企業活動を継続するために人員整理をしなければならない。しかし、どのようにすれば長年会社に貢献してくれた社員が円満に退社し、スムーズに再就職できるだろうか、と悩んでいる経営者・人事担当者の方は少なくないのではないでしょうか。
このような悩みに対する対応策の一つに、アウトプレースメント(再就職支援)があげられます。
本記事では、アウトプレースメントの意味や目的、メリット・デメリット、どのくらいの費用がかかるのかなどについて解説します。本記事を読むことで、アウトプレースメントとはどのようなものであるか、どのように利用すればよいかを理解できるようになるでしょう。
アウトプレースメントの意味・目的とは
アウトプレースメント(Outplacement)とは、企業が人員削減する際に行う再就職支援のことを指します。自社で直接的に退職勧奨・再就職支援を行うよりも、外部のプロに任せることで、円満な早期退職を実現することができます。
アウトプレースメントは、1962年にアメリカで再就職支援の会社が設立されたのが始まりとされ、1980年代に普及しました。日本ではバブル崩壊後、1995年頃からリストラを余儀なくされる企業が増えた中で注目されるようになり、現在でも多くの企業が利用しています。
アウトプレースメントの目的は、人員削減をする企業と退職勧奨の対象となる社員間のトラブルを防止し、企業の社会的責任を果たすことにあると言えます。
アウトプレースメント会社が提供するサービス
アウトプレースメントで提供されるおもなサービスは次のとおりです。
- ライフプランの作成
- 再就職のための対策・教育
- 再就職先のマッチング
それぞれのサービス内容を詳しく解説します。
ライフプランの作成
ライフプランの作成とは、人員削減の対象となる社員に対してキャリアカウンセリングを行うことです。
アウトブレースメント会社は、ライフプランの作成を担当するキャリアカウンセラーを委託元の会社に派遣します。
カウンセリングでは、退職勧奨に伴う精神的負担を緩和するとともに、対象となる社員から本人の希望やこれまでのキャリアに基づいて次の仕事で実現できそうなこと、家族の状況などをヒアリングし、これからの生き方や働き方について一緒に考えながらプランニングします。
再就職のための対策・教育
ライフプランを作成したら、次は再就職のための教育や応募活動の準備を行います。たとえば、採用担当者に好印象を与える応募書類の書き方や自己PRの準備、面接での話し方の練習などがあげられます。
退職勧奨の対象となる社員は、企業や業界の情報など、再就職のために必要な情報を収集することができます。
再就職先のマッチング
退職勧奨の対象となる社員の希望を元に、アウトプレースメント会社が接点を持つ会社や保有している求人情報の紹介・マッチングをします。
また、選定先企業を検討する際のアドバイスや求人情報源の活用方法の説明、応募の代行なども実施します。
アウトプレースメント会社に依頼するメリット
企業が人員削減をする際、アウトプレースメント会社に依頼するメリットは次のとおりです。
- 社員の円満退職を期待できる
- 会社の社会的責任を果たせる
それぞれ詳しく解説します。
社員の円満退職を期待できる
アウトプレースメントではただ再就職先を探すだけでなく、社員のキャリアやライフプラン、本人の希望も踏まえて提案します。
そのため、人員削減の対象となる社員の精神的不安を軽減させ、前向きな転職活動を支援可能です。
社員に対して安易に人員削減の対象であることを告知すると、「長年勤めた会社に裏切られた」と不満や怒りを持ってしまう恐れがあります。また、今後の生活に不安を感じたり、精神的ダメージを負ってしまい、退職交渉が難航したりする可能性もあるでしょう。
アウトプレースメントを利用することで、手厚いカウンセリングで社員の話を傾聴しながら支援ができるため、不安や精神的ダメージを軽減でき、円満な早期退職の実現が期待できます。
会社の社会的責任を果たせる
アウトプレースメントを利用すれば、企業都合の一方的なリストラにならないこともメリットと言えるでしょう。
社員の意思を無視した解雇や退職の強要はトラブルにつながりやすく、労使間の問題にも発展する可能性があります。
その点、アウトプレースメントによって、社員本人にも納得して再就職支援を受けてもらうことができれば、企業としてきちんと退職者へのケアを行い、社会的責任が果たせるでしょう。
また、手厚いカウンセリングと再就職のサポートがあるため、再就職先でのギャップを埋めることもできます。そのため、再就職した人が「再就職先のほうが条件が良く気に入った」というケースもあります。
アウトプレースメント会社に依頼するデメリット
アウトプレースメントのメリットは大きいですが、デメリットも存在します。利用する際にはデメリットも理解して検討しましょう。アウトプレースメントのデメリットは次のとおりです。
- 社員が合意しないと利用できない
- 人員削減する企業が費用を負担する
- 再就職先が見つからない可能性もある
それぞれのデメリットを詳しく解説します。
社員が合意しないと利用できない
アウトプレースメントを利用する際には、次の3つの条件を満たしている必要があります。
- 会社の人員削減のために利用
- 会社としてアウトプレースメントの利用を希望している
- 退職勧奨となる社員からアウトプレースメントの利用に合意を得ている
企業側がアウトプレースメントを利用したいと考えても、社員の合意を得ていないと利用できないため注意が必要です。そのため、利用する目的やメリットを提示して、社員一人ひとりが合意してもらうよう事前の説明をしっかり行うことが求められます。
人員削減する企業が費用を負担する
アウトプレースメント会社に依頼すると、1年間の支援で社員一人当たり50万円から100万円程度の費用がかかると言われています。
この金額は、コスト削減のために複数人の人員削減をしたい会社にとっては負担になるでしょう。そのため、アウトプレースメントの利用を断念せざるを得なかったというケースもあります。
再就職先が見つからない可能性もある
アウトプレースメントを利用しても、再就職先が見つからない可能性があります。
これは退職勧奨の対象となる社員が求める再就職先の条件が高すぎる場合や、再就職を希望する地域での求人が少ないといった理由などによるものです。
対象となる社員が再就職先が見つからなかった場合に、もしものトラブルに発展しないように、希望通りにならない可能性があることを事前に納得してもらうようにしましょう。
依頼するアウトプレースメント会社の選び方
アウトプレースメントを依頼する際は、どのようなポイントに注目して依頼先を選べばよいのかをご紹介します。チェックするべきポイントはおもに次の3つです。
- 具体的なサポート内容
- 社員一人当たりにかかる費用
- 最新の実績状況
それぞれのポイントについて詳しく解説します。
具体的なサポート内容
まずは具体的なサポート内容をチェックしましょう。手厚いキャリアカウンセリングや求人提案、提案する会社ごとの面接対策や面接のスケジュール調整、条件交渉など、退職勧奨の対象となる社員のためになるサポート体制が充実しているかを確認します。
人員削減の対象となりやすいのは、人件費の高い中高年層です。特に長年勤めた社員の場合、初めての転職活動や数十年ぶりの再就職となる可能性もあります。慣れない転職活動で困ることがないように、手厚いサポート体制で対象者をケアしてくれる会社を選びましょう。
社員一人当たりにかかる費用
退職勧奨をしたい社員の人数分の費用を負担できるかどうかも重要です。
費用相場は一人当たり100万円程度。もし対象社員が10人だと、必要な費用は1,000万円となります。一定数の人員削減を予定している場合は金額が大きくなるため、経営に支障を及ぼさないか慎重に検討する必要があるでしょう。
最新の実績状況
アウトプレースメント会社の実績状況を確認することは大切です。本当にその会社に委託して問題がないのか、信頼性の高い会社かどうかを見極めるようにしてください。
利用を検討しているアウトプレースメント会社のWebサイトで、最新の実績やサービスの特徴、再就職先の定着率や利用者の評判などを調べて、総合的に判断するとよいでしょう。
アウトプレースメントで人員削減する際のポイント
アウトプレースメントを利用して、人員削減を実施する際に注意すべきポイントは次のとおりです。
- 段階的に人員削減を実施する
- ほかの経費削減策も並行して検討する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
段階的に人員削減を実施する
急激に社員を削減すると、人員不足や引継ぎ不全で業務に支障が出る恐れがあります。そのため、段階的に人員削減を行う計画を立てましょう。各部署で最低限どの程度の人数が必要なのか把握しておくことも必要です。
また、急激な人員削減は、会社に残った社員のモチベーションを低下させる要因にもなりかねません。「次は自分の番かもしれない」といった不安や、企業の経営状況と厳しい現実を突き付けられ、モチベーションとともにパフォーマンスも低下してしまう恐れがあります。
加えて、退職した人員の分の業務負担も増え、不満を感じる可能性も考えられます。そのため、周りの社員への負担や業務への影響もよく考えたうえで段階的な削減を行いましょう。
ほかの経費削減策も並行して検討する
人件費削減による経費削減だけではなく、別の経費削減策も検討を進める必要があります。一般の社員も認識できるような経費の無駄がある状態では、人員削減を行う会社に対して不信感を抱く社員も出てくるでしょう。
たとえば、残業や福利厚生の見直しなども推進し、最大限の企業努力を行っている姿勢を見せることによって、社員に理解してもらうことも大切です。
アウトプレースメントでよくある疑問
アウトプレースメントを利用する際のよくある疑問に回答します。気になる疑問を解消してからアウトプレースメントを利用しましょう。
普通解雇や懲戒解雇でもよいのか?
正当な理由で解雇の必要がある場合は、労働基準法や労働契約法などの法令に則って、普通解雇や懲戒解雇ができます。
たとえば、次のような場合に就業規則や労働協約に基づいて、解雇することができます。
【普通解雇】
- 遅刻欠勤などの勤務態度に問題がある場合
- 勤務成績が不良である場合
- 違反行為を行った場合
- 職業上の適性・能力の欠如がある場合
【懲戒解雇】
- 企業の秩序を著しく乱した就業員に制裁を加える場合
解雇はアウトプレースメントを利用するよりもコストがかからないものの、企業がいつでも自由に解雇できるわけではありません。また、労使間のトラブルに発展する可能性もあるので、慎重な検討が必要です。
アメリカのアウトプレースメントとの違いは?
アメリカのアウトプレースメントは、利用する社員のスキルアップのための教育や再就職先を探すための情報提供までがメインです。
一方、日本では再就職先の求人を紹介するだけでなく、企業ごとの応募書類の書き方や面談対策、応募代行や面接日程の調整、企業とのマッチングまで行います。
アメリカでは直接再就職先まで探すケースは少なく、日本のアウトプレースメントの方が手厚いサポートと言えるでしょう。
アウトプレースメント会社を利用して、円満な早期退職を実現させよう
一方的に企業の都合で社員に退職を宣告すると、労使間のトラブルに発展する可能性があります。また、企業としての信用を失い、残った社員のモチベーションを低下させるかもしれません。
そのため、企業が人員削減をする際は、対象となる社員に対して十分な説明を行い、アウトプレースメント会社を利用して再就職を手厚く支援することが大切です。
利用する際には、各会社のサービスの特徴や規模、実績、利用者の口コミなどを総合的に判断することが重要です。自社に合う会社を選ぶようにしましょう。
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