現在、日本の企業ではIT人材の不足が深刻な問題になっています。IT人材とは、情報技術を使ったサービスを提供している企業に勤める人材や、一般企業内の情報システム部門においてシステムの運営や維持を行う人材のことを指します。
本記事では、IT人材の不足が起きている原因や企業が取るべき対策、IT業界の今後の展望について詳しく解説します。IT人材不足を解消したい人事担当者の方はぜひ参考にしてください。
2023年現在、IT人材は不足しているのか?
経済産業省が発表している「IT人材需給に関する調査」によると、2019年頃から減少の傾向をたどり、2023年の現在もその数字はさらに減少していくとの試算が立てられています。
2025年には40万人、2030年には45万人のIT人材が不足すると予測されているのが現状です。これからの時代に重要なポジションとして活躍するであろうAIやビッグデータを扱うエンジニアやセキュリティエンジニア、フロントからバックエンドまで幅広く開発できるフルスタックエンジニアは、深刻な人材不足に陥っています。
一方で「IT人材は不足していない」と言われている領域は、従来型のWeb系エンジニアが該当します。Web系エンジニアは、プログラミング学習のブームによってまったくの未経験者でも比較的参入しやすくなったため、ある程度飽和状態にあります。
このように総合的に見ると、特定領域以外のIT人材が不足しているのが現状だと言えます。
IT人材が不足していると言われる要因
T人材が不足している理由は次のとおりです。
- IT人材の需要が急激に高まっているため
- 労働人口が減少しているため
- IT人材は育成に時間がかかるため
それぞれの理由について詳しく解説していきます。
IT人材の需要が急激に高まっているため
現在ではインターネットが普及し、AIやloT分野が発展しています。また、さまざまな分野や業界で、便利なITツールが導入されています。
企業において、ITツールは業務の効率化や生産性の向上のために欠かせません。そのため、IT人材の需要は急激に高まっており、今後さらに必要とされるでしょう。
しかし、このようなIT分野の急成長に対し、それらを扱えるエンジニアの供給が追いついていないのが現状です。
労働人口が減少しているため
少子高齢化による労働人口の減少で、働き手が少なくなっていることも要因の一つです。労働人口の減少とIT市場の急成長が重なったことで、さらにIT人材の確保が難しくなっています。
また、プログラミングブームによって基本的なプログラミング技術を持っている人が増える中、人材の「質」も問われるようになってきました。
IT技術は常に発展・成長しており、新しい技術が次々と生まれています。そのため、以前までは通用していた技術が、既に時代遅れとなっている場合もあるでしょう。
今、必要とされている先端技術を持っている人材やニーズに合ったスキルを持っている人材がいなければ、いくら応募数が多くても「採用できない」といったケースも考えられます。
IT人材は育成に時間がかかるため
ITは専門性が高く、求められる知識やスキルのレベルも高い分野です。専門的な知識やスキルを身につけるためには学習時間が必要であり、育成に時間がかかります。
専門的な知識を身につけたとしても、即戦力として働くためには実務経験を積む必要があります。実際に開発を行い、いくつかの企業で実務をこなし幅広い業務を経験しなければ、第一線で活躍するのは難しいでしょう。
また、需要が高まっているAIやビッグデータを扱う先端技術や、幅広い開発ができる高度な技術を持つ人材になるには、より高度な専門技術や実務経験が必要となります。
このように即戦力となるIT人材を育成するには時間がかかるため、人材不足がより深刻化しています。
IT人材の不足が続くことによる影響
IT人材がこのまま不足し続けると、企業にとってどのような影響が考えられるのでしょうか。今後懸念される影響は次の3つです。
- 情報セキュリティリスクが高まる
- システムの開発や改善への対応が遅れる
- エンジニアへの負担が増大する
それぞれを詳しく解説します。
情報セキュリティリスクが高まる
多くの顧客データや従業員データを保持している企業にとっては、セキュリティ関連のIT人材不足は大きな問題であると考えられます。
そのため、情報セキュリティに関する知識を持ったIT人材が不足すると、企業の情報漏洩リスクが高まります。
情報漏洩に関するトラブルは絶対にあってはならないことです。会社の信頼問題に関わり、今後の存続が危ぶまれる事態に発展する可能性もあります。
システムの開発や改善への対応が遅れる
AIやIoT、ビックデータ解析などを扱うシステム開発は、今後の競争を勝ち抜くために重要な分野です。必要とされるIT人材が不足すると、他社に遅れを取る可能性も否めません。
また、開発が遅れるだけでなく、システムの不備などトラブルに見舞われた際に知識を持った人材がいなければ、改善に時間を要する恐れもあります。
既存のエンジニアへの負担が増大する
人材が不足していても業務量は変わらず、むしろIT需要は高まっている状況です。
人材不足の問題を抱えながらも既存のエンジニアの業務量は増えて、労働環境が悪化していく恐れがあります。
その結果、既存のエンジニアやIT人材の不満が貯まり、離職につながるケースも考えられるでしょう。
IT人材不足を解消するために企業ができる対策
IT人材が不足し続けると、情報セキュリティリスクが高まるだけでなくシステム開発が遅れる、既存エンジニアへの負担など、さまざまな問題が発生します。
このような事態を避けるために、企業ができる対策は次のとおりです。
- 社内でIT人材を育てる
- 多様な働き方を採用する
- アウトソーシングを活用する
- 採用条件を見直す
それぞれの対策について詳しく解説します。
社内でIT人材を育てる
既にスキルや経験を持っているIT人材を採用するのではなく、社内の従業員にIT教育をするのもひとつの方法です。新しくIT人材を採用するよりも、かかるコストは低くて済むでしょう。
ただし、社内でIT人材を育てるためには、教育制度を整えることが必要です。
IT技術は常に更新されています。社内の従業員に対して教育や研修を行う際は、外部講師に依頼するか新たに研修プログラムを作成する必要があるでしょう。
社内勉強会を積極的に行ったり、外部のイベントや研修に送り出したりするなど、社内のIT人材教育に力を入れて人材不足への対策を講じてみましょう。
多様な働き方を採用する
IT人材が働きやすい環境を作ることで、人材の定着や新たな人材の採用につなげるのも良いでしょう。
ITに関する業務は、基本的にパソコンとインターネット環境があれば業務に取り組むことが可能です。会議や打ち合わせもオンラインで行えるため、フルリモート勤務を取り入れて働きやすい環境を提供している企業もあります。
また、フレックスタイム制や時差出勤など、比較的自由な働き方を採用し、IT人材が自分のペースで働ける環境づくりによって人材確保を試みるのも良いでしょう。
新たな人材の採用を検討するなら、Re就活テックの利用がおすすめです。登録ユーザーは、ITエンジニア経験のある20代がほとんど。ヘッドハンティングが可能なため、自社にマッチする人材に直接アプローチできます。
アウトソーシングを活用する
アウトソーシングを活用する方法もあります。アウトソーシングとは、社内で人材が不足している業務を外部に委託することです。
たとえば、情報通信システムの設計や運用の部分に人材不足が発生しているのであれば、その部分のみをスポットで外注のIT人材に発注するのも一つの方法です。
アウトソーシングには、オフショア開発やニアショア開発があります。オフショア開発は、海外にある傘下の会社や海外のエンジニアに委託することです。ニアショア開発は、日本国内の地方にある開発企業に委託する方法です。
どちらの場合も必要なスキルを持つ人材を確保しつつ、コストをおさえて問題をカバーできるので、多くの企業がこのやり方を採用しています。
採用条件を見直す
採用条件を見直し、より幅広い間口を設けることも考えるとよいでしょう。たとえば経験や資格に条件を設けている場合は、適時見直すことでより幅広くアプローチができます。
ITのような専門性の高い分野では、未経験の人材を社内で教育するのも一つの方法です。ベースとなる技術や経験値を持っている人であれば、新たな技術の部分だけを教育すれば即戦力になってくれる可能性もあるでしょう。
IT業界の今後の展望
IT業界は今後もさらに需要が高まり、市場規模は拡大していくことが予測されます。IT業界の展望について詳しく解説します。
IT関連の市場規模は拡大していく
世界的にデジタル化が進む中、さまざまな業務でIT技術が活用されています。IT技術は今後も発展していくため、IT人材の需要はさらに高まっていくでしょう。
また、多くの企業でリモートワークが推進されるようになり、企業内でのIT技術もさらに重要視されています。
しかし、このような需要に対して人材供給が追いついていないのが現状です。今後も人材不足は深刻化していくと予想されています。
IT人材の高齢化
経済産業省 商務情報政策局 情報処理振興課「参考資料(IT人材育成の状況等について)」によると、IT人材の平均年齢は2030年まで上昇の一途をたどり、今後、さらにIT人材の高齢化が進んでいくと考えられています。
そのため、直近の人材不足を解消するためには、IT人材の採用年齢を引き上げ、高齢層へアプローチすることも一つの方法でしょう。
※出典:経済産業省ホームページ(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_s03_00.pdf)
2030年問題
経済産業省の調査「IT分野について」によると、2030年には最大で約79万人のIT人材が不足すると予測されています。
今後ますます需要が増えていく中で、必要なスキルを持ったIT人材が圧倒的に不足してしまうと、企業だけでなく国全体としても競争力が低下してしまうでしょう。
そのため、企業は従業員の労働環境を改善する、社内でのIT教育体制を整える、またアウトソーシングの活用を検討するなど、IT人材不足への対策を本格的に取ることが求められます。
※出典:経済産業省ホームページ(https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/daiyoji_sangyo_skill/pdf/001_06_00.pdf)
IT人材の不足には国も対策を講じている
IT人材の不足は、国としても深刻な問題です。日本の持続的な成長・発展のためにも国として対策を講じています。
IT人材不足に対する国としてのおもな対策は次のとおりです。
- 「マナビDX」の運営
- プログラミング教育の必修化
- 教育訓練給付制度
それぞれの対策について詳しく解説します。
「マナビDX」の運営
経済産業省が運営している「マナビDX」は、誰でも身につけられるITスキルの学習コンテンツです。
マナビDXでは登録やログインの必要がなく、誰でもいつでも簡単に利用できます。また、事前の予備知識も不要で、多くのデジタル技術に関する講座が完全無料で受けられます。
そのためインターネット環境とPCさえあれば、経済産業省やIPAで定めたスキル標準に紐づいたデジタルスキルを習得できるという仕組みです。
プログラミング教育の必修化
文部科学省では「小学校プログラミング教育の手引き」を発行し、2020年度より全国の小学校で子どもたちにコンピューターの仕組みを教育しています。
すべての子どもたちにIT知識を教えることで、深刻化するIT人材不足の解消とIT人材高齢化への対策を行う取り組みです。
教育訓練給付制度
「教育訓練給付制度」は、厚生労働大臣指定の教育訓練制度を受けると受講費の一部が支給される制度です。
ITスクールやプログラミングスクールも対象となっているため、IT技術を身に着けたい人や、IT業界に転職したいと考えている人が利用できます。
教育訓練給付制度を利用した場合、ITスクールやプログラミングスクール受講料の最大70%が支給されますが、教育訓練給付金の支給対象については個人の状況によって変わる可能性があります。
現住所を管轄するハローワークに相談してから利用してください。
深刻なIT人材不足への対策を検討しよう
会社のさらなる成長を目指すのであれば、IT人材の確保が欠かせないことがわかりました。しかし今後もさらなるIT市場の拡大が予想されるにも関わらず、人材供給が追い付かないのが現状です。
2030年には大幅なIT人材の不足が懸念されており、企業はIT人材不足に対する対策を講じることが求められています。
解決策として、社内でIT人材を育成する教育体制を整えることや、IT人材が働きやすい環境を用意するなどが有効です。また、採用条件を見直して幅広い層をターゲットとしたり、アウトソーシングの活用を検討したりするのも良いでしょう。
IT人材が不足すると、情報漏洩のリスクが高まり会社の信用問題が問題視されたり、新たなシステム開発ができずに競争力を失ったりと、企業にとってさまざまな問題に発展する恐れがあります。そのような事態を避けるため、早期に対策を検討しましょう。
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