多くの企業が人材不足に悩む中、もともと自社で働いていたが、やむを得ない理由で退職した人材を再雇用するジョブリターン制度が注目されています。ミスマッチが少ない、即戦力が期待できるといったメリットがある一方、既存社員とのコミュニケーションにトラブルが発生する場合もあります。
この記事では、ジョブリターン制度のメリット・デメリットをくわしく解説するほか、導入する際の注意点についても紹介します。
ジョブリターン制度(復職制度)とは
ジョブリターン制度(復職制度)とは、育児や介護、配偶者の転勤などのやむを得ない理由で退職した従業員を再雇用する制度です。企業によっては「再雇用制度」や「キャリアリターン制度」、「カムバック制度」とも呼ばれています。
厚生労働省の「平成29年度雇用均等等基本調査」によると、再雇用制度がある企業は30.3%と、日本ではまだ浸透していない制度であることがわかります。
業種別に見ると「教育、学習支援業」(44.1%)、「宿泊業、飲食サービス業」(43.8%)、「複合サービス事業」(39.5%)、「金融業、保険業」(39.1%)、「生活関連サービス業、娯楽業」(39.1%)など、おもにサービス業に再雇用制度が用意されている企業の割合が高い傾向です。
※参考:厚生労働省「平成29年度雇用均等基本調査」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-29r/12.pdf)
ジョブリターン制度の前提と注目される理由
ジョブリターン制度を使って復職するには、退職理由が解消されていることが基本的には前提となるでしょう。たとえば、育児や介護に区切りがついた、一度は遠方に引っ越したが戻ってこられたなどのケースが考えられます。本来は雇用条件を満たしている元従業員がいるにもかかわらず、企業が受け入れる体制を整えていないと、人材やスキルの流出につながります。
生産年齢人口が減少し続けている昨今、すでにスキルや人となりを把握している元従業員はミスマッチも起こりにくく、企業にとって魅力的な即戦力でしょう。
もし、退職理由が解消していないが復職を希望している場合、同じ理由で再退職とならないように企業からのフォローが必須です。
アルムナイ制度とのちがい
アルムナイとは、「卒業生」や「同窓生」を意味する英語「alumnus」の複数形「alumni」が語源の言葉です。人事分野では自社を退職した元従業員やOB・OGを指し、定年退職者は含みません。
再雇用制度という点では同じですが、アルムナイ制度ではジョブリターン制度と異なり、やむを得ない理由だけでなく転職・起業などで退職した元従業員も対象とします。
ジョブリターン制度を導入するメリット
ジョブ・リターン制度を導入すると、企業は新規で人材を採用するよりも採用コストを抑えることができ、業務をひと通り理解している即戦力を採用するので教育費も削減できます。
多くの場合、再雇用された人はモチベーションが高いため、職場の活性化や女性が活躍している会社としてイメージアップを図れます。
ジョブリターン制度を導入するデメリット
一方、デメリットとして挙げられているのが、既存社員とのコミュニケーションです。
一度退職しているために、現場からの「また辞めてしまうのでは?」といった不安や、待遇の違いから生じる不公平感などの問題が生じる可能性があります。
再雇用される側としても、退職してから再び入社するまでの期間、社内事業などの情報を把握できていないと不安に感じるでしょう。企業から定期的な情報発信を行うことで関係性を保ち続ける必要があります。
既存社員に対しては、広報誌などを通じて再雇用の必要性の啓蒙活動や受け入れやすくなるような仕組みづくりが必要です。再雇用希望者には、専用のWEBサイトの開設といった、各種制度や取り組みを実施することが求められます。
ジョブリターン制度を導入する際のポイント
ジョブ・リターン制度にはメリットが多いものの、再雇用を前提とした気軽な退職が増えてしまっては本末転倒です。効果的な運用には、制度のルール化が必要です。
例えば応募条件については、「勤続年数〇年以上」や「結婚、出産、育児、介護、配偶者の転勤等によるやむを得ない事情による退職」などと、対象者の範囲を明確にするとよいでしょう。
入社後の待遇についても、既存社員との不公平感が出ないようにするのがおすすめです。復職までのブランクが長い場合は、正社員だけではなく、契約社員やパート等多様な選択肢を用意しておきましょう。フルタイム勤務以外の働き方ができれば、復職しやすくなるケースもあります。
ジョブ・リターン制度における、退職から再雇用までの運用の流れを以下に説明します。
ジョブリターン制度を導入する前に自社に合う制度か検討を
ジョブ・リターン制度を設ける場合には、就業規則に規定しておくことで、社員が安心して制度を利用することができるほか、不要なトラブルを避けることにもつながります。
たとえ制度化はしなくても、再雇用の申出がある度に個別に対応するほうが向いている会社もあります。
制度化すべきかどうかはその会社の規模や風土によります。これから導入を検討される企業は、まずは自社に合った制度かどうかを考えるところから始めてみてはいかがでしょうか。
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