
人事業務はさまざまな法のもとで、雇用や待遇などに関する社内制度を管理する必要があります。
本記事では、人事業務のために知っておくべき法律を詳しく解説します。さらに、最新の法改正に関する情報を紹介し、的確でかつ迅速に対応するためのポイントも説明するので、人事業務に携わる人はぜひ参考にしてください。
人事が知るべき「雇用」に関するおもな法律一覧

雇用に関するおもな法律として、男女雇用機会均等法、職業安定法、労働施策総合推進法があります。これらは、ルールを守って男女間の差別なく求人・採用を行い、問題が起こりにくい労働環境を整えることを定めています。
それぞれを詳しく解説します。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、雇用主が従業員を募集する際、男女間の差別なくすべての人が同等に扱われることを目的に制定された法律です。
正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」です。
採用後の配置や昇進、福利厚生なども性別を理由に区別することなく、それぞれの能力を十分に発揮して活躍できるように、労働環境を整えなければなりません。
また、妊娠中や出産後の女性労働者が、定期的な健診や保険指導を受ける時間を確保できるよう、時差出勤や時短勤務などに適切に対処することも定められています。
職業安定法
「職業安定法」は、求職者と雇用主が取引を行う求人紹介や人材紹介などの労働市場で、守るべき基本的ルールを定めています。定められているのはおもに次の3つの事項におけるルールです。
- 職業紹介
- 労働者募集
- 労働者供給
職業紹介
職業安定法の職業紹介では、職業紹介事業者が守るべきルールについて「求職者からの手数料の受け取りの原則禁止」や「就職した人数や無期雇用就職者数などの情報の提出」などを義務付けています。
労働者募集
労働者募集は、労働者を募集する雇用主が守るべきルールを定めたものです。雇用主には「業務内容や賃金、契約期間など事項を最低限明示する必要がある」ことや、「虚偽なく常に正確な情報を公開する」ことを定めています。
労働者供給
労働者供給とは「労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」を言います。職業安定法における労働者供給では、労働者供給事業に関するルールとして「厚生労働大臣の許可があり、労働組合等が無料で労働者供給事業を行う場合のみ認める」とし、運営する際に守るべきルールをあげています。
ただし、この職業安定法での労働者供給に関するルールは、労働者派遣事業には適用されません。派遣元に雇われた人が、派遣先の指示に従って労働する労働者派遣は、労働者供給とは区別される点に注意しましょう。
労働施策総合推進法
労働施策総合推進法は、1966年に制定された雇用対策法を改正した法律です。正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。
雇用については「募集及び採用における年齢にかかわりない均等な機会の確保」「外国人を雇用したときの届出」などが定められています。
この法律は、働き方改革の一環として、多様な働き方を促進させることを目的として改正され、さらにパワハラ防止の規定も追加されています。
「パワハラ防止法」とも呼ばれており、労働環境における次の問題解決をおもな目的として定めています。
- パワーハラスメント
- 長時間労働
- 非正規雇用労働者の不当待遇
- 女性や高齢者の不適切な就業形態
- 育児・介護と仕事の両立
- 人手不足
雇用主は、これらの問題を防止するための環境整備や相談者の不利益の排除などに積極的に取り組むことを義務付けられています。
人事が知るべき「労働条件・労働環境」に関するおもな法律一覧

労働条件・労働環境に関する法律には、労働三法と労働安全衛生法があります。これらは、労働者の基本的な権利を守り、健康を確保しながら快適に働ける環境の整備を定める法律です。
労働三法
労働基準法
「労働基準法」は、労働者の賃金・労働時間・休憩・休日・休暇など、労働条件の最低基準を定めている法律です。
雇用主はこの基準を下回る条件で労働者を雇うことは許されません。
違反には罰則が設けられていたり、罰金刑や懲役刑などが科される場合もあります。
なお、労働時間に関して耳にすることが多い36(サブロク)協定とは、労働基準法第36条に定める協定のことです。時間外労働や休日労働の予定がある場合、事前にこの労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
労働組合法
「労働組合法」とは、労働者が雇用主と対等に交渉するために制定された法律です。
労働者が日本国憲法第28条で定められた団結権や団体交渉権、団体行動権を行使して組合を組織し、より良い環境と労働条件を求める交渉ができるように法律によって保護しています。
不当な解雇やリストラを防ぎ、労働者の不満や苦情を雇用主に伝えて、良好な関係構築を図る目的で定められています。
労働関係調整法
「労働関係調整法」は、労働者と雇用主の主張が一致せず争いになる労働争議となった際、互いの関係を公正に調整し、早急な問題解決を図るために定められた法律です。
すべての事業において労働争議が発生した際は、当事者は各都道府県に設置される労働委員会または都道府県知事に届け出る義務があります。届出を受けた労働委員会は、中立・公平な立場から、あっせん・調停・仲裁による解決に向けて調整を行います。
労働安全衛生法
「労働安全衛生法」は、労働者の安全と健康の確保と、快適な職場環境の形成を目的に作られた法律です。危険防止基準の設定や、安全委員会・衛生委員会などの責任体制の構築、安全衛生教育や健康診断実施による自主的活動の促進などを定めています。
労働安全衛生に関する条文は、もともと労働基準法のなかに盛り込まれていました。しかし、1960年代に多発した労働災害がきっかけで、専門家による法令の整備が進んだ結果、労働安全衛生法として分離独立した経緯があります。
人事が知るべき「多様な働き方」に関するおもな法律一覧

正社員をはじめ派遣やパート・アルバイト、さらに育児・介護が必要な人などの雇用形態や働き方に関する法律には、労働者派遣法やパートタイム・有期雇用労働法、育児・介護休業法があります。
労働者派遣法
労働者派遣法の正式名称は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」です。
労働者派遣事業者が守るべきルールを定め、派遣労働者を保護する目的で制定されました。
1986年に施行されてから何度か改正しており、2021年には派遣労働者を雇用する際の説明義務や、派遣先の労働者の苦情処理義務などを強化しています。これまで以上に派遣労働者の権利を守り、快適な労働環境の整備を定めています。
労働者派遣法は、今後も市場のニーズにあわせて改定される可能性があるため、最新情報を入手しておくことが重要です。
パートタイム・有期雇用労働法
パートタイム・有期雇用労働法は、パートや有期雇用労働者などの非正規雇用労働者と正社員の間に、不合理な待遇差をなくす目的で制定された法律です。
正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。
ワーク・ライフ・バランス実現のために、労働者がどのような雇用形態を選択しても、待遇に納得して働き続けることができるように定められています。
雇用主は基本給や賞与、各種手当などの待遇差をなくし、非正規雇用労働者から求められた場合は、待遇に関して説明しなければなりません。
パートタイム・有期雇用労働法は、従来からあったパートタイム労働法を有期雇用労働者も適用範囲するよう改定され、2020年4月に従業員1,000人以上の大企業を対象に施行されました。2021年4月からは中小企業にも適用され、全面施行されています。
育児・介護休業法
育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は、労働者が育児や介護を理由に会社を辞めることなく、仕事と家庭の両立を支援するための法律です。
育児休業制度や介護休業制度などの両立支援制度により、休業の取得や時間短縮勤務、残業の制限・免除などが定められており、一定要件を満たす非正規雇用労働者も適用の対象です。
育児・介護休業法はニーズにあわせて改正を重ね、男女ともに家庭と仕事を両立できるような環境整備を進めています。
2021年1月に子の看護、介護のための休暇取得を時間単位で認めるように改正され、2022年4月からは男性が育児休業を取得しやすくなるように環境整備を義務化、さらに2022年10月には産後パパ育休制度が新設されています。
【2023年4月以降】人事の対応が求められるおもな法改正

ここでは、2023年4月以降に人事の対応が求められる、おもな法改正とその内容をみていきましょう。
2023年の法改正
2023年4月から、労働基準法の改定により、中小企業に対して時間外労働の割増賃金率の引き上げが定められています。また、育児・介護休業法の改定により、育児休業取得状況の公表が義務化されています。
時間外労働の割増賃金率の引き上げ
2023年4月から、中小企業も月60時間を超える時間外労働の割増賃金率を50%以上に引き上げることが義務付けられています。
2010年の労働基準法の改定で、大企業はすでに引き上げが義務付けられていましたが、中小企業は猶予されていました。2023年4月以降は、この猶予措置が廃止されたため、中小企業も引き上げの対象となっています。
育児休業取得状況の公表の義務化
育児・介護休業法の改定により、2023年4月より育児休業取得状況の公表が義務付けられました。労働者が1,000人を超える大企業は、男性の育児休業の取得割合、または育児休業等と育児目的休暇の取得割合を算出し、年に1回公表しなければなりません。
男性の育児休業の取得割合と、育児休業等と育児目的休暇の取得割合の算出方法は次のとおりです。
【男性の育児休業の取得割合】
男性の育児休業の取得割合 = 育児休業等を取得した男性労働者数 ÷ 配偶者が出産した男性労働者数
【育児休業等と育児目的休暇の取得割合】
育児休業等と育児目的休暇の取得割合 = (育児休業等を取得した男性労働者数 + 小学校就学前の子を対象とした育児が対象の休暇制度を利用した男性労働者数) ÷ 配偶者が出産した男性労働者数
公表は自社サイトや厚生労働省が運営するサイトなどで行います。
2024年の法改正
2024年は、労働条件明示ルールの変更や時間外労働の上限規制の適用拡大、社会保険の適用拡大など、実務に直結する大きな改正が相次ぎました。また、11月にはフリーランス新法も施行されています。
労働条件明示ルールの改正(2024年4月)
2024年4月から、労働条件通知書・雇用契約書などで明示すべき事項が追加されました。特に「将来の変更可能性」や「有期契約の更新上限」を曖昧にしない運用が求められています。
* 【全労働者】 就業場所・業務内容について、「雇入れ直後」だけでなく「変更の範囲」までの明示が必須となりました。
* 【有期契約労働者】 更新上限(通算契約期間/更新回数)の「有無」と「内容」の明示が必要です。更新上限を新設/短縮する場合は、あわせて理由の説明も求められます。
* 【無期転換ルール】 対象者の更新時に、無期転換の申込機会や、無期転換後の労働条件に関する明示・説明が求められます。
契約書のテンプレートを改訂し、「変更の範囲」「更新上限」欄を追加する必要があります。また、求人票や社内稟議(配置転換があり得る前提の表現)との整合性が取れているか確認しましょう。
建設業・ドライバー・医師の時間外労働の上限規制(2024年4月)
いわゆる「2024年問題」として注目された改正です。これまで猶予されていた建設業、自動車運転の業務、医師についても、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されています(業種ごとの特例・適用関係あり)。
36協定の締結内容と実態(勤怠・申請・承認)が一致しているかの点検が不可欠です。シフト設計の見直し、待機時間・宿日直の取り扱い、管理監督者扱いの妥当性など、「制度と運用のズレ」を早期に解消する必要があります。また、取引先事情で残業が発生する業務については、工程管理や外注、納期交渉まで含めた対策が求められます。
社会保険の適用拡大(2024年10月)
短時間労働者(パート・アルバイト等)への社会保険(健康保険・厚生年金)の適用について、2022年の改正に続き、2024年10月からは対象企業が「従業員数51〜100人」の規模まで拡大されました。
対象者の判定(企業規模の数え方、短時間労働者の要件)を整理し、新たに加入対象となる従業員の洗い出しを行います。加入に伴う本人への影響(手取り額、扶養範囲、働き方)をわかりやすく説明できる資料を準備し、シフト変更・雇用契約変更が発生する場合には、労働条件明示ルールとの整合性も確認しましょう。
フリーランス新法の施行(2024年11月)
2024年11月1日に施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)」により、特定受託事業者(フリーランス)へ業務委託する企業側には、取引の適正化と就業環境整備に関する対応が義務付けられました。
* 主な対応義務:
* 取引条件(業務内容、報酬額、支払期日等)の書面等による明示
* 報酬支払期日の適切な設定と期日内の支払い
* 一定の不利益取扱いの禁止(一方的な減額・やり直しの押し付け等)
* 募集情報の的確な表示
* ハラスメントに関する相談対応体制などの就業環境整備
人事部門だけで完結しないケースが多いため、購買部門や現場の発注担当者も含めて対応が必要です。「委託契約書のテンプレート」「発注フロー」「相談窓口(連絡先)」をセットで整備しましょう。
2025年の法改正
2025年は、育児・介護休業法の改正対応がメインテーマとなります。男性育休の公表義務拡大や、柔軟な働き方の実現に向けた措置など、実務運用を大きく変える必要があります。
男性育休取得状況の公表義務の拡大(2025年4月)
男性労働者の育児休業等の取得状況について、公表義務の対象企業が拡大されます。従来の大企業(常時雇用する労働者数が1,000人超)に加え、2025年4月からは「300人超」の企業にも公表が求められます。
年1回の集計・公表の手順(担当部署、算出ルール、Webサイト等の公開先)をあらかじめ決めておく必要があります。また、数字を公表するだけでなく、取得率を上げるための施策と、現場の運用(引継ぎ・代替要員・評価制度)をセットで設計することが重要です。
育児・介護休業法の改正(2025年4月・10月段階施行)
仕事と育児・介護の両立支援について、事業主の対応が段階的に強化されます。特に「育児期の柔軟な働き方」と「介護離職防止」に関する周知・意向確認・情報提供の運用整備が重要です。
1\. 介護:個別周知・意向確認、40歳等での情報提供(2025年4月施行)
介護に直面した労働者への個別周知・意向確認に加え、介護に直面する前の段階(40歳等の節目)での情報提供が義務化されます。
介護申出があった際の案内(制度説明、手続、相談先)を定型化するとともに、40歳等の節目での情報提供(対象者抽出、通知方法、案内内容)を設計します。介護休業だけでなく、休暇や短時間勤務などの選択肢も整理して周知しましょう。
2\. 育児:3歳〜就学前の柔軟な働き方の措置(2025年10月施行) 3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、事業主は「始業時刻変更」「テレワーク」「短時間勤務」「新たな休暇付与」等の選択肢の中から複数の措置を講じ、労働者が選んで利用できるようにする必要があります。
会社として採用可能な措置を決定し、就業規則・社内手続へ反映させます。制度を用意するだけでなく、「制度はあるが使えない」状況を防ぐため、対象者への意向確認ルールの策定や、周囲の業務分担・代替体制の整備まで行うことが求められます。
法改正に的確に対応するためのポイント

人事が雇用や労働条件・労働環境、多様な働き方に関する法律の改正に的確に対応するには、できるだけ早く情報収集し、特例や例外も見落とさないように把握することが必要です。
できるだけ早く情報収集する
人事関連の法改正の情報を正確にいち早く入手するために、厚生労働省のWebサイトをこまめにチェックしましょう。
また、施策や制度などの最新情報を配信している厚生労働省のメールマガジンへの登録もおすすめです。詳しくは厚生労働省ホームページにある「情報配信サービス・メールマガジン登録」をご確認ください。
特例や例外に注意する
法や制度は特例や例外により、適用期間・範囲、特別措置などが設けられることが多くあります。
見落とさないように、原則を理解した上で細部までよく調べ、正確に情報を把握するように心がけましょう。
人事は法律を事前に把握し法改正には早急に対処しよう

本記事では、雇用に関する法律として「男女雇用機会均等法」「職業安定法」「労働施策総合推進法」を、労働条件・労働環境に関する法律では「労働三法」「労働安全衛生法」を、さらに多様な働き方に関する法律として「労働者派遣法」「パートタイム・有期雇用労働法」「育児・介護休業法」などを解説しました。
人事はこれらの法律を事前に把握し、法や制度の施行・改正時には正確に対処できるようにしましょう。厚生労働省のサイトをチェックしたり、メールマガジンに登録したりして、常に最新情報の入手を心がけることがポイントです。
また、法や制度の施行・改正の際は、原則だけでなく特例や例外も正確に把握しましょう。情報を見落とすことがないよう、細部まできちんと確認することが重要です。
こちらの資料では、人事に関する法律をよりわかりやすく詳細に解説しています。ぜひ無料ダウンロードしてご覧ください。

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