HR用語の基礎知識
近年では「STEM教育」をはじめとする、教科横断的な学習を取り入れる教育機関が世界中で増えてきています。日本国内でも、学習指導要領の改訂やSSH・SGHの指定など、さまざまな施策が展開されています。
STEM教育の目的は、AIやIoTなど急速な技術の発展や多様化する社会に対応可能な人材を育てることです。
本記事では、STEM教育の詳しい内容や「STEAM教育」との違い、STEM教育が現在求められている背景を解説します。世界各国や日本の企業の取り組み事例も紹介するので、STEM人材を活かして企業が成長するための参考にしてください。
STEM教育と似た言葉に「STEAM教育」があります。STEAM教育は、STEM教育にアート(Art)の要素を取り入れたものです。
今後発展していくAIを活用した仕事をするためには、STEMに加えて「アートとデザイン」による「善や美への理解」が必要だと考えるのがSTEAM教育です。
アートの要素が入ることで、デザイン、感性などを含めて自由な表現や発想といった柔軟性が加わります。アートによって、創造的な表現もできるようになってもらうことが狙いです。
STEM教育で身に付くと考えられているスキルは次の7つです。
統計力は、確率やエラー率がどの分野でも問題の理解につながるため必要です。たとえばさまざまなデータから確率やエラー率、傾向などを読み取ることができれば、より市場価値の高い商品やサービスの開発、問題を解決する戦略などが立てられるようになるでしょう。
問題解決力はあらゆる分野において社会が求めている重要なスキルであり、創造性はさまざまなアイディアや異なる視点を生み出すためには欠かせません。
論証力は、主張を裏付ける証拠をもとに分析的・批判的思考スキルを使って論証することを意味しています。知的好奇心は分野を超えて学び、常に前進し続けるために必要なものと言えるでしょう。
また、最善の問題解決をするためには、科学的なデータや根拠に基づいた意思決定をすることも重要です。加えて、新しい需要やさまざまな状況に臨機応変に対応するためにも、コミュニケーション力を含めた融通性・協調性が必要とされています。
STEM教育が求められている背景には、IT社会へ適応できる優秀な人材の不足に対する懸念があげられます。STEM教育が求められている理由を詳しく見ていきましょう。
アメリカではオバマ大統領の就任後から国をあげてSTEM教育に取り組んできました。世界に先駆けて2000年代からSTEM教育に注力し、2018年には「STEM教育戦略」を発表しました。STEM教育戦略が掲げるおもな内容は次のとおりです。
大学では、中高生までを対象とした参加体験型のプログラムを開発し、大学・大学院でSTEM教育を専攻した場合、通常1年の学生ビザで企業研修が受けられる「OPT」を最大3年間受けられる制度を導入しています。
一般的な塾のように、STEM教育に関するスクールも開校されています。これから益々発展していくIT社会を生き抜くためには、正解のある教科別の学びだけでなく、教科を超えて横断的に問題解決を学ぶ必要があるでしょう。
STEM教育スクールのカリキュラム内容の例は次のとおりです。
子どもを対象にプログラミングやロボットの作成、動画・ホームページ作成をはじめ、プレゼンの仕方などアウトプットの学習も行い、STEM教育で期待されるさまざまなスキルの獲得を目指すスクールが増えてきています。
STEMの分野に興味をもってもらうため、子ども向けに自社の技術を活用したイベントを開催している企業もあります。
ものづくり系の企業では、電子工作やプログラミングなどの体験授業を提供しています。実際に体験することで、子どもたちに科学技術の魅力や面白さを知ってもらうことが狙いです。
また、ロボットの開発過程や電子部品を紹介することで、ものづくりを支える技術者の仕事に興味を持ってもらうキャリア教育や、電気エネルギーと環境の相関関係を考える環境教育などの出前授業も行われています。
STEM教育を浸透させるために、サポートシステムを提供している企業もあります。eラーニングをより効率化し、受講生それぞれの学習状況を適切に把握し管理するために開発されました。
たとえば、「LMS(Learning Management System)」と呼ばれる学習管理システムがあります。学習状況を管理する側向けに、受講生の学習時間や個々の理解度・進捗状況・テストの成績や課題の提出状況などを把握できるシステムです。
また、「LXP(Learning Experience Platform)」と呼ばれるサポートシステムもあります。STEM教育を受ける人向けに、学びたい分野に関する教材の検索や学習状況を踏まえたおすすめ教材を紹介する研修管理システムです。
企業が競争力を高め、より成長していくためには、将来的にSTEM人材を活用できる環境づくりが欠かせません。STEM人材を活用するために企業がおさえておくべきポイントを紹介します。
企業がSTEM人材を活かすためには、まず受け入れ体制が必要です。能力がある優秀なSTEM人材を採用できたとしても、能力を発揮してもらえなければ意味がありません。
そのため、まずは人事部内で自社の抱える課題に対し、どのような人材が必要なのかを見極めましょう。必要なSTEM人材を確保するための採用活動を計画します。
STEM人材が採用できた際には、各部署・チームでの受け入れ体制も必要です。能力を十分に発揮して活躍できる職場環境にすること、公平に評価する制度などを整えます。
また人事や教育の分野でもICTを活用し、従業員のデータ管理や人材開発プラットフォームの導入、社内eラーニング研修なども検討すると良いでしょう。
STEM教育で身に付けられるスキルは、未来を担う子どもだけでなく現代社会を支える大人にとっても必要です。ITやAI技術が刻々と進化するなか、現在の従業員に対してもSTEMに準ずる教育を行うことは、企業の成長のために重要と言えるでしょう。
将来STEM人材が入ってきたとき、指導する側にもスキルや知識がなければSTEM教育を受けた人材を活かしきれない可能性があります。そのため、ITリテラシーを高めるための研修機会や、先に紹介したLMS、LXPなどの学習機会を設けると良いでしょう。
また、IT関係の資格を取得するとインセンティブ・手当が出るなど、既存従業員の成長を促す施策を導入するのも一つの方法です。
STEM教育やSTEAM教育は、これからのIT社会・グローバル社会に適応する国際競争力を持った人材を育てるために重要な教育システムです。
「自ら情報収集して問題解決する」「教科や分野の枠を超えて横断的に考える」といった学びが浸透することで、グローバル社会や労働市場における総合的な問題解決力の高い人材を生み出すことができるでしょう。
STEM・STEAM人材を企業が活かして成長するためには、企業内にも知識と受け入れ体制が必要です。既存の従業員へのSTEM教育や研修、学習機会を設けるなどのサポートを行い、企業全体のITリテラシーを高めましょう。