HR用語の基礎知識

キャリア・アンカー

人事の図書館 編集長 大西直樹
キャリア・アンカー(Carrer anchor)は、マサチューセッツ工科大学の組織心理学者であるエドガー・シャイン博士が提唱したキャリア理論で、仕事をする上でこれだけは譲れないというような価値観や欲求のことを表します。「anchor」とは「船の錨(いかり)」を意味しており、錨がしっかりと海底に下りていると船は安定してとどまることができます。同様に、キャリア形成においても、軸となる「アンカー(仕事に対する価値観)」を把握することで、仕事や人生に求めているものを明確に自覚でき、納得のいく働き方を選びやすくなると考えられています。そんな人生の要となるキャリア・アンカーは、長い年月を経て構築されるものであり、完成までに時間がかかる分、一度形成されたキャリア・アンカーは周りの環境や状況、自身の年齢が変化したとしても、変わらずにキャリアの軸であり続けると言われています。

キャリア・アンカーを取り入れることの、具体的なメリットとは。

企業が求めるスキルや経験に、個人が合わせて働くのが一般的だったこれまでと異なり、人材流動性が高まり、働き方に対する考えも変化していく中では、受け身のままでは自分らしく働くことができませんし、企業は優秀な社員を失ってしまう可能性があります。時代や環境が変化していく中で、個人がパフォーマンスを最大限に発揮し、企業がそれを活かして発展するために「キャリア・アンカー」が重視されています。ではキャリア・アンカーを取り入れることで、個人と企業に具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

【個人のメリット】 満足度の高いキャリアや働き方を選択できる
自身の根幹となる軸(アンカータイプ)を把握することで、昇進や転職、結婚など様々な人生の節目で、自分の望む満足度の高い働き方を選択しやすくなります。そして、表面的な外部情報(報酬や肩書等)の誘惑を受け、後になってから不満を感じるような就職や転職をしてしまうリスクを回避できます。

【企業のメリット】 ミスマッチを防ぐことができ、離職率の改善につながる
企業側にとっても、個々の社員のアンカータイプを把握することのメリットがあります。例えば、人事担当者が人員配置を考える際、候補者が技術力を極めたいタイプか、ゼネラリストを目指したいタイプかが分かっていれば最適な采配を振るうことができます。また転職が当たり前になっている昨今、能力のある人材を組織に定着させるために、個人に寄り添った人事の重要性はより高まっています。そして、適した配置をすることで、個々の社員のパフォーマンスを最大化することができ、組織としての成果も上がります。

その人が築き上げてきた価値観を8つに分類。

人がキャリアについて考えるとき、2つの方法があると言われています。一つは、自身に対して「何(What)」を問う方法です。つまり、「何がしたいか」「何がしたくないか」「何が好きか」「何が嫌いか」「何が得意か」「何が苦手か」といったような自己分析をして、自身のキャリアを見定めようとする方法です。

そしてもう一つが、自身に対して「どんな(How)」を問う方法です。「どんな風に働きたいか」「どんな生活を送りたいか」「どんな人生にしたいか」といった自己分析から、自身のキャリアを見定める方法です。キャリア・アンカーは、この2つの方法のうちの「どんな(How)」について自己分析し、その人が築き上げてきた価値観を8つに分類しています。

1 管理能力(Managerial Competence)
管理職に就くのが自分にとって最善だと考える人です。このタイプの人は、問題解決やマネジメント、人の世話をするのが好きな傾向にあり、責任を負うことで成長します。

2 専門・職能別能力(Technical/Functional Competence)
何かの分野で秀でること、権威になること、エキスパートになることを好みます。一つの分野において新たな課題を見つけては挑戦をし続けることで成長していき、他の人よりも正確かつ生産性高く仕事を進めます。

3 保障・安定(Security/Stability)
生活においてもっとも重要な要素は「継続性」と「安全性」だと考えます。また、できる限りリスクを回避しようと考え、社会人生活を一つの企業で全うする人が多いのもこのタイプです。

4 起業家的創造性(Entrepreneurial Creativity)
発明やクリエイティブな仕事、新しい事業の創造を好みます。組織を築くことにはあまり興味がなく、管理や運営は他の人にまかせる傾向にあります。

自身のキャリア・アンカーを知るための、3つの要素。

5 自律と独立(Autonomy/Independence)
自分で決めたやり方で仕事を進めることが好きな傾向にあります。そして、周りからの動機付けがなくとも自走することが得意な人が多いようです。基準や規律、場の空気に従うことは嫌いであり、一人で仕事をするのが好きです。

6 奉仕・社会貢献(Service/Dedication to a cause)
自身の能力を発揮することよりも、いかに人の役に立つかに動機付けされます。サービス業界を目指す人にはこの傾向が強いようです。

7 純粋な挑戦(Pure Challenge)
全力で挑める困難な問題とそこから得られる刺激をこよなく愛します。そのため、今の仕事ができるようになると次の仕事を探す傾向にあり、一貫性のない多様なキャリアを積む可能性があります。

8 ワークライフバランス(Lifestyle)
自身の中で確立した生活スタイルに合わせて仕事を選ぶ傾向にあります。時には仕事よりも私生活を重視するため、長期休暇を取って旅行をする等、自分へのご褒美を大切に考えます。

自分のキャリア・アンカーを調べるためには、自分の志向や価値観を客観的に理解する必要があります。キャリア・アンカーを診断できるツールもありますが、自分でタイプを判定することも可能です。キャリア・アンカーを分析するためには、まず3つの要素を考える必要があります。3つの要素を自分でどう考えているかによって、最も重きを置く価値観、つまりキャリア・アンカーがわかるでしょう。

【キャリア・アンカーの3つの要素】
才能と能力(can):できること、得意なことや強み、弱みは何か
動機と欲求(will):やりたいこと、望むこと、望まないことは何か
態度と価値観(must):やるべきこと、人生やキャリアで何を重んじるか

3つの要素を踏まえて、まずは自分のこれまでを振り返ってみましょう。どのようなシーンでやりがいを感じ、どのような事柄が受け入れられないかを洗い出していきます。このとき、仕事だけでなく、私生活も含めて考えることがポイントです。また自分自身のことは、意外と自分ではわからないものですから、職場の同僚や友人といった周囲の人たちとの会話を通じて自分を知ることも重要です。仕事上での強みや能力を発揮するシーン、他者との関わり方の傾向などをヒアリングし、認識を深めてみましょう。

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