「仕事=人生」といったように、個人の能力や時間を仕事へ集中的に注ぐことが「頑張っている」といった周囲からの評価につながりやすかったのです。
しかし、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、自分の人生や働き方を見直し、プライベートを犠牲にしてまで仕事へエネルギーを注ぐ生き方に疑問を感じたり、がむしゃらに頑張ることへの燃え尽き感を感じたりする人が増えてきました。
また、頑張る姿勢も「当然のこと」と見なされて評価されなくなってくると、「頑張っても給与が思うほど変わらないのなら、無理をして頑張らなくても良いのではないか」と考えるようにもなります。特にこのような環境下では「必要以上に頑張らない」Quiet Quittingというスタンスが生まれやすいと言えるでしょう。
労働環境や人間関係に対する不満
現職の労働環境や人間関係に不満があり、仕事への情熱を失って最低限の仕事しかしたくなくなることもあります。
たとえば、従業員が職場で過小評価されていると感じた場合、仕事にかける労力を減らすことで自分にとっての仕事の優先順位を下げる可能性があります。
そうすることで「評価に見合った仕事のみをする」「給料に見合った仕事しかしない」という労働スタイルを取り、自らバランスを取ろうとするケースもあるでしょう。
このようなケースでは転職を考え、早く仕事を切り上げた分の時間を次の仕事探しにあてる人も出てくる可能性があります。
Quiet Quittingに対する企業の向き合い方
Quiet Quittingが広がった背景には、働く人の意識の変化があります。がむしゃらに頑張って必要以上に働くよりも、自分の望む生き方を支える働き方を求め始めている傾向の現れとも言えるでしょう。
このような多様化する働き方の価値観を認めつつ、従業員にモチベーションを高く持ってもらうためには、企業努力が欠かせません。Quiet Quittingに対して企業ができることは次のとおりです。
- 公平な人事評価制度を設計する
- 働き方改革につながる支援制度を導入する
- 社内コミュニケーションを活性化させる
- キャリアパス制度を導入する
- メンター制度を導入する
- 業務効率化ツールを導入する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
公平な人事評価制度を設計する
Quiet Quittingへの対策としては、公平な人事評価制度を設計することが大切です。従業員は自分が評価されていない・過小評価されていると感じると、仕事への情熱を失いやすくなります。
自分の評価への不満はそのままモチベーションや生産性の低下へつながるため、誰が見ても納得できるような公平な評価制度を導入しましょう。
そのためには成果だけでなく、プロセスや業務態度、意欲なども評価の対象にすることが必要です。状況に応じて業務態度や意欲を承認する声掛けをおこなったり、給与に反映させたりすることで従業員満足度を高める工夫を考えましょう。
働き方改革につながる支援制度を導入する
働き方改革につなげやすい、フレックスタイム制度や短時間勤務制度、在宅勤務制度などの導入を検討すると良いでしょう。
育児休暇・介護休暇などの休暇制度や、業務フローの見直しを行ってノー残業デーを設ける、福利厚生を充実させるなど、ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい働き方を支援する姿勢も大切です。
プライベートが充実すれば、仕事にも前向きに取り組む意欲がわいてくるかもしれません。従業員にとって自分が望む生き方が実現できる働き方を支援してもらえれば、企業への満足度やエンゲージメント向上にもつながります。
社内コミュニケーションを活性化させる
従業員同士でコミュニケーションを活発に取ることで、意識改革を促すのも良いでしょう。社内イベントや1on1ミーティング、フリーアドレス制の導入などでコミュニケーションの活性化を狙うのも有効です。
社内のコミュニケーションが活性化すれば、従業員同士で助け合う雰囲気や職場の居心地の良さが生まれやすくなります。従業員が居心地が良いと感じれば、業務効率が向上したり、離職率が低下したりすることも期待できます。
また、コミュニケーションによって情報共有や意見交換もおこなわれるようになれば、仕事への理解や考えが深まり、意欲が増すこともあるでしょう。報連相もしやすくなり、ミスを事前に防いだり生産性を上げたりすることにもつながる可能性があります。
キャリアパス制度を導入する
従業員のモチベーションを維持・向上させるためには、昇進や昇格の条件を明確にして、キャリアパス制度を導入すると良いでしょう。企業にとっては、給与体系を年功序列からジョブ型に切り替えるきっかけにもなります。
従業員にとっては自分のキャリアを会社任せにするのではなく、自分で構築していける仕組みがあることで、キャリアパス構築にモチベーションを持てます。
そのためには階層ごとの要件や職務内容を明確にする必要があります。要件が明確にわかれば、要件を満たすためのスキルアップや能力開発にも意識的に取り組むようになるでしょう。
メンター制度を導入する
メンター制度とは、指導する側の「メンター」と指導を受ける側の「メンティー」が1対1の双方向の対話を通して教育や指導をおこなっていくことです。メンター制度を導入することで、従業員の主体性を高め、成長を促すことができます。
メンターとメンティーは、上司と部下、先輩と後輩といった関係とは異なる人間関係です。直接業務に関わりのない人間関係を作って、仕事面だけでなくメンタル面でも細やかなサポートができるため、従業員の離職率を低下させることにもつながります。
メンター制度では、メンティーの成長や自発的な思考・行動が増えるだけでなく、メンターになる人の成長も期待できます。双方にとってモチベーション向上や成長を促す機会となるため、導入を検討してみるのも良いでしょう。
業務効率化ツールを導入する
表計算ソフトでマクロやVBAを活用したり、RPAツールを導入したりなど、業務効率化ツールを導入するのも良いでしょう。
便利なツールによって業務が効率化できれば、必要以上に頑張り過ぎなくても業務をこなせるようになります。加えて、これまで時間をかけて自力で作業していたことがツールの活用で瞬時に行えるようになると、時間的な余裕も生まれます。
頑張り過ぎなくても短時間で業務が遂行できれば、従業員の負荷やストレスが減り、余力が生まれやすくなるでしょう。余力が生まれればより多くの業務を決められた時間内にこなせるようになり、結果的に生産性の向上も期待できます。
Quiet Quittingへの向き合い方を考えよう
Quiet Quittingは「静かな退職」を意味する言葉で、必要以上に頑張り過ぎない労働スタイルです。そのため、従業員のパフォーマンスや生産性が低下しがちになる恐れがあり、否定的な意味を含んで使われる場合もあります。
しかし、見方を変えれば、Quiet Quittingは時代のニーズに沿った働き方の価値観の現れであるとも言えるでしょう。働き方改革やワーク・ライフ・バランスが重視されるようになった今、仕事とプライベートの時間を再定義し、自分の望む生き方を実現するために働き方を選択する人が増えています。
公平な人事評価制度や働き方改革につながる支援制度の導入など、企業が取り組める対策を検討し、Quiet Quittingへ柔軟に向き合う姿勢が大切です。
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